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side.???


今回は『あの人』sideです



楽しんでいただけると嬉しいです



そっと殴られた頬に触れると、ビリッと痛んだ

顔を上げると、去っていく背中が見えた。俺を殴ったヤツの背中。俺が傷つけた少女を大切にしているヤツの背中

………兄貴の友達の背中

高梨和彦

それがヤツの名前だ




「あーいって…」

殴られた頬は結構痛い。口ん中はたぶん切れてる。血の味がした

ま、殴られたのは俺の自業自得だけどな。俺が悪い




立ち上がって歩き出すと、すっと横にリムジンが止まった。中から出てきた男が恭しく俺に礼をした

「悠真様、ご学業お疲れ様でございました。お迎えにあがりました」

「ん」

男が開けたドアからするっとリムジンに乗り込む

リムジンは音もなく走り出した




俺の名前は山都悠真

高校2年生

家は全国区の運送会社を経営している。家族構成は俺、父、兄の3人。それとたくさんのメイドや執事と一緒に暮らしている

所謂お坊っちゃまだ

学校は一般的な公立高校に通っている。その方が何かと都合がいいしね。社長である父が多額の寄付金を学校に贈ってくれるおかげで、教師も俺に逆らえない。いい気分だ




郊外にある屋敷に着くと、思いもよらない人物が待っていた

「よ、悠真。お帰り」

リビングのソファに座って俺を出迎えたのは5つ上の兄貴だった

ソファからこちらを見上げる自分とよく似た顔を見下ろす

「兄貴、なんでいんの」

「仕事が久々に長期休みもらえたから?」

「あっそ」

兄貴と重なって、さっきの高梨和彦の顔が頭をよぎる

兄貴の名前は山都涼

家の会社を継がず、今はバンドとして活動している。Ryoって言えばみんな知ってるか。さっきの高梨和彦とバンドを組んでベースを弾いている。現に今だって兄貴の膝の上には、愛用の真っ青なベースがおいてある

「親父は?」

「知らね」

俺は素っ気なく答えると、自分の部屋に向かった




兄貴を見るとムカつく

好きなことがあって、それを仕事にして成功して、友達も多いし性格もいい。顔もいい…って俺もほとんど同じ顔か

兄貴を見ると自分にムカつく

自分がひどくちっぽけに見える

今日だって…




自分を見る怯えた瞳を思い出す

確か名前は柳林。クラスの男子がそう呼んでいた。下の名前は知らない

気まぐれで襲ってみたらひどく怯えた瞳をした高梨和彦の女

…女なんか嫌いだ

みんな『アイツら』と同じだ

頭に浮かんだ2つの顔を慌てて消す

すると今度は別の顔が浮かんだ

長い黒髪と勝ち気な瞳をした少女

梨内琳

俺を唯一怖がらない女だ




俺を見ると、校内の女子生徒はほぼ怯える、怖がる

そりゃ俺の日々の行いのせいだな。むしゃくしゃすると手近な女子生徒を捕まえて襲うから

でもあの女だけは…梨内琳だけは俺を怖がらない

怖いもの知らずなのか何なのか

あの勝ち気な瞳がおもしろくない

一度苛立ちに任せて襲おうとしたことがある。…強力な平手打ちを喰らった。やつは怯えることもなく俺を睨み付けると、さっさと鞄を持って歩いていった。『早く部活に行きたいの。アンタの相手なんかするヒマないのよ』そう言って

おもしろくない

他の女みたいに泣き叫べばいいのに

おもしろくない




知らず知らずのうちに俺は眠ってしまっていた

夢を見た

自分を裏切った2人の女の夢




幼い俺は途方に暮れていた

大好きだった母が初めて俺と兄貴に嘘をついた

『お母さんはずっと涼と悠真と一緒にいるわ』

幼い俺と兄貴とした約束

『買い物に行くだけだから。すぐ帰って来るわ』

そう言って出ていった母が戻って来ることはなかった

あの頃家はまだそんなに裕福じゃなくて、父と母と兄貴と俺だけの家族。幸せだった生活は一瞬にして壊れてしまった

あれから父は仕事しか見なくなった。仕事人間になった父は1代で会社を築き上げ、あっという間に全国区の会社にした

その分、父は家に帰って来なくなった。会話が減って、会うことすら減って。そのうち兄貴も家を出ていった

残された俺は?

俺はどうしたら良かったんだ?




家族が壊れて腐っていた俺を救ってくれたのは1人の少女だった

俺がまだ中学2年生の時だ

花崎真綾

俺は彼女に恋をした

ダメ元で告白して、OKしてもらった時は夢みたいだった。ただただ幸せで、側にいれることが幸せだった

夕暮れ時の帰り道で初めて手を繋いだ。3回目のデートで初めて唇を重ねた

彼女とずっと一緒にいたかった

でも彼女も俺を裏切った

彼女は俺に隠れて、他の男ともつきあっていた

それが知らない男ならまだ良かった。相手は当時の俺の親友だった

ヤツは俺が彼女を好きなことを知っていた。応援してくれていた。つきあえた時は手放しで喜んでくれた

なのに




俺はまた1人になった

もういい

もう誰も信用しない

もう誰も愛さない

1人でいい

そう思った




朝になって目が覚めた

随分懐かしい夢を見た




俺は荒れたまま高校生になった

もう誰も愛さない。そう決めたはずなのに、それでも温もりが欲しくて苛立ちに任せて女を襲い、金の力で教師を黙らせ、荒れた心に任せて日々を過ごした

真っ暗な日々

真っ暗な俺の心

俺は光を欲してる?




学校に行き、また放課後になった

1人教室に残っていると、教室のドアが大きな音を立てて開け放たれた

目をそちらに向けると、梨内琳が立っていた

彼女は俺を見てひょいと眉を上げただけで、自分のロッカーを漁り始めた。忘れ物でも取りに来たんだろうか

その後ろ姿を眺めていると、彼女が振り返った

「山都君はさ、どうして女の子を襲うの?」

唐突な質問。いつもの勝ち気な瞳が俺を見た。深い茶色の瞳は逸らされることなく俺を見ている

……やっぱり変なヤツ

「理由なんかねーよ」

「私にはそうは思えないけどね」

間髪入れず返された言葉に面喰らう

「なにかを埋めたくてそうしてる…。私にはそう見える」

違う?とでも言うように首を傾げる

「……お前に何が分かるんだよ!!」

思わず声を荒げても、彼女はびくともしない

「私には分からないわよ。分からないから聞いてるんじゃないの」

冷静な彼女の言葉に更に苛立つ

目の前に立つ彼女の華奢な手首を掴んで無理矢理机に押し倒す

「…ッた…」

彼女は一瞬痛みに顔をしかめただけで、怯えもしない。ただ深い茶色の瞳が俺を見つめ続ける




お互い見つめあったまま時間が過ぎていく

外のグラウンドからは運動部の威勢のいい声が聞こえる

「ねぇ」

梨内琳が口を開いた

「質問に答えてくれるかしら?」

「…女なんか嫌いだから」

答えるまで逃げないであろうヤツに素っ気なく答える

「ふーん」

彼女が挑戦的な笑みを向けた

「じゃあ好きになってもらおうかしら?」

「は?」

予想外の言葉に間抜けな声が漏れる

彼女はするりと俺に掴まれていない方の手で俺の後頭部を掴むと、ぐいっと引き寄せた。次の瞬間唇が重なる。深く絡ませたキスは慣れてないのか、少しぎこちない

…やられっぱなしは悔しい。持ち前の負けず嫌いが顔を出して、一瞬のスキに攻守交代をする。微かに彼女が逃げ腰になったのを、頭を抑えて無理にキスを続ける

やっぱり慣れてないな

キスをしながらそう思った。彼女は苦しくなったのか、俺の胸をトントンと叩いた

唇を離すと、彼女は肩で大きく息をしていた。少し拗ね気味の顔で俺を睨む彼女に問う

「さっきのどういう意味」

「そのままの意味よ」

彼女は挑戦的にぐいっと顎を上げて俺を見た

「アンタを私に惚れさせる」

「…なんで」

彼女の真意が掴めずもう一度聞くと、彼女はみるみるうちに膨れた

「…アンタが好きだから」

ぼそりと呟かれた言葉に呆気にとられる

「…俺のどこが」

「知らないわよ。好きになっちゃったんだから」

唖然とする俺をしょうがないでしょ、とでも言うように睨み付けて彼女は口を開いた

「賭けましょう。アンタが私に惚れたらアンタの負け。アンタが私に惚れなかったらアンタの勝ち。アンタが勝ったら言うこと1つ聞いてやる」

顔を真っ赤にして言う彼女に思わず笑みがこぼれる。さっきまでの冷静さはどこ行った?

また誰かを愛してみるのもいいかもしれない

ふと、そう思った

なんでだろう

ああ、そうか。俺は…

まだ押し倒したままだった彼女の耳元に顔を近づける

「その賭けは無理だな」

「なっ…」

文句を言いかけた彼女の口を自分のそれで塞ぐ。唇を離して彼女の耳元で囁く

「俺もうその賭け負けてるから」

「へ」

今度は彼女が唖然とする番だ

素直に彼女をかわいいと思った

「俺たぶんアンタが好き」

「…たぶんがつくの」

「よく分かんねんだもん」

「何ソレ」

クスリと笑みをこぼした彼女に再び口づける

真っ暗な心に光が差したような気がした



分かりにくいかと思ったので補足説明を



今回の語り手、悠真君は本編で友乃ちゃんを襲ったあのお方です

まさか誰もこの人sideがあるなんて思わないだろうなーと思いながらニヤニヤして書きました

出番が少なかったので涼君を出しました

実は翔太さんが『涼は参考になりそうにない』って言ってたのはここだったりします

金銭感覚が涼さんちょっとアレなので

お坊っちゃまなので



お相手にはこれまた出番の少なかった琳ちゃんを出しました

夏音さんsideで登場した琳ちゃんです



楽しんでいただけたでしょうか?

次も頑張りますのでよろしくお願いします!!

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