side.Kazu…
『…としての』の番外編です
予定では5話くらい書くつもりです
やっぱり最初はかずさんです
楽しんでいただけると嬉しいです
なんで彼女に惹かれたんだろう
なんで彼女だったんだろう
でもあの時…
出会ったことに
出会えたことに
感謝します
「うわ、お客さんいっぱい!!いっぱいだぞ、和彦!!」
ここは楽屋
ステージ袖から客席を覗いていた翔太がはしゃいだ声をあげた
…コイツはいつも楽しそうだな…
やつのこういう所は好きだ
「はしゃぎ過ぎるなよ」
けども一応釘は刺す
「わかってるよ」
翔太がぶすっと膨れた
「さ、行くか」
祐哉がニッと笑って立ち上がった
「今日はやれるぞ」
「ああ」
涼が笑って言った言葉に軽く返す
そして祐哉を先頭に眩しいライトの輝くステージに踏み出した
そして俺は彼女を…友乃を見つけた
もしかしたら見落としていたかもしれないのに、俺は友乃を見つけた
見つけてしまった
目があった
なぜだか分からない
その瞬間
話してみたい
近づきたい
そう思った
話しかけたらもうだめだった
気づけば、好きになっていて
気づけば、どんどん好きになるばかりで
もっと近づきたくなって
もっと触れたくなって
…欲が出た
それでも
近づけた、と思っていたころ
あの『事件』は起きた
あの日
俺が遅くならなければ
友乃が
傷つくことはなかったのに
あの日
友乃は初めて俺から逃げた
触れるのを拒まれた
何がなんだか分からなかった俺は、泣きながら立ち去る友乃にどうもしてやれなかった
そのすぐ後
『彼』は現れた
訳が分からなくて立ち尽くしていた俺に、後ろからへらっとした声がかかった
「あんたが『高梨和彦』さん?」
後ろを振り向くと、一人の少年が立っていた
綺麗に整った顔立ちと、高校生とは思えないほど暗い光を湛えた瞳に、なぜかぞっとした
「…」
答えない俺を見て、彼は笑みを浮かべると口を開いた
「柳林さん、泣いてた?」
「…何か知ってるのか」
俺の問いに彼は笑みを濃くして、答えた
「ちょっと遊んでやろうと思ったら逃げられちった」
その何かを含ませたような、嘲笑うような言葉に、先程の友乃の姿が浮かんだ
外れかけていたブラウスのボタンと
恐怖に染められ、ひび割れた瞳が
一瞬で彼が彼女に何をしたのか分かってしまった
その瞬間
俺の体は動いていた
固く握った拳を彼の頬に叩き込んでいた
大人げないのは分かっていた
しかし彼は殴られたというのに暗い笑みを浮かべたままで
怒りは収まらないが、もう殴っても意味はない
俺は怒りをこらえつつ、彼に背を向けるとその場を立ち去った
「か、和彦?な、なんかあったのか?」
家に帰ると出てきた翔太が驚いた声をあげた
その声に振り向いた祐哉と涼も目を丸くした
俺は滅多に怒らないから驚いたんだろう
「…なんでもない」
八つ当たりだとは分かっていたけど、吐き捨てるようにそう言って自室のドアを閉めた
それからしばらく俺は友乃に連絡することができなかった
…拒まれたことは予想以上に堪えたようだった
会えない間は不安になるばかりだった
ただでさえ俺は友乃より5つも年上で
だけど
…会いたい
友乃に会えないのが
声が聞けないのが
こんなにも辛いなんて思わなかった
そう思ってしまった
もうこの想いを止めることはできなかった
でも現実は上手くいかないもので
俺は仕事に追われ、会いに行くことができなかった
「…大丈夫か?」
「あ?ああ…」
スタジオでの練習中
涼が心配そうに眉根をよせながらたずねてきた
返事をしても上の空だった
頭に浮かぶのは友乃のことばかりで
嫌われてしまうんじゃないか、という恐怖と
友乃が離れてしまうんじゃないか、という不安と
ぐちゃぐちゃした感情ばかり浮かぶ
だから友乃が来てくれた時
驚いた
俺と同じ想いだったことに
俺に会いたいと思ってくれていたことに
俺にしがみついて泣きながら、吐き出された言葉
『…好きです』
『…私、かずさんが好きです。ファンとしてじゃない、私個人の感情です』
…嬉しかった
…死ぬほど嬉しかった
答えた俺の言葉に涙をこぼす友乃を
…愛しい、と
思った
その後
また俺がOFFの日に二人で出かけた
なんだか幸せすぎて
信じられなくて
現実なのか不安で
つい、繋いだ友乃の手をいつもより強く握りしめていたようだった
「あの…かずさん?」
「あ?ああ何?」
「手、ちょっと痛いです」
「へ?うわ!悪い!!」
「い、いえ…。…どうしたんですか?」
「どうしたって…」
「なんか今日かずさん変なので…」
そう言って、ちらっと上目づかいで俺を見つめる友乃をまじまじと見つめてしまった
すると、友乃はちょっときょとんとした顔をした
その無邪気な表情に愛しさがこみ上げると同時に、ぽろりと本音をこぼしていた
「ちょっと不安でさ」
「え?」
「本当に俺で良かったのか、ってね。俺ただでさえ友乃より5つも年上だし、バンドもあるから会えるのだって少ないし、デートだってなかなかしてやれないから」
くっと一瞬息がつまる
「…友乃が俺から離れていくんじゃないか、って」
口に出すと同時に不安が押し寄せ、現実味を帯びる
すると繋いでいた手にきゅっと力がこもった
驚いて友乃を見ると、彼女はぶすっと膨れた顔をしていた
「私は『かずさんが』良かったんです。離れるなんてしませんし、ありえません」
みるみるうちに頬が赤くなっていくのが分かった
嬉しくて自然と笑みがこぼれる
そんな俺の顔を見て、友乃もふにゃっとした笑みを浮かべた
…俺でいいんだ
こみ上げた気持ちに任せて、力いっぱい友乃を抱き締めた
痛い、と言う小さな声を無視して、強く強く抱き締める
…幸せすぎてどうにかなっちまいそうだ
…どうかこれからもずっとそばにいれますように
そんな願いを込めて、俺はそっと彼女にキスをした
時が流れて
結婚式
翔太と夏音ちゃんが出ていった後
俺が言った
「…幸せにする」
その言葉に涙をこぼす友乃を
友乃の涙を止めたくて
その額に
そっと
化粧を崩さないように配慮しながら
キスをした
驚いて目を見開く友乃を愛しい想いで見つめる
…幸せにする
…もう二度と俺の前では泣かせない
…ずっとそばにいると
誓う
「新郎、あなたはこの者を生涯の伴侶とし、愛することを誓いますか?」
――誓います――
楽しんでいただけたでしょうか?
番外編では、本編の方ではっておいた伏線をひもといていこうと思ってます
今回は少し短かったです
ごめんなさい
予定では次は夏音さんsideです
頑張りますのでよろしくお願いします!!




