第42話 無事に納品、それはNO品
毒キノコを採取していた腐女子のことは何処かの誰かに任せて、俺は今日の宿代を稼ぐ為にキノコの納品を急ぐ。
スーパーマーケット ビクトリーに到着し、表の入り口から入ると、
「1名様、ごっ……お前か」
と例の店員が案内を止める。
「もう採ってきたのか?」
「うん、キノコを探すのが得意な特異体質だからね」
「……そうか。じゃあ、あそこの入り口から入ってマネージャーに渡してくれ。関係者以外立ち入り禁止って書いてるだろ」
「了解」
店内の商品を見ながらバックヤードに入ると、大きな棚に木箱がズラリ。それとキノコのリストを渡してくれたマネージャー他2人が品物のチェックなのか忙しそうに手を動かしていた。
「ただいま~。依頼のシメジ、マイタケ、エリンギ、トリュフ他を納品に来ました」
と笑顔を作る。
するとエプロンを着けた男性がおもむろに手に包丁を取り、こちらをチラリ。
まさか俺を料理するつもりか?
「ロブ、ビビるからそれはやめろといつも言ってるだろ。お前はあっちでチキンをチキンと捌いてろ」
「これが楽しみなんで」
どうやら精肉コーナー担当の従業員は性格に難ありらしい。
「じゃあ、物を見せて貰おう。そこのテーブルに置いてくれ」
とペンを持った手で片付いたテーブルを示す。どうやら顔に似合わないような可愛いポップを書いていたらしい。
言われるままに袋から木箱を取り出して6つ並べ、蓋を開ける。新鮮なキノコの良い匂いが微かに立つ。
「アマスト、キノコを確認してくれ。お前でも判別出来る安全な品ばかりだ」
「へい。では、こちらから。ほぉ、これはなかなか立派なモノを持って来ましたね」
「うん、食べ応えありそうなの選んできたから」
シメジ、マイタケ、エリンギ、トリュフ、ポルチーニと優判定が続く。そして最後にテングタケ。
「これはまた芳醇な香りが漂ってきますね。この茶色と白のコントラストも最高だ。こんな素晴らしいブツは初めて見ました。私が試したいぐらいです」
「商品を勝手に使うな、納品用の処理を頼むぞ。
で、坊主には良い品を持ってきたから色を付けて2掛ける5足す10で銀貨2枚、1枚おまけで銀貨3枚。これで良いな?」
トリュフとポルチーニは安い気もするが、今は一泊できれば十分だ。ごねてトラブっても面倒なだけだ。
しかし不当に安い価格で買い取るのは買い叩きでは?
「うん、それで良いよ。あと、今日そのお金で泊まれる宿を教えて。ごろ寝の安い所で構わないから」
「それなら金を盗られない気を付けろよ。
ビスタ、ボロでいいからコイツにベルト代わりの紐とと袋を1つずつ渡してくれ」
「へーい、ちょいと待ってな」
こうして少しばかり思うところはあるが、無事今夜の宿が確保出来そうだ。この世界で初めて稼いだ現金が、便利屋の仕事ではなかったことはこの際忘れよう。
世の中には全ての物事に於いて逆らえぬ流れと言うものがあるのだよ、と渋く心のなかで呟いてみる。
バックヤードを出て、少し商品を見てみると店内は普通にスーパーマーケットだ。野菜、肉、魚、パン、その他諸々。この世界で買い物をしたことがないから値段が高いか安いか分からないが、買い物に来ていたおばさんが値札とにらめっこしながら籠に入れてたので安くはないのだろう。
露店商が物価が上がってるって言ってたから、その影響なんだろう。
教えてもらった宿に来てみると、銀貨1枚で泊まれる安い宿だから仕方無いけど客層が悪い。あの山賊3人組みたいな人達がジロリと俺を見てきたし。
確かにこれじゃ、寝ている間に財布ごと持っていかれそうな気がするよ。
「ねぇ、お兄さん。銀貨2枚で泊まれる宿って無いの?」
と受付台に座ってるおじさんに聞いてみる。押せば出てくるようなリップサービスは無料だからね。
「しっ! 持ち金の額を言うもんじゃない。アイツら、そんなに持ってねぇんだぞ」
「それはゴメン。で、宿はある? 泊まったらスッカンピンになるけど」
「教えてやるから早く行け」
大体の場所を教えてもらって、この雑魚寝小屋を後にする。
「下手に坊主を追いかけるなよ。やるならバレないようにな」
そんな冗談混じりの声が聞こえてきた。
盗み聞きするとそんな声が聞こえたよ。彼らが犯罪集団って訳じゃなくて、単に冗談を言ってるみたいで笑ってたけど、かなり笑いのセンスがずれてるな。
でも、中には真に受けて俺を襲う馬鹿が出てくるかも。そうならないように気を付けなきゃね。
問題が起きることもなく次の宿屋に到着する。さっきの宿屋が雑魚寝専用で今度の宿屋がカプセルホテルって感じだね。大柄な人は入れないんじゃないかってサイズの個室にベッド。
ドアを閉じると暗くて何も見えないし。これじゃカプセルホテルと言うより人が入るコインロッカーだな。でも、寝るだけし、今日はこれで良いか。
時間はまだお昼過ぎて少しだから寝るには早いけど、動き回って目立つよりじっとしてた方が安全だからもう寝よう。
◇
「キトラはまだ戻らんのか?」
辛うじて貴族の邸宅の雰囲気を装う一戸建ての一室で、小振りな口元には付けるには大仰過ぎるカイゼル髭を生やした男性がソファにふんぞり返る。
子供が遊ぶ変装用の付け髭のような不出来であるが、祖父の代から続くその髭こそが彼の心の拠り所である。
他人から見れば、本人に特に優れたものはなくとも家柄だけは立派であることが、その髭に象徴として現れているのだが指摘する者はまだ現れていない。
「はい、本日の午前中には現地に到着し、荷物を回収して戻ってくる手筈でしたが、まだ来ませんね」
方やタキシードを綺麗に着こなし、清潔なオールバックに纏めた髪に白髪の混じる、いかにも優秀な執事を連想させる男性が冷静に答えた。
「まさか裏切ったりはしておらんだろうな」
「大丈夫です。この国ではアイテムボックス持ちは危険視されており、貴族が保護して生かせそうものなら国家反逆の意思ありと見なされるのですから。
キトラが他の者に付こうとすれば確実に首を切られます。故にパッデス様のもとから離れることはありますまい」
ゴーショーがキトラに対して処刑を宣告したのは、このようにこの国の貴族の中に既に浸透しており、一般的な対応と言えるのだ。
それを敢えて自分の私利私欲の為に罪を犯す覚悟でキトラを利用する、このパッデスの方がある意味肝が座っていると言えるだろう。
「しかし、パッデス様。キトラの荷物の件は問題無いと思われますが、ザイルズ伯爵領へのチョッカイの方が失敗に終わったかも知れません」
「なぬ? どう言うことだ?」
「時間的に見れば、既に狼煙が上がっていてもおかしくないのですが」
そこでパッデスが窓から外を眺め、少し首を傾げる。
「狼煙が上がれば、ここから見えるのだな?」
「この部屋からでは方角が違いますよ、その窓は南向きです。ザイルズは西にありますので」
そう言われて窓から左を向くパッデスの首を、執事が反対方向に捻る。
「あの山の向こうがザイルズです」
「……そうだ、それぐらいは知っておる。お主を試してみただけだ」
「それは失礼致しました」
執事であれば、この程度の茶番劇はお手の物である。内心ではパッデスを馬鹿にしていても感情を顔には出さない訓練を受けている。
その影響で、笑うのが苦手になっているのが悩みだと仲間にボヤいているが、その顔も困った様子に見えないのでどこまで本気なのか誰にも分からないらしい。
首をさすりつつソファに戻ったパッデスが、
「最近面白いキノコを見つけた商人が居るのは聞いているな?」
と、悪い笑みを浮かべながら執事に問う。
「生憎キノコは嫌いな食材でございまして。
食べると気分が良くなるような品であれば、我慢して食べられるかも知れませんね」
「うむ、それならお主にも食べられるキノコであると答えよう」
「それは素晴らしい。して、そのキノコはどちらで手に入るのでしょう?」
「これもキトラ経由だ。もっともキトラは知らぬかも知れんが、ヤツの家の中にキノコに詳しい者が中に居るようでな。
たまたま手に入れた物を買い物ついでに総合商社に納入したそうだ」
そこでニヤリと嫌らしい笑みを顔に張り付け、乾燥した茶色のキノコをポケットから取り出す。この世界にはビニール袋が存在しないが、スライム革を利用した代用品が安く手に入るのだ。
「この地は特に産業もなく、見放された地だと言われていたが、どうやら他の者には見る目が無かったようだ。
父上も祖父もこの地を嘆いていたが、我は反転に出る足掛かりを掴んだのだ」
それは違法薬物扱いなので貴方の父上も祖父も手を出さず、貴方にも教えなかっただけです、と事実を教えるべきかと悩む執事は、ただ作り笑いを浮かべるだけであった。




