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第30話 天気は都合で変わるもの

「コンコーン、ゴーショー君、リー君を連れて来たよ」


 トミーさんの傍若無人振りが凄い。少しは権力を気にしようよ。


「お、呼び立ててすまんな」

「いえいえ、一市民としてしかたな……当然ですから」

「……そうだな。

 トミー殿から聞いたと思うが君の能力や、他に開示出来る情報を聞かせてくれんか」


 ニコニコまでいかないが、穏やかな笑みを浮かべている。

 すぐにどうこうするつもりはなさそうだけど、トミーさんが隣に座って嬉しそうに何かのナッツを握って殻を割ってる。纏めて外して食べたいよね。


「欲しいの? 自分で割るなら食べていいから」


 緊張を解す意味で1つだけ手に取りにぎにぎ。まるで割れる気配を感じない。


「残念、それ外れだね。ハズレのは割れにくいんだよ」


 うん、もう分かってる。アントウォーカーって隠れ蓑にしてるってこと。


「儂は2個いける」


 ゴーショーさんがマカダミア?ナッツを2個握ってフンッ! バキッ!

 それ、下手なこと言ったらお前の頭がこうなるからな……って脅しだよね?


「なら、私は3個……あ、持てないわ。

 だったら指3本で」

「儂は2本で――」

「1本」

「ぐぬぬ」


 ――ここには俺以外まともな人間が居ないと判明。ナッツはこの後皆で美味しく頂く予定。


「2人とも脱線してないで、俺の話を聞いてよ」

「そうじゃった。このナッツは中々手に入らんからの。では、話してくれ」

「はい。でもその前に教えてください。

 ディオメスを立ち上げた人って、特別なんですよね?

 例えば、とんでもない発想力を持っているとか、表には出来ない力があるとか」

「管理下にある情報は儂からは言えぬ」


 言えぬ、察しろか。

 それが答えなのは確定事項。軍は引退してからも秘密事項は喋らないって規則があるだろう。


「ゴーショー君、ケチらなくて大丈夫。問題あれば私に任せて」

「……」


 ゴーショーさんが何を言おうか悩んでる。俺も多分同じことを考えたと思う。


「嘘か本当か分からないのは、確かめようがないからなの。

 この世界の理から外れた能力を持つ人っているよ。

 ここでは”異邦人“と呼んでたっけ。

 私も何年か前に、やったことあるわよ。あれはとても後味の悪い思い出だわ。聞く?」


 聞く? じゃないし、聞けないし。

 ……会ったことある、じゃなくて……?


「あの服の子もそうなんだね。それなら見たことない生地の作り、縫い方も納得いくもんね」


 この雰囲気で、かなり大事なセリフをあっさり言えるトミーさん。空気読むことは知らないのね。お陰でゴーショーさんが苦虫を噛み潰したみたいな顔になっている。このエルフ、やりやがったっ! て顔だ。

 同席させた貴方の判断ミスだと思う。


「今日は……雨の音が大きくていかん」


 晴れてるし。聞かなかったことにするよ。

 この話題に踏み込めば、戻れない場所があると分かった。


「……ですね。風も凄いですし」


 なに、この小芝居……いらないでしょ。


「……王都でも数は少ないが、記録はある。大抵は“役割”を与えられて壊れる」


 やったことある、壊れる……しかも秘密扱い。深入りは出来ないタブーなんだろう。ゴーショーさん、顔……。


「なら俺は、たぶんブランドの人よりややこしい部類です。

 なんせ――キノコとして、この世界で生まれてますから」


 言った。雨の音が大きくて誰にも聞こえなかった筈。


「キノコで産まれた?

 君がか? さすがに冗談だろ?」


 ボキッボキッ! と拳を鳴らして威嚇する癖はやめて欲しい。

 どうして急に雨がやんだ?

 ゴーショーさん、俺と小芝居仲間だよね? 別に構わないけど。


「だったら良いんですけどね。

 俺の魔胞子、キノコ魔法見てみます?

 キノコ縛りの魔法しか使えないんですけど」

「……部屋を汚したり壊したりせんのなら」


 ならホコリタケのは無理だから、ここはブランフラジールを披露する。本来なら細くて短いイトソウメンタケが、白くて硬いキノコ棒になるってのも今一つ意味が分からないんだけど。


「この棒を研究機関に渡しても良いか?」

「ソイツは今の俺が使える唯一の戦闘手段です。

 裸で檻に放り込まれて、虎とやりあう未来がまだあるかも知れないのに、そんなことは出来ません」


 相手がゴーショーさんだろうが、これだけは譲れない。


 ゴーショー元将軍は、拳を鳴らすのをやめた。

 一拍。

 視線が、ゆっくりとリークに戻る。


「……戦う前から負けが決まっている戦場、か。

 確かにそうだな。興味本位で言ってすまぬ」


 そう言ってから、鼻で短く息を吐く。

 脇に控えていた執事が、何も言わずに一度だけ小さく頷いた。

 それが、この場での評価なのだと直感する。


「儂も若い頃、無能な上司にそんな場所に追いやられたことがある。だが、儂は生きて戻ることが出来た」


 その時の彼の目は危険な光を湛えていた。だがそれもすぐに消える。


「賢い者ほど生き残った。前には出なかったのでな。

 じゃが儂は違う方法で生き残った。何故か分かるか?」


 勝てない戦場で逃げずにどうやって生き残る?


「寝返った……?」

「確かに生き残る可能性はある。じゃが、儂はそんなことはせんよ。

 儂なら裸で虎とやりあう未来があるなら、それに備えてもっと強くなる。簡単なことじゃ」


 それ、完璧な脳筋思考です。さすがに思ってもクチには出さない。

 元将軍なら本当に虎に素手で勝てそうだ。


「そんな未来が来ないように立ち回るのが、俺みたいな小心者に出来る唯一の抵抗です」

「丸っきり馬鹿ではないのは分かっておるが、利口なのかどうかは分からんな。

 未来を選べる人間などそうは居らぬ。

 説教など、聞きたくないじゃろ?」


 黙って頷くと、ゴーショーさんと頷き返す。

 すると目を閉じたゴーショーさんが、そのまま暫く黙り混むが、再び目を開けた彼が怖くもなく、迫力もなく、ただ、淡々と――。


「君の言うことを全てを信じたわけではない。余りにも荒唐無稽。信じろと言うには無理がある」

「えぇ、立場が逆なら俺もそう言いますね」

「えっ? そうなの? リー君、今の嘘?」


 このエルフ……っ!


 ゴーショーさんが両手にナッツを握り、音を立てて砕く。殻も実もごっちゃになってるだろう。


「……ここからは、ただの年寄りの戯れ言じゃ。

 君はな、兵にもならんし、学者の玩具にもならん。じゃが――放っておくには、少々面倒だ。

 だから儂は……“何者でもないまま生き延びる”という選択を許す」


 皿の上に粉々になったナッツの残骸が落とされた。この人には絶対逆らわないと心に誓う……しかない。


「で、他にはないのか? 隠し芸レベルで構わんが」

「それなら、キノコ限定召喚魔法キノコの里!」


 手から毒性の無いキノコを何種類か作り出していく。


「これはどんなキノコでも?」

「俺が食べられるキノコなら、ですね」


 嘘ではないのでどう受け取るかはゴーショーさんに判断させよう。もし猛毒のキノコが出せるなら、元軍人として俺の用途は限られてくるだろう。


「キノコには人が食べられる物と食べられない物がある。それは味覚や食感による区別ではないことは分かるだろ?」

「はい、キノコは食べてはいけない物の方が多いでしょう。単なる腹痛ぐらいの毒から致死毒まであります」

「君が後者を食べることが出来たら、ここに出すことも可能だな? だが儂はそれを望まぬ。

 魔法で物質を作り出すのはかなり熟練した者でも困難なのだ。

 その魔法は人には見せぬことだ。あらぬ誤解を産むだろう」


 そう言う判断をしてくれたなら俺の身の安全がぐぐっと近くなる。

 あっ……だからさっき、利口なのかどうかは分からんって言ったのか。宴会芸でも断るのが正解ってことだ。


「痺れる毒なら出せますけど、試してみます?」

「別の機会で見せてもらおう」


 あら、残念。怖い思いをした仕返しをしようと思ったのに。

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