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『最高視聴率の復讐劇』人気女優の卵である婚約者が俺を裏切って浮気したので、二人の破滅を全国生放送のシナリオに組み込んでみた  作者: ledled


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7/7

後日談:エンドロールのその先で ~最高視聴率の復讐劇を終えた俺が、視聴率0%の安らぎを手に入れた話~

「――続きまして、最優秀脚本賞の発表です。受賞作品は、ドラマ『明日、君と歩く道』。脚本、翡翠蓮司様!」


万雷の拍手が、ホテルの大広間を包み込んだ。

煌びやかなシャンデリア、着飾った業界人たち、そして眩しいほどのフラッシュの嵐。

俺、翡翠蓮司は、少し窮屈なタキシードの襟を正し、レッドカーペットの上を歩き出した。


あれから、一年が経った。


かつて日本中を震撼させた生放送特番『リアル・ラブ・ストーリー』は、放送倫理的には大問題となったものの、結果として俺の名前を不動のものにした。「あの狂気の復讐劇を書いた男」という悪名は、いつしか「人間の本質を抉り出す鬼才」という評価へと変わっていた。


演壇に上がり、重たいトロフィーを受け取る。

マイクの前に立つと、無数の視線が俺に突き刺さるのが分かった。彼らは期待しているのだろう。俺がまた、誰かを断罪するような過激なスピーチをするのではないかと。


俺は少しだけ苦笑し、マイクを握った。


「……以前の私は、ドラマとは『嘘をいかに美しく見せるか』だと思っていました。しかし、ある出来事を境に考えが変わりました。今は、ただ『隣にいる人を大切にする』という、ありふれた真実こそが、最も描くべき物語だと信じています」


会場が一瞬静まり返り、やがて温かい拍手が湧き起こった。

俺は客席の最前列に視線を落とす。

そこには、ダークネイビーのドレスを上品に着こなし、誰よりも優しい瞳で俺を見つめる女性がいた。

如月雫。俺のマネージャーであり、今の俺の、最愛のパートナーだ。


     ◇


「お疲れ様、蓮司。素晴らしいスピーチだったわ」


授賞式を終え、会場を出たハイヤーの中で、雫がハイヒールを脱ぎながら言った。

窓の外には東京の夜景が流れている。かつては孤独に見えたこの街の灯りも、今は温かく感じられる。


「柄にもないことを言っただけだよ。……それにしても、疲れたな。やっぱり俺は、スポットライトを浴びる側じゃない」

「あら、そう? 堂々としていて素敵だったわよ。それに、今のあなたは『視聴率男』なんだから、少しは露出もしないと」


雫がくすくすと笑い、俺の肩に頭を預けてくる。その髪から漂うシャンプーの香りに、張り詰めていた神経が解けていくのを感じた。


あの一件の後、俺たちの生活は一変した。

まず、あの忌まわしいタワーマンションを引き払った。無機質で冷たかった「成功者の象徴」を捨て、俺たちは都心から少し離れた静かな住宅街にある、低層マンションの一室を購入した。

広さは以前の半分ほどだが、陽当たりが良く、風が通る心地よい部屋だ。


「そういえば、さっき会場で噂を聞いたわ」


雫がふと思い出したように呟く。


「リョウとミオのこと?」

「ええ。……富樫リョウは、実刑判決が確定して収監されたそうよ。模範囚になろうと必死で、刑務所内でも演技をしているとか」

「彼らしいな。塀の中でも『悲劇のヒーロー』を演じているつもりなんだろう」


俺は窓の外に目をやる。

かつての親友。俺を裏切り、見下していた男。今となっては、彼に対する怒りも憎しみもない。ただ、遠い国のニュースを聞くような、希薄な関心があるだけだ。


「ミオの方は?」

「地方の場末のスナックで働いているらしいわ。名前を変えて、整形もして。でも、酒癖の悪さと虚言癖は治らなくて、客とトラブルばかり起こしているって」


「そうか……」


硝子の靴を自ら割り、灰を被る道を選んだ元婚約者。

彼女もまた、自分の人生という脚本を書き直すことができなかったのだろう。嘘で塗り固めた役を降りることができず、今もどこかで「私は本当は大女優なの」と、酔った客に管を巻いている姿が目に浮かぶ。


「……同情する?」


雫が上目遣いで俺を見る。少しだけ不安そうな色が見えるのが愛おしい。


「まさか。彼らは『退場』したんだ。俺たちの物語には、もう1フレームも映ることはない」


俺は雫の手を取り、その指に嵌められたシンプルなプラチナリングに口づけをした。


「俺が見ているのは、君だけだ」


雫の頬が赤く染まる。敏腕マネージャーとして業界で恐れられる彼女の、この可愛らしい表情を知っているのは、世界で俺だけだ。


「……もう。調子がいいんだから」


     ◇


自宅に着くと、愛猫のノワールが「ニャー(遅いぞ)」と出迎えてくれた。

以前の家では怯えたように隠れてばかりいたノワールも、今ではすっかりリラックスして、リビングの真ん中で腹を出して寝ていることが多い。


「ただいま、ノワール。いい子にしてたか?」


俺はタキシードを脱ぎ捨て、部屋着のスウェットに着替える。

雫も化粧を落とし、髪を緩く結い上げてキッチンに立った。


「蓮司、お夜食どうする? お茶漬けでいい?」

「ああ、それが一番のご馳走だ」


キッチンから出汁のいい香りが漂ってくる。包丁がまな板を叩くトントンというリズミカルな音。

テレビもついていない、音楽も流れていない静かな部屋。

視聴率なんて0%。誰に見せるわけでもない、地味で平穏な時間。


けれど、これこそが俺がずっと求めていたものだった。


あの復讐劇は、確かに刺激的で、最高の視聴率を叩き出した。

だが、それはしょせん「劇薬」だ。長く続ければ身を滅ぼす。

俺が必要としていたのは、心から安らげる場所と、互いに背中を預けられるパートナーだったのだ。


「はい、お待たせ」


雫が湯気の立つお茶碗をテーブルに置く。

向かい合って座り、「いただきます」と手を合わせる。


「……美味しい」

「ふふ、よかった。明日からはまた新作の執筆ね。締め切り、厳しいわよ?」

「鬼マネージャーのお手柔らかにお願いしたいところだけど……まあ、君が淹れてくれるコーヒーがあるなら、なんとかなるかな」


俺たちは顔を見合わせて笑った。


窓の外には、満月が浮かんでいる。

俺の人生というドラマは、派手な第一部が終わり、穏やかな第二部が始まったばかりだ。

ここには、ドロドロした愛憎も、衝撃的な裏切りも、大どんでん返しもない。

あるのは、日々の積み重ねと、確かな信頼だけ。


しかし、脚本家として断言できる。

この退屈で幸せな毎日こそが、俺の最高傑作マスターピースになるだろう、と。


「雫」

「ん?」

「愛してるよ」

「……知ってる。私もよ」


俺は箸を置き、新しい脚本のタイトルを心の中で書き留めた。

それは誰にも見せない、俺たちだけの物語。

エンドロールはずっと先、二人が白髪になるまで流れることはない。


さあ、明日もまた、素晴らしい日常シーンを書き始めよう。


(完)

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