第37話 大きな輪っか
お頭のネックレス、どうしても気になってきた。
「お頭、殺さないからちょっとそのネックレス貸してくれない?」
「そう言う奴が一番危ねぇんだよ!」
「殺したら俺が所有者になって、この辺りからしか動けないんだろ?
殺すメリットがゼロどころかマイナスじゃん」
「確かにっ!」
手下のヤスがすぐに納得する。
「ヤスはこのネックレスのせいでお頭が動けないから、ここで面倒見るために手下やってんだな」
コイツは時々インテリぶることがあって好きじゃないけど、そんな優しいところもあったん――
「ちげうよ! 俺は……」
と、俺の妄想をヤスが途中でぶち壊す。
「あ、違うのか。なら大して興味無いから言わなくていいぞ」
「逆に聞けよっ!」
「面倒くせぇヤツだな。話したいなら、もっと何か言い方あるだろ。
ドントプッシュ、ネバープッシュ的なさぁ、良く知らんけど」
「ドントプッシュ? 何かのフリか?」
「……腹減ってきたな」
「誤魔化し方がザツっ!」
まぁ、そんなのはどうでも良くて、このネックレスの本体がキノコだったとしたら、この魔方陣に飛んで来れるのって……キノコの力? フェアリーリングの影響じゃないのかな?
ネックレスのは乾燥してカチカチになってるキノコだし。
お頭が革紐は首に掛けたままでネックレスを俺の方に寄せてきたので、汚いかもと思いながら手に乗せる。
外の枠は恐らく銀製で、革紐にも銀糸が使われている。火炎石に繋げてたコードみたいなものだろう。
丸い銀の枠でキノコの笠を保護していて、裏返して見ると放射状に走る無数のヒダがあった。完全にこれは白いキノコだ。ラジ?……放熱効率を増加させるために表面積を増やしてる訳じゃないだろうし、こんな細工は人の手では無理だろうな。
それにしても、乾燥しても皺がよらずに白を保っていられるのは、この枠か銀糸のお陰なのかな? 銀の効果で腐敗防止とか……は期待し過ぎ。
しかしこのキノコ、スベスベしててなかなか指触りが良いね。これはいい仕事してますねぇ……
くらっ
俺の指から大量の魔力が一気に抜き出されたのか、一瞬意識が飛んだような気がする。
そんな経験は無いので、本当に魔力が抜かれたのかどうかは分からない。
でも、何となくこのキノコと繋がったような気がしてくる。これってまさか?
「お頭っ!」
あれ? お頭が意識を失ったのか、ロンヤスコンビがお頭を介抱してやがる。
「どした? お頭、貧血? 生きてる?」
「テメェ、何しやがった!?」
ロンが物凄い顔で睨んでくるけど、
「俺はキノコを撫でただけだぞ。お前だってジッと見てただろ」
と冷静に答える。多分魔力の少ないお頭にはかなりキツかったに違いない。
「さっき、激しい魔力の移動を感じたが。
リーク殿からお頭へネックレスを伝って流れたんだと思う。
あれだけ激しいと放出した側は魔力喪失状態になって、受けた側は魔力的な影響を受ける筈。
そのネックレスに関連した効果に影響があるかも知れん」
エリオさんがそんな豆知識を披露してくれたけど、意味が分からない。何となく俺が悪いってことだろう。ロ ンヤスコンビに睨まれてる。
「エリオ、それだとお頭に掛けられていた移動制限の呪いが無効化された可能性があるんじゃないのか?」
とゴーショーさんが指摘する。
「えぇ、あるかも知れませんね。そうなると、逆にリーク殿にその呪いが移動した可能性も」
「えっ、俺に? それ、困るんですけどっ!
てか、魔力が多ければ移動範囲が広がるんなら、あまり影響ないのかも。試してみるか……そうだ、もしそれなら、ついでにキトラのもやっちゃおっか」
俺の体に何か影響があるようには思えない。少し焦ったけど、減った分の魔力は再生産されて充分に補充されたんじゃない?
胸の奥で、冷えた水が静かに満ちていくような感触があり、息を整えるうちに違和感は消えていた。
「キトラのか。アジトに飛んで逃げられるのを阻止出来るのなら、それも悪くない」
「でしょ。じゃあ、やってみよっと」
ゴーショーさんが同意したのでまだ起きてこないキトラのネックレスを勝手に拝借。こちらも白いキノコだけど、お頭のより少し大きいみたい。
「魔力、出しまーす! ポチっとな!」
くららっ
あれ? さっきより喪失感が大きいみたい。立ってやってたら立ち眩みで倒れたかも知れないな。キノコの大きさ? で抜かれる魔力の量が変わるんだろう。
「うっ」
魔力が流れたショックの影響か、キトラが意識を取り戻した。心臓への電気ショックをやったのと同じ効果?
「ハロー、キトラン、返事出来る?」
「ふざけやがってぇ……ん? えっ?」
キトラが体を起こすと、胸の辺りをまさぐり始めた。お前が女子なら少しエロイぞ。
「どうした? お前、寝起きは胸揉む派か?」
「そんな派閥はないだろ!
……と言うか、何かしやがったか? 妙に胸がスッキリしてて……まさか?」
「アホっ! そっちのケはねぇよっ!」
思わずBLかよって言いそうになって焦ったぞ。
「冗談だよ、冗談。
お前は魔力回復も早いんだな。まさに絶り――」
最後まで言わせねえよ! しっかりグーで殴っておいたわ。
「して、そのネックレスで転移は出来そうか?」
と、ゴーショーさんが怖い顔をぐぐっとキトラに近付ける。
「ヒィッ! 試すからちょっと待って!」
とネックレスに指を当てるキトラだが、もし転移出来るならみすみす逃がすことになるぞ。ゴーショーさん、分かってんの?
しかし、キトラの指に魔力が集まってもキノコは何も反応を示さない、とエリオさんが言う。俺には見ても分からないし。
ロンヤスコンビがキトラの転移シーンを何度も見ているので、キトラが芝居を打っているようには見えないとクチを揃える。
つまり、キトラはもう転移でアジトに逃れることは出来ないってことだな。それなら切り札召喚による破壊の天使さえ何とか出来れば、コイツをノックスに連れていって……どうする?
多分、コイツ死刑だし。
まあ、そこはゴーショーさんにお任せだから俺知~らね~ってことで。
それはともかく、キトラが転移出来なくなったのなら俺は? ってことだ。
「このネックレス、魔力流せば起動するの?」
「そうだ、特に考える必要は無い、フィール」
「さよか、じゃぁ、試してみるわ」
ネックレスをキトラから受け取り、頭スッカラカンにして魔力をキノコに注入っ!
「馬鹿! お頭のネック――」
とゴーショーさんの声が聞こえたところで……
シュパッ!
あっ、と思った瞬間、何か良く分からない空間を通ったような気がするが、意識をしっかり持つとさっきまで居たのとは違う場所に来ているのが一目で分かった。
特に体に異常は無い。
辺りを見渡せば、手入れのされた林って感じがする。森と林の違いは知らないけど、地面が人の手で綺麗にならされてて芝生も綺麗にカットされてるみたい。
それより気になるのは魔方陣だ。丸が何重か書かれて、その中に幾何学模様や文字があるのを連想するけど、ここにあるのは輪っか状に生えてるキノコ達。しかも全部白いやつ。
――つまり、キノコ由来の“鍵”を持っていれば、フェアリーリング自体は起動出来る、ということか。
でも、白いキノコで作られたフェアリーリングなんて初めて見たけど、まさに珍現象だな。フェアリーリング自体、見るのが初めてだけど。
しかし……気のせいか風が体に良く染み渡る。股間の圧迫感も無い……ぶらんぶらん……おぉ、何故にまた裸なんだよ?
キノコには裸が似合うって?
いいけどさ、次からパンツは同梱してね……俺、一応人間枠だし。
こんな姿、人に見られたら変態扱いされちまう。ささっとさっきの場所に戻ろう。
お頭のネックレスに……嘘っ! ネックレスが1つしかないっ! キトラのネックレスは受け取ったけど、お頭のネックレスはお頭が着けたままだった!
これはマズイ。この辺りにはキトラの店の関係者が居るだろう。キトラが戻らなくてキトラのネックレスを持ってる俺がここに居たら、俺がキトラを殺したと思われるだろ。
さてさて、どうしたものか。
◇
ゴーショー達の前からフッと姿を消したリークだが、彼の立っていた場所にバサッと着ていた服が落ちていった。
「キトラ、お前、あの変態に嘘を教えたな」
とニヤリと笑みを浮かべるお頭に、
「そうだ、アイツはどうも虫が好かん。荷物を持って移動するイメージを持たないと、あのネックレスしか動かせんからな」
と、キトラも笑みを浮かべたのだ。
「貴様ッ!」
キトラはもう一度強制的に気絶させられたのだ。
◇
「うーん、困った。どうしよう」
フェアリーリングの真ん中に立ち竦む。キトラのネックレスを何処かに隠してから、何も記憶が無い振りをして出ていくか、それとも別の手がないか探してみるか。
キノコの輪っかね……これがネットワークで他のフェアリーリングに繋がっているとしたら……試す価値はあるか。
「胞子力、放出」
フェアリーリングに胞子力をキラキラとばら蒔き、地面に両手を付ける。
「リングサーチ!」
要は他の場所に存在するフェアリーリングを探す訳ね。こんなので上手く行けば儲けものって感じでいたのだが、頭の中に何か網の目のように張り巡らされた何かが浮かぶ。その網の目のような物は白く、1ヶ所はピコピコと青色の丸が点滅、そしてもう1ヶ所は薄い紫色の丸がある。
これ、ひょっとしてフェアリーリングの繋がりを表してるんじゃない? 点滅が現在位置で、紫色が行ったことのある場所を示しているとかさ。
他にも白い丸が幾つかあるのでそこは行ったことのないフェアリーリングがある場所だと推察してみる。
それなら紫色の所に行けるかも知れない。その丸をタップして、移動っ!と念じてみる。
反応無し。
キノコのネックレスが必要なのかな? でも、それだと移動したい地点の数だけネックレスが必要になるぞ。検証のため、少し今いるリングの中から離れて移動を試みよう。人気の無い山の方に向かって暫く歩く。途中で見付けたキノコをパクり。味は良くないが、最後の刺激は癖になりそう。クチの中で弾けるお菓子みたいなヤツだ。
適度に歩いたかなって所で、
「胞子力、放出」
と不要かも知れないけどコマンドを唱えて、地面にキラキラを撒く。これでさっきの白いルートマップみたいな網目が開くとラッキーなんだけど。
「おっ、勝った」
予想通り頭の中に広がる網目には、2ヵ所の薄い紫色の丸、少しだけずれて点滅する青い丸。
白いキノコのスイッチは使わず、さっき居たリングの紫色をタップして魔力を流す。
シュパッ
「移動成功か。てことは、転移するにはキノコを持ってる必要がある訳だ」
この方法が分かっただけ儲けものだけど、さて、これからどうしよう。キトラを連れてゴーショーさん達がここに迎えに来てくれるのを待つのが正解かな。
と思っていたら、
「キャーっ!」
と悲鳴が聞こえた訳で……女の子と遭遇しちゃいました。案件発生……。




