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落ちこぼれ令嬢は鬼畜執事を出し抜きたい。  作者: 松竹梅竹松


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第1章 第2話 這い上がるため

「ロータス領の領民の数はおよそ500万人。その内の約3%は国中のゴミが集まる廃棄物処理場で暮らしています。家も仕事もなく、流れてくる生ゴミを漁って生きている人々。そこで暮らす人々の数は長引く不況の結果増加の一途を辿り、最新の調査ではその数は5%にまで上がっているという話です。彼らは毎日成り上がるためのチャンスを探している。つまりざっと25万人がお嬢様の命を狙っていると考えてください」



 深い落し穴の中コウガが語る現実は、領主の娘であるクオンには耳に痛い話だった。



「大変な問題よね……なんとかみんなを救ってあげたいけれど……」

「問題を解決できるほどお嬢様が優秀だったら話は早かったのですが、歴代類を見ないほどのポンコツ。余計なことは考えないでください」


「ひどい! 私本当に現実を憂いてるのよ!? これでも一応令嬢なんだから!」

「そういう意味ではなく。お嬢様はたまたまロータス家に生まれただけです。15歳でまだ何の権限もない。世間が何と言おうが、お嬢様に責任はありません」


「うん……でも……」

「それにお嬢様は花火で人々に希望を与えようとしているのでしょう? それも立派な努力です。胸を張ってください」



 コウガの口調は依然として淡々としている。だが言葉の節々にはクオンをフォローしようとする意思が感じられる。



「コウガ……私あなたのこと勘違いしてたわ。ちょこちょこ棘はあったけどそんな風に思ってくれてたなんて……」

「いえ。お嬢様は行動力だけは無駄にあるので余計なことはしないよう牽制したまでです。無能が思いやりだけで行動したところで上手くいくわけありません。お馬鹿なんですか?」



 思わず流れかけた涙がピタリと止まる。そうだった。コウガはそういう人間だった。



(やっぱりやな人……)

「では現実的な話をしましょうか」



 クオンが絆されかけた評価を戻す中、コウガは話を続ける。



「お嬢様たち一般家庭以上の人間は学校で魔法を習います。それは将来に使うためではなく、勉強同様一般教養としての学習。実際に使用する機会は少ないでしょう。対照的に学校に通えない貧民街出身の人間に魔法は扱えません。学習する機会がないのだから当然ですね。その代わりに身体に流れる魔力を身体能力に変換する術を持っています。人を襲うため、奪うため、逃げるため。その日を生きるために魔力を行使しています。高度な魔法は使えずとも戦闘能力は下手な兵士よりも高い。家出したお嬢様を待ち構えるのはそういう人間です」



 クオンが落とし穴に嵌った時に一緒に落下した石を軽く握り潰して見せるコウガ。とてもじゃないが正面戦闘では勝てそうにない。



「だからお嬢様には逃げる術を身に着けていただきたいわけですが、横の移動では限界があるでしょう。そこで、縦です」



 コウガは5メートルほど上にある地上を指さす。つまり飛行魔法を身に着けろということだろう。確かに魔法のような遠距離攻撃を持たない相手にはそれが有効だろう。



「でも飛行魔法は風属性の高等魔法でしょ? 私初級魔法も使えないんだけど……」

「小等部で学ぶ魔法がなぜ使えないかという話は一旦置いておくとして、お嬢様に使ってほしいものは火属性魔法です。炎の噴出を利用して空を飛ぶ。それならできるでしょう?」


「できないわよ? だって火属性も初級すらできないもの」

「花火魔法は火属性魔法の応用型でしょう。さすがのお嬢様でも……」


「だって私の花火魔法、教科書も読めない歳で創った自己流だもの。他の魔法は詠唱が長くて覚えられないっていうかあんまり興味ないっていうか……なによその目は」

「……いえ。お嬢様のスペックが想像していたよりはるかに低くてがっかりしているだけです。まさかお嬢様の半分の年頃の子どもですら使える魔法ができないとは……」



 とても主人に向けるものとは思えない冷たい目をしたコウガにクオンは怒ることすらできなかった。自分の低スぺ具合は自分が一番よくわかっているから。



「これでわかったでしょう? 私に空を飛ぶことなんて……ちょっと待って!? それじゃあこの穴から脱出できないじゃない!」

「それはご心配なく」



 慌てふためくクオンを尻目にコウガは腰に備えていた鞭を抜くと、地上の杭に巻き付けひとっ跳びで穴から脱出してみせた。



「よかった、ちゃんと脱出の手はずは整えていたのね。それじゃあ私も引っ張り上げて……」

「は? なにを甘えたことをおっしゃってるんですか?」



 鞭を伸ばしてくれると期待したが、その代わりに地上から落ちてきたのは火属性魔法の教科書と食料、そしておまる。



「コ……コウガ……? これはなに……?」

「俺は無理なことをやらせるつもりはありません。お嬢様ならやってくれる。そう信じているからあえて突き放すのです。ですがその分お付き合いしますよ。何時間でも、何日でも」



 サーッとクオンの血の気が引いていく中、コウガはいつもの無表情を崩す。



「さぁ、自力で這い上がってください。お嬢様」

「こんの鬼畜執事ーーーーーーーー!」



 ニヤリと口角を上げながら見下ろすコウガに、クオンはそう叫ぶのだった。

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