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第41話 両手にハートを

 思わぬ苦戦を強いられたが、何とかボロい服をゲットした。

 町に行けば、さっき採ったエノキタケも売れるかもしれない。

 これは見本だと言って、籠があれば追加で採れると話せば十分だろう。よし、その作戦で行こう。


「あ、そうだ。町はどっち?」

「あっちが近い」


 山の無い方に指を差したので間違いないだろう。

 

「キノコ扱ってる店もある?」

「専門店は無いと思うけど、大きめの八百屋なら買い取るかも」

「わかった、ありがとな」

「お礼なら現金で」

「裸で来た男に金を要求するな、無一文だ」

「金の匂いがする男は好きなの。今は菌の匂いしかしないけど、きっと化ける」

「そうか、そうだと良いな。じゃあな」


 腐女子がそれ以上何か言う前にここから全力ダッシュで逃走する。まずは野生のエノキタケを売り物に出来る店探しだな。

 少し走ると腐女子の言う通りに整備された道と集落が見えてきた。

 今朝は朝早くに起こされたから、今の時間が大体正午頃か。さっき幻覚キノコを食べたのでお腹の減り具合は大丈夫。水も魔法で出せるから、水を求めて移動する必要が無いのはとてもありがたい。


 少し進むと町の露天の並ぶ通りの賑わいが見えてきた。両手にキノコを持っていると、盗んできた品物じゃないかと疑われないか? 仕方ない、手近な店で話を聞こう。

 良い具合に野菜を売ってる露天を発見。


「こんにちわ、儲かりまっか?」

「ボロボロでんなぁ」


 この返事はこの世界特有の定番かな? それとも本気?


「売れてないの?」

「何もかも値上げでこっちは音を上げるしかないよ」

「あー、そうだった、お互い大変だな。あ、でもおれも商売しなくちゃいけなくてさ、この採れ立てのキノコを買い取ってくれる所を教えてくれないか?

 なんせ全財産すられてお金が無くてね」

「そうかい、最近多いから気を付けなな。

それなら、そこの角を右に曲がって……」


 お店を教えてくれたおじさんに礼を述べ、言われた通りに行くと一際目立つ大きな建物があった。

 『スーパーマーケット ビクトリー』と看板が出ていて、大型店の進出で地元の商店街が寂れていくって感じのヤツじゃないかと思ってしまう。

 でも今の俺はそんな地元を愛する自治会員でも何でもない。ただの無一文だから。


 取り敢えず玄関から入ると、

「1名様ご案内! さぁさぁ、奥へどうぞ」

と予想外の対応を取る店員に唖然。


「あ、客じゃなくて――」

「ならクルっと方向転換して出ていきな」

と俺の頭を掴んで捻ろうとする店員だ。対応のギャップが半端ないな。


「品物を買い取って欲しくて来たんだけど。そう言うのはどなたにすれば?」

「それなら先に言え」

「言う前に1名様ご案内って言ったアンタの責任だろ。それは良くて、キノコを取りに行こうと思う訳。このエノキタケはサンプル用にさっき採ってきたやつ。どう?」

「キノコか……お前さん、キノコの見極めは出来るのか?」

「毒かどうかは食べたら分かる。だから食用キノコだけ選んで採ってきてるんだけど」

「食べたら腹を壊すか笑うか死ぬかだ」

「知ってる。特異体質で毒キノコを食べたら下がピリッてして分かるんだよ。だからキノコ食ってればお金が無くても食っていけるけど、宿に泊まれないからさ」

「分かった。それじゃマネージャーを呼んでくる」


 そこからトントン拍子で納品して欲しいキノコのリストを渡された。値段は相場が分からないが、籠一盛りで大銅貨2枚が販売価格なら卸し価格は半分ぐらいか。

 素泊まり出来るだけの儲けになれば良いから、銀貨1枚ぐらい稼げる感じで採ってこよう。

 どれも山に入れば採れるキノコらしいが、素人には探すのが難しいとか。でも俺にはキノコ捜索機能みたいなものが付いてるから大丈夫と思う。


「先にエノキタケは達成だから、シメジ、マイタケ、エリンギ、トリュフ、ポルチーニだ」

「オッケー。どれも楽勝だ」

「そうかい、それならこっちも頼めるか?」

「えーと……薬にでも使うのか? まぁ、仕事なら何でも良い。請け負った」


 さっき俺が食べた、幻覚キノコがリスト入りしてら。このお店、まっとうそうに見えて実はヤバい仕事をやってるのかもね。でも俺はここでは正義の味方ではない。ただの無一文のキノコ好きに過ぎないのだ。


「なる早で採ってくる。あっ、籠か袋を貸してくれ」

「うちのロゴ入りで良けりゃ」

「構わない。歩きながら宣伝してやる」


 別にロゴがあろうが無かろうが、貸して貰えるなら何でも良い。

 渡されたのは救急箱サイズの木箱が6つと、それが入る大きな革袋。確かに袋にビクトリーって書いてら。何処かのパチンコ屋みたいな名前だな。


 袋に箱を入れて店を出る。人通りの無い路地裏に入り込むと、ネックレスに指を当てる。


 ヒュンッ!


 これ、慣れたら普段使いしたくなるな。キトラのフェアリーリングにショートカットして時短だよ。

 移動先に腐女子は居なかったな。よし山に行こう。


 鼻歌モードでキノコ探しの唄を奏ながら次々と目的のキノコを採取する。目につく毒キノコは俺の昼飯だ。

 テングタケに似たこのキノコ、幻覚作用目当てで扱ってるんだろう。煮たり加工して毒だけ抜くのかもしれないが、正直ろくな使い道じゃない。

 そういえばキトラが腹を下したのも、牡蠣じゃなくキノコだった可能性はあるな。

 今度会ったら聞いてみるか。


 よし、毒キノコも採取完了っと。町に戻りますかね。

 鼻歌混じりに山の斜面を歩いていると、腐女子が視界に入ってきた。と言ってもキノコ眼は視力が2桁に届きそうだからかなり遠くまで見えるんだけど。

 ん? 何か挙動不審だな……あ、アイツもテングタケ狙いで山に来てたのか。このまま放置して、誰かが巻き込まれるのも後味が悪い。

さて、どうしたものか。

 

 そうだ、俺のキノコの力でキノコ毒の成分を変えることが出来るかもよ。旨味は残しつつ、幻覚作用だけ消し去る感じね。

 そう、これはお願いじゃなくてキノコ生まれの俺なら出来て当然のことだからね。そう言うことで神様宜しくっ!


「取り敢えず、美味しくなぁれ、ドクドクキュン♡」


 俺が採取したものにはこの声を掛けておこう。もちろん両手でハートは作ったさ。

 気のせいか、キノコの香りも少し良くなったような気がするから効果アリになってる。

 くそっ、本気で鑑定出来るキトラの脳ミソだけが欲しくなりそうだけど、考えてそんなの実際に目にしたら気持ち悪くてイヤだな。


 なんて考えているうちに、腐女子が俺を発見したらしい。Uターンするってことは、悪いことをしてる自覚があるんだな。少し急いで追いかけると、慌てた腐女子が躓いたらしくすってんころりん。

 これ幸いと、籠から落ちた毒キノコを拾い集めてドクドクキュン♡


「足下悪いから気を付けろよな。キノコは全部拾っておいたから」

「……ありがと」

「ん。じゃ、俺は納品に行ってくる。もう会わないと思うから気を付けろよ、いろいろとな」


 意味ありげに言っておけば、腐女子だって何か心に変化を起こして思いとどまるかも。

 彼女の人間性に期待するなって?

 そんなの無意味かも知れないのは分かってるけど、俺は神様じゃないし、ヒーローでもない。ましてやドラマの主人公でもないから、道を間違えようとした人間を正しく導くなんてことはできないんだよ。

 それは俺の役目じゃなくて、きっと彼女の側に居る誰かの役目に違いない。

 よし、責任転嫁完了っと!

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