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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

春への血祭り

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 お、霜柱あるじゃ~ん。踏んでこうぜ、つぶらや~。


 ――はあ? もういい歳なんだし、子供っぽい振る舞いは控えたらどうだ?


 ちっちっち~、これにはちゃんと意味があるんだぜ?

 そりゃあ、はためには児戯も同然。大人げないという意見にはある程度賛成でもあるがな。子供は大人の背を見て育つもんだ。

 大人としちゃ完璧超人、頼りがいのある背中を見せ続けたいものだが、子供にとってそいつが純粋な見本となるかは疑わしい。オレなんぞは、親のそつないこなし方にプレッシャーを感じていた側の人間だぜ? 「それに比べてオレは……」なんて劣等感にさいなまれたメモリーだってある。

 同じ屋根の下で暮らし続ける分、逃げようがないというのはきっついもんだ。ふとした拍子に人間っぽいところを見られていなかったら、オレもどう転んでいたか分からん。個人的な経験で、絶対に正解じゃないだろうけどな。

 だが、単なる見栄だとか、教育だとかに限らない。年ごとの義務めいたこともあるかもしんないな。

 俺の経験したことなんだが、聞いてみないか?


 その日の晩、俺は眠っているところを父親に起こされた。

 真夜中のことだったし、こうして起こされるということは、何かしらのトラブルがあったのだろうが。


「ちょっとやることができた。お前にも知っておいてもらう。今から起きろ」


 冗談じゃない、といいたいところだったが、断れば容赦なく手が飛んでくることは分かっている。

 布団から出てみると、あらためて寒さが身に染みる。年が明けてから、さほど時間も経っていないころだが、このときは特に冷え込みが強かった。

 ガタガタ震えながら寝間着から着替えるも、帽子に手袋、耳当てにカイロと防寒グッズが手放せなかったな。対する父親は、柔道着によく似たデザインの合わせと長ズボン。寒げいこにでも臨もうかという軽装だ。


「長靴を履いておけ」


 玄関に着くや、そういって父親自身もゴム長靴に足を入れ始める。

 少し妙だったよ。この日は一日快晴で、外がぬかるむ要素とかなかったから。実際に外へ出てみると水気など、全然感じない地面が広がっていたんだよ。

 しかし、父親は自分についてくるよう俺をうながし、二人して震えるような夜道を歩いていったんだ。

 十分ほど行くと、そこには一面の畑が広がっている。当時はまだ開発が進んでいなかったこともあって、このような場所は多かったんだ。もちろん、誰かの土地であるはずだが、そこで父親は足を止めて地面を指さす。


 見ると、霜柱が立っていた。

 ぽつんと、ひとつだけ立つ街灯の光に照らされるそれは、俺が今まで見てきたものの中でも、はっきりと「そびえ立っている」と認識できるレベルだった。

 測ったわけじゃないが、おそらく20センチは越えていて、土を堂々と持ち上げている姿には、もはや「霜」などという表現を取っ払って「柱」でいいんじゃないかというレベル。


「いいか? 今からあいつらを、血祭りにあげる」


「血祭りィ!?」と、思わずうわずった声で返してしまった俺。これまでの経験上、アホな発言をした時点で頭をはたかれそうなもので、反射的に頭をガードしてしまったが父親はそのまま言葉を継ぐ。


「春を迎えるための、祭りを開くわけだ」


 いうや、父はジャンプして畑へ踏み入り、盛大に柱たちを踏みつけた。

 それは霜柱を踏むというより、出る杭をぶっ叩くといわんばかりで、父親の全体重を受け止めた霜柱は「引っ込んだ」。そして、地面からはとくとくと赤いものが流れ出てくる。

 父親は、さらにぴょんぴょんと飛び跳ね、次々に柱たちを土の中へ埋め込んでいく。それがほとんど子供の遊びのように思えて、俺にはおかしく感じられてな。

 普段の厳格な父親を見ていると、この時だけはその枷から外れたようなはしゃぎぶりが漂ってくる気がして、ほっとしちゃったのさ。


 とはいえ、それもつかの間。あまりにもたもたしているから、夜間にもかかわらず怒鳴られて、俺も父親にならって霜柱たちを踏みしめだしたんだ。

 当時は子供だったために、体重が足りていなかったのか。柱を完全に引っ込ませるのに、二度三度と踏まなきゃいけなかった。

 それでも、やりきりさえすれば赤いものが地面からにじんでくる。純粋にそれを、自分がしっかりやれた勲章のように思えてうれしくなってな。何度もやるうちに、父親と競って踏みつぶすようになっていた。

 それからは散発的に、同じことをしていたよ。夜中に近所を回って、異様に高い霜柱たちを血祭りにあげていく。不思議と、父親が判断した晩と場所には、必ずこいつらがあって始末に困らなかった。

 けれども二月ごろになって、こいつらを見かけなくなってから、ぽつりと「○○さんちのところ、なかったな……」と無念そうにつぶやいた。

 当時のうちの近所に住んでいた老夫婦の家でな。このときの俺はさっぱり分からなかったが、暖かさが訪れる春先に、夫婦そろって亡くなられてしまったんだ。

 春を迎えるための血祭り。遊び感覚のほうが、取り組みの重さを感じずに済むのかもしれんね。

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