第7話 俺も能力者?(+天界でのお話)
後半はキノコの人間化についての説明です
「ただいま~」
何を呑気な挨拶してるだ? と自分の言葉に呆れたが、それは山賊達も同じようで少し妙な空気が流れる。
敢えて捕らえられてる身であることをぼかしてみた、そう受け取ってくれたかな?
「遅かったな。腹を壊したんじゃねえだろな?」
「キノコを探して食ってきたからな。体は何ともないよ」
全く心配性な山賊だな、キノコぐらいでビビるなよ、山賊の名折れだぞ。ここは何となく俺に居心地の良いキノコ天国なんだし。
それから暫く雑談しながら過ごしているうちに完全に周りが暗くなると、洞穴の中は胆試しの会場みたいになってくる。壁に蝋燭でも掛けておいたら良い雰囲気が出そうだな。
でも山賊達は特にすることが無いからか、暗くなったらすぐにグースカとイビキをかき始めた。
なんでこんな場所に穴を掘って暮らしてるんだろ?
少し前に商人を襲って荷物を奪ったらしいけど。あぁ、だから山狩りで見つからないように逃げてきて、ほとぼりが冷める頃に悪い商人が荷物を受け取りに来るってことなのかな?
こう言うタイプの隠れ家をあちらこちらに作ってるのかもね。
それにしてもコイツらは襲撃・略奪班と売却・換金班の分業制みたいだけど、良くここまで荷物を運べたもんだな。ろくに整備されていない山の中を荷物担いで登って来たんだろ?
人の目に付かない場所に隠すにしても、もう少しやり方を考えた方が良いんじゃないかな。余計なお世話だけど。
3人の真似をして俺も目を閉じるけど、眠れそうにない。足に繋がれた鎖を鳴らして眠りを邪魔するつもりもない。
ただそれだと身動きが取れないのが辛い。ふかふかの毛皮の上で安眠している連中とは違って、こっちは石の上で、胡座をかいているから尚更不満が募る。
眠れない、つまり暇だ。
キノコだった頃はじっとしているのが普通のことだったのに、人の体で動けるようになるとじっとしていることが苦痛になる。
そうだ、こう言う時は深呼吸と複式呼吸で気を落ち着かせ、そして瞑想に入る……やり方は……うろ覚えだが、親指と薬指を引っ付けると学問的にも更に効果的だったような気がする。
だが、落ち着けば落ち着く程に蘇ってくる記憶が複雑に交差を始める。
例えば、照明器具があればこの手の形は変則狐の影絵に。
だが明かりが無い。影絵をしたいからと、照明魔法を欲しがるような安易な気持ちでは新たな能力を求めない、そう自分で決めたルールがある。
求めるべきはもっと有効な能力だ。石で代用できるものは求めない。
食った魔物の能力を自分も使えるとか。魔物の魔石や肉を食ったら能力が使えるようになる能力もあるだろ。でも二番煎じか。
もし増やせるなら、戦わないって前提で安牌の収納系はほぼ決まりで、他は移動系か。
一気に全部手に入れようと欲張ったら、ろくな結末にならないだろうし。
それなら食った魔物全部じゃなくて、特定の種類に限る制限で、ドラゴンとか悪魔とか……会った時点でこの世からバイバイしてるか。
植物系なら……光と水さえあれば生きて行けそうだね、人間やめてるけど。だけどキノコから人間になったんだから、そう言う方向性も悪くない。
キノコの力に限定すれば、今でも使えるかも。
例えば光るキノコを食べれば俺も光るようになるとか、あとどんな能力のキノコがあるか……えっ?
ふと手が目に入る……
ぼんやりと光る緑色! 俺はツキヨタケかよっ!
手だけ……じゃなくて腕も体も緑色にぼんやり光ってる! でも光るなら普通は白とか昼光色だろ? 一体これはどう言うことよ?
まさか緑光茸を食べたから本当にその能力が使えるようになったのかも。それで、まさか夜中にずっと光っぱなし? それだとまずいから取り敢えず消灯は……よし、消せた。
これってつまり、今の俺は食ったキノコの能力が使える人間、キノコノコノコ怪人ってことか。かなりマジで。
単にぼんやりと光るだけの能力とか言わないよね?
他にどんなキノコパワーがあるか知らないけど、キノコを食べれば食べる程、菌力とか胞子力とか、まだ自分でも分かっていない能力が進化していく可能性があるのかも。
でもさ、そんな能力があるってことになると、俺ってホントに人間なのかどうか、正直よく分からない。
どうせ考えても答えは出なさそうだった。
……今の、見られてないよな?
毛皮の上で寝息を立てている3人の方にちらりと視線をやり、俺は無意識に鎖の位置を確かめていた。
仮にこの能力が有用なものであっても、俺はまだ――山賊に捕まったまま……。
◇
(あと3日、無事故無違反でいけたらゴールド転生免許だったのにっ!
なんでアンタがそこに居るのよっ!空気読みなさいよっ!)
ある日、転生神の1柱が食事中にうっかり落としたなめ茸の瓶が運悪く道路を歩いていた人間に直撃したのだ。
他の神々はメジャーリーグの中継に夢中でこちらには気が付いていない。それならさっと転生させてしまえばバレないだろう。
そう決めた彼女は食事を途中でやめると、こっそり自分の仕事部屋に移動し、なめ茸被害者の魂を呼び寄せた。それが四畳半のあの和室である。
下手にこの魂が転生先で目立つようなことがあっては、他の転生神にバレる可能性が高まるので避けるべきだ。そこで彼女の権限の範囲で一番目立たない転生条件でコイツを転生させてやろうと策を練る。
人間が神に甘えて能力を求めるのは、転生先での生活に不安があるからだ。それなら最初から苦労せず目立たない条件で転生させてやれば、能力を与えない理由にも納得して貰えるだろう。それが仮にクチからの出任せであったとしても。
しかし、なめ茸被害者は事故の原因には興味を示さずいきなりチートを要求してきたのだ。誠に腹立たしい。余りにも場馴れしすぎた被害者である。タフな交渉になって時間が掛かれば、他の神々が事故に気が付くかもしれない。
とにかく他の転生者のせいにしてチート無し転生を認めさせなければ。
チート能力さえ与えなければ、神界には一切持ち出しが無いので通常業務として書類を上げてもバレることは無い。
そして交渉に勝った。
被害者から転生時には能力不要、目立たず世間に埋もれてもよいと言質を取っのだ。転生後で何とかかちゃらと他の何かの条件を言っていたが、そんなものは記録に残さなければ済む話だ。
本人の意思確認済みの□にレを入れ、話を適当に合わせながら自動バッチ処理システムを作動し被害者を投下した。
毎日1万人を越える、取るに足らない転生者を自動処理するこのシステムに被害者を落とせば、後はAIが一番被害の少なそうな何かに自動転生させてくれるのだ。
何に被害が少ないかと言えば神界側の転生費用負担である。
しかしここで一つ大きな問題が生じた。
被害者の頭になめ茸が数本残っていたのを検知した自動処理システムは、被害者を人間ではなく菌類と判断してしまったのである。
神の食するなめ茸が人間の頭部に付着するなど普通はあり得ない。つまり人間としてはあり得ないからこの被害者はキノコである、と誤判断をした結果がキノコ村への入植へと繋がったのだ。
キノコの転生などあり得ないのだが、当たり前すぎてトラブルシューティングに網羅されていなかったため素通り出来てしまったのだ。
何故キノコが被害者だと誤った判断が起きたのかといえば、人間の魂より数本のなめ茸の方が霊的エネルギーを多く含んでいた為である。
魂には形が存在しないので、自動システムは魂の霊的エネルギーの在り方で仕分けを行うようにプログラムされている。
証拠隠滅を急ぐがあまり、被害者の頭(の中ではなく後頭部)まで良く確認しなかった彼女のミスが、システムに本来あり得ない処理を行わせたのだから、その後で管理部がキノコ転生に気付くのは当然である。
しかし被害者は既にキノコとしての生活を受け入れており、強制介入による人間化が出来なかったのである。
そこで『今ここで決めずに異世界に行って必用になった能力をインストールする感じでお願い出来ます?』と言う被害者が望んでいたことから、彼が何かの能力を欲した場合に数回能力を与えることとしたのだ。
運良く1つ目の希望が人間になることであった為にこれは即座に実行された。この判断に至る迄には喧々諤々の大騒動があったのだが、多くは語るまい。
だが、まだ数回の願いが残っている。下級神と言え、神が人間の魂と約束したことは決して反故にしてはならない。
浅はかな人間であり、簡単なことで願いを使いきるであろうと当初考えられていたのだが、観察対象者は簡単には能力を望まないと決めたのである。
これには神界も動揺を隠せない。もし彼が世界の破滅を可能とする能力を強く望んだ瞬間、彼にその能力が自動インストールされるかも知れない。
彼の身に起こった奇跡はそれだけでは無い。
彼がキノコとして生えていたのは、一世代前の世界樹の幹であった。
ここに生えるキノコは百年間成長を続けると、リング状に整列して異世界への扉を開く能力を持つとも言われている。数日間の寄生で彼が特殊な能力を得ている可能性も考えられる。
現在確認されているのは彼が霊茸人と言うキノコの能力と人間の能力を併せ持つハイブリッドであると言うことだ。
なお、自動処理システムが何をどこまで設定したかは神にも把握しきれていないが、少なくとも神界では『もう同じことは起きないことになった』らしい。




