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第35話 トミー無双

 リーク、ゴーショー元将軍達が山賊の潜んでいた洞穴へと向かった頃、森の中には街道に残されたトミーとフレック、エリオの3人、それと馬4頭が待機していた。


 馬の番は必要だが、それ以外には特にすることもない。せっかく楽しめると思って付いてきたのに、留守番を任されたフレック、エリオの2人は正直言うとガッカリしていた。

 だが、ゴーショー達がもし戦闘になったとしても到底負けるとは思えない。オレリア、ザレックもそこそこ強いが、老いたと言えゴーショーの強さに未だ彼らは及ばない。格が違うのだ。


 そのような絶対的な強さを覆すことが出来るのが異邦人の恐ろしさであるが、この時彼らは闇商人が来ていることを知らなかった。

 時間潰しにノックスで最強と目されるトミーと手合わせしてみよう、などと軽い気持ちで話を持ち掛ける。


「なぁ、トミー殿。時間があるので少し模擬戦をやってみないかい?」

「そうだな、アントウォーカーのトミー殿の力を見てみたい」


 2人はトミーの噂を聞いたことはあるが、実際には見たことがないので信じていないのだ。外見でもエルフとは分からないのだから仕方のないことではある。


 ちなみにアントウォーカーの二つ名は有名だが、ドラゴンパンチャーの方はほとんど知られていない。

 冒険者ギルドが出来る前、幼いドラゴン絡みで騒ぎがあったらしい――

 それを見た古参が、「トミーとは敵対するな」と誓った、という噂だけが残っている。


 それに対してアントウォーカー、つまり蟻の散歩はノックスの町の中で堂々行われたのだから有名になるのが当たり前。あまりの無意味な行為にも関わらず、真面目な顔で歩く様子が話題となったのだ。

 そちらの二つ名しか知らないフレックが先輩達の忠告を敢えて破ってみた。


「そうだね、じゃあ、私は武器を作るからちょっと待っててね、すぐだから」

「あ? あぁ、分かった」


 武器を作るとはどういうことだ?

 まさか古の錬金術師のように土から槍を作るのか?


 混乱する2人には構わず、トミーが近くに生えている楢の木、つまりオークの隣に立つと両腕を抱きつくように回し、

「フンっ!」

と力を入れる。すると生木にも関わらず、直径50センチほどの木がボキッと折れたのである。


「――あ、これ、冗談で済む相手じゃない」

「ドラゴンの……尾を踏んだかも――」


 人間技とは思えない怪力だけじゃない、この人はこっちが判断する暇さえ与えてくれないタイプだと理解し、顔を見合せて左右に振る。


 だがトミーはそんな2人には目もくれず、ナイフを取り出すと幹を丁度良い長さに切断、皮を剥いで呪文を唱え、ナイフで加工する。木を折り倒してから30分も経たぬうちに、綺麗な木剣を完成させた。

 出来を確認するようにビュッと風を切る音を立てて3度素振りし、地面にうっすらと切りつけたような跡を残したトミーが納得言ったように頷く。


「さぁ、私の武器が出来たよ。待たせたかしら?」


 見た目以上の怪力だけでない、理解不能の製作過程、人間離れした剣速……これらを目の当たりにした2人は、軽い気持ちで話を振ったことを既に後悔し始めていた。


「いや、俺達の剣は鋼のだから木の剣じゃ打ち合えないしさ。なっ、またいつかやろうな」


 模擬戦を申し込んだ側が撤回する訳にも行かず、しかし相手をすれば怪我は確実、2人は冷や汗を流す。

 だが、

「魔力を通すと折れにくくなるから大丈夫だよ。

 折れてもまた作れば良いし。武器持ち込み禁止の場所で作業するには、こう言う技能も必要だから慣れてるのよ」

と、トミーは何も問題は無いと2人の申し出を断る。


「私も長いこと体を動かしてなかったから、声を掛けてもらって丁度良かったわ。最近、誰も稽古に付き合ってくれないもの。

 ――あ、怪我しても責任は取らないけど、いいよね?」

と無邪気に声を掛けられたのだ。


 あぁ、ダメだ、話の通じないタイプだ――と、フレックは己の迂闊さを呪い、エリオは模擬戦ではなく害意無き暴力の押し付けだ、と戦慄する。誰だよ、この人にアントウォーカーなんて二つ名を付けた馬鹿は!


「トミーさん、俺達にもその木剣を作って欲しい」

と、エリオが理由を付けて時間を稼ごうとする。

 ゴーショー達が戻ってくれば、そこで有耶無耶で終わらせると、甘い期待を抱いたのだ。


 しかし、ここで2人にとっては意外な救世主が近付いてきたのだ。


「おや? 何か来るみたいね、でも強そうな子は……居ないね」

「強そうなのが居ないって……?」

「嫌な予感しかしない言い方だな、それ」


 トミーには正体が分かったらしいが、まだ2人には確認出来ない。

 ここは街道だから人の往来があるのは当たり前。暫くすると、トール領方面からトミーの言う何かがドスンドスンと大きな足音を響かせ、ゴロゴロと何かが転がる音を立て、ガヤガヤと騒ぎながらって来る。


「珍しいわね、ここで魔物の群れが出てくるなんてね」


 フレックとエリオの目に、豚と人間を混ぜたような姿のオークの群れ、それを率いる2体の大型人種のオーガ、奥にはオーガに指令を出す立場なのか更に大きなオーガが豚人力車に乗っているのだ。


「……いや、強い弱いの話をしてる時点でおかしいと思ったんだ」


 このままこの群れを通すと村に被害が出ることが想定される。ここで迎撃するしかないと軍人であるフレックとエリオは判断する。


「大量発生で行進してるんじゃないみたいだね。

 これなら私は奥のトンリキ車のオーガを相手にするから、残りは君たちに任せるね。

 死なない程度には加減するから大丈夫」


 トミーはそう言って返事を待たずに群れに突入する。

 

 死なない程度に加減って、オーガのこと?

 それとも俺達の方?


 理解に苦しむ2人のことなど意に介せず、先頭を歩くオーガが放った拳をトミーが振った木剣で止めた。

 それを見た2人は、トミーが何に対して加減するのかやっと悟った。


「君、肉ばかり食べてないで、もっと魚を食べなきゃ駄目だよ」


 次の瞬間、オーガは呻き声を上げて地面に崩れ落ちていた。

 何が起きたのか、フレック達には分からなかった。


 もう1体のオーガが雄叫びを上げると、オーク達がトミーを取り囲む。


「悪い子には再教育が必要ね」


 次の瞬間にはトミーの周りに地面に転がる何かしか残っていなかった。


「……教育、ってそういう意味か」

「聞くやつが居なけりゃ……教える意味が……」


 そこでようやく二人は理解した。


「じゃあ、私はボスと遊んでくる」

とトミーが言うなり、恐怖で立ち竦んでいた手近なオークの頭を足場にジャンプした。

 フレックとエリオはトミーが群れのボスを倒すことにに何の疑問を持たず、戦意を失くした残党処理に入った。


「君が何故出てきたのかは知らないけど、素直にお家に帰ってもらおう。断るなら別の行き先を用意するからね」


 トミーは木剣の切っ先をオーガのボスに向けてそう宣言するが、オーガには人間の言葉は理解が出来ない。怒りの唸り声を上げると、巨大な棍棒を手にトミーの前に立ちはだかる。


「何でも大きければ良いってものじゃないのよ。

 本気でやるなら、こんな感じでね」


 トミーの声は、驚くほど穏やかだった。

 だが、周囲の木々がざわつくように揺れ始める。

 オーガボスが棍棒を振り上げた瞬間、半月状の光が走り、巨大な影が崩れ落ちる。

 その一撃で役目を終えたように木剣は刀身を失った。


「もう少し手応えがあると良かったのに」


 残った木剣の柄をポイッと捨て、残念そうにそう呟くトミーに対し、指揮も命令もないまま戦場を片付けるような人が一番扱いづらいんだ、と軍人の2人は戦闘終了後にそう評価する。


「じゃあ、私はもう1本木剣作るから、2人はお肉の回収をお願いね」

と、トミーが言うとナイフを片手にまた木材を加工を始めようとする。


「トミー様! 馬鹿にして申し訳ございませんでしたっ!」


 この後、街道で美少女に泣きながら土下座する男性二人の姿が目撃された、という噂が立った。

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