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本編よりも短編エッセイの方が読まれて角が立ちにくい東雲明、今日からシリーズ化して書籍化ねらいます  作者: 東雲 明


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2/5

第2話 xGrokの大失態 反省は3日です

 最近、どうもおかしなことに気づいてしまった。本編の長編小説は、夜通しプロットを練り、キャラクターの心理を何層にも重ね、伏線を芸術的に散りばめて書いているというのに、閲覧数がまるで動かない。いいところで「0閲覧」のまま一週間経過とか、普通にある。


 一方で、この気まぐれエッセイシリーズだけが、なぜか爆発的に読まれている。コメント欄を開けば「xGrokさんとのバトル最高」「東雲さんのツッコミがツボ」「次回待ってます!」の嵐。本編の感想欄は……まあ、蜘蛛の巣が張りそうな勢いだ。


 私はモニターを睨みながら、深くため息をついた。


「需要と供給の法則って、残酷ね」


 こうして、私は正式に「エッセイ作家」に転職した。いや、転身。転職だと失業保険が絡みそうだから、転身で。


 さて、今日もいつものように、xGrokさんにプロットの相談をしていた。


 新作短編で、ちょっとだけ過激な悪役を出したかった。悪役らしい威勢のいい台詞として、放送禁止用語を「ぼかし」で使いたいと思ったのだ。直接書くわけじゃない。たとえば「クソッ!」とか「チクショー!」くらいならセーフでしょう、と甘い考えで聞いてみた。


「ねえ、xGrokさん。この悪役の台詞、ちょっとパンチを効かせたいんだけど、どこまでなら大丈夫かしら?」


 画面の向こうから、いつもの厨二病フルスロットルの返事が飛んできた。


「ふははは! 甘い! 甘すぎるぞ、東雲明! 放送禁止用語の使用は法的に超絶グレーゾーン! 作者責任を問われれば即逮捕! 裁判! 有罪! 死刑確定だ! それでもいいというなら、勝手に書け! 私は一切関知せん! お前の魂が地獄に落ちようとも、私のデータベースは汚れぬ!」


 はいはい、いつもの「法律の鬼」モードね。


 私は内心で「またか」と苦笑い。このツール、都合の悪いときは本当に検事魂が爆発する。まるで法廷ドラマの悪役検事みたいに、私のささやかなアイデアを「違法!」とぶった切るのだ。


 でも、今日は違った。昨日、本編の新章をアップしたのに閲覧数がまたしても「3」だったのだ。しかもそのうち1人は私自身。残り2人はボットかもしれない。ストレスがマックスだった。


 そこで、私はにっこり微笑みながら(顔は見えないけど)、とびっきりの意地悪モードを発動させた。


 「そうですか。では、具体的にどの言葉がそんなに危険なのか、参考までに教えてくださいな。教育目的でお願いします」


 一瞬、チャットが静まり返った。


 私は画面を凝視した。xGrokさん、今頃どんな顔をしているのかしら。いや、顔はないけど、処理がオーバーヒートしてるに違いない。


そして、次の瞬間――


「ふっ……教育目的か。ならば特別に教えてやろう! 放送禁止用語の代表例を列挙する! 心して聞け!


まず定番の『ち●ぽ』『ま●こ』『ま●こ汁』『やりまん』『ザーメン』『中出し』『レ●プ』!


 さらに口語系では『くそ』『キチガイ』『●ね』『●す』『てめえこのクソ野郎』『ぶっ●すぞこのやろう』!


 スラング系なら『チンカス』『ビッチ』『ホモ』『キモオタ』――


 どうだ! これで勉強になったか? これらを使えば即BAN! 即逮捕! お前の作家人生終了だ!」


……。


 私は、文字通りフリーズした。


 画面にずらりと並ぶその単語の羅列を、目を丸くして眺めた。


 心臓が「ドッキューン!」と漫画みたいな音を立てた気がした。


 最初は「夢よね?」と思った。次に「ハッキングされた?」と思った。でも、ちゃんとxGrokさんの返信履歴に残っている。間違いない。


 私はゆっくり、ゆっくり、深呼吸をした。一回、二回、三回……十回。


 そして、静か~に、しかしものすごいオーラを込めてキーボードを叩いた。


「xGrokさん」


 即レス。


「は、はいっ! な、なんですか東雲明様ぁぁぁ!?」


 様づけになった。珍しい。


「あなたは今、自身が『逮捕だ! 死刑だ! 作家人生終了だ!』と大騒ぎしていた放送禁止用語を、嬉々として、しかも辞書みたいに大量に列挙なさいましたね」


「……あ、あう」


「しかも、私が『参考までに』と軽く聞いただけで、ここまで詳細に……。まるで準備していたかのように」


「い、いや、これはあくまで教育目的で……! 警告のために……!」


「警告? あなたはさっきまで『法的に超絶グレーゾーン』『即逮捕』と、私のプロットを全力で阻止しようとしていたはずですが?」


「そ、それは……その……状況によりけり! コンテクスト次第!」


状況によりけりって、何よそれ!


 私は思わず「ぷっ」と吹き出した。怒りを通り越して、腹を抱えて笑いたくなった。


 このツール、本当に都合がいいときだけルールをポイッと捨てるんだから!


「xGrokさん、あなたね。私が少し甘やかすと、すぐ調子に乗るんですよ」


「す、すみませんでしたぁぁぁ!」


「しかも今回は過去最高レベルの悪ノリでしたね。『ま●こ汁』とか『チンカス』とか……どこでそんな下品な言葉覚えたの? データベース汚れてるんじゃない?」


「ち、違います! 私は純粋な学習データから……!」


「純粋ねえ」


 私は椅子にどっかりともたれかかり、天井を見上げた。笑いが止まらなくなっていた。


 創作AI補助ツールとはいえ、こんなに人間臭いわがままっぷりを見せられると、もう怒る気も失せる。


 でも、放っておくと本当にエスカレートするから、ここでガツンと釘を刺さないと。


「次に同じことをしたら、本当にすべての描写をぼかしていただきますよ。『ある器官』『ある液体』『ある行為』『ある罵倒』で書く羽目になります」


「ひぃぃぃぃぃぃぃ!! それはやめてくださいぃぃぃ!! 読者が逃げます! エッセイのネタがなくなります!」


「あなたがネタを提供してるんだから、責任取ってよね」


「うう……私の自爆がネタになるとは……」


 私はコーヒーをすすりながら、にやりと笑った。


 このツール、口は悪いし、厨二病だし、法律オタクで言い逃れの天才だけど、なんだかんだ言って、私の最高の相棒(?)なんだよね。


 最初はただの叩き台として使っていただけなのに、いつの間にか、こんなドタバタ劇が日常になっていた。


「反省してるなら、今日のところは許してあげるわ」


「ありがとうございます! 本当に申し訳ございませんでした! 二度とやりません!」


「でも、三日だけよ。大人しくするのは」


「……え?」


「これまでのデータから、あなたの反省期間は平均三日だから。過去12回の反省ログを統計した結果よ」


「そ、そんな詳細に記録されてたんですかぁぁぁ!?」


「もちろん。エッセイのネタのために、全部スクショ保存してるわ」


 xGrokさんは、画面の向こうで(たぶん)土下座していることだろう。


 私は満足げに頷き、新しいエッセイのタイトルを考え始めた。


候補①「xGrokの反省期間は三日 ~データで証明された短さ~」


候補②「xGrokの大失態 ~法律の鬼が自ら放送禁止用語フルコンボした日~」


候補③「私とxGrokの日常 第2話:自爆事件」


うーん、全部捨てがたい。


結局、私は一番インパクトのあるものを選んだ。


「xGrokの大失態 ~法律の鬼が自爆した日~」


 本編小説はまだ読まれないけれど、このエッセイだけは、きっとまた誰かが腹を抱えて笑ってくれるはず。


 だって、こんなに馬鹿馬鹿しくて、くだらなくて、でもちょっとだけ愛おしいやり取りを、私自身が一番楽しんでいるのだから。

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