#3
島についてすぐに女性はつい先ほど出会った男と同じように黒いスーツを着た男性に話しかけられ、そのまま歩いて何処かへ行ってしまった。
「なんだあいつ……。島について色々話すんじゃなかったのかよ」
一七は不機嫌そうにそう言いながら堤防の上にのって海を眺める。そんな一七を宥めつつ穂香も一七の隣に立つ。
「仕方ないよ。あの人、理事長って呼ばれてたし結構偉い人なんだろうし忙しいんだと思うよ?」
「それにしたって島についてから何の説明もされてないし、どこに行けばいいかもわからねぇだろ」
「それは確かに……そうかも」
2人が堤防の上で海を眺めていると不意に下から呼びかけられた。
「あの……もしかして新しくこの島に来た人……ですか?」
2人が下をみるとメガネをかけた気弱そうな少年がこちらを見上げていた。一七は堤防から飛び降りると少年と向かい合うように目線を合わせた。
「あぁ。今日からここで暮らす事になった……のか?」
一七がそう言って穂香を見る。穂香は少し考えた後小さく頷いた。
「ま、そう言う訳で新入りって感じだ。連れてこられたはいいが右も左もわかんねぇ状態でよ。お前さん、その口ぶりからするにこの島の住民なんだろ? よければ色々教えてくれないか?」
一七がそう言うとその少年は小さく微笑んで言った。
「僕なんかでよかったら喜んで。あ、僕は塩見辰巳。辰巳って呼んでね」
「辰巳か。そういえば名乗り忘れてたな。俺は神條一七、一七でいいぞ。んで堤防の上にいるこいつは……」
一七がそこまで言いかけて穂香は堤防から降りてきて続けて言った。
「私は一條穂香。私も穂香でいいよ」
2人は辰巳と握手をして、辰巳に付いて行った。
「まず外界との繋がる唯一の場所がさっき一七たちが乗ってきた電車。あの電車以外にこの島から出る方法はないと思うよ」
「周り一面海だし、船とかはないの?」
穂香の問いに辰巳も苦笑しながら言った。
「僕も最初この島に来た時はそう思った。でもどうもこの島自体に特殊な仕掛けをされているのか、一度も船が近づいてきたことはなかったよ」
「はぁ……。まーた例の『異能の力』ってやつか」
一七がうんざりしたように言うと辰巳も微笑みながら頷く。
「多分この島や僕らの存在、異能の力自体が国家規模で隠されているんじゃないかと僕は思うよ」
「それについては否定はしないわ。でも肯定もしないわ。なにせ黙秘事項だからね」
突然辰巳の後ろから金髪の女性が現れた。隣にはスーツを着た男性がいる。
「んなっ! お前一体どうやって!?」
「……それも異能の力ってやつ?」
狼狽える一七に代わって穂香が問いかける。穂香の問いに金髪の女性は微笑んだ。
「そういう事。このように異能の力は多岐にわたるわ。塩見君、彼らの相手をしてくれてありがとう。出来ればこのままここのルールを教えてあげて」
「分かりました。理事長先生」
辰巳の受け答えに理事長と呼ばれた女性は満足そうな顔をしてスーツを着た男性と共に一瞬で消えた。恐らくスーツの男がテレポートの異能者なのだろう。
「それで、ここのルールってのはなんだ?」
「それについてこれから説明するよ。付いてきて」
一七の問いに答えてから辰巳は2人を連れて歩いた。堤防から少し離れたところに体育館のような建物があり、そこに向かっているようだ。建物の中に入ると、2人の男性が待っていた。
「君たちが神條一七と一條穂香だね? 理事長から話は聞いているかい?」
2人は首を横に振る。
「塩見、彼らに説明してあげなさい」
男性にそう言われて辰巳は説明をし始めた。
「まずこの島に階段があるのは2人とも知っているよね?」
「あぁ。電車からもはっきり見えたぜ」
「それなら話が早い。あの階段はこの島での地位を表しているんだ。3段目の人より4段目の人の方が偉い、みたいな感じだね。それでここに初めて来た人は今ここにいる先生と模擬戦をしてどのくらいの強さかを調べるんだ」
「つまりここにいる大人の人と戦えばいいんだね」
穂香がそう言うと辰巳は頷いていった。
「そういう事。理解が早いね」
「なら最初は俺から行かせてもらうぜ
一七はそう言うと1人の教師と向かい合った。
「戦いには第三者の立ち合いっが必要なんだ。今回は僕が立会人になるよ」
そういって辰巳は少し離れる。
「それでは……戦闘開始!」
その掛け声で戦闘が始まった