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第4話 これを服とは認めない

 お頭が洞穴の奥に進んで行くので付いて行く。少し歩いた先に6畳程のわりと広い空間があって、略奪した積み荷を保管したり居住スペースにしているみたい。

 ごそごそと木箱の中を漁ったお頭がポイっと何かを俺に投げ渡した。


「何か知らんが、それでも巻いてろ」


 手に取ってソレは、お洒落な模様の入ったブラジャーだった。


「あの……これ……ブラじゃ」


 これ、どうやってこれをパンツ替わりにするんだ? 努力すれば出来ないことはないかも知れないけど、用途を思い出したので羞恥心が否定する。


「ブラジャとは何だ?」

とお頭が真顔で聞いてきた。頼むからそんな純粋な少年みたいな目で見るな。顔と服装に似合わないから。


「……本当に知らないの?」


 3人ともが首を縦に振る……まさかこの人達、女性用下着の種類を全然知らないの?

 きっと襲った商人の荷物の中にあった物で、これが何かを知らないから俺に渡したんだろう。


「聞くけどアンタら、服飾関係の商人を襲ったことがある?」

「3日前にやったのが、最近ポッと出てきて都の貴族がこぞって買い始めたアバレルブランドの商隊らしい」

 

 多分暴れていないと思うけど突っ込むまい。


「それでこの荷物をどうするの?」

「明日、闇商人が荷物を引き取りに来る予定でな。それまでここで保管しとる」


 なるほど、お頭は山賊兼倉庫業らしい。


「商人もそんな使い途の分からん物は買い取ってくれんだろうな。で、ブラジャとはなんだ?」

「説明が難しいが……」


 手で胸を支える仕草を取ってみる。さすがに実演はしたくない。


「そのヘンテコな布きれじゃ半分も隠れんだろ? 考えた奴は馬鹿か?」


 巨乳派ね……好みはともかく、お頭にブラを投げ返して、両手で三角を作ってから胸に当てろと合図する。

 むさ苦しい山賊のオッサンが難しい顔してベージュのブラを巻き始める。背中に手を回して悪戦苦闘だ。


「本当に背中で止めるのか?」

「そうだ。慣れないと止めるの難しいかも」

「……お前、経験者だな? 変態め」

「心外だな、今の俺はキノコしか興味はないぞ」

「あぁ、確かに高いキノコはかなりの値になるらしいな」


 値段じゃなくてキノコに対してしか興味が湧かないのだが、手下のヤスが勘違いしたみたい。だが敢えて訂正すまい。

 少ししてブラを着けるのを諦めたお頭が、荷物の山を漁って同じ色の三角形の布を手に取り、

「まさか……こっちは?」


 俺はゆっくり、しかし大きく頷いて良い声でこう言った。


「履いてみろ」と。


「履けるかっ!

 ……しかし、そんな布切れに価値を見出す連中は、いざって時に役に立たん」

「ん?」


 ……まぁ、いいか。さてと、馬鹿やってないで通常運転に戻しますか。


「スマン、男性用の普通のズボンをくれ」

「いいだろ、お前のケツなんざ見たくもない」


 膝ぐらいまでの丈のズボン、それと穴が開いて血の付いた革の服が渡された――これ、被害者の着ていた服だよね。ズボンだけ履いて、服はそっと畳んでもとの場所に戻しておく。

 その服を着ない俺に、山賊達も何か察したみたい。


 少し空気が重くなったので、話題を変えよう。


「そう言や、水はどうしてるんだ?」

「水なら水迸石(ウォータージェム)に魔力を流せば済むだろ」

「なんだって? そんなアイテムがあるのか!」


 水が出てくる石なんて素敵物質、ロマン以外の何物でもない。異世界に来て良かったよ!

 それなら火が出る石もあるよね? いや、それだと火傷しそうで危ないから無いのかも。


「お前、ブラジャを知ってて水迸石を知らんなんてことがあるか? この辺じゃガキでも知ってるだろが」


 言われてみれば……ブラは分かったのに、どうして水迸石の方は知らなかったんだろう。キノコになる前に暮らしていた場所には存在しなかったのか?


「お頭、この辺にガキは居ないっすよ」

「だな、居たら捕まえて奴隷商人送りだし」

「だから俺には記憶が無いから知らないんだって。

 ブラを覚えていたのは何でか知らん。

 でもさ……はぁ、お前ら実はホントに悪い人達?」


 話は通じるし顔付きの悪さに慣れてきたからか、既に怖いと思わなくなりかけていたけど、やっぱりコイツら山賊だな。


「当たり前だろうが! お前も明日になれば奴隷商人に買われていく身だぞ!

 ろくに行き場のねぇ奴は、いずれ魔物に食われるか、人に売られるかだ」


 そう言うお頭から一瞬怒りの感情が漏れたように感じる。その言葉に手下の2人が顔をしかめたが、すぐに元の顔に戻る。


「あのぉ、お頭。ソイツ、さっき緑光茸を2つも生で食いやがったんですぜ。そろそろ腹を壊してもおかしくないんじゃ? 明日まで生きてるとは思えやせんぜ」

「そうだった……な」


 ヤスが俺を指差すが別に腹に異常は無い。むしろ食う前より元気が出た気がする。実は速効性のアガリスクだったのかも。


「晩飯まで様子を見る。毒に強い体質の奴も居るだろうさ」

「いつまで待っても同じだと思うけど。

 あ、そうだ。ここって町から近いのか? 奴隷商人が居るってことは、そこそこ大きな町だと思うけど」

「最寄りの町にはそう遠くはないが、そっちの町は別の貴族の領地になるからな。この辺りはアイツの山で、取引する町はちょいと遠い」


 訳有りげな物言いだな。山を持っているってことは地主で、そいつが奴隷商人で……


「まさか貴族?」

「お前が買われた時に分かるかもな」

「貴族の顔とか全然知らんし。

 アン・ポンタン伯爵とかトン・チンカン子爵とか紹介されても無理」


 土地は国王か領主の持ち物で、人を守る代わりに税を取る――

 そんな話を何かで読んだ気がするけど、世界変われば何とやらだ。

 人が住まない山はどうか知らないけど、基本は多分同じだろう。良くそんなこと思い出した自分に感心するょ。


「パッデス・トール男爵っすね」

「ロン、名前を言ったら駄目だろ!」

「聞こえてない聞こえてない。何とか男爵芋とか聞こえてない」

「確かに芋好きな男爵だった筈……しっかり聞こえとるじゃないか」


 俺のボケに珍しくツッコミを入れたお頭だか、目が妙に真剣だった。芋がそんなに面白かったか?


 あっ、男爵芋が「芋好きな男爵」って意味に化けただけ? ……まいった、冗談の言葉選びが難しいじゃないかって――

 あっ、アバレル……も、お頭ギャグじゃない可能性もあり。


「……嘘ついて悪かったな。

 と言うか、マジでこの辺りのことは何も知らないし。時間あるなら何か教えてよ。お礼に肩ぐらい揉んでやるから」

「そうか……それなら……肩なんか凝ってないわ!

 年寄り扱いすんなっ!」


 親切で言ってやったのにひでぇ野郎だ、やっぱり山賊だ。

 それでもキノコを食べた俺に体調の変化が無いかが気になるのだろう、チラチラと俺を見ながら教えてくれた。


「国の名前はコルバシエニ王国、ここはスバンプ伯爵領の端っこでパッデスに任されているトール領エリアだ。伯爵は五人の男爵達に領の運営を任せているらしい。

 五人の中にはまともな男爵も居れば、パッデスみたいな悪党も居る。そのお陰で俺らが食っていけるんだが」

「悪党やってる自覚はあるんだ、偉い偉い、イイコ、イイコ」

「馬鹿にしてるだろ、殺すぞ……そういう言い方をする奴はな、真っ先に死ぬ」

「いや、殺さなくても? ……毒キノコ食ったから死ぬんでしょ」


 刺されたら痛いからイヤだし、なんとか回避せねば。今のところ、キノコの毒では死にそうな感じは全然しないけど。

 

「てめぇ、ホントに死ぬのか? 殺しても死にそうにねぇぞ」

「イヤイヤ、大丈夫だって。多分だけど、一度ホントに死んだから今ここに居るんだし」

「死んだら生きてねぇし。訳が分からん」

「そうっすよ。ゾンビじゃあるまいし。あん時は参ったすね」

「あぁ、村一つが丸々ゾンビ村だったしな」


 ロンとヤスのコンビが遠い目をする。過去にそう言う経験をしたのだろうか?


「ゾンビって……あぁ、あの屍体の動くやつ……えっ? ホントにそんなのが居るの?」


 あんな臭そうな化物が居たらイヤだし。しかしゾンビに噛まれたらゾンビになるって誰が考えた?

 バンパイアがお気に入りの女性を眷属化するぐらいならまだ納得だけど、たかがゾンビだし。それに引き換えキノコ人間なら胞子ばら蒔きゃキノコ人間を増やせるかもよ。


「居て欲しくなかったけどよ。ゾンビは動きはトロいし強くもねぇけど、死臭がすげぇ」

「真面目に相手をせずに、落とし穴に嵌めて油で燃やすのが一番だな」


 受け答えはロンよりヤスの方が知的だな。


「本当に居るんだ。出来ればそんなの会いたくない。

 で、やっぱり噛まれたらゾンビになる?」

「はぁっ? お前、どんな想像力してんだよ? んな訳あるか」

「いや、そんな作り話があった、確か『バイト・ハワード』って小説」


 あー、良かった。それなら良くある映画みたいにパニックにはならないね。でも、ロンは山賊をしているのに本を読んでるなんて少しビックリ。


「ゾンビは分かった。会ったら臭いから逃げることにする。

 じゃ、次……そうだ、1ヶ月は何日で、1年は何ヵ月?」

「そんなことも知らねぇだと?

 1ヶ月は30日で1年は12ヶ月、理由は良く分からんが年末に5日ぐらい調整日がある」


 それならここは……地球……前に住んでいた場所と同じと考えて良さそうだな。それさえも全然違ってたら地球じゃない星に来たことになるからね。てか、さっきから俺の頭の中に変な知識が出てくるんだよ。

 やっぱり話を聞くたびに記憶が戻って来てるってことだ。


「曜日ってのはあるのか?」

「あぁ、神様が6日間かけてこの世界を作って1日休んだって神話があって、作った順に土、水、火、風、木、月。で休みの日曜日だ。それで4週経ったらもう2日休んで次の月だ」

「じゃあ、毎月休みの日が同じなんだな」

「当たり前だろ。でないと働いてる奴らがいつ休んだらいいのか分からん」

「でも俺らは毎日が休みみたいなもんっすね」

「狩りも畑作も毎日やってるけどな」


 週休3日の週があるなんて、俺が以前働いていた所より優しい気がする……あれ? 何故か涙が……大袈裟に手を顔に当てて誤魔化す。

 しかし、分かりにくい一週間の並びだな。

 誰が決めたか知らんけど、変なところで変なオリジナリティを出してきたもんだ。

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