第3話「火守(ひもり)
昼は、祭りの準備で町が騒がしかった。
幟が増え、通りでは太鼓の音が止まらない。
夜になると、宿は静かになる。
それでも、竈の火だけは落とさない。
オヤジが「火は宿の息だ」と言っていたからだ。
客はぽつぽつとやって来たが
客が来るかどうかより、
火を絶やさぬことの方が
大事な気がしていた。
帳場に立っていると、
あることに気づいた。
客は、必ず鈴を見る。
俺には、ただの鈴にしか見えないのに。
じっと眺めて、
「ほぅ……」と息を漏らす者もいれば、
何も言わずに、ただ微笑む者もいる。
そして決まって、同じ言葉を口にした。
「一泊。いつもの料理で」
それ以上、何も聞かれない。
こちらが聞く間もなく、
客は部屋へ向かってしまう。
帳面の保管庫へ行くと、
鈴が鳴ったような気がする。
確かめても、
何も変わっていない。
ただ、
帳面が一冊、落ちていることがある。
本当は、今日も料理に自信はなかった。
それを拾い上げると、
迷いは、不思議と消えた。
料理を出すと、
客は静かに食べる。
感想は言わない。
それでも、
椀はいつも空になる。
朝になると、
酒瓶が置いてあったり
銀貨が置いてあったりと
様々だが
客はいない。
それが、この宿の日常になりつつあった。
祭り当日の夜、
町はあんどんの灯りで昼のように明るかった。
屋台の呼び声、
太鼓の音、
笑い声が途切れない。
そんな夜に、
宿には似つかわしくない客が来た。
第4話「白夜」へ続きます。
お読みいただきありがとうございます。




