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第32話 キノコ召喚

 どうしてここに、たくさんある荷物のことに疑問を持たなかったかは置いておこう。お頭に連れられてここに来た時は、それどころではなかったんだし。

 商人から奪った荷物の仮置き場らしいが、荷馬車も通れない場所を倉庫にするのは不自然だった。


「お頭でもそこの商人でもいいから素直に吐きな。荷物をどうやってここに運んだ?」


 男はここで震えが止まった。そしてゆっくりと振り返る。その手が何かを操作する仕草を取るが、そこには空気しかない……本当に? 男の目は何かを追うように動き、そしてニヤリと笑った。


「何かする――」


 俺の問い掛けは既に遅く、

「ぶっつけ本番! 切り札召喚っ! 最強の戦士よ! 破壊の天使デストロイングエンジェルっ! 奴らを殺せ!」

と男が叫んだのだ。


 男の右手に淡い黄色の光が集まる様は神秘的でもあり、叫びの内容とは正反対のようにも思える。誰も戦士が天使なことを突っ込まない。それどころか、

「マズイっ!」

「異能の持ち主か!」


 そう叫んだゴーショーさん達に緊張の色が走る。

 だが、男の手から光が消えた時に残ったのは、叫びに似つかわしくもない白く美しいキノコが1本だけだった。


「……何だよ、これは!」

と喚く男に皆が首を振る。


「白いキノコ……最強の……そいつはドク……ツル……タケだな」


 どうやらこの男、キノコを召喚する能力を持っているらしい。しかも俺の魔胞子と違って自分の知らないキノコが対象に含まれるのか?

 なんとも羨ましい。俺とタッグを組めば、俺って最強じゃね?


「なんでキノコが出てくるんだよ! おかしいだろ!

 俺を守る戦士が出てくるんじゃないのかよ! こんなのスキル詐欺だ!」


 あれ? キノコが出てきたのは本人の意思じゃないのか。どうもコイツも訳有りらしいな。キノコは至高の嗜好品なのに。


「異邦人法第8条に乗っとり、殺人の意思を確認、強制執行を――」


 ゴーショーさんが商人に短剣を突き刺そうとした瞬間、ドクツルタケが巨大化してゴーショーさんを笠でブロックした。


「プヘッ! ウっ! 邪魔だ!」

「ゴーショーさん! ソイツはクチに入れたらダメだ」


 俺の言葉を聞くまでもないと思うが、慌ててペッと唾を吐く。ただのドクツルタケならともかく、このサイズは別物だ。ヤバい。


「狭い場所は不利だ、外に出よう」


 外に出ても入り口の前が広場になっている訳ではないが、もし胞子をばら蒔かれ場合にはこの洞穴の中より被害が少ないだろう。


「それには及ばんよ」


 ゴーショーさん、それにオレリアさんとザレックさんの短剣とナイフがあっと言う間に大きなドクツルタケを小間切れに変えていく。


「ッチッ! 使えない奴め!」


 商人がそう吐き捨てると、また宙に視線をやり俺達には見えない画面を撫でるような動作を始める。


「ブラール!」


 男に向けて伸ばした手から、正しくは薬指から白く細い糸がニョキニョキと伸びていく。残念ながら、この技には某蜘蛛男の糸みたいな発射速度は無いらしい。


 だが、男の意識はゴーショーさん達から俺に向かった。隙が出来ればそれで良い、誰かの武器が男に届く筈!

 だが、ここでドクツルタケの残骸のそれぞれが形を元のキノコと化していく。サイズこそ召喚された時の物と変わらないが、無数のドクツルタケが洞穴に散らばったのだ。


 ここでまた巨大化されたら全員が白くキノコに押し潰される! 今度は数が多いせいか、ゆっくりと巨大化していくドクツルタケ達。このままだと闇商人自身も巻き添えを食うと思うが、そこまで考えていないのか、それとも何か回避する策があるのか?


 白いキノコに押されて徐々に俺は出口に向かって追い出されていくが、ゴーショーさん達は白い壁となるドクツルタケに押し潰されていく。切ってもまた増えていくだけだろう。


「くそっ! てめぇ、それ以上おかしな真似をするんじゃねぇ!」


 お頭の怒号、そして直後に何かを殴ったような音が不気味に響く。白いキノコが壁となって音を吸収させたのだろう。


 それから暫くして、ドクツルタケ達が一つずつ消えていき、床に気絶したのか闇商人が倒れていた。

 これで命は助かったとひと安心。闇商人には色々と聞きたいことがあるが、それはゴーショーさん達の仕事になる。


「ゲフッ」


 突然ゴーショーさんが胸を抑えて吐き出し、倒れそうになったところでお供の二人が慌てて支えた。

 闇商人のドクツルタケが胃に入ったのか、それとも胞子の影響なのか。ゴーショーさん程の症状ではないが、他の人達も次々と異常を訴え始めて吐いたりうずくまったり。


 俺には全く症状が無いのは俺が元キノコだからだろうか。俺のことはどうでも良くて、ゴーショーさん達が食中毒ならすぐに対処をせねば。

 胃洗浄はともかく、解毒薬……そんなものが効くのか? もっと効きそうな薬が1つぐらいあるだろ!

 毒に抗う物質とか、菌由来の薬とか!

 だがそんなものは持っていない……いや、俺はキノコ人間なんだから、キノコの毒ぐらい中和させる力があってもいいだろ。


 そうだよ、これはお願いなんかじゃない! 権利だ! 認められないなら、傲慢と言われようが俺は神を滅ばす力を求めるからなっ!


 どこのどいつが俺をキノコにしたのか知らないが、俺に滅ばされるか、それとも滅ばされないように俺の力をアップデートするか、さっさと決めろっ!

 どうせ上司がウッカリ神の尻拭いをするんだろ。


 待っている時間も勿体ない。俺の中の全菌経を研ぎ澄ませ、手に魔胞子が充分集まったと思うところで一番重態のゴーショーさんの背中に手を添える。


「そっちが破壊の天使なら、ぶっつけ本番、『茸毒中和(マシュポンクリア)』!」


 キノコの毒に対抗するにはキノコの毒だ。ゴーショーさんの体内のキノコ毒を、俺が送り込んだ魔胞子で攻撃する。そんなイメージだが上手く行くか?

 もし失敗してゴーショーさんが死ぬようなことになれば、俺はティリーちゃんに責められるかな? 怖い顔して孫には甘いジイジを失くすにはあの子はまだ幼すぎる。頼むから生き延びてくれ!


 暫くすると魔胞子がゴーショーさんの全身に行き渡ったのか、荒かった呼吸が少し落ち着いてくる。これだけでは治ったとは言えそうにないが、生命の危機は脱しただろう。

 オレリアさん、ザレックさん、それとお頭達にも茸毒中和を掛けておく。


「おい、こらっ! ヘボ商人、起きろっ!」


 コイツはドクツルタケなんて素敵なキノコを召喚出きるんだから、他のキノコも召喚出来るに違いない。

 揺すっても起きないなら仕方ない、闇商人にホコリタケの胞子を吸わせて、むせさせる。


 ゲホッ! ゴホッ! くっ! ゥヴェっ!


 ひとしきりむせたせいで闇商人が目を醒ますと、すかさず喉元にナイフを突き付ける。


「おい、死にたくなけりゃ、キノコの毒の中和が出来るもんをさっさと出せや」

「ひっ! ば、ばか、やめろ!」


 俺は答えずナイフを喉元から引き戻す。

 そして目を閉じ、呼吸を整えるような間を作った。

 切っ先を再び喉元に向けると、今度は肌には触れぬ距離を保ったまま、ゆっくりと下へ滑らせる。

 切られた痛みの想像がつくだろう。


「俺が今、どこまで考えたか――

 それを口に出させるな。まだ戻れるうちに出せ」


 ゴーショーはまだぼやける視界にその様子を映していた。

 リークの脅しは鋭い。だが、踏み越えてはいない。

 あくまで“選択肢”として突きつけている。


(……越える覚悟はあるが、越え方を選ぶ)


 身体はまだ重く、意識も完全ではない。それでも、この男の一挙一動は見逃さなかった。

 怒ってはいるが、勢い任せではない。自分が踏み越えてはいけない一線を、理解したまま動いている。


(境界線を知っている。だからこそ、まだ扱える)


 そう結論づけ、ゴーショーは口を挟まなかった。


「そんなの出来ないよ! 破壊の天使だってさっき初めて出したんだぞ」

「なら中和出来るキノコだって初めて出せるって理屈だろうが。やらなきゃ男じゃなくなるぜ」

「待て待てっ! 俺の能力はもうこれ以上増やせない!

 鑑定、収納、『切り札召喚』、もうダメなんだよ」


 コイツ、能力が3つ貰えて3つ目は現地で決められるパターンだったのか。てことは、俺も1つは人間になることを選んだから後2つ? 茸毒中和はノーカンだよ、ノーカン。


 しかし『切り札召喚』とは神様も大盤振る舞いしてくれたじゃないか。コイツが状況に応じて適したと思う切り札が召喚出来るってことなら、死にかけたジイジを助ける切り札を召喚する事も可能と思わせれば済む話だ。

 回数制限やクールタイムがあるかも知れないが、出来ないなら俺は迷わずこの男を殺せる。


「やらずに出来ないなんて甘えた言葉は聞きたくないね。

 お前が助かる方法はただ1つ、キノコの毒で弱った人間を治せる手段を召喚する事だ。これだって立派な切り札だろうが。悟れや」

「でも……」

「デモもストも躊躇もねぇんだよっ!

 生きるか死ぬかだッ! さっさとやれ!」


 ブランフラジールでロープを作り、男の首にくるりと巻き付ける。


「ソイツは俺の意思で自由に動かせる特別製でな。ヤレ! と思えばキュッ」


 軽く首を絞めてからすぐに緩めてやる。


「能力ってのはこうやって使うんだよ。分かったらサッサとやれ。急げよ、俺は今から少しずつソイツを締めるからな」


 切り札として自爆覚悟の広範囲攻撃魔法を使われては堪らないが、コイツもビビりみたいだし、そんな勇気は無いだろう。


「わかったよ! やればいいんだろ! ちくしょーっ、切り札召喚っ! 霊薬『芝菌(ガノダーマルーシダム)』、かの者を癒やしやがれ!」


 闇商人の手から生まれた霊芝? みたいなキノコがポトリとゴーショーさん上に落ちる。


「それだけじゃダメだな」

「分かってるよ、でも自分じゃコイツの制御は出来できねぇんだよ!」

「やれ! 出来ねぇなんて言ってる間に何とかしろ、でないとドクツルタケをお前のケツにぶちこんでやる!」

「お前が一番悪党だろっ!」


 そんなこと言われて、思わずキュッと絞めても俺は悪くないだろ?


 それから少しして、大きくなった霊芝がサラサラと崩壊して薄茶色の粉末となったかと思うと、ゴーショーさんのクチから吸い込まれいった。

 外見上での体積的にあり得ないけど、それが効果を発揮したのかすくっと体を起こしたゴーショーさんを目にして深く考えないことにした。

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