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8.マジシャンデビュー

疲れ切ったので、昼飯を食うことにした。

まだ、箸が上手く使えないので、イタリアンでパスタを食べることにした。

人気の店らしく人が並んでいるが、やたら視線が俺たちに向けられる。

ようやく店に入り、外(テラス席というらしい)で食事をしたが、通り過ぎる人間達がこちらばかり眺めている。


「アカネ、やっぱりその服装露出度高いんじゃないか?みんなアカネを見ているぞ」

心配しながら言うと

「何言ってんのよ。ライナーを見ているのよ。モデルみたいなイケメンぶりよ。私への嫉妬の目線が怖いほどよ」

アカネは笑いながら返した。

う~ん、異世界では俺イケメンなのか?よくわからん。向こうにはエルフがいたからなあ。

それにこっちの日本人は、顔の凹凸が薄い感じがするなあ。

でも、アカネは向こうに行っても十分美人で通用するぜ。


その後、ようやく、みなとみらいのランドマークの隣の広場で大道芸したり、その他の広場や野毛の路地で大道芸している芸を見た。


参考になったのは、いくつかあった。


例えば、火の付いた長い物体(ファイアーポイ)を手でクルクル回す芸。

あれなら、俺なら火魔法で金属の先に動物の形で着火できるな。


また、複数のボールや棍棒のようなものを巧みに操る芸もあった。ジャグラーというらしい。

風魔法で簡単にできるな。でも、観客の視線を集めるにはいいかもしれん。

ファイアポイと複合すれば、良い芸になるな。


また、球の上に乗ってバランスを取りながら顎に棒を乗せるなどのアクロバット系の技もあった。

これもジャグラーやポイと併用すれば、より効果的だな。


この世界の『芸』とは、驚きや意外性、高度な技術を見せるものとわかったが、俺の魔法を使えば、彼らよりも遥かに高度で、不可思議な現象を起こすのは簡単だ。

まさにチートだな。やっとチートが活かせるか。


魔法とアクロバットを融合させるのが効果的だな。魔法は最小限にすれば誰も魔法だとは思うまい。

これで小銭を稼ぎつつ、芸人の仲間になって、身分証明書の取り方を教えてもらおう。


夢中になって芸を見ていると、アカネは俺と腕を組んだまま俺の顔を見ていた。

「どう、参考になった?」

「ああ、とっても。明日にでも始めたいな。許可とか必要なのかな」

「う~ん、詳しいことは分からないから、最初はゲリラ的に短時間でおこなって、他の芸をやっている人に聞いたらどう?」

「警察に捕まるとまずいから、まずはそんな感じでいこうか」


もう夕方になったので、俺たちは帰路に就いた。


夕飯を食べながら俺はアカネに聞いた。

「そう言えば、お金はどうやって集めるんだ?」

「ジャケットと一緒に買った帽子を逆さまにして集めたらどうかな?」

なるほど、そんなことをしている人もいたな。


たまたま、アカネの休みが続いたので、早速、翌日俺はみなとみらいのちょっと外れた船の帆の形をしたホテルの隣の広場に出向いた。あまり人通りは多くないものの隣のイベント会場や海を見に来る人がいる場所だ。アカネには帽子を置くなどアシスタントをしてもらう。


最初にマジシャンとして買った、黒のベストとスラックスで広場を横切る人に一礼する。

金属の棒を5本用意し、まずは1本のそれぞれの先端に火魔法で火を灯して、クルクル回す。

数人が足を止めたが、ほとんどは関心なさげに通り過ぎる。

俺は構わず、次々と3本の棒の先端に火を灯しながら空に放り投げ、ジャグリングを行った。

「皆さん、2本、3本と増やします。難易度があがりますよ」


上に投げたせいで、遠くの人にも視認しやすくなったのか。だんだん人が集まってきて人垣ができた。

更に5本に増やしてジャグリングをするとどよめきが起こった。

女性二人連れが、話しながらこちらを指さしている。

どうだ凄いだろ!


ホテルの中から制服を着た人が出てきてこちらを睨んでいる。あ、誰かを呼びに行った。

そろそろ潮時か。

最後に灯した火を鳥、犬、牛、ドラゴン等に変化させると、大きな歓声があがった。

「これで最後です。よろしかったらカンパお願いします」

と俺が棒を片付けながら叫ぶと人々が金を帽子に入れてくれた。

硬貨がほとんどだったが、紙幣を入れてくれる人もいた。

ホテルとイベントの建物から制服を着た人が向かってきた。

俺たちは慌てて帽子を持つと駅の方へ向かった。


「凄いじゃない、最初からお金もらえるなんて!結構、稼ぐのは大変だと聞いたわよ」

アカネは興奮気味に話しかけた。

「でも、女性が多かったよね」

いや、アカネさん、なぜそこで睨むんですか。


「なんか、制服を着た人が来たけど問題なのかな。あれじゃ満足に稼げないよ」

話しながら移動すると、ちょうどクイーンズスクエアを通るところで、40過ぎのオッサンが球にのってアクロバットな演技をしていた。しかし、本人がしょぼくれているせいもあるのか、皆、通り過ぎるばかりだった。

俺たちはぼうっとオッサンを眺めていた。しばらくするとオッサンが芸をしながら話しかけた。

「あんた達、こういう芸面白いかい?」

「なかなか凄いですね。でも、あまり人が集まらないですね」

「そうなんだよなあ。

 休憩するか」

とオッサンは球から降りた。


「いやあ、美男美女カップルは華があっていいな。俺みたいなしょぼくれた親父はいくら芸がよくても誰も見ちゃくれない」

「でも、やっぱり芸が上手じゃないと駄目じゃないですかね」

とりあえず、お世辞を言う俺。

「まあな、最近の連中は芸じゃなくて人を見るからなあ。これでもパフォーマンスコンテストで入賞したんだけどさ。商売あがったりだ」

「嫌な世の中ですね」

「まったくだ」

ちょっと無言になった。


そこで俺はこんな時のために用意した質問を投げかけた。

「こういった芸をする時って許可とか必要なんですかね。

 実はさっき、あっちのホテルの横で火を使ったジャグリングをしていたら制服を着た人が睨んでこっちに向かってきたんです」

「そりゃ、施設管理者がいるからな。俺だって事前に届け出して許可をもらっているぜ」

「そういえば、兄ちゃん外人だもんな。そこまで知らないか。

 野毛大道芸みたいなイベントに出るんだって身分証明書出して事前のオーディションに合格し、ライセンスを取得する必要があるんだぜ」

また、身分証明書か!どこまで祟るんだ。神様もこんな大事なこと何で教えてくれないんだよ。


「俺、結構技が派手なんで人は集めるの得意なんです。金が入り用なんで、もし良かったら俺と組んでくれませんか」

「まあ、兄ちゃんみたいにイケメンなら人は集まるだろうよ。姉ちゃんも芸をするのかい?」

オッサンは無言のアカネに聞いた。

「私は今日は付き添いで。本業はアパレルの売り子なんです」

「ふーん、イケメンでこんな美人の彼女がいて、羨ましい限りだ。

 まあ、いいさ。このまま続けても人が来ないからな。一緒にやろうぜ。

 俺は中田だ。みんなからはナカって呼ばれてる」

「俺はライナーです」

「じゃ、よろしくなライナー。管理者には俺から助っ人が増えるって話しておくから明日の午前中から来いよ」

「よろしくです。ナカさん」


なんとか、パフォーマンスの許可の問題もクリアになったし、明日から稼ごうか。


翌日から俺は一人で道具を持って、ナカさんのところに通った。

ナカさんと芸が被らないように、アクロバットは封印してジャグリングを中心に火魔法と風魔法を中心に繊細な芸を見せた。


一方、アカネは職場から真っ赤な顔をして帰ってきた。

なんでも俺と服を買いに行ったり、パフォーマンスのアシスタントをしたりしたことが噂になったらしい。

どこで、あんな外人のイケメンと知り合ったのかと根掘り葉掘り聞かれたと、まんざらでもなさそうな顔で話した。

異世界でも女どうしの会話は面倒くさいんだな。


俺のパフォーマンスは段々と評判になり、他の芸人とも仲良くなりコラボするようになった。


そんなある日、ガタイのいい腕に刺青を入れた青い目をしたパフォーマーに肩を組まれて言われた。


"Hey Rainer! Lookin' real good out there, man! Things are really poppin' for ya, huh? We definitely gotta team up sometime!"(ヘイ ライナー、最近調子いいじゃないか。俺ともコラボしようぜ)


おいおい、一体何を言っているんだこいつは。


"...Wait up, is my English sounding kinda weird or what?"(俺の英語の発音変?)


「だから、お前の言葉わかんないって」


"...Oh, shoot—you seriously can't speak English? No way, Rainer! Get outta here!"(あ、英語しゃべれないのかよライナー)

「お前どっから来たのよ。日本人じゃあるまいし、英語しゃべれないってありえないだろライナー」

なんだよ、英語、英語って、そんなに英語って普及しているのかよ。俺の世界共通語は全く通用しないのに。


「それよりさあ、俺パスポートなくしたんだけど、どうしたら身分証明書もらえるかな」

どうやら、風貌からして俺と同じ「外国人」と思えたので聞いてみた。

「ライナー、パスポート失くしたの。ヤバイぜそれは。とにかく直ぐに大使館行って、おっと英語も出来ないんじゃマイナーな国か、んでも領事館はあるだろ?そこ行って再発行してもらえ」

俺の国は異世界だ、あるわけないだろ。


アパートに戻って、アカネに英語は世界に普及しているか聞いたら、小学校から教わる普通なら誰でも知っている言葉で世界で一般的に使われていると笑われた。

ふーん、一般的ねえ、あれ、どこかでそんな言葉聞いたぞ。そうだ神様が最初言っていた奴だ!

確か「この世界ではかなり一般的に使われていて、更に各国の上流階級は使えるという優れものの言語じゃ」だったかな。でも、その国の一般人はまともに使えないとも言っていたな、6年以上勉強して使えないはずないだろ!


「なあ、アカネ。この国の人はみんな英語話せるの?アカネはどうなんだ」

アカネは深いため息をついて、一番勉強する割に日本人で満足に英語を話せる人は少ないこと、自分も苦手で英語で話しかけられると硬直するし、ライナーから英語で話しかけられたらどうしようかと思ったと告白した。


うーん、神様は正しい事を言っていたのに深読みしすぎたか。

でも日本語の書き方を入れてないのは悪意を感じるなあ。


段々、金も稼げるようになったし、いつまでも物置じゃ何かとアカネに迷惑がかかる。

特にシャワーとトイレだ。早く、日本語を書けるようになって、まともな部屋に越したいな。

しかし、賃貸契約には日本語の読み書きが必要不可欠と大家に言われているしな。

帰宅後に疲れているアカネには申し訳ないが、俺は日本語(特に名前や住所を書く練習)を教えてもらうことにした。


しかし、この言語はなんだ!発音どうりの文字だけで2種類、意味を表す膨大な漢字、更に例の英語を表すローマ字とかある。

表記を暗号にしないと気が済まないのか。

くそ、絶対あの幼女神様分かっていて、翻訳に入れなかったな。

なんて底意地が悪い奴だ。


悪戦苦闘の末、なんとか俺は契約書に日本語を書いて、アカネの向かいの部屋に移った。家電は何もないが、風呂とトイレは自前だ!

大家には、俺の職業は「海外からのパフォーマー見習い」とアカネが説明してくれ、他の住人とも挨拶するようになった。


俺がパフォーマンスを始めると女性から歓声があがってスマホの画面を向けられることが多くなった。

そして、女性パフォーマーからもコラボの声がかかるようになった。

そういう時はアカネが同席している時が多くて、露出度の高いお姉さんパフォーマーがなぜか挑戦的な目でアカネを見つめて、アカネが睨み返すので、俺はいたたまれなくなる。

公衆の面前で露出度の高い服着ているような女は趣味じゃないんだよなあ。

俺の世界じゃ、そういうのは娼婦だぜ。


アカネが言うには、「謎のイケメン外国人パフォーマー」としてSNSで話題になっているらしい。

SNSってなんだと思っていたら、最近熱心にパフォーマンスを見てくれる女の子に

「ライナーさんのSNSのアカウント教えてください」と言われた。

やってないんだよと言っても、嘘だあと言われて困惑した。


またもや、アカネに聞くと自分のことを世界に発信できるツールでスマホを持っていれば作れると言われた。

じゃあ、スマホはどうやって買うの?と聞いたら、目を伏せて

「販売店へ行って、身分証明書を見せれば買える」だって


ダメじゃん。身分証明書なんとかしないとまずいぞ。マジで。






いよいよ、大道芸デビュー。段々有名になってくると身バレしそうで、問題だよね。

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