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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

湯だしとけだし

掲載日:2026/04/28

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 タライ、と聞いたらみんなはどのような材質を思い浮かべる?

 プラスチック、ステンレス、木材……いろいろあるよね。

 安さだったらプラスチックだろうし、サビに対する強さならステンレスが勝るだろう。香りや雰囲気を重視するなら木製のものを選ぶのも手かもしれないね。

 状況に応じた素材選び、とは大事だけれども、なかなか実行に移せない。人それぞれの好みがあるし、自分の手の届く範囲のものは自分の好き勝手にしたいというのが心情だ。特に自由な選択肢が広がった現代では、この考えはとっても強まっている。

 だが、人間が人間である限り、守るべきもののラインというのはいくつも存在する。こいつを守らないというのは、最悪人間として扱われなくてもいいということになり、相手に牙をむかれることもしばしばだ。

 無知ゆえにおかしてしまい、取り返すすべすらなく全てを失ってしまう……なんて、バカバカしいことこの上ない。自分が好き勝手をするためにも、知識やルールを把握せねばならないとは、矛盾するようで大事なことがらだったりする。

 ひとつ、先生の実家におけるタライの話、聞いてみないか?


 先生の地元は、古くより林業が盛んな場所だった。

 国内でも屈指の良質な木材を提供している、といえば聞こえがいいが、ここにも後継者不足というでかいインシデントがあるものでね。将来的にどうなるのか、ちょっぴり先生も木をもんでいる。

 その地元でとれた木材から作られる様々な家具は、各家でも多用されているな。タライもまたその中へ含まれているんだ。

 このタライ、一番使われるべき場所は風呂場とされている。というのも、風呂へ入るに際して注意するべきことが地元にはあったんだ。


 それは、かけ湯の徹底。

 風呂へ入る前と、あがった後。最低でも一回はタライで湯を汲み、身体へかけること。

 習慣となっている人だったら、なんともない動作だろう。科学的にも、かけ湯によって突然死を防ぐ確率が高くなるという話があるようだ。

 しかし、子供のころの先生はその手の決まりごとが大嫌いだった。そこで早い反抗期を迎えた先生はある時にかけ湯を行わず、風呂の出入りを行ったんだ。


 特になんともなかった。入るときにも、出るときにも。


 ――なんだ、結局は迷信のひとつにすぎないか。


 内心、ほくそ笑む先生は、そこから先もかけ湯をせずに入浴を繰り返した。

 家族旅行のおりに温泉へ入るときなどは守ったが、それ以外の人目を気にせずに済むときはお構いなしだ。

 そうした、かけ湯なき日々が何十日、何百日と過ぎていき、そろそろ1年を迎えるかというときになってだ。

 その日の僕は、昼間にだいぶ動いたこともあって、ひどくくたびれていた。夕飯を食べてからはちょっと横になるやウトウトし始めちゃったくらいで、風呂が空いたことを告げられるまで記憶がはっきりしなかったっけ。

 そのまま流れで風呂場へいって、やはりかけ湯を一切なしで湯船へどぼん。体を温められるまま、再びまどろみの中へいざなわれていく。

 風呂で眠るのは危ないこととされているが、いまこのときの眠気には逆らいがたい。楽へ楽へ流されていくこと、それの何がいけないっていうんだ……。


 どれくらい経っただろう。

 ふと、先生は風呂がにわかに熱さを増したように思えて、目を覚ました。

 あぶくがしきりに胸を打っている。まるで旅行先で体験するジェットバスのたぐいを使った時の感触に近いが、先生の自宅にそのようなものはない。

 ならば何だ? と目を開けてみる。

 確かに泡にあふれている。浴槽全体が。でもひと目でヤバいとわかるのは、それが赤色満載ということ。代表的な警告色で助かるっちゃ助かるが。

 あわてて風呂から飛び出し、原因を確認したよ。足をタイルへついてみると、痛みが走ってバランスを取りづらい。


 赤の源は、先生の両足のつま先からだったんだ。

 もう骨どころか、肉もふやけたかと思うほどぐにゃぐにゃになった先っちょの皮が破れて穴が空き、そこから血が流れ出ていたんだ。あぶくを形成してしまうほど、勢いよくね。

 即刻、病院行きだったよ。手当てをしてもらって、長いリハビリを経て、まあどうにか骨たちは戻ったけれど、いまだってつま先のそろい方はいびつなまんまだ。

 これがかけ湯を怠ったバチかどうかは知らない。だが、かけ湯をするようになってから、現在に至るまでで同じようなことは二度と起こっていない、というのは確かだね。

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