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異能使いの水上都市  作者: 白金陽介
4/5

#4

「はぁ!」

 一七は自慢の素早さで教師との距離を一気に詰める。そして拳を大きく後ろに引いた。大体の人はこうすれば――

「ふっ!」

 一七の予想通り、教師は両腕をクロスさせて身を屈める。基本的な防御の構えだ。だが実際に一七の引いた拳はフェイクだ。ここまで大振りな攻撃だと読まれ、防御する側は当然正面からの拳を警戒して正面の守りに徹する。正面の守りに徹すればおのずと

「側面がガラ空きだぜ! もらったぁ!」

 一七は地面についていた片足を軸にして距離を詰めた際の勢いと一緒に蹴りを脇腹にお見舞いした。一七は脇腹に足が当たったのを確認すると自分の勝利を確信した。

 筋力が向上している蹴りをまともに喰らって無事なわけがない。そのまま真横に吹っ飛ぶと思っていた。

「なるほど。素晴らしいスピードと威力の蹴りだ。だがその程度で私たちがやられると思っていたその慢心はよくないな」

 一七は驚いた。間違いなくコンクリートなら粉々に粉砕できるほどの蹴りを入れた。普通なら吹き飛んで壁に激突し、その壁に人型の凹みを作り上げているハズだ。

しかし吹き飛ぶどころかまるでダメージがないかのような口ぶり。

「これでもこの島で教師をしているんでね。君以上の生徒とやりあう機会もそう少なくない」

 教師は前にクロスしていた腕の蹴りを入れたほうの腕で一七の足首を掴んだ。

「教師が生徒に負けるわけにはいかないのだよ!」

 そして一七を振り上げて地面に叩きつける。

「ガハッ……!」

「ふんっ!」

 一七をそのまま真横に投げ飛ばした。本来なら教師が吹っ飛ぶと思われていた方向だ。

「ぐあ……!」

 壁に強く激突した一七はそのまま崩れ落ちた。

「一七!」

穂香は小走りで一七に近寄る。

「どうした。まさかこれで終わりではあるまい」

 教師の言葉に一七はゆっくり起き上がる。

「……ったりめーだろ……! まだまだやれるっつーの」

「そう来なくては面白くない。そこの……穂香、といったかな? 君も遠慮せずにかかってくるといい」

 教師は余裕のある笑みで二人を見据える。一七は穂香に小声で耳打ちする。

「穂香……あいつは多分お前と同じカウンター型だと思う。俺が挑発するからお前はカウンターを狙え」

「うん分かった」

 穂香と一七は立ち上がって身構える。

「話し合いは終わったかな?」

「あぁ。さっきは俺から向かっていったんだ。今度はそっちから向かって来いよ。それとも……自信がないのか?」

 一七がわざとらしく笑ってみせると教師を小さく溜息をつく。

「……いくらなんでもその安っぽい挑発はどうなんだ……」

「う、うるせぇ! いいから来いよ!」

「それでは……そこの彼女はどうかな」

 教師は拳を握りしめて穂香に向かってゆく。

「ふっ!」

 教師の拳が穂香に放たれる。穂香は最小限の動きで教師の腕をつかみ、そのまま背負い投げしようとする。

「なるほど、センスはいいが……」

 教師は穂香の背負い投げの勢いを利用し、足から着地してそのまま穂香を背負い投げをお見舞いする。

「……っ!」

「そこだ!」

 穂香を背負い投げして無防備になっている教師に一七は襲い掛かろうとする。

「戦い方がなっていないな」

 一七は突然巨大な力で壁に打ち付けられた。

「ガッ……! 一体……何が起こったんだ……!」

 教師は穂香から距離を取ると答えた。

「これが異能の力だ。私の異能は『風力使い(エアマスター)』。風を操る異能で今君を壁に打ち付けた力だ」

 教師は二人を見ると続けた。

「それでまだ続けるか? 彼女の方は打ちどころが悪かったのかもう気絶してしまっているが?」

「俺はまだまだいけるってーの……」

「か、一七……もうやめておきなよ……この人――先生はこの島でもかなりの実力者だから勝てないのは当たり前だよ」

「止めるな辰巳。ここまでやられて何にもできないなんてダサすぎだろ」

 一七は辰巳の言う事を聞かずに再び立ち上がる。

「塩見、彼の好きなようにさせてあげなさい。納得いくまで私が相手をする」

 そこから一七は何度も何度も教師に殴る蹴るなど攻撃を浴びせようとするが全て捌かれ、その度に反撃を受ける。

「くそっこのっ」

「…………」

 教師は無言で一七の攻撃を捌いていたが一七の拳を掴んで言った。

「やみくもに攻撃したところで意味がないのに気づかないとはな」

 そう言った教師は一七の腹に拳を叩きつけ、そしてそのまま一七に何度も殴りつける。一七は反撃することもままならずただ教師にされるがままに殴られ続ける。一方的に殴られ続けている一七を見て辰巳は見ていられなくなり、顔を覆う。

「一七……!」

 気絶していた穂香が目を覚ますと目の前には傷だらけで横たわる一七とそれを見下している教師だ。教師は穂香が目を覚ましたことに気が付いて穂香を見る。

「彼は見ての通りだ。君はまだ続けるか?」

「酷い……! これは模擬戦なんでしょ!? ここまでする必要はなかったでしょ!」

 穂香の半分叫びのような言葉を受けても教師は顔色一つ変えずに、淡々と、冷静に、あるいは冷酷に答える。

「そうだ。これは模擬戦だ。だが模擬戦であっても決戦は決戦だ」

 その言葉を聞いて穂香は体が熱くなってゆくのを感じた。彼女は滅多なことでは怒らないし、人を嫌ったこともない。故にこの感覚は初めて感じたものだ。そして彼女は理解した。



――あぁ、これが『怒り』か。



彼女がそう思った瞬間、彼女にある変化が訪れる。


ドクン、ドクン


 彼女の心臓が大きく脈を打った。すると穂香の体が仄かに光を発し始める。殆ど視認することは出来ないが、確かに発光している。辰巳は穂香が発光しているのを見て眉を潜める。

「……? 穂香が発光してる……?」

辰巳の言葉を聞いて教師は穂香を見る。

「……なるほど。じっくりと見ないと分からないが発光している。これは……ふふっ」

「あなたは……絶対に……!」

 小さく笑った教師目掛けて穂香は全力で向かってゆく。本来カウンター型の穂香らしくないが、彼女の頭は一七を傷だらけにした教師への怒りしかない。

「せやぁ!」

「……ほぅ……なるほど」

 穂香の全力の蹴りを教師は受け止める。しかし一七の時とは違い、少しだけ態勢が崩れた。

「そこっ!」

 穂香はすかさず反対側の足で蹴りを出すがその足を掴まれ、はじめに一七が飛ばされた方向とは逆方向に飛ばされる。しかし穂香はすぐさま受け身を取って立ち上がる。穂香は自分の変化に気が付いた。さっきまでは体全身が打ち付けられた痛みを感じていたのに、心臓が大きく脈を打ってからは痛みが嘘のように消えていたのだ。それだけではなく、全身に力が湧いてくる感覚まである。

 そんな穂香の様子をみて教師は納得したように小さく頷く。

「さて、そろそろ終わりにするか」

 穂香は目を疑った。起き上がってすぐに教師をずっと見据えていた。そのはずなのに一瞬で教師が真後ろに移動していたのだ。

「おめでとう。能力は開花したようだな」

 穂香の意識はそこで途切れた。


結構改変しました。次の話は丸ごと変わります

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