プロローグ 数年前
「みんなのおかげで花火大会は大成功だ! ありがとうねっー!」
人の輪の中心で彼女の姿はひときわ目立っているように見えた。そして、彼女の発した言葉はその存在感を裏付けるように人々を沸かせていた。
親友、ライバル、友人、彼女にとってのどんな間柄の人物でも等しく笑顔になり、気持ちが高ぶっているようだった。
僕は……一歩引いてそれを眺めていた。
遠目に見えるその景色は依然輝きを絶やさず、誰しもが憧れるような関係性があるように見える。いわゆる……青春が。
しかし、そこに僕はいない。
中心にいるのは彼女だ。そして、僕と彼女の間にはとても越えられないような隔たりがあった。そして、その隔たりは僕を拒み続けた。
言いようもない感情が湧いていたのを覚えている。
それでも僕にできるのは、その中心にいる彼女――――姉さんを眺めることしかできない。
なんでー―――。
声にはできない言葉が脳裏をよぎった。
なんでーー僕は姉さんのようにはなれないのか、と。
僕は何かを間違えたのだろうか。もし、僕が生まれなおして彼女の真似をすればその場所にいるのは僕だったのだろうか。
そんな、意味のない疑問が湧いて止まない。
僕だって、欲しいよ。そんな関係性が手に入るのなら。だけど、僕には到底手が届かない。眺めて、眺め続けて、それしかできなかった。
惨めだということはわかっていてもそれを止めることはできない。なぜだか僕にはこの行為が、あの中へと導いてくれるようにも感じられていた。
唯一の希望に縋っていた僕に、姉さんは一瞬だけ視線を向けた。――――冷たく、何の関心も持っていない瞳を。
「――――ぁ」
体中を八つ裂きにされたようだ。感情が枯れていくのを、他人事のように感じていた。言葉など用いず、瞳一つで僕は――絶えてしまった。
心から湧き上がっていた暗い感情すら、すべてがきれいにふき取られてしまった。大きな虚空が心を埋め尽くしている。
それから僕は、諦めることにした――全てを。
感想クレクレマン