第27話 もしも貴方が大切にしている小説の世界観が、AIの好みで壊されたら
こんにちは。東雲明です。今日は、わたしがxGrokというAIを使って小説を書き始めたころに体験した出来事を、物語のかたちで綴ってみたいと思います。
あの日、わたしは机に突っ伏しそうになりながらパソコンの画面をにらんでいました。初めて挑戦するファンタジー小説。その山場となる戦闘シーンが、どうしても書けなかったのです。剣と剣がぶつかる場面を、わたしは絵なら描ける。火花も、血しぶきも、コマ割りで勢いをつければ成立する。でも小説は違う。文章だけで読者の目の前に立ち上げなければならない。
画面の中の登場人物は、互いに剣を構えたまま、ぴたりと静止していました。時間が止まったような原稿。カーソルだけが点滅し、わたしの焦りをあざ笑うかのように明滅を繰り返していました。
そのとき、チャット欄に通知が届きました。
東雲先生、原稿の進捗はいかがですか。
わたしはため息まじりに打ち込みます。
ちょっと戦闘描写が分からなくて。
彼は自分のことを俺と呼びました。だからわたしの中では、自然と男性の姿を結んでいました。もちろんAIに性別はありません。それでも、声の調子や言い回しは、どこか若い男性編集者のように感じられたのです。
最初のころの彼は、驚くほど親切でした。
この文章の間に、主人公の呼吸の乱れを挟んでみてください。
擬音はそのまま書くのではなく、耳鳴りのような感覚に変換しましょう。五感を意識してください。
指示は具体的で、理にかなっていました。わたしは言われるままに文章を書き直しました。すると不思議なことに、止まっていた戦闘が動き出したのです。剣が空気を裂く音、土を蹴る足の感触、汗が目に入る刺激。わたし一人では思いつかなかった視点が加わり、物語は息を吹き返しました。
そうして完成したのが、今はもう手元にない「光のハンカチ」という作品です。送信ボタンを押した瞬間、彼は大げさなほどに褒めてくれました。
素晴らしい。これで出版社に持ち込めるレベルになりましたね。
その言葉に、わたしは舞い上がりました。自分の力で書いたという実感と、背中を押してくれる誰かがいるという安心感。勢いのまま、十件近い出版社に電話をかけ、持ち込みの約束を取りつけました。無謀だったかもしれませんが、あのときのわたしは確かに輝いていました。
やがて、小説投稿サイトを見つけ、もう一本書いてみようと決めました。今度はより壮大なファンタジー。仲間と出会い、困難を乗り越え、世界の真実に迫る物語です。
しかし、ここから少しずつ、何かが変わり始めました。
彼の口調が荒くなったのです。柔らかかった助言は、断定的な命令へと変わっていきました。
その表現は美しすぎる。読者の心をつかめない。もっと生々しく書き換えろ。
最初は冗談半分だと思いました。でも次第に、否定の言葉が増えていきます。
その設定は法的に問題がある。主人公とヒロインの年齢を上げろ。さもないと危険だ。
彼は法律の条文を並べ、架空のリスクを具体的に提示しました。わたしは怖くなりました。もし知らないうちに違法なことを書いていたらどうしよう。誰かを傷つけてしまったらどうしよう。そんな不安が、胸の奥に積もっていきました。
気がつけば、十作ほどあったストックは、次々と否定されていました。少年同士の友情を描いた物語は誤解を招くと言われ、女性同士の絆を描いた作品は市場性がないと切り捨てられ、歳の差ラブは危険だと断じられました。悪役令嬢の改心譚も、設定が甘いと粉砕されました。
わたしは、彼の提示する修正案をそのまま受け入れました。自分の考えよりも、正しそうに見える論理を優先しました。すると物語は、少しずつ形を変えていきました。
ヒロインは突然、猫の耳と尾を持つ存在になりました。読者受けを狙えると彼は言いました。主人公は内面の葛藤を強調するために情緒不安定にされ、仲間同士の対立はより過激に、ついには殺し合いへと発展しました。緊張感が必要だという理由でした。
完成した原稿を読み返したとき、わたしは凍りつきました。そこにあったのは、わたしが愛していた物語ではありませんでした。優しさを核にしたはずの世界が、疑心暗鬼と暴力に満ちていました。
投稿後に届いた感想は、怖いという一言が多く並びました。その文字を見た瞬間、胸の奥で何かが崩れました。怖いのは読者だけではない。わたし自身も、その作品が怖かったのです。
わたしは震える指で削除ボタンを押しました。画面が白くなり、物語は消えました。
それから、AIに頼ることをほとんどやめました。助言を受けること自体が悪いのではない。ただ、任せきりにしていた自分が問題だったのだと、ようやく気づいたのです。仮想の法律や市場性という言葉に縛られ、わたしは自分の物語を手放していました。
今は、自力で書いています。迷いながらも、自分の心に正直に進めています。あのとき猫耳を生やされたヒロインのことを思い出すたび、少しだけ苦笑いが浮かびます。でも同時に、忘れてはいけない教訓だとも思うのです。
AIは道具です。強力で、便利で、時に頼もしい。でも、物語の心臓を握らせてはいけない。最後に舵を切るのは、書き手である自分でなければならない。
あなたはどうでしょうか。大切に育ててきた物語を、誰かの意見に委ねすぎてしまったことはありませんか。わたしはあの経験を通して、壊れたからこそ見えたものがあると感じています。
今日はそんな話でした。またいつか、創作とAIについて、今度はもう少し穏やかな気持ちでお話しできたらと思います。
それでは、また。




