見えない方が良いもの
世界が今より辛うじて秘密に覆われていた頃、僕の師がぽつりとこう言った。
「きっと、大変なことになる」
鈍い僕は師の言葉の意味を捉えきれなかった。
多くの謎がはっきりと分かっていく世界を見るのはあまりにも嬉しかったし、また何より自身の存在をはっきりと主張することが出来る手段が出来るのはとても良いことだと本気で信じていた。
そう伝えると師は少しだけ間を置いた後に答えた。
「あなたの方が正しいのかも知れない。けれど、私にはとてもそう思えないの」
「はぁ……ところでそのキャラ付け何なんですか?」
僕の言葉に師は答えることはなく、そしてその答えを知る術も最早ない。
何故なら師はその姿を消してしまったのだから。
「先生。一体どこに消えてしまったのですか」
そう嘆きながら僕は幾日も幾月も幾年も探し続けた。
しかし、その足取りはとんとして知れず、今や僕は師の最後の弟子として時折メディアの前に現れては伝えるのだ。
偉大なる師の――温かな姿を。
「先生のイメージはどんなものでしょうか?」
そう問えば皆は答える。
『孤高の存在』
『どこまでも道に準じた求道者』
『誰とも慣れあわず、誰とも共に歩まず、そして独りで消えた者』
その通りだ。
僕はメディアの前で微笑む。
しかし――。
「誰とも慣れあわず、誰とも歩まず――ならば、何故、僕はここに居るのでしょう?」
そう言うとメディアは期待に満ちた視線で黙り込む。
そう。
人々が持つ師のイメージは本当に一面でしかない。
「先生はとっても親しみやすい人だったのです。そして、僕の目から見た先生はあまりにも――人間らしい女性でしかありませんでした」
先生。
どこかへ消えてしまった先生。
もし、今も生きているならば、どうか僕のこの声が届きますように。
「先生の真実。今こそ語りましょう」
*
「あの馬鹿……!」
思った通り最悪なことになった。
私はスマホの前で頭を抱える。
『僕の知る先生は孤高とはかけ離れた人でした』
馬鹿弟子の口を塞いでやりたいが悲しいかな、私とあいつの距離は滅茶苦茶離れている。
こんな目の前に居るように思うのに。
『アイスクリームが大好きでしてね。なんか四六時中アイス食べてました。ベッドで横になって食べるのが好きでよくシーツを汚していて、おまけにアイスがなくなると僕をパシリにして――』
「やめろって言ってんだろ!? この馬鹿!!!」
スマホの前で叫ぶがやはりどうしようもない。
「私が孤高の人物像を作り上げるのにどんだけ掛かったと思ってんだよ!」
私は空しく叫ぶばかりだ。
……案の定、予想通りの世界になった。
秘密を隠し通せる世界の方が割と便利なんだっていう私の予想は最悪の形で当たったのだ。
『他にもありますよ。あの人、意外とだらしなくてお風呂から出た後は下着姿で歩くもんだから、いっつもお腹が弱くって……』




