第40話 服を貰うのも一苦労
「くっ、殺せっ」
「殺さないから、少し冷静になろうね、はい、大きく息を吸って~」
「ディープキス狙いじゃないですかっ! やっぱり変態です!」
何でそうなる? 深呼吸ぐらい知ってるだろ。
「……誤解しないでください。
私はキトラ様のメイドで、今日は山菜とキノコの採取を任されて来ただけです。
そこに、玉を見せつけて歩く不審者がいたので排除対象だと判断しました」
このメイドと真面目に話すのはやめた方が良さそうだが、情報が欲しい。
「それはスマン、不可抗力ってやつ。
教えて。ここに何しに来たの? 真面目な話」
「あの人、牡蠣に当たってから海産物を食べるのはやめたので、仕方なく日課で餌を拾ってるんです」
確か牡蠣で当たったからお頭に会いに来るのが遅れたんだっけ。……餌? まぁ、色々あるんだろ。
「でも、キノコは人間が食べると危ないのも多いから、やめた方が安全だけど」
「知ってます、私の実家は美食家揃いですから」
「通風持ちに肥満で悩んでる?」
「はい、少し動くだけで汗びっしょり……あの人達のことはともかく、キトラ様のメイドとしてたまに山菜を採りに来ることになって、玉を見せてる不審者が居たので排除しようかと」
山菜採取か。熊や猪に襲われないように気を付けてね。
「それなら、服を一式用意してくれない?
貰えたらすぐに出ていくから」
「それよりキトラ様のことは本当です?」
「うん、生きてるよ。きっと俺の仲間と一緒にこっちに向かって来てると思う」
ゴーショーさんとトミーさんの性格なら、迎えに来てくれるだろ。早いか遅いかは知らんけど。
キトラの切り札召喚は心配だけど、トミーさんなら指1本で何でも砕くから心配いらないし。
「そのネックレスは持ち主を殺さないと他の者は持てないそうですが」
「あのね、そんなの嘘に決まってるでしょ。
持ち主を殺さないと使えないとか、犯人が自己紹介してどうするの?
デメリット、盛りすぎでしょ」
「……さぁ?
別にあんなヤツ、死んでても構わないけど。
それで、本当に服を渡したらここから出ていくのね?」
「うん、ここに居るメリットは無いから……キノコは採りに来たいけど、ここじゃなくても生えてるだろうし」
「そんなにキノコが好きなんだ。だから裸なんデスネ」
キノコ好きが皆露出狂みたいな言い方するなって。俺だってこの姿になったのは想定外なんだから。
「ブーメランとGストリング、どっちが良い?」
「そんなんじゃなくて普通のがあるでしょ?
普通の服とトランクスみたいな下着。使用人用のでも良いから、おかしなのはやめてよ。
と言うか、キトラってそんなの履いてるの?」
「え? この国の貴族は皆さんそう言うのを履いていらっしゃるのでは?」
「それが本当なら、俺、この国から出てくわ」
どうせこの腐女子が勝手に妄想してるだけだろ。服さえ貰えたら、あとはキノコでも売れば今日の宿賃ぐらいは稼げるだろう。
便利屋のメンバーカードが無いと町から出るのは難しいと思うから、今日は目立たないよう何もせずにひっそりと過ごそうか。
腐女子メイドが一度屋敷の方に戻ったので、その間にそこらに生えてるキノコを取っておこう。毒キノコは間違って採取されないように俺が食べておけば良い。
これも一種の分業だよ、俺はお腹の足しになるし、腐女子は安全にキノコを採れる、Win-Win ってやつだ。
おっ、ヤバいヤツ発見。茶色いカサに白いツブツブのあるキノコ……テングタケの仲間かな。
パクり。ムシャムシャ……ウマッ! なにこれ、旨味の固まりだよ。
ん? 一瞬怪しげな映像が頭に浮かんで消えたぞ……
同時に、体の奥に溜まっていた疲労が溶けるように抜け、魔力だけが静かに満ちていく感覚があった。
これ、旨味に幻覚成分も混じってない?
それでキトラのヤツ、このキノコを栽培してるんじゃ……あっ、アイツ鑑定持ちだから、キノコだって安全かどうか見分け出来るだろうが!
でも、そうなるとキトラが牡蠣で当たったのは不自然かも。
鑑定を忘れたか、出来なかったか、誰かに盛られたか。
どれでも嫌な話だけど――
キトラがまるで無能って線は無さそうだけど、牡蠣の鑑定結果が『運が悪いと稀に当たることもあります』、みたいな表示で当たったのなら笑える。
しかしこのキノコ、ほんとに旨いな――なかなか手が止まらない……まさか俺にも影響が? ……うむ……ムシャムシャ……あったらその時に考えよう。
キノコを生で食べるのが普通じゃないって言われたけど、干した方が旨くなるならそれもいずれ考えよう。
そういやフェアリーリングとネックレスを正しく使えば、荷物も一緒に移動できるはずだ。俺だけ出来ない仕様? ……なら泣くぞ。
その応用で、空間に物を留められるなら……フェアリーリングポケット、いけそうだな。
試すなら、人目のない洞穴で。
他に懸念は……やっぱりキトラの切り札召喚か。
何を呼べるのか限界が分からないし、破壊の天使を見た以上、物理法則を無視した何かが出てきてもおかしくない。
……いや、意外とどうにかなりそうだな。
最悪は想定しておくべきだけど、あの人達ならアイアンゴーレムでもドラゴンでも対処できるでしょ。
キトラに頼んだら出てくるかな?
あっ、白い花っぽいキノコ見っけ……キノコじゃなくて、ギンリョソウ? ハズレか……はぁ……たぶんキトラは、自分がどれだけ危ない力を使ってるか、ちゃんと分かってない。
……分かってて使ってるなら、それはそれで厄介だけど……俺にも同じことが言えるのか。笑えないな、気を付けとこう。
そんな考えごとをしながらキノコを探し、毒キノコを食べつつ食用キノコを採って腐女子に渡してやろうと思ったら、袋も籠も無かったわ。
シロソウメンタケで籠を作る能力はあまり見せたくないから今は封印。よし、両手に持てるだけ持って帰ろう。
キノコ探しの唄(第17話)をエンドレスリピートで脳内再生。運良く野生のエノキタケをゲット。良く見る白くて細いのと全然違って食べ応えがありそうだ。
両手が塞がったところでリングのある方へ戻ってくる。腐女子が既に待機していたので、榎で前を隠しながら歩く。
「今更隠しても遅いんですけど」
「お前に見せたくなかっただけだ、気にするな」
「減るもんじゃないですから、大丈夫です。それに、エノキタケが変なものに見えてきます」
「それはお前の感性と品性の重大な欠陥だ。早く病院行って医者に見てもらえ」
「馬鹿に付ける薬は無いと追い返されたことがあります、キリッ」
キリッじゃないのよ。キトラのヤツ、どう言う基準でメイドを選んだんだよ?
いらない子を押し付けられたんじゃないだろうな? そうでなかったら、アイツの人間性を疑うわ。
で、渡された服は下働きの着るようなボロ一式とブーメランパンツ。渡された瞬間、腐女子の顔に投げ付けて返す。
それ以外は新品じゃないから心配ないと思うが、変なタグがないかチェックしてからいそいそと服を着る。
「じゃあ、これでバイバイな。俺に会ったことは誰にも言うなよ、消されたくなかったらな」
と脅しをかける。
「何を言ってやがるんですか、童貞のくせして」
「指を差すなっ!」
お前、見慣れすぎだろ。




