第一章 遺品の中の違和感
ある日、祖父の遺品整理をしていたとある大学生、陸の物語である。
「ふぅ、今日も疲れるなぁ」
大学生の僕――陸は、段ボール箱を抱えながら独りごちた。 今やっているのは、亡くなった祖父の遺品整理。誰がどう考えても大変で、本来なら悲しい作業である。
しかし、不謹慎ながらちょっとした楽しみもあった。 この前はクローゼットの奥から本物の日本刀が出てきて男心をくすぐられたし、その前は賞味期限が40年前のビスケット缶なんてものまで出てきた。「成分表ってこんな昔からあるんだなぁ」と、まじまじと眺めてしまったくらいだ。
今日も今日とて、実家から手伝いに来てくれた父親と一緒に作業をしていた時のことだ。 古い本棚の隙間から、一冊の古びた和綴じのノートが出てきた。表紙には、墨と筆で書いたようなかすれた文字で、こう題されていた。
『育児日記』
僕が生まれた時のものだろうか。気になって、隣で黙々と作業をしていた父親に声をかけてみた。「父さん、この本何? 誰の育児日記?」 作業の手を止めた父親は、ノートの表紙を見つめたまま、ピタリと動きを止めた。 その顔から、すっと表情が消えていく。 父親は何も答えなかった。ただ、酷く蚊帳の外に置かれたような、うつろな声で、ぽつりとこう呟いたのだ。
「……誰も、知らなかった」
それだけ言うと、父親は取り憑かれたようにまた片付けの作業に戻ってしまった。手元がわずかに震えているように見えた。 不気味に思った僕は、父親の目を盗んで、その『育児日記』を自分のカバンへと滑り込ませた――。




