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第31話 再び洞穴へ

 ゴーショー元将軍のお屋敷で夕食を戴くことになった。幸いトミーさんも来てくれたのだけど、この人は人間の偉い人でも態度を変えないから参考にならないんだよね。エルフって怖いもの知らずで羨ましいよ。


 ゴーショーさんは貴族の階級で言えば男爵級で、この屋敷の実質的な当主は息子のトライツ子爵。ティリーちゃんのお父様だね。

 トライツ子爵は子供には恵まれている。お父さんが将軍だったけどトライツさんには武の才能がなかったせいで子供に期待しているらしい。それで、ティリーちゃんがお転婆に……とても活発な子に育ったのだ。

 子爵の奥様は絵に描いたような美女で、遺伝が良い仕事をしたのだと再度実感させられた。


 子爵夫妻と子供達とはあまり顔を会わせることもなく、ゴーショーさんの個人的なお客様って扱いだった。そりゃ確かに子爵に呼ばれて来た訳ではないからね。

 でも夜中に枕を持ったティリーちゃんが俺の居る客室に来たので困った困った。魔胞子で眠らせて事なきを得たけど。


 翌朝、早い時間にゴーショーさんに叩き起こされた。外で食べる朝食を持たされて厩舎へ連れていかれる。トミーさんが操る馬にタンデムしろってことらしい。馬に乗る前に昨日連れて来た6匹の様子を見ると、穴を掘って楽しそうに遊んでたけど俺に気が付くと前肢を上げて挨拶してくれた。

 そのうち黄色いヘルメットをプレゼントしようかな。


 それから厩舎で馬に乗る。初めてなのでかなり怖い。前に乗るトミーさんの後ろから抱き付くしかない。確か馬って前の方が揺れが少なくてお客様は前に乗るんじゃ? でも背の高い方が後ろじゃないと操作する人が前が見えないのか。俺の方がトミーさんより少し背が高いからそれで納得しよう。


 町の中はゆっくりゆっくり。まだ早朝なので人通りはかなり少ないものの、油断して飛び出してきた人にぶつかるのはマズイもんね。

 城門で一度馬から降りてカードを見せるかと思えば、話が通っているようでスルーパスだった。ゴーショーさんが居るからかな?


 ただ、初めて見る顔の門番さんに、

「どちらに向かわれます?」

と質問された。普段は聞かないのか、

「オンファルト山方面だが、何かあるのか?」

とゴーショーさんが逆に質問する。


「はい、ナブロン大草原方面でゴールドバイソン率いる群れが出現し、危険地帯となっております」

「ほぉ……それは狩りがいのある獲物だな」

「ゴーショー君、寄り道はダメだよ。先にやることやらなきゃね」

「……分かった」


 何か知らないけど、ゴーショーさんがとても行きたそうな感じになってる。ゴールドバイソンって言ったか? バイソンってバッファローみたいな大きな牛だよね?


「ナブロン大草原方面って、昨日までリー君が行ってた場所だよ。リー君、バイソン見てない?」

「見てないよ。そんなの居たらすぐ逃げたし」

「じゃあ、リー君が出てから移動してきたんだね。ゴールドバイソンってかなり強い魔物だから、手を出したら噛まれるからね」


 牛系統の動物って手を噛むのかな? 魔物だから性格が違うのかも。


「リーク、トミー殿の言うことを真に受けるなよ。そう見えてノックスで一番強いおん……男だからな」

「もう、ゴーショー君ったら大袈裟なんだから。私、そんなに強くないからね。ほら、この腕見てよ」


 袖をまくって二の腕を見せるトミーさん、確かに腕は細いけどドラゴンをしばいて引きずるって聞いたからね。エルフって種族は見た目と強さは比例しないのだと改めて認識させられた。

 でも見た目がどう見ても女性だから、ゴーショーさんも間違えるんだね。


 そんなイベントがあった後、ノックスの町から出て少し走ったところで騎乗して待機していた4人と合流する。どうやらゴーショーさんの友達らしい。山賊に会いに行きたい友達って、なんか血の気が多くない?


 馬から見ると視界が全然違うし、そもそも初めて反対方向に進むのだから見覚えがない景色が暫く続く。辛うじて村に続く看板が幾つかあって、そんなのがあったよなぁって何とか記憶を掘り返す。


 暫く進むと次第と道の左右に木が増えていく。そうそう、こんな感じだと思ったな。ここから進むに連れて森が深くなっていくから、いつ襲われるかって警戒しなきゃならない。

 襲われる前提で道を進むって経験は初めてだから、ミートさんに捕まっているだけなのに凄く疲れる。それにお尻も痛い。なのでこっそりお尻の下に緩衝材としてふかふかのキノコを大量に生やす。降りる時に消すのを忘れないようにしないとね。


 森の道を思い出すために馬の歩みを緩めてもらう。でも何処もかしこも似たような景色ばかりが続く。


「初めて通った道が森の中だからなぁ、何か手掛かりになるような物って無いよ」

と諦め掛けた時だ、視界に面白いキノコが目に入った。


「あった、チシオタケ! 血みたいなものが出るヤツ!」

「どこっ?」


 俺のキノコ眼にはくっきりと映っているのだが、トミーさんのエルフアイには面白キノコが見えないらしい。白っぽい傘の下にかわいいフリルみたいな物が付いているのが見た目の特徴で、これで遊びながら歩いて来たからね。


「ここから尾根に向かって進んだらアジトに着くと思う。他のルートもあるかも知れないけど」

「そうか、それなら儂、リーク、オレリア、ザレックの4人で向かおう。トミー殿、フレック、エリオは馬を見ていてくれ。

 もし山賊の仲間が来るようなら容赦はしなくても良いが、1人は生け捕りで頼むぞ」


 ひょっとしてゴーショーさんって定年退職してから暇を持て余してて暴れ足りないのかな? 警戒しているだろう山賊を探しに行くなんて、とても危険な行為だと思うんだけど。


「将軍、トミー殿が危険では?」

と言ったのは居残り組のフレックさん。トミーさんは1人で依頼をこなしてるから、サバイバル術や戦闘に長けていると思うんだけど。だってエルフだし。


「フフン、お前ら2人よりトミー君1人の方が強いに決まっておる。この見た目で騙されるのは仕方ないがな」

「褒めてもダメよ」


 意外と嬉しそうなトミーさんだ。褒められ馴れていないとか?


「では行くか。全員無事に合流出来るようにな」

「はいっ!」


 合流してきた4人が声を合わせて答える。どちらも如何にも言い慣れた感じ。


「リー君、もし山賊に会っても甘やかしたらダメだからね」

「そんな余裕は無いと思うよ」


 俺だって今度は覚悟を決めて来てるんだし。

 

「あ、ここに人が通った跡が在りますね。ここで間違いないでしょう」

「うむ、では行くぞ」


 ゴーショーさんが先陣を切るのかと思ったら、跡を見付けたオレリアさんが先頭を行くようだ。適材適所の布陣なのかな。


「あっ!」

「居たのか?」

「タマゴタケ見っけ。採ってくるね」


 さっと隊列から離れてタマゴタケをゲット。幸先が良いね。今夜はキノコ鍋にしようか。


「その赤いキノコが食えるのか?

 どう考えても毒キノコじゃろ」

「いやいや、見た目で判断したらダメって、さっきトミーさんを使って教えたばかりでしょ」


 ゴーショーさんが俺の手にある赤色のタマゴタケを怪しそうな目で見る。手ぶらで山に行くのは勿体ないからと、革の肩掛け鞄を借りてて良かった。


 それから普通の人でも食べられるキノコと俺が好きなキノコを探しながら坂道を登る。進むこと1時間と少しか。横穴がある岩の斜面に到着した。


「えーと、この辺りの筈」

「確かに足で踏んだ跡が複数在りますね」

と、山賊達が居たら困るので小声で話す。とっくに移動して中には誰も居ないと思うけど。

 それより俺もオレリアさんにそっち方面の技術を教えてもらおうかな。便利屋やるのに使えそう。


「あっ、そこ! 緑光茸が在るところ、パコって外せるようになってる。奥は洞穴が続いてて、この岩山の向こうに出られる」

「ザレック、パコっと頼む」

「了解、パコっ!」


 ゴーショーさんが短剣を構え、ザレックさんが擬装した扉をパコっと外す。

 もし山賊が隠れていれば、攻撃を受けたかも知れないと言うのにゴーショーさんって……怖いもの知らずの男前!

 開けてすぐの所には誰も居なかったが、奥に灯りが点いていて、しかも話し声が聞こえる。


「誰か来たか?」


 聞き覚えのあるお頭の声でも手下の声でもない。闇商人の仲間だな……と俺が呑気に考えてから、同行者3人の動きが早かった。

 凄い勢いでゴーショーさんが短剣を突き出して有無を言わさず1人を倒すと迷わず奥に突撃。

 オレリアさん、ザレックさんも大振りなナイフで後に続くと打ち合う音は無く、誰かの悲鳴が何回か聞こえただけだった。それもすぐに終演を迎えた。


「リーク、来てくれ」

とゴーショーさんに呼ばれて奥に進むと、荷物と死に立てほやほやの遺体と壁を向いている4人の姿があった。3人には見覚えがあり、1人は初めて見るが恐らく商人だろう。


「リーク、お頭はこの中に居るかね?」

「はい、左から二番目……お頭、こっち向いて」


 ゆっくりとお頭が振り返る。


「まだここに居たんだ」


 出来れば会わずに済ませたかったのに、どうしてまだ居たんだよ。


「……もう味方を作って来たのか。ここを出ていって何日目だ?」

「思い出そうか? ここを出て行った日に草原で1泊目。

 次の日にジリスを見付けて2泊目。

 ノックスに戻ってゴーショーさんの屋敷で3泊目。

 で、朝イチに出てきて今に至る」


 俺が出て行った後にすぐにお頭達がここから動いていれば、もう会うことは無かったのに。なんだろうね、この、盛り上りの無さは。俺の活躍する場面が全く無かったぞ。


「そっちの2人、ロンとヤスだな?」

「はい、そうです。2人ともこっち向いて」


 素直に指示に従う2人。


「もう良いよ、顔確認したから壁を向いて」

「俺らには何か無いんかい!」

「うん、特に無いよ」


 2人には何かしてもらった記憶も無いし。どうでも良いかな。


「最後にお前、奴隷を扱う闇業者で間違いないな?」


 闇業者は振り向くこともなく、そして何も語らない。ただガタガタと震えるだけだ。


「まぁ、良い。嫌でも喋りたくなる方法を試すだけだ」


 きっと具体的には聞きたくない内容だろうね。意地張らないでさっさとゲロっちゃいなよ。


「で、お頭はどうしてまだここに居たの? すぐに動くと思ってたのに」

と聞くとお頭が闇商人を指差して、

「コイツが牡蠣を生で食って腹を下したせいだ!」

と怒鳴った。

 なるほど、闇商人のせいで3日のロスになった訳か。それはツイてない。


「しかし、これだけの荷物をどうやって運ぶつもりだ?」

とゴーショーさんが大量の荷物を指差す。俺が居た時から木箱が増えている。山賊達の食料を運んで来たのかな? でも取引が終わればここから移動する予定の筈だから、ここで荷物を出す必要は無い。


 それにどうやってこの荷物を運んで来た?

 街道からここまでは獣道みたいな道しか通っていないと思う。とても嵩張る木箱を担いで通れるような道ではない。

 お頭達も馬車を襲ってここまで荷物を運んだ時もかなり苦労した筈。


「ここに来る別ルートがあるか、運搬に特化した魔法かスキルか道具があるんだね?」


 外に道が無さそうだから、自然とそう言う結論になる。俺もどれか1つ欲しいよ。

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