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5.異世界で住まいを得るのは難しい

地下鉄という乗り物に驚いていた俺はアカネに促されて、横浜駅に降り立った。

車内でも凄い人数が乗っていて驚いていた俺は、降り立った場所に人が溢れているのをみて慄いた。

「なんという人の数だ。人が身動き出来ないじゃないか」

アカネはあきれ返った顔で振り返った。

「ブルーラインなんて大した人の数じゃないわ。横浜駅のメインにいったらこんなもんじゃないわ」

なんという大国に来てしまったのか。我が国の首都でもこれだけの数はなかなかない。


そして、アカネに連れられてスカイビル(高い建物で横浜が一望できるそうだ)に行く途中、駅の通路を通ったが、人、人、人でぶつからずに歩くことも困難だ。

「なんてことだ。今日は大きな祭りでもあるのか。王都とはいえこんなに人がいるなんて」

アカネはそれを聞いて大笑いした。

「お祭りって、それ田舎から来た友達とおんなじこと言ってる。横浜はいつもこんなよ。まあ、私も最初は驚いたけどね」

「さすが、王都」

「王都?いやここ首都じゃないから。大きいけど、東京から見たらただのベッドタウンよ。まあ、住みたい街ナンバー1で人気あるけどね」

ええ、これで首都じゃない?じゃあ、首都ってどんだけ大きいんだ。

「トウキョウ?どれぐらい人がいるんだ?もしかして100万人くらいいるのか」

アパラチア大陸最大の帝国には首都に100万人くらいいると聞いたことがある。そんなに人間が固まって住めるはずないと一笑していたが、もしかしたら、この世界ならありうるかもしれん。

「うーん、よく知らないけど1000万人くらいじゃないかな。もう少し多いかも」

アカネは考え込みながら答えた。

1000万人!我が国は、アパラチア大陸南部の強国だが、500万人もいないぞ。


驚愕していたら、地下にまたもぐって、小さな箱に入れられた。するといきなり箱が動いた。優秀な魔術師である俺だから、眉を潜めた程度で済んだが、一体この国はどれだけ魔道具が普及しているのだ。

しかも、魔術を使用している形跡が見られない。マナは薄いが使用している人間が近くにいないので魔法行使に問題ないのはありがたいが。


箱が止まって出ると、ガラス窓の向こうは遠くまで見通せる。どこまで巨大な建物なのだ。こんな巨大な建造物見たこともない。


アカネの誘導により飲食店に入って外が見える席に落ち着くとアカネが改まって話し始めた。

「さっきは本当にありがとう。物凄く困っていたのに誰も助けてくれなくて」

「助けてくれたのが同じ日本人じゃなくて、外国の人だったなんて。しかも、こんなイケメン。

 やっぱり、ヨーロッパの人は女性に優しいのね」

ちょっと待て、翻訳魔法で意味は分かるが俺の認識と違うぞ。


「俺はヨーロッパの人じゃない、と思う」

「え、もしかしてハーフ?日本語上手だもんね。そしたらごめんね」

アカネは謝ってきた。

「いやハーフじゃない。どこから来たかよくわからないんだ。それに俺もてないし」

「え、どういうこと?それにもてないってどんだけ自己認識低いの?」

アカネはまじまじと俺の顔を見ていった。

自己認識低いって、俺は平凡な顔だったぜ。エルフにいつも馬鹿にされてたし。


「忙しくて出会いがなかったんだよ。

というかさ、気がついたらさっきの場所の近くの森にいたんだよ。持ち物はこのお金だけ。

覚えているのは、職場で爆発に巻き込まれて気を失ったまで。もちろん、この国じゃない」

「え~大丈夫なの。病院から抜け出してきたんじゃないの」

「違う!と、思う。普通の服着ているし。でも身分証明書がないから、銀行口座の開設ができない」

「パスポートないの!どうやって日本に来たの?」

「ちょっと、良く分からない」

「どこの国から来たの?」

「ちょっと、良く分からない」

エルランド自治共和国って言っても、この世界では誰も知らないよ。


「もしかして記憶喪失かしら。どこで働いていたの?」

「母国の研究所・・・のはずだが、良く分からない」

ここまでの経験上、魔法陣の研究所って、言わない方がいい気がする。

「・・・これからどうするの?」

「分からない。研究していたことが全く使えない気もする。身分証明書がなくても泊まれる所ある?」

俺の顔がよっぽど情けなかったのか、アカネは呆れ顔で俺の顔を見つめながら言った。

「ないわよ。少なくとも正規なホテルはね」


どうすりゃいいんだ。これで詰みだぞ。こうなったら森にこもるか。でも、魔獣が来たらどうする。

俺は結界術が使えないんだ。

「森に住むかなあ。でも危険だしなあ」

と呟く俺にアカネは畳みかけた。

「何言ってるのよ。勝手に住めないわよ。それに警察に見つかって職務質問されたら強制送還よ」

身分証明書がないとこの国では、送還されるのか。

というか、元の世界に戻れるのか。確かにこれほどの文明なら異世界送還も可能かもしれない!

もうハーレム王は諦めて、自分の世界で慎ましく生きていこう。

今回の転移はハードモード過ぎて、俺には無理だ。


「え、異世界に送還出来るの?俺はエルランド自治共和国から来たんだ。この世界では人を異世界に戻せるのか」

と俺が勢い込んで話すと、アカネは残念な人を見る目で見つめた。

「はああ、何を言っているのよ、ライナー。

異世界なんて、どこでそんな日本語覚えたの?そんなものあるはずないわ。

でも、エルランドねヨーロッパの小国かしら?」

とアカネはギャランブーに似た、少し小型の魔道具を取り出して何やら操作を始めた。


「そんな国ないわよ。ライナー本当はどこから来たの?」

咎めるように言われたが、本当なんだってば。

「わからない。記憶が混濁しているかもしれない」

「本当にこれからどうするのよ?」


そんなこと言われてもなあ。魔術の話をするとみな怪訝な顔をするし。

そういえば、銀行で何か言われたな。なんだっけ?

「野毛大道芸?」

ボソッとつぶやいた俺を見た、アカネはパッと顔を明るくした。

「大道芸?そうよね、あんなマジックできるんだもの。でも野毛かあ」

考え込んだアカネは真剣な眼差しで俺を見つめた。


「実は私、野毛に住んでいるの。野毛って言っても日ノ出町の方なんだけどね。

 築古のアパートなんだけど、家賃が安くてね。大家さんがとってもいい人なの。

 ちょっと、来てみる?」

き、来たあ!異世界テンプレ、私の部屋に泊まらない?ですか。お、俺の童帝生活終わりかあ!


「実は古すぎて、結構部屋が空いているのよね。私が頼めば空いている部屋なんとかなるかもしれない」

ですよねぇ。そんな美味しい話ないですよね。知ってました。


お茶(紅茶?は俺の世界と大して変わらなかった)をして、それから、俺たちは京急とかいう、さっきと似たような、しかし地上を走る電車に乗って日ノ出町とかいう駅に降りた。雑多な感じで人通りは横浜ほどではないが、やばげなオッサン達が多い場所だった。

俺がキョロキョロしていると、アカネは苦笑いをしながら

「この辺、治安があまり良くないのよね。だから、あんなストーカーがいたりするんだけど。

 でも、家賃は桜木町に比べて安いのよ」

まあ、冒険者ギルドの無法者や魔獣に比べれば、大したことないね。


しばらく、坂を上がっていくと(アカネによると横浜は坂ばかりで大変らしい)

なんとも年季が入った、2階建ての古ぼけた木造建築物の前にたどり着いた。

「メゾン野毛にようこそ」

いや、翻訳魔法の字感からして、メゾンじゃないだろ、これ。野毛荘とか、そんな感じだろ!


建物に入ると、早速靴を脱ぐよう注意された。この国では住居に入る場合、靴を脱ぐらしい。スリッパとかいう簡易的な履物を履いて廊下を進むと、老婆がこちらを見ていた。

「あら、アカネちゃん、イケメンを連れ込むとは、やるわねえ。

 でも、節度を持って頂戴ね」

アカネは真っ赤になって言い訳した。

「ち、違うのよ。大家さんにも相談した例のストーカーに港北ニュータウンで襲われたところに彼に助けてもらったの。

でも、カレシ訳ありで、正規な宿に泊まれないのよ。

大家さん、彼のことは私が保証するから空き部屋に泊めてもらえないかしら」

老婆は、俺のことをねめつける様に上から下まで眺めると吐き捨てるように言った。

「なるほどねえ。訳ありかい。じゃあ、書類を書いてもらおうか」

俺は困惑した。

「すみません。日本語は喋れるんですけど、書くのはダメなんです」


「ふーん、じゃあ部屋は貸せないねえ。アカネちゃん、一緒に住むかい?」

よっしゃ!ババアよく言った。それでこそ異世界テンプレじゃん。


しかし、ババアは真っ赤になったアカネと下心を抑えて無表情になった俺の顔を両方見比べて、溜息をついた。

「それじゃ、このイケメンが喜ぶだけだねえ。ちょうどアカネちゃんの部屋の隣に物置があるからそこに住むがいい。家賃は月1万円でいいよ」

パッと顔がほころぶアカネと裏腹に俺はガックリ来たが、表面上はにこやかに返答した。

「ありがとうございます」


「うんじゃ、埃でいっぱいだから掃除して住むがいい。

 そうそう物置に古い布団も一式あるから、使ってもいいよ」

「くれぐれも面倒を起こさないでくれよ。アカネちゃんに夜這いかけたら警察に通報するからね」

と言って、ババアは管理人室とか言う部屋に戻っていった。


真っ赤になったアカネは、早口で俺に言った。

「もう大家さんたらあ。ライナーが夜這いなんてする訳ないじゃない。紳士なんだから。

 でも、ホントは大家さんはいい人なのよ、ライナー。

 泊まるとこが出来て良かったね」

信頼されてるなあ。まあ、いいけどさ。


そして、俺は2階のアカネの部屋の隣の狭苦しい物置(3畳とかいうらしい)に行った。

アカネの助力を断り、風魔法で埃を全て屋外に追いやった。魔法万歳。


その後、アカネの部屋に行って、今後を相談した。

アカネ曰く、身分証明書だけでなく、俺には日本の常識がなさ過ぎるとのこと。

寝る時以外は、アカネの部屋で暮らし、アカネが仕事から帰ったら日本のことを教えてくれることになった。

なお、アカネはこの近くのランドマークとか言う横浜で一番高い建造物の下層階でアパレル?とか言う店員をしているらしい。


小汚い布団とかいう敷物を風魔法で埃を除去し、火魔法で軽く炙って乾燥させて寝ることにした。

やっぱり、異世界で住まいを得るのは難しい。

でも、初日でこれは、わりと上出来じゃないかな。

現代日本で難易度が高い、宿泊場所をゲット出来ましたね。

野宿でなくて良かった。

ヘタレな主人公なので、大家のババアに「昨日はお楽しみでしたね」と言われることはなさそう。

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