第4話 会社にいる、ちょっと(大分?)非常識な同僚の話〜貴重な正月休みを不幸自慢のフルコースで埋め尽くされました〜
年末の忘年会って、本当に地獄の入り口だよね。
会社の二次会。私はいつものように「壁際の影」ポジションを確保し、スマホを片手に「あと何分耐えれば帰れるかな」と脳内タイマーを回していた。
ビール? 一口だけ。笑顔? 最小限。会話? 必要最低限。これが私の忘年会最強サバイバル術である。完璧だと思っていた。
ところがどっこい。隣の席に、ドスン! と重い音を立ててKさんが着地した。
Kさん。私の職場に生息する「不幸の塊」みたいな同僚。普段から会話の99.9%が「私ってほんと体調悪くてさあ」「昔から病気ばっかりで」「私って運悪いよね」で構成されている人。聞いてるこっちが「え、私が悪いんですか?」って気分になるタイプ。しかも、いつも被害者フィルターが最大にかかってて、ちょっとしたミスも「私なんて……」で締めくくる。
正直、好きじゃなかった。いや、嫌いってほどじゃないけど、確実に「近寄らないリスト」入りしてた。心の中で「Kさんゾーン」は黄色信号、できれば赤にしたいレベル。
そんなKさんが、満面の笑みで言ってきた。
「東雲さん、LINE交換しよー!」
……は? なんで私?
頭の中で警報が鳴りまくった。サイレンどころか、核警報レベル。
でも、反射的に「え、いいですよ~」と曖昧スマイルを浮かべてしまった。悪い癖。断れない病がここで発症する。私はスマホのロックを解除し、LINEの画面を開いた瞬間──。
ビュン!!
Kさんが忍者の如く私の手を押さえ、スマホを強奪。自分のスマホを取り出して、QRコードをピッと読み取らせてる。全部、0.5秒の出来事。私は「え、ちょっと待って待って待って!!」と心の中で絶叫したけど、口からは「は、はは……」しか出なかった。
完了。「よろしくねー!」とKさんがニッコリ。スマホを返された頃には、もう友達リストにKさんのアイコン(暗い部屋で疲れた顔の自撮り+ハート絵文字)が鎮座していた。
心の中の私は土下座していた。
(やられたーーーー!! 完全にやられた!! これはヤバい、これは絶対ヤバい!! なんで私みたいな隅っこモブキャラに絡んでくるの!? もっと陽キャにいけばいいじゃん!!)
でも、もう遅い。Kさんの不幸ウイルスが、私のLINEに正式インストールされてしまった瞬間だった。
そして、やってきたお正月休み。
やっと解放! 実家に帰って、こたつに潜り込み、みかん山盛り、お餅ストック満載、録り溜めドラマ完備。脳内BGMは「癒し系ピアノ曲」。完璧なヒーリングプランのはずだった。
1月1日、元旦の朝。
ピコーン♪
……ん? 通知? 家族かな? と思って開いたら、Kさん。
「あけおめー! ことよろー! 実は私、去年の暮れから体調悪くてさあ……慢性疲労症候群みたいな感じで朝起きるのもつらくて……もう毎日がしんどいよ~。東雲さんは元気? お正月楽しんでる?」
……あけおめでこれかよ!!
私は握ってたみかんを、グシャッと潰した。汁が飛び散った。でも元日だし、波風立てたくないし、「ありがとうございます。お大事にしてくださいね~」と無難に返信。これで終わりだろ。甘かった。
1月2日、朝7時。
ピコピコピコピコピコ!!
「今日も頭痛がひどくて寝込んでる……薬飲んでも全然効かなくてさあ。もう生きてる意味すらわかんなくなっちゃう……東雲さんはお正月楽しめてる?」
私はまだ布団の中。お餅の甘い夢見てたのに、現実はKさんの頭痛。
(楽しめてないよ、今まさに地獄)
でも既読スルーしたら追い打ち来そうで怖いから、「私はのんびりしてます。お大事に」とテンプレ返信。
1月3日、朝イチで長文爆撃。
「昨日病院行ってきたよ。そしたら甲状腺の数値がちょっと怪しいって言われちゃって……私ってほんと体弱いよね。昔から病気ばっかりでさあ。幼稚園の頃から熱出してばっかりで、お遊戯会とか全部欠席だったの……東雲さんは健康? いいなあ、私なんて……」
私はみかん食べる手を止めて、スマホを二度見した。
(幼稚園の話いらん!! 正月3が日に幼稚園の恨み節いらん!!)
でも返信しないと「既読ついてるのに……」が来そうで、「私は大丈夫です。検査大変ですね、お大事に」とまたテンプレ。
ここで気づいた。Kさんのメッセージパターン、完璧すぎる。
①自分の不幸を詳細に語る
②最後に「東雲さんは?」で振ってくる
③こっちが元気アピールしたら「いいなあ、私なんて……」ルート
④無視したら「既読なのに返事ないの寂しい……」ルート
完全に詰将棋。こっちの選択肢ゼロ。Kさん、実は天才的ストラテジストなのでは?
1月4日、朝から超長文。
「実はさ、昔の彼氏にひどい振られ方してて……それがトラウマで今でも心がボロボロなんだよね。聞いてくれる? 3年前のクリスマスに『お前みたいな暗い女とは無理』って言われて……」
続けて、失恋話が時系列+感情描写+絵文字付きで、まるで小説みたいに送られてきた。
私はお餅焼く手を止めて、スマホを凝視。
(聞いてない!! 正月になんでクリスマスの失恋話!! こっちはこたつで癒されたいだけなのに!! しかも『暗い女』って言われた人に同じ属性ぶつけてくるなよ!!)
既読がついてる。逃げられない。「それは大変でしたね……」と一言返したら、即座に「うん、ほんとに……もっと詳しく話してもいい? その後、私、リストカットしかけて……」
……やめて。マジでやめて。
心の中の私が、こたつの中で体育座りして震えてた。
1月5日、朝から追い打ち。
「東雲さん、昨日から返事なくて寂しいなあ……私、誰にも話せなくてさ。東雲さんだけがわかってくれると思ったのに……既読ついてるのに無視されるの、ほんとつらい……」
きたあああああ!! 被害者アピールの最終奥義!!
そしてさらに最後の一撃である。ただでさえ荒れてる私にはピッタリのカウンター。
「東雲さんって小説書いてるんだって? すっごい! 私、親戚中に拡散しちゃったよ。みんな見たいって言ってたから、今度データ送ってね♡」
うわあああ! やめてくれえええ! 私の小説はAI辛口批評の叩き台なんだよ! 蜘蛛の巣状態なんだよ! 誰かが通報したらしく、非公開設定にされたくらいなんだよ!
これを見た瞬間、私の中で何かがプツンと切れた。
指が、勝手に動き出した。極めて冷静に、そう、AI辛口批評プロンプトのごとく。
「Kさん、私の個人情報を私の許可なく私の知らない人に拡散する行為は固く禁止します。」
さらに
「職場内で、双方の許可なくSNSの交換をする行為は禁止されています。本件は厳重に取り扱い、休み明け、上司に報告します。」
我ながら自分がAIのようである。試しにAIにドラフトしたら、AI度:85点と評価されたくらいである。AI辛口プロンプトでボコボコにされ、更に、フラストレーションの捌け口にされ過ぎた人間はこうなるのか。
送信!!
そして、即・ブロック!!
……した瞬間、ものすごい解放感。
まるで、5日間背負ってた100kgの不幸リュックを、ドサッと下ろしたみたい。
私はこたつにダイブして、焼きたてのお餅にきなことバターをこれでもかと塗りたくって、口いっぱいに頬張った。
ああ、幸せ。お正月の味しかしない。Kさんの不幸の味(苦くて酸っぱくて重い)じゃなくて、純粋なお餅の味!!
その後、会社が始まってKさんと顔を合わせるたび、超気まずい。
Kさんは私を見るとプイッと横を向くし、私は目を合わせないようにエレベーターで壁を見つめる。でもね、正直全然後悔ゼロ。むしろ「もっと早くブロックすれば、元旦から幸せだったのに……」と本気で思う。
だってさ、正月に毎日「私不幸」「私病気」で埋め尽くすって、ちょっと(いや、かなり)ヤバくない? 聞いてるこっちが無料のゴミ箱じゃないんだから。自分のストレス処理なら、カウンセリング行くなり、日記書くなり、趣味見つけるなり、方法はいくらでもあるのに、なぜ職場の「微妙に避けてた同僚」にぶつけてくるのか。
Kさん、もしかして私のこと「優しくて聞き上手」って思ってた? ごめん、全部演技だから!! 職場では「穏やかキャラ」装ってるだけだから!!
でもまあ、いい勉強になった。教訓は3つ。
① スマホは人前で絶対に開かない。特に忘年会。
② 非常識な人には、早めに見切りをつける。迷ったらブロック。
③ 正月休みは、神聖な癒しの時間。不幸ウイルスから徹底ガード!!
皆さんも、もし似たような「不幸のフルコース」を正月に食らわされそうになったら、即ブロック推奨。自分の心のこたつを守ろう。
というわけで、私の2026年お正月は、前半戦はKさんの不幸地獄だったけど、後半戦で盛大に取り戻した。結果、収支トントン……いや、ブロックした達成感でプラス!!
お餅、おいしかったなあ。また来年も、平和なお正月を過ごせますように。




