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第6話 キノコ三昧

 山賊達は干し肉を鍋に入れると、湯に浸してグツグツと煮始める。あまり良い肉ではないのか、下処理がダメなのか、獣臭くて食欲をそそられる匂いではないな。


 鍋の下には石で組んだ竃の中に火炎石(ファイアージェム)って言う赤い石を1つ入れてある。

 魔力を流すと熱くなるだけで、燃える訳ではないのでファイアーって呼び方は詐欺だろ。

 やけどをしないようにその赤い石には魔力を送るための銀色のケーブルが繋がれていて、その端っこを俺が握っているわだ。


「お前がいると、水も火もラクで良いな。

 いつもより火力が高いみたいで湯が早く沸いたぞ」

「いやいや、これなら俺が住んでた所よりずっとラクだと思うぞ。こんな方法で料理が出来るとは驚いたよ。

 本気でスゲェって言葉しか出てこない」


 前に居た所じゃ、燃料代だの火加減だのを気にしてたはず。それがここだと魔力を流すだけ。

 技術レベルは分からないけど、少なくとも料理担当としては天国だな。

 でもこれで褒められても、何か微妙な気持ちになるよ。


「この火炎石ってのは高いのか?」

「大きさによるが、その大きさなら買えば金貨2、3枚ってとこだな」

「金貨2枚ってどれぐらいの価値があるんだ?」

「お前なぁ……買い物したことねぇのかよ?

 まぁいい、教えてやるよ。

 価値ある順に金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨、鉄貨になってて、10枚で1つ上のコインに両替出来る」


 金貨、銀貨か……大金は扱いずらそうだな。落とした時の精神的ダメージよね。


「俺らの食う安いパンなら、3個で大銅貨1枚だ。

 身分証の無い平民が大きな町に入る時には、大銀貨1枚を出さなきゃならん」

「お頭の首には金貨3枚の賞金が掛かってんすよね。

 俺らの首には金貨1枚しか掛かってねぇっす」


 お前らは3人とも賞金首だったのか。ケラケラ笑ってるけど、俺に寝首を掻かれても知らないぞ。


「平民がひと月生活するにはどれぐらい稼がなきゃならないんだ?」

「大銀貨20枚から30枚ってとこじゃねぇか? 泊まる宿とか食うものにもよるがな」

「みんなで並んで雑魚寝するだけの宿でも1泊が銀貨1枚なんで、月に大銀貨3枚っしょ。

 食費が毎日銀貨1枚でも月に大銀貨3枚、これに酒代だけで大銀貨3枚。

 それから買い物をしたらしただけ金は出ていくぞ」

「一番安い女でも大銀貨1枚。良い女なら金貨1枚はかたいっすよ。俺らにゃ買えねえって」


 行く予定は無いから風俗の情報はいらなかったんだが参考に覚えておこう。

 それで大体銀貨1枚が……どれぐらい? 大銀貨で月給20枚から30枚、これを紙の金にそのまま置き換ればイメージが付きそう。

 ただ問題は――今の俺は平民にすらなれてないってことだな。


「ちくしょー、お前が男じゃなくて女だったら良かったのにょ!」

「バカヤロー、俺にそっちの気は無いしっ!」

「どうだか。このフルキン野郎」

「寝てる間に脱いで、それで野盗に襲われて逃げてきたってとこだろ。たまにそう言うやつが居るもんだ」

「起きたらなってただけだ! 露出癖なんて持ってないっ!」


 どうして俺を変態扱い?

 俺を怒らせて実力を確かめたいのか?

 ならばっ! 見せてやろう、究極菌拳……って、くそカッコ悪いな、自分でも引いたぞ。


 まぁ、どうでも良いや。

 この山賊達の隠れ家的な谷はジメジメ具合が良くて、キノコも生えてそうだし。

 キノコを探す能力があれば良いけど、そもそもキノコってそんなに名前も見た目も分からない気がするけど、捜索開始っ!

 おっ、真っ赤で丸い玉が黄色の石突きに乗ってて可愛いキノコを斜面に発見! 見るからに美味しそうだけど数がない。でも食べたいから後で何とかしよう。


 食いでのあるキノコは……白い大きな卵か丸い岩みたいなキノコを地面に発見! 俺の頭ぐらいありそうなこの大きなサイズ感は自己主張が強い。

 これって、幼体の時ならふわふわの白い練り物みたいな食感のオニフスベ……だろうな。キノコだからスポンジみたいに軽い……いや、もう少し重たいか。

 皮を剥いて中身を少しだけ食べてみる。うーん、良く言えば薄味。

 悪く言えばポソポソした食感の悪い白い食べ物……これを食べ物って言って良いのか? お金が無い時は、体に害さえ無ければ何でも食べ物判定か。まぁ綺麗に食べるけどさ。


「さすがにあの赤いのは食わないか」


 お頭が斜面のベニタマゴタケ?を指差すと、

「あれを食ったら人間判定の最後っすね」

とロンが左右に手を振った。食べたら旨いのに先入観は良くないぞ。


「あの白い岩みたいなのは、もっと小さなうちならソテーにしたら食えんことはない。まぁ敢えて食うようなもんでもないがな」


 お頭達も小さなオニフスベは食ったことがあるみたい。

 でもこれじゃなくて、下が丸くて上が細くなって、パッと見がのっぺら坊主で良くみると小さな突起が表面にたくさん生えてる白いやつ…… ゴミ? ホコリ? あ、それそれ、ホコリタケ。これも若いうちは普通に食えた気がする。

 ここにあるのが記憶のと同じ物かは判断付かないけど、岩の斜面の近くにたくさん生えてる。

 古いのは穴が開いて、押さえたらパフっと中から粉が飛び散った。面白いけど少々迷惑だなやつ。これも後で食べるけど。


「おい、肉が柔らかくなったから食うぞ」


 お頭の声が掛かり、手下の2人も椅子に腰を下ろしてスープ皿を受け取る。そして柔らかくなった干し肉を手掴みで口に運んでムシャムシャ。

 肉を噛み終えたら焦げ茶色のパンをスープに浸し、柔らかくしてから飲み込むのが晩飯みたいだ。


「お前らの晩飯はそれだけか?」

「そうだ。酒なんかここにゃねぇぞ」

「酒じゃなくてあの光るキノコだよ。一口ぐらい食ってみろよ。まじでこの白いのより旨いからさ」


 俺の手元にはあるのは、中身が全部食べられて皮しか残っていない異世界オニフスベ。皮はいらないから投げ捨てる。きっと何かのキノコの餌になるだろ。


「お頭、どうしやす? アイツがピンピンしてるってことは、本当に食えるんじゃ?」

「しかし生でキノコなんて普通は食わんだろうが」


 コイツらが食わないなら、その分は俺が食うからそれでも良い。別にイヤな食い物を無理に食わせる趣味も無い。

 キノコだってイヤイヤ食われるより、美味しいって言ってもらえる人間に食われた方が嬉しいだろ。


「それなら食うものがなくなってから考えろや、キノコ様に失礼だ」

「そうだな、そうするか。お前らもそのつもりでな」

「へいっ!」

「がってんでい」

「それとお前。トイレしたら脱走しねぇように鎖で繋ぐからな」

「へいへい、どうせ俺は奴隷に売られてく御身分ですよーだ。で、トイレはどこ?」

「さっきの白い岩みたいなキノコがあった先の端っこの岩に掛けてこい」

「分かった。行ってくる」


 言われた場所に来てみると、岩には上の方から湧水が天然の水洗便所のように流れ続けていた。道理でこの辺りが湿気に満ちている訳だ。

 しかし、と言うよりやはりトイレットペーパーらしき紙は無い。


「葉っぱで拭くパターンね」


 なるほど、さすが山賊のライフスタイルは中々のワイルドぶりだ。分かってたけど。

 トイレをする振りして、適当にキノコを探してみる。まだ何も食べたものが出そうにないからね。こっちに来て今日初めて緑光茸を食っただけだから、まだ消化が終わっていないんだろ。


 それにしても、自然豊かと言うのか秘境と言うべきか。世の中には自然を破壊する黒い板があるらしいけど、ここはそんな物が無くて人にもキノコにも最高の贅沢な空間かも。

 熊とか猪とか蛇とかムカデとか出てこないか心配だけど、あの3人が呑気に暮らせてるってことはそう言う心配は無い場所なんだろ。だからキノコもたくさん生えてるんだな。

 あの赤いキノコがとても気になってたんだよね。見た目も綺麗だし。毒々しく見えて実は食用のタマゴタケかも。それならお頭達に食べさせても問題無いし。


 あ、でももう外が暗くなってきてるな。周りが斜面とか木で日が暮れるのが早いのかも。完全に暗くなる前に探しに行こう。

 暫く探し回ってホコリタケをひょい、パッフ……摘まんだら中から胞子みたいなのがいっぱい出た。ゴホッ。

 若いホコリタケはマッシュルーム代わりになりそうな普通の味。

 試しにホコリの出てくる古いのも食べてみる。うん、予想通り粉っぽいし何かヘンな香り。でも腐った豆の料理を食べてると思えばそれ程ではない。


 次の獲物を物色していると、この広場に出る場所の辺りから誰かの視線を感じた。

 あっ、俺には見えないと思ってロンが見張ってたのか。ここじゃ俺は鉢に入れられたメダカと同じってことね。それは仕方ない。


 斜面の木の幹にサルノコシカケみたいなのが生えている。キノコの植生は知らないけど、こう言う時は下手に考えずに黙って取ろう……と思っても手が届かない。棒でもあれば、取れそうだけど。


「おーい、ロン。見てないでそこの木に生えてるキノコを取りたいから手伝ってくれ。肩車したら届きそうそうだろ」


 俺を監視していたロンを手招きする。すると渋々と言った顔で来て俺の指差す木を見る。


「あれを食うのか」

「キノコだろ」

「……そうだな」


 ロンは何か言いたそうに口を開きかけて、結局何も言わなかった。

 それから彼を肩に乗せて木の幹の近くに立つが、まだ少し手が届かないようだ。シャキっと音がしたと思ったら、剣で切り付けて細かな残骸と化したサルノコシカケがポロポロ落ちてくる。


 食べやすいサイズになったことにして、噛ってみる。食えるが固い。良く言えばガリガリとした食感と薄い甘味と薬品臭さがあるので、美味しくはないが健康食品の位置付けにしよう。

 ボリボリ音を立てて食べ始めると、ロンが洞穴に戻っていく。変な奴だ、と見られながら食べるより気が楽なので文句はない。


 しかしこれ……顎を鍛える訓練に使えるかも知れないが、物理的理由で断念した。


 広場に木の棒でも落ちていないかと探して見たが、あの3人が綺麗好きなのか別の理由があるのか、枯れ葉が数える程しか落ちていない。

 小さなオニフスベが一番の腹の足しになったと思う。もっと他のキノコがないか探すと、苔がびっしり生えている地面に白くて細い棒状のキノコが生えている一角があった。頭に笠が無い最初は放置したけど1本抜いてクチに入れるとキノコ判定。

 雑味が無く柔らかいので、これを主食にして他のキノコをオカズにするのもありかな。


 キノコを食べて体の方は満足出来たけど、この後に寝て朝を迎えれば……不安な気持を打ち消す役に立てばとお腹を擦るが、どうやら効果は無いらしい。

 キノコを堪能したので、お頭達が奪った荷物を置いてあるスペースに戻ろうか。長くここに居るとお頭に心配されるかも。


 気のせいか、食べてるうちにお腹がポカポカしてきて元気になった気がする――いや、本当に気のせいならいいんだけど。

知らないキノコは食べたらダメ。食べられるキノコに似た毒キノコがあるからね。

主人公の真似しての生食するのは絶体ダメっ! 塩茹でしても毒キノコは食べないように。

尚、作中に出てくるキノコは地球の物と似ていても違います。主人公が勝手に似たキノコの名前を付けて呼んでいるだけです。

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