表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/25

第3話 光るキノコはスパイシー

「お頭、コイツ、俺ら馬鹿にしてやすぜ」

「わざわざ裸で出てきて俺らの油断を誘おうって魂胆かも知れないっすよ」


 俺を尋問していたのがお頭ね。それで他の2人はその部下か。こう言う手合いだと部下と言うより手下だな。なるほど、こうやって関係したことなら少しずつ記憶が戻ってくる仕様だな。

 お頭は隊長マークのつもりなのか、懐中時計みたいなものが付いてる革紐のネックレスを掛けている。それがコイツらの唯一のお洒落ポイントだ。


「俺達がここに居ると知られちゃ都合が悪い。悪いが死んでもらおうか」

と、お頭が俺に鉈を向ける。

 正直、刃物を向けられて平気なわけがないが、それ以上に今の俺は――何より全裸なので落ち着かないのだ。


 ここで本気で怯えたら、そのまま斬られる気がする。まだ変な奴だと思わせた方が生き残れる確率が上がるかも。

 どうせなら、場の空気を少しでも軽くして、上手くやり過ごしたい。


「なっ! それ酷くない? 裸だからって馬鹿にすんな!」

「いや……裸は関係無い……と思うぞ」

「それなら尚更、殺す必要無いでしょ! ほら見てよ、この菌肉美っ!」


 とっさに拳を握って両腕を曲げ、力瘤を作ってみせた……つもりだ。

 もう少し鍛えた体に生まれたかった。


「はぁ……確かに大して体は鍛えてないし、このアホ具合じゃ領主軍でも騎士団でもなさそうっすね」

と手下其の壱が俺の力瘤を見て鼻で笑う。

 俺は生まれたばかりで、これから菌トレして強くなるんだから長い目で見てほしい。


「良いとこのボンボンかもな。それか俺ら以外の山賊に襲われたキャラバンの生き残りか。

 顔は悪くないから、奴隷商人に高く売れそうですぜ」


 手下其の弐がそんなことを言う。良いとこのボンボンだったら誰か助けに来てくれるだろうけど、連絡先も連絡手段も無いもんね。

 意外とキノコの笠が放物線で形成されたアンテナになるかも知れないけど、受信する何かが分からない。風に乗って飛んでる胞子ならキャッチ可能?


 で、この3人組は山賊が職業で、俺は自分から捕らわれに出てきたってマヌケって訳か。

 マヌケでも良いけど、奴隷にされるのはいただけない。顔が悪けりゃ殺されてたかも知れないから、イケメンを希望した自分に拍手。

 それより今は、とにかくパンツが欲しい。


「悪いけど、股間がスースーするから何か隠す物をくれない?

 あんたらもずっと俺の裸を見てるのは嫌だろ?」

「……黙ってアジトについて来い、変態野郎。

 捨てる革の敷物ぐらいならあるだろう」


 交渉成功っ! やっぱり誠心誠意、お願いしてみるもんだね。

 しかし山賊なんてホントに居るんだね。てっきり絶滅危惧種だと思ってたけど、他にも山賊が居るみたいなことを言ってたか。


 『ちぃ~す、山賊系チューバーのサンちゃんで~す』――

 ……いや、考えてる場合じゃない。ただの現実逃避だ。


「なぁ、あんたら山賊やる前は何やってたの?

 木こりか? 炭焼きか? 意外と陶芸家とか?」

「そんなのやるわけないだろ! 俺らは物心ついた時から山賊よ! 山賊一筋30年っ!」

「速いよ、上手いよ、やってるよ~♪ ってやつか。良く知らんけど」


 何か勝手に、そんな歌が頭の中に流れてきた。

 理由は分からないが、こういうどうでもいい記憶だけは、妙に先に出てくるらしい。


「お頭、嘘をついちゃダメっしょ。確か今年で29歳だし、山賊稼業は10年ちょいってとこっすね」

「うるせぇっ! こんなのはノリだろ! ノリっ!

 ロンは細かいことを言うのをやめろ」

「そうそう、嘘つきは山賊の始まり……それとも山賊は嘘つきの始まり? どっちが先だ?」

「ヤスもたまにインテリぶるのが悪い癖だぞ」


 お頭も2人の部下には慕われてるんだね。仲良さそうで何よりだけど、山賊は多分この世界でも非合法な組織なんだろうな。

 でもいつまでもこのままなのはイヤだから、早いとこアジトに連れてってもらおう。敷物でも何でも良いから全裸だけは早くやめたい。

 もしこれからの俺の物語が吟遊詩人の御題目になって、ありのまま歌われたら外も歩けないし。


 それから藪を避けたり下草をかき分けたりしつつ、獣道より少しマシって感じの山道を山賊の後に付いて行く。

 山賊が3人しか居ないのは、少人数で目立たない為だろうか。


 ……いや、俺は何を真面目に山賊のこと考えてるんだよ。

 男しかいないのは助かるけど、木の枝で普通に引っ掻くし。この全裸状態、早く何とかしないと。


 そこそこの時間歩いたな、と思っていたところで熊でも住んでいそうな横穴に到着した。3人で山の斜面をツルハシでも使って必死こいて開けたのだろう。ここまでの道中、小屋を建てられる平地が無さそうだったし。


「なんだよ、前はここで真面目に鉱石でも採取してたのか?」


 曖昧な記憶だが、何となく映像で見たような狭い穴だ。金銀じゃなくて、瑪瑙とか水晶とかが採掘出来る個人所有の山もあるらしいし。実に羨ましい。

 入り口は獣などが入らないように良い感じの木と土で作った柵で塞いでいて、しかもそこに柵があることがバレないように何かの植物をびっしりと這わせて擬装までしてある。柵には植物の隙間を縫って椎茸みたいなキノコが幾つか生えている。

 こんな技能があるなら、山賊やらなくても庭師とかで食って行けるじゃないか?

 

「なぁ、このキノコは食う為に育ててるのか?」

「あのな、夜にうっすらと光るキノコは食ったら死ぬんだぞ。熊も猪もこれが生えてる場所は避けて通るから、防犯上も安全ってわけだ」


 おー、毒キノコにはそう言う使い方があったのか。役に立てて嬉しいぜ。なぜ俺が喜ぶのか良く分からんが、自称菌肉マンにとってキノコは身内みたいなもんだから。

 それよりお頭、山賊のくせして防犯を語るなって。


 このキノコだけど、もし将来家をを手に入れたら、これを使った間接照明に応用できそう。植え替えって出来るのかな?

 でもこれはあくまでお頭達が言うには毒キノコだ。光って綺麗だからと言って無闇に増やして良い物じゃない。本当に毒キノコだったら、誰かが間違えて食べた時に俺が悪者にされてしまう。


「夜中には目印になるし、このキノコは生えてると便利っすよ。食えないのだけが残念」

「だな。腹が減ってもキノコだけは食うなって兄貴達にも言われたし」


 手下の2人が情報を補足する。ここでも食えるキノコと食えないキノコの見分け方は難しいのか。けど、キノコから生まれた俺に対しても毒になるのかな?

 笠の部分しかなくて、椎茸の石突きの無いバージョンみたいな感じだ。触っても特に違和感はない。見た目は椎茸っぽいが、細かいことはどうでもいい。うん、やっぱり旨そうだな。

 そう言えば、キノコ時代を含めてこっちに来てからまだ何も食ってなかった。俺って実はキノコの仙人なのかも。 


「試しに1個」

「ばかっ! やめろ!」


 見てたら急にお腹が減ってきたし。キノコの時には感じなかった空腹感だ。

 もぎ取ったキノコをクチに入れて噛んでみる。

 生でもジューシーで旨味と甘味がある。そして最後に来るビリビリっとした刺激。この刺激が毒成分であったとしても、癖になりそうだ。それに特に体にも害は無いみたいだ。


「スパイシーで思ったより旨いぞ。焼いて食うともっと旨いかも」


 平気な顔でお頭にそう言うと、もう1つパクり。

 これを食べると味覚だけじゃなくて五臓六腑に染み渡るって気がしてくる。キノコじゃなくなったってことがまた新たに実感出来たと僅かながら感動を覚える。


「あんたらも食うか?」

「その緑光茸をひと口でも飲み込めば、半時間もしないうちに激しい腹痛に痙攣が起き、1時間も経つと確実に死ぬ毒キノコだ、と聞いたことがある」


 そんな物を食った俺を恐ろしそうに見るお頭達だが、俺はお構いなしに歯に挟まった菌肉の筋を取ろうと指で格闘する。今はそんな伝聞より爪楊枝が欲しい。


「こんな旨い物が食えないとは残念だね。

 そうだ、もし俺が2時間経っても腹を壊さず、何もおかしいところがなかったら、これが食い物だと分かってもらえるかな?」


 今は平気だけど、深く考えると面倒な予感がした。

俺だけセーフでアイツらは――とか、笑えないオチは考えないでおこう。


「あんたらも山の中で暮らしてたら、食うのに苦労するんだろ?」

「そりゃ、町に買い物に出れねぇ儂らだ、苦労しとるに決まっとるだろ」


 少し同情する素振りを見せつつ言ってみるが、3人から向けられる警戒心、隙を見せれば斬られそうな威圧感は何も変わっていなかった。


「そっか……山でのスローライフも大変なんだね」


 そうなった原因が何か知らないから、この3人が悪いと決め付けるのは早計だろう。町に入れないってことは、山賊だと顔バレしてるのか、それとも異世界らしく人のステータスを見る方法があるのか。

 長いこと風呂に入ってないから臭い的にアウトなだけか?

 あっ、もし俺が風呂に入ったらダシが出るのかな? 皮膚の感じとか普通の人間と変わらないから、そんなことはないと思うけど。日焼けしたらダシが出るようになるのは勘弁だな。


 実は他の人が俺を見て人間と思われるか少しだけ心配してたけど、3人組も俺が人間って見てくれて良かったよ。仮に背中に変な模様が入ってたとしても自分じゃ見れないしね。


「山を降りれたら……」

と、お頭がポツリと囁く。


「たまにゃ酒場でパーってやりたいっすね」

「俺ら、賞金首じゃ町に入れないのを忘れるなよ。

 お頭の首のは……まぁ、どうにもならないんで仕方ないんで」


 賞金首ってのは分かったけど、首のってなんだ?

 確かに顔に似合わずネックレスをしてるのが不自然だけど、誰かの形見とか何かあるのかな。


「ヤス、いらんことを言うな」

「……へい、すみません」

「うむ、分かれば黙ってろ。

 それにしても、コイツは変な奴だが妙に肝が座っておるな。あまり害はなさそうだが、逃げられたら厄介だ。お前ら分かってるな?」

「へい、逃げたら伐るんで大丈夫っす」

「勿論です」

 

 怖そうなことを言うわりに、たまに憂いを帯びるお頭はまだ山賊に染まり切れていないと言うか、何か問題を抱えてるみたいで気になってしまう。

 人のことを気にする余裕なんて無いと分かってるけど――正しいかどうかなんて、俺には分からないけどさ。

キノコの生食は絶対にダメっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ