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ハルの剣士と冬の華  作者: カノン
第2章 グラオシュナイト学園へようこそ!
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第1話 異世界・ジュライパロル


剣と魔法の世界『ジュライパロル』―――――誰が初めに言ったのか、どんな意味があるのか、誰も知らない。けれどこの世界に住む人は皆が知っている名前だ。

ジュライパロルにはドーナツのように真ん中に大きな湖のある大陸・メルドシャイン。三日月に似た小さな大陸を囲み幾つもの小さな島が転々と海上にあるクレシアズ諸島。そして大陸の北に位置する星型を崩したような大陸・アビスタイウィルの三つがある。


メルドシャイン大陸が東に存在すれば、クレシアズ諸島は西にあり、アビスタイウィル大陸は北に存在するであろう。」という言葉が地理の書物には必ず最初のページに載るらしく、大陸は時と共に形は変えてゆくがその位置は変えることがない。ということを意味しているらしい。


私がいるのは東の大陸・メルドシャイン、東の国ポリィースト。

メルドシャイン大陸は真ん中に位置する巨大湖・ロルネータの豊かな水の御陰で緑豊かな自然多き大陸で、四つの国が存在する。

時計を例に説明すると針の中心がロルネータ湖で、国境線はそれぞれ二時、五時、八時、十一時の場所だ。名は北からギリディノース、東のポリィースト、南のザーシュス、西のフィエスト。

四国の仲は良い方らしく、日本と同じように四季のある大陸で国ごとに綺麗な名所が数多くあるらしい。――――と、それらしく説明しているけど、私にも大陸や国同士のことはよく分かっていない。



「じゃあ、次は此処…グラオシュナイト学園についてだね!」


十メートルは有りそうな本棚が円形の建物内の壁際に置かれ、大体五メートル付近には人の歩けるスペース(柵付き)が設けられ、移動手段はスライドさせて動く階段か自分自身が浮遊するしかない図書室で明るく人懐っこい笑みを浮かべてアインス・シュトランクが声を上げる。

図書室と言っても一つに最低六人が座れるテーブルが部屋の四隅に幾つか置かれ、大きすぎる本棚以外なら普通の学校の図書室と変わらない場所だった。


『本当に魔法の世界なんだね…』


「今更、何を言っているんだ」


呆然と呟けば、隣に腰かけていた桜色の少年が無表情で言う。そんな彼を当然とばかりに無視し、私は真下に広がる光景に目を向けた。

先程も言ったが此処は図書室―――ただ「魔法の」と付け足すのが本当の表現。何故なら生徒も本も宙を浮き、今自分の手元にある本でさえ見た事のない文字が並んだ異界のものだから。

そして私は今、宙に浮かぶ個室に二人の少年といる。先程の地理の知識も二人の少年の一人、アインスくんの説明により何とか覚えたものだ。


「ん?フユカちゃんが何か言ったのか?」


「いや。ただ馬鹿なこと言ってるだけだから、アインは気にするな」


『なっ!?』


最低で四人は座れるだろうダークブラウン色のテーブルでアインスくんと向かい合って座る“桜色の髪をした少年”の言葉にカチンとくる。

天井からまるでシャンデリアのように垂れ下がったダイヤモンドを逆さまにしたような形のガラス張りの個室の中。ガラス張りと言っても魔法で造られているらしく、中から外の様子は見えるけれど外からはまるでステンドグラスのような綺麗な細工をされた壁しか見えず中は見えないようになっているらしい。

勿論防音もされているので大きな声を出しても大丈夫なのだが、此処は大人な対応を取った。


『私は魔法を知らないから周りのもの全てが新鮮に感じるだけよ。まあ?お堅い考えしか持ってらっしゃらないハル・ヴァインセッドさんには?分からない感動でしょうけど?』


「はあぁ!?」


言葉に一々疑問符を付けて勝ち誇った笑みを浮かべ見下ろしてやった私に、桜色の髪をした少年は大きな声を上げると椅子から立ち上がった。

それに驚いたアインスくんがぎょっとしたように少年を見つめた。


「どうしたんだ、ハル?」


「っ~~!…なんでも、ない」


アインスくんの不思議そうな顔に少年は渋々といった表情で椅子に座った。


(全然大人じゃなかったけど、なんか勝った気分!)


心の中でガッツポーズを決めつつ笑みを零した私に、少年は睨み付けるような視線を向けながら口パクで何かを伝えてきた。


(なになに……“この性悪女”!?)


口パクの意味に気付いた私の視線の先では忌々しい笑みを浮かべた少年が片目に指を添え、舌をだしていた。


『アンタの方が性格悪いじゃないの!!』


「はっ!お前ほどじゃないさ!」


少年は再度立ち上がる。それに合わせて私も浮いていた足を床に着けて彼と視線を合わせた。そして言い合いに発展しそうになったその時―――


《イイカゲンニシテクダサイ!》


まるでロボットのように話す青年が音も立てずに私と少年の間に現れた。その身体はホログラムのように青色の光を纏い透けていて、服装はというとこの学園の教員が着るものと同じデザインのもので図書室に入った時に出会った司書さんだと気付く。


《イクラボウオントイエド、アナタタチノコエハ“メイワク”デス!ケンカナラ、ヨソデヤッテクダサイ!!》


それだけ言い残すと司書さんの姿は消えた。

けれど真下を覗き込めば、中央で輝きを放つ透明な壁で出来た円柱の中で本物の司書さんが未だにこちらを睨みつけていた。


「うわー…魔法で創られた魔法人形マジックドール・司書バージョンが怒る姿なんて初めて見たよ。あいつらは基本、創造主マスターに命令されたこと以外はしないから“怒る”とかの感情すら持っていないものだとばかり…。すごいなハル!って喧嘩してるの俺とお前ってことになってるよな、アレ。」


感心したように頷いた後、現実逃避でもするかのように遠くを見つめたアインスくんに少年は溜め息を零すと椅子に座った。


「そうだな。まあ、後で謝れば何とかなるだろう。それと…魔法人形は創造主の魔力を糧に生きてるから、魔力を注ぎ込むときに感情も一緒に入り込んで、それが長い年月を経て魔法人形に定着した。って説を何かの本で読んだことがある」


「それドコの棚!?」


「D-2」


「あそこは創製技術科の生徒がよく閲覧してる棚だもんな!よし、後で借りよう!」


『……。』


話の内容を除けば、彼らも私と変わらないただの中学生にしか見えない。

―――もう一度言う。此処は魔法の図書室。司書も生徒も普通じゃなく、魔法の溢れる場所。

そこにいる私は“幽体”となって、此処「異世界・ジュライパロル」に来てしまった普通の中学生。

魔法も使えない。剣も扱えない。ただの非力な十三歳の少女に過ぎない。


「おい。」


『え…?』


「この世界について知りたいって言ったのはお前だろ。…へこんでる暇があったら、ちゃんとアインの話を聞けよな」


少年の顔はどこか気まずそうだった。


(気なんて遣わなくていいのに…。ふふっ)


きっと私が自分の世界との違いを再確認して、元の世界の事を思い出しちゃったと思ったのだろう。

色々あってムカついたから少年と言っていたけれど、それはやめるね?

桜色の髪をした少年こと、彼の名はハル・ヴァインセッド。

幽霊わたしの声を聞くことが出来る数少ない人。そして私が契約した…一応『マスター』だ。

彼と口論してしまうのは今に始まったことではなく、理由も強引な契約をしたからであって、ハルのことを嫌っているからという訳では無い。勿論、ハルもそうなのだろうと思う。


「じゃあ、気を取り直して…此処はグラオシュナイト学園。創立五百年を超える由緒正しき場所で――――」


アインスくんが本を読み上げるのに耳を傾けつつ、私は昨日の事を思い出す。



―――「君は幽霊だけどそうじゃない。君は…異世界からの人だね?」


ハルからの無理やりの契約後。グラオシュナイト学園長だというシェルゼさん、そんな彼の警護兼秘書をしているリヴィグさんとこの学園で保険医をしているリヒト先生たちと自己紹介を済ませると、シェルゼさんが突然にそう尋ねた。

けれど私自身、此処が異世界であり自分がもしかしたら死んでいないかもしれないという事実を先刻知った為、困惑するしかなかった。


「待って下さい!異世界って…」


けれどそれはハルやアインスくん。それにリヒト先生と側に立っていたリヴィグさんもだった。


「彼女は何らかの魔法によりこの世界に呼ばれた。けれど何かの手違いで幽体になってしまったのだと私は思う。」


半信半疑でシェルゼさんの話に耳を傾けていれば、リヒト先生が口を開く。


「確かに…本物の幽体ってのは壁なんかは勿論だが、人なんかもすり抜けて“触れる”なんて行為は出来ない。だが、こいつは掴めた」


リヒト先生は私と最初に会った時の感覚を思い出そうとするかのように手の開閉を繰り返していた。それを横目にハルも先程の……キスを思い出したのか赤面していた。釣られて私もだったけど。


「うん。だからね、君はまだ死んでいない。」


『っ!!』


もしそれが本当なら…


(帰れる!!)


希望が見えたとこの時思った。けれどそれは今にして思えば彼らの都合の良い事ばかりのような気がした。

私の嬉しそうな顔にシェルゼさんは笑みを浮かべるとハルの肩を押し、私とハルを隣に並ばせた。


「で、君が元の世界に帰る方法を探す手助けはこの子がするから」


「……。」


シェルゼさんに押されたハルは気まずそうに頭を掻く仕草をすると私から視線を逸らした。


「彼はまあ…この通り少し難しい性格をしている。けれど魔法と剣の腕はこの学園の中でも一、二を争う実力者だから安心して身を任せると良いよ」


『は、はい…』


決して悪い人ではないのだろうけれど、ずっと微笑みを浮かべるシェルゼさんに私は少し恐怖を感じた。

それは心が…と言うよりは身体全体で彼の“何かしらの巨大な力”を感じたからかもしれない。


『あの…!』


「ん?」


『肝心なことをまだ聞いていません』


「何かな?」


首を傾げるシェルゼさん同様に皆(アインスくんとリヴィグさん以外)の視線が突き刺さる。


『此処が…本当に異世界だとして、此処で帰る方法を探して良いってことなんですよね?』


「うん。君はハルと契約を交わした。だから君はこの学園の生徒と同じ扱いになるね。立入禁止区域も幾つか出てくるだろうけど、君がハルの使い魔だという事実がきっと学園が君を迎え入れてくれる理由になるよ」


(つまり…私がハルの使い魔でなくなってしまうとこの学園にはいられなくなるという事、ね)


シェルゼさんにはきっと私が本当に聞きたかった事――使い魔にならなければいけなかった理由――に気付いていたのだろう。だから先手とばかりにそう言ったのだと気付く。


(もし本当に死んでいないとして、帰る方法を探せるのはきっと此処が一番なんだ。…どちらにしても他に頼れる宛てはない。…でも)


『私は…使い魔についても魔法とか、異世界とか、良く分かっていません。知識もなければ、この世界では当たり前のことが当たり前に出来ないと思うんです』


沈む心に反応するように私は次第に俯いていく。

今、迫られている選択はきっと悪いものではない。寧ろ良い過ぎるくらいだ。

けれど選ぶには覚悟と勇気、そして「私なんかが」という一抹の不安を振り切ることだ。それが出来ずに、私は俯く。


「なら、契約を破棄してここから立ち去るかい?僕としては学園に“得体のしれないモノ”を入れることはしたくない。だからもし君が去るというのなら、大歓迎だよ」


笑顔でそう言ったシェルゼさんの言葉に誰もが息を呑む。

一瞬、とても酷い言い方をされたと胸が痛んだ。けれどシェルゼさんは『学園長』という立場の上で、生徒の安全を何よりも優先しているからこその発言だったのだと―――瞳を見て思った。

ハルは少し焦りの色を浮かべ、アインスくんは心配そうにハルと私を見つめ、リヴィグさんとリヒト先生は只静かに私を見つめていた。


『……。私は…無知で何も出来ない役立たずかもしれない。幽霊だけど、もしそうじゃなかったとしても、きっと迷惑を掛けると思います』


自然とハルの方に視線が向いた。

こんな私と契約して困るのは…ううん、もしかしたら破棄しても困るのはきっと彼だ。その意の籠った視線をハルは受け止めてくれた。

同じように私を“見る”瞳に、大きく深呼吸をした。


『それでも、此処にいたいです。さっき言ったことも全部嘘じゃなく、きっと本当に迷惑をかけると思います。それでも…それでも此処にいたいです!どうか、私を此処に置いて下さい!』


此処に居て良い。と初めから与えれれていた選択肢を、何も考えずに選択していればそれでよかったのかもしれない。

けれどそれは何かが違うと思った。だからこそ、私は今…強く此処・グラオシュナイト学園にいたいと思えている。そんな気がした。


「……ぷっ!あはははは!」


『へ…?』


突然、目の前でシェルゼさんが大きな声で笑い始めた。

驚いたのは私だけでなく、ハルやアインスくんは勿論のこと、長い付き合いだろうリヴィグさんまで初めて見たとばかりに目を見開いていた。


「ひぃー、ひぃー、なにこの子、すっごく面白いっ!!」


息をするのもやっとだと言わんばかりにお腹を抱えて笑うシェルゼさんに先程までの威圧感はすっかり消えていた。


「シ、シェルゼ様…?」


「あははっ、だいじょぶだよリヴィグ…くくっ」


流石にそろそろ止めないと笑い死ぬかもしれないと焦った表情を浮かべたリヴィグさんがシェルゼさんの肩を支えた。


「いやー…意地悪な事を言ってごめんね、フユカちゃん」


『え?』


「元々、君をこの学園に入れるつもりではいたんだよ。じゃないとハルは使い魔がいなくて退学、君は不思議な存在だからもし外に放っておいて何かの拍子に死んじゃったみたいな可能性もあったし。僕もそこまで鬼じゃないから、女の子を死なせるようなことはしないよ」


突然名前を呼ばれたこともそうだが、ニコニコ顔で話を続けるシェルゼさんのテンションについて行けず、呆然としていればハルが隣で溜め息を吐いた。


「そもそも、初めからお前は此処に入って良いってシェルゼ様は仰っていたじゃないか。それなのに…何だかんだで文句を言って話をややこしくしたのはお前だろう?」


『なっ!大体、アンタがいきなり契約とか訳の分からないこと言って無理やり使い魔にしたことが悪いんじゃない!』


(だから余計に役に立たなくて契約破棄にされたらどうしようとか、色々悩んだんだから!)


ハルを睨みつけてやった。


「そ!?…れは、だな」


それに対し口ごもるハルに再度声を荒げようとした私に、シェルゼさんが近づく。


「うんうん。いきなり契約されたらそりゃあ、怒るのが普通だよね」


「シェルゼ様!?」


味方だとばかり思っていた人に裏切られたとハルが目を見開く。そんな彼にシェルゼさんは笑みを深めると人差し指を立てた。


「いいかい、ハル。自分にとって良い選択肢を与えれ、すぐにそれを信用し選んでしまうような人はいつか道を外れ、闇に落ちてしまうだろう。だが反対にすぐには信用せず疑いの目を持ち、その上で自分の意志で考え、選ぶ者には必ず良きものが待っている。―――彼女のようにね」


シェルゼさんは私の頭に手を伸ばすと優しく撫でた。

その心地よさに思わず目を閉じそうになった私の耳にシェルゼさんの声が届く。


「それに彼女は自分の事をちゃんと理解している。その証拠に『自分は役に立たない』なんてマイナスなイメージを自分からは言わないだろう?」


「それは、まあ…」


「幽体になってしまって、しかもここが異世界で、周りを見れば見知らぬものばかり。ましてや死んでしまったかもしれないという不確かな事実。…君はその重圧に耐えつつ、冷静に判断できるかい?」


ハルに向けられた言葉だと気付いたのは、彼が息を呑んだからだ。

シェルゼさんの言葉は私の事を言っていると感じたのは、彼の言ったこと全てが当てはまっていたからだ。それにハルも気付いたからだろう、ハルは気まずそうに視線を落とした。

そんなハルから視線を移したシェルゼさんは私と目線を合わせるように屈みこむと、そっと両手で頬を包み込むように触れた。


「よく頑張ったね…君は此処にいて良いんだ。もう何も怖がらなくて良いよ。

僕たちは全力で君を元の世界に戻す方法を探すし、この世界にいる間はずっと君の事を護るよ」


『っ!!』


その言葉だけで涙が溢れた。

溜まっていた不安がすべて浄化されるように、心が軽くなる。

嗚咽を漏らす私の頬を撫で、シェルゼさんは溢れる涙を拭ってくれた。


「―――ようこそ、グラオシュナイト学園へ。心より君を歓迎するよ」


シェルゼさんはその後大きな声で泣き出してしまった私を包み込むように抱きしめてくれた。

その温もりが、どこかお父さんと似ていて…とても懐かしく感じ、やっとこの世界で初めて―――安心できた瞬間だった。



―――――「…という訳で、メルドシャイン大陸に唯一上級まである学園は此処、グラオシュナイト学園だけなんだ」


アインスくんの声にハッと我に返る。

回想に浸り過ぎて大分時が経過していたのか、回想前にアインスくんが開いた本のページが既に半分を超えていた。


(どうしよう…全然、話を聞いてなかった!)


特に大事な事は話してなかったように思うが、もしかしたら大切な部分があったかもしれない。と焦る私の横で、浅いため息が聞こえた。


「アイン。どうやらもう一度最初から説明が必要みたいだ」


そう言ったハルを目を見開いてアインスくんが本から顔を上げる。


「え?どこか分からない場所があったとか?それとも俺の説明じゃ分かり難かったかな…」


不安げに本と睨めっこをするアインスくんに最早罪悪感しかない私は慌てて言う。


『違うの!ごめんね、ここ数日の事を思い返してて…!』


けれどアインスくんは「よし!なら他に分かりやすい本がないか探してくるな!」と言って立ち上がると個室を出て、本棚のほうへと飛行していった。


『はあ…』


「言っても無駄だろ。お前の声は俺かリヒト医師、シェルゼ様にしか聞こえないんだから」


つい溜め息を吐いてしまった私に、頬杖をつき手元の本に視線を落としつつハルがそう言った。そんな彼の側に私は降り立つ。


『分かってるよ。…でも、話が出来ないのってなんか辛いね』


「……。」


黙り込んだままジッと見つめてきたハルに慌てて否定する。


『あっ、えっと。そ、そうだよ!ハルに通訳してもらえば良いんだもんね!それで問題は解決!あはは』


(危ない危ない…。感傷的になるとどうしても本音が)


出来るだけ明るく振る舞ったつもりだった。けれどハルは大げさにため息を吐くと本を閉じた。


「口で説明するより、お前は見て覚えた方が早いんじゃないか?」


『え?』


ハルは無表情のまま立ち上がると私の手を取り個室を出た。その瞬間、今度は本棚と睨めっこをしているアインスくんを見つけ出し、声を上げた。


「アイン!少し席を外す!片付けは頼んだ!」


ハルの大声にアインスくんは勿論のこと、他の生徒も驚いたようにこちらを見上げていた。だがそれには目も暮れずにハルは私の手を握ったまま降下し、図書室の出口へと向かった。

後ろからアインスくんの「分かった!」という声と司書さんの「トショシツデハオシズカニ!」という大きな声が聞こえたが、それすらも無視してハルはずんずんと進む。


『ちょ、どこに!?』


「黙って付いて来い」


速足に歩くハルと床から数センチ浮きながら後をついていく私。

きっと周りからはハルが何もない所に手を差出し一人歩いているようにしか見えないのだろう。それでもハルは進んで行った。黙々と。

だから私も何も言わずに彼の手を握り返し、後を付いて行くことにした。



ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


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