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第34話 元海賊の現状と金色の魔物の最後

バッカニアのギルドマスターとサブマスターの会話、ゴールドバイソン討伐、白鷲と海蛇の会話の3場面です。

 ナブロン大草原から白鷲と海蛇の4人が戻ってきたことは、その日のうちにバッカニアのギルドマスターに知れることとなった。

 だが、まだこの時にはゴールドバイソンの群れは現れておらず、宝剣の捜索に出ていたと思われる4人の帰還が予想より早いことに不信感をもつものの、まさか派遣した2人が既に死亡しているなどとは思いもしなかった。


 それだけ冒険者の格とは絶対的なものである。それ故に見た目に貧弱に見えるリークに対して、クニンキンとカシガの2人が大きく油断したのは仕方がないことだとも言えるだろう。


「ナブロン大草原をたったの4人で探せってのがどだい無理な話なんだが」

「そこは私に言われても。王家の恥を晒すことになるので、大規模な捜索活動をすることも出来ませんよ」

「フンッ、見栄や維持でしか物事が判断出来んとは情けない国王様だ。そんな弱腰を言ってると、強硬派に足元を掬われるかもな」

「掬われるの足ですよ。シャベルで土ごと掬うわけじゃないですからね」


 最近ギルドマスターの補佐を勤めることになったサブマスターが、細かな言い間違いを指摘する。


「そんなことはどうでも良いんだよ。

 それよりもお前はこのギルドをもっと強くすることを一番に考えろや。

 正直、海で暴れていた頃程は稼げてなくてな、ちょいともの足りねぇ気分なんだ」

「国からの援助を増やしたいのはわかりますがね、人を増やすにはアパートも増やさないといけませんよ。

 その辺、白鷲、海蛇、他にも黒馬、茶虎はしっかりと運営しています」

「……オイ、コラ、俺が無能だから人が集まらねぇって言いたいのか?

 冒険者が宿に泊まるから地域経済が上手く回ってんだろうがよ」

「……ノックスの人口約1万5千の内、冒険者は僅か約数百です。冒険者が地域経済を回していると言うのは大袈裟に過ぎます。

 しかもバッカニアに限って言えば、メンバーの中で高級宿を使えるような者は7名ですよ、知った単語を無理して使おうとしないで下さい」


 ギルドマスターに対してなかなか辛辣な物言いのサブマスターであるが、これぐらい言っても首にはされないとの打算があってのことだ。


 と言うのも、先代のサブマスターが偶然ギルドの預金に手を出したことがバレたためにクビとなり、その後暫くサブマスターが不在の状況が続く。

 その間に元海賊であったギルド立ち上げ時のメンバーの半数が海に戻ると言う出来事があって、バッカニアの国内最大手の看板が虚像となってしまったのだ。


「宝剣の件にしても、王都組の遣り方は危険過ぎます。宝物庫管理の者の親に借金を背負わせたなどと知られれば、バッカニアそのものが潰されますよ」

「だからバレないように何とか子爵ってのを使ってんだろ」

「そのガレンバーン子爵が追求を躱すことが出来なかった場合、どうなることやら」


 このままでは本気でバッカニア崩壊の危機に直面するだろうと危惧するサブマスターと、困ったことになれば貴族の誰かに泣き付けば何とかなると考える能天気なギルドマスターである。



 オンファルト山でゴーショー達が闇商人に身をやつしている転生者と対峙している頃、ノックス領主軍がゴールドバイソン討伐のため町を出る。

 宝剣を無断で持ち出し、1人で戦いを挑んだ第二王子の敵討ちである。


 今回の出陣で鍵となるのは長弓部隊であり、その補佐を強固な鎧に身を包み大きな盾を持つ部隊、それと長槍を持つ隊部が勤める。


 長槍隊は槍の他に石を遠くまで投げるスリングスタッフ、またはスリングも装備している。基本的に接近戦は挑まず、徹底的に遠距離攻撃でダメージを与える腹積もりであることが見て取れる。


 いかに大きな盾を持とうが、頑丈な鎧を着こもうが、バイソン系魔物の突進を生身の人間が止めることなど普通であれば不可能である。

 ただ、冒険者に格があるように兵士、騎士にも格があり、格が上がるたびに人間離れを起こしていく。そんな格の高い者が重装備を調え、バイソンの突進から仲間を守る役目に就く。


 軍の中にも魔法師が何人か在籍している。

 魔法の有効射程は短いが威力は大きい、しかし連射不可能なので使い勝手が悪く、魔法師の出番は少ない。今回は数の暴力が必要となるので、射程に入れば魔法を撃つと言う運用が取られることとなった。


 ナブロン大草原に現れたゴールドバイソンは一頭。

だが、それは野生の群れを率いる個体であり、討伐対象としては最悪に近かった。

 領主軍は正面衝突を避け、戦域を選び、罠を張った。

 勝敗は、戦いが始まる前にほぼ決していた。


 長弓隊の斉射が合図となり、群れは誘導される。穴に足を取られ、炎に追い立てられ、数を減らす。

 ただ一頭、炎を突き抜けてくる存在があった。

 ゴールドバイソンである。

 燃え上がる地を踏みしめながら突進したが、掘られた溝に前脚を取られ、巨体は崩れ落ちた。

 重装の盾兵が壁を作り、左右から長槍が突き立てられる。

 数の暴力だった。


 最後に一度だけ吼え、ゴールドバイソンは地に伏せた。


 戦いはそれで終わった。

 残ったのは、焼け焦げた草原と、使い物にならなくなったバイソンの皮、そして――

 偶然発見されたことになる宝剣である。


 その額には剣で付けられた新しい傷跡が残っていた。

 死んだ者のみ美化される。人々にはこう伝えられた。

 第二王子はゴールドバイソンに1人戦いを挑み、逃げずに額に一太刀浴びせた強者でもあったと。

 それが真実であったかどうかなど、誰にも重要ではない。

 第二王子は「我が儘で無謀な若者」から「立ち向かった王族」へと評価を改められることになる。


 偶然なのか、踏みつけられ原型を残していない金属鎧が戦場の近くで発見されたことも、その茶番劇を真実とする役目を果たしたのだ。


 こうして公には彼ら領主軍が宝剣を発見し、持ち帰ったこととなり、白鷲、海蛇、そしてリークの考えていた穴だらけの擬装工作は実施されずに済んだのだ。

 めでたしめでたし……?



「リーク、怒ってないかな?」

「ゴーショーが居たんじゃ仕方ない……」


 ここは白鷲の所属メンバーが住むアイリス寮の最上階にあるビップルーム。草原から戻った2日後、後処理を済ませたケーンがあの時のことを思い出した。


 リークの作った白いソリのお陰で、コヨーテの頭は途中までは順調に運ぶことが出来た。だが、ノックスの町までもう少しのところでブラン何とかの数本が壊れた。


「これ、もう寿命みたいだな」

「そうだな。頭を包んでいた方は先に消えたから、時間の制限があるんだろ」


 彼らはリークから3個の頭を渡されており、それを剥き出しのまま担いで歩く姿を想像して顔をしかめる。

 1つだけなら両手で支えられるのでまだ良い。2つとなると、左右の手に頭を1つずつ持つことになる。どこを持つ? 赤い肉の見える首側は問題外。それならクチだが、安定して持つにはクチを開けて……何の罰ゲームだ?

 推定約3キロの頭を左右に持つケーン。他の3人は自分じゃなくて良かったと心底ホッとしたが、この後に城門に立つゴーショーを見てゾッと、に変わるのだ。


 運良く町から出てきた海蛇ギルドの荷馬車が彼らと鉢合わせした。頭を手で持っていることを訝りながらも、大きな革袋を荷物から出して渡したので罰ゲームはそこで終了。歩くこと半時間ほどで到着する。 


「冒険者か」

と、ゴーショーが無表情で4人を見る。


「そうです……何故、ゴーショー将軍がここに?」

「引退してから暇での。たまにはこう言う仕事をせんと呆けていかん」


 4人を代表してケーンがそう質問すると、真顔で冗談を言う。彼の隣に立つ若い門番が渡された革袋を開け、コヨーテと目が合ったのか悲鳴を上げて尻餅をつく。

 詰所から何があったのかと、ラドが出てきて理由を聞くと後輩の頭をコツン。外の焼却炉で燃やすよう指示を出して仕事を交代した。


「ところで、白いソリを引いた4人組を見たと言う情報があるが」


 剣の扱いは口裏あわせをしたが、こっちはシナリオを考えていなかったと後悔する4人組だった。




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