第29話 ゴーショー亭にて
「さて、正直に話してもらおうか。
こちらとしても、孫の恩人に手荒なことはしたくないのでな」
ゴーショー元将軍が拳を鳴らしながらそう恐喝する。それが恩人に対する態度に思えないのは気のせいだろうか?
今の俺の状況から考えると、恩人でも犯罪者には容赦しないって意思表示、そう捉えるのが妥当なんだろう。
「先に聞かせて欲しいのでひゅ……ですが、
俺の正体に心当たりがあると仰られましたよね?」
「敬語が苦手なら無理にを使わんで良い」
ゴーショー元将軍は、そこで一度言葉を切った。考え込むというより、測っている間の沈黙だ。
「……君のような立場に置かれた者に、過去に何度か会ったことがある。
それだけだ」
「それって――」
ずるい、それだと蛇の生殺しじゃないか。
「これ以上は今は聞かん方がいい」
遮るように言われ、言葉が喉で止まる。
「君が危険だと決まったわけでも、こちらが動くと決めたわけでもない。
ただ――不用意に名付けて、立場を固定する話ではない」
……なるほど。
触れた瞬間に、面倒が始まる種類の話か。
「分かりました。
じゃあ、その話は今は置いておきます」
「それでいい」
短く頷いたゴーショーは、それ以上この話題に戻らなかった。
でも、俺がここに呼ばれた理由である、あのブランド服のことは無理と思うけど聞いておきたい。
「俺が着てた服のデザイナーも訳あり、ですね?」
「その件について、こちらが把握しておらん。
ディオメスブランドの服は儂らみたいな古いタイプの人間には合わんからの。孫は欲しがっとるみたいで、王都に行きたいと困らせれておる」
今欲しいのはそう言う情報じゃない。でも、この件は誤魔化すつもりなのは見え見えか。
「だが、君のことと服の件は無関係だ。
どうやって手に入れたかシャキシャキ喋って貰おうか」
元将軍に強迫されて、お頭達に捕まったところから別れのシーンまで感動的に語ってみた。途中からゴーショーさんがかなり難しい顔になり、相槌一つ打たなくなった。
「要約すると、気が付いたら山の中に裸で居て、山賊にで捕まったお頭と和解して一晩共に過ごしてきた、と。
その現場に案内することは可能か?」
「行けば何か思い出すかも知れませんけど、何せ土地勘が無いので。
あっ、緑光茸の多く生えてる山って分かります?」
ゴーショーさんが顎に手を当て少ししてから、
「それなら馬を飛ばせば今夜には着く。
馬には乗れるか?」
と連れて行けオーラが迸っている。夜に馬で走るの危なくない? それ絶体事故るヤツ!
「旦那様、リーク殿はジリスの捕獲から戻ったばかりでございます。せめて今夜一晩ぐらいは休ませてあげてください。山賊狩りに出るなら戦力を少し集める必要もあります。
明日早朝に迎えに……それも手間ですから、今夜はこの館に宿泊して頂きましょう」
今日の晩ご飯と宿、これで確保出来てラッキー!
……なんて思わないよ。事実上の軟禁タマスダレってやつでしょ。
「それならトミー殿のもとへ誰かに使いをやらせよう。いや、トミー殿を招待するか」
「はい、至急手配致します」
ゴーショーさんも大概だけど、執事さんも似た者同士じゃないか。俺とかトミーさんの意思は無視なの?
平民だから? でも美味しいものが食べれるならそれでも良いか。
結局、その後に風呂を勧められて誘惑に負ける。大浴場ではなく普通サイズの浴槽だった。
出された着替えは派手なものではないけど、庶民の一月分の給料じゃ買えない品なんだろうな
ちくしょー! 格差社会っ! ここが海なら、そう叫んだかも。
貴族の屋敷なので、執事、メイドは何人も居るようだが、俺が来ていることを知らされておらず、不審者扱いされる……なんてイベントは起きなかった。
メイドの1人に案内されて、『ジリス牧場』と看板の立てられたエリアに来てみると、6匹とティリーちゃん、それと美少女が2人。長袖シャツとオーバーオールみたいな物を来ている。
2人は汚れても良いようにツナギみたいに上下が繋がった服でお洒落なもの……名前出てこないや……ボイ……スーツ? 給湯器服? みたいな物を着ているが、恐らくジリス牧場担当のメイドさんだろう。
「お兄ちゃんだ! 帰ってなかったの?」
「ゴーショーお爺さんに今日は泊まっていくようにと言われてね」
「それなら遊ぼーっ!」
遊ぼうと言われても、何して遊ぶんだ? 女の子の遊びなんて知らないよ。
「オーガごっこ! 最初はお兄ちゃんがオーガね。
ミリーとエミーも逃げるの! 捕まったらお兄ちゃんに美味しく食べられちゃうの!」
誤解を生むような発言は慎みたまえ!
しかし、ただのお子様だと舐めていたが想像以上に足が速い。まさかこの年齢にして強化系能力が使えるのかな? ジイジのゴーショーさんが孫に教えた可能性大だな。
しかも後ろから捕まえようとすると、フワッとジャンプ、すかさず空中で綺麗に回転してから突き刺すような蹴りが俺の胸もとに叩き込まれた。体重が軽いせいでそれ程痛くはないが、さすがにこれは驚いた。
「うそん、効いてないの? 逃げろーっ!」
まさか今の蹴りを受けたら、普通の人なら倒れてたのかな? まさかね。でもメイドさん達が驚いてるってことは、そのまさか?
この子の相手をするなら、ただの子兎から子獅子に認識を改めようか。
それから全力で遊んで疲れたのか、三時のオヤツを食べたらそのままティリーちゃんが寝てしまった。
俺も少し気疲れしたよ。子供と言っても怖い貴族のジイジがバックに居る女の子だし。
どこまでが許されて、どこからがダメなのかの判断がとても難しい。触れる距離に立つだけで、針の筵に立たされた気持ちになった。
しかもずっと誰かに見られている気がしてならなかった。
………………
…………
……
「やぁ、リー君」
東屋で三時のオヤツを戴いてから、うとうとしていたところにトミーさんの声がした。
「納品まで済ませてくれて助かったよ。一度に6匹なんてお手柄だね」
「あ、お疲れ様です。全部成り行きですから」
「それで、悪いけどリー君が着てた服は調べさせてもらったから」
町の住民か、衣服関係の人の情報提供だと思ってたら、まさかの身内? からのタレコミでしたか。綺麗な顔してやることがえげつないですな。
「さすがに犯罪者だったら雇う訳にもいかないからね。
それに服のタグに『この服を得た者は然るべき部門へ連絡されたし』ってみたいなことが書いてあったから、ただ事じゃないと思ってね。
服を洗濯してて見付けただけで、悪気があった訳じゃないからね」
町に入る時に水晶で犯罪歴はチェックしたと思うけど、あのチェックだと本人が犯罪と認識してなければすり抜けられるか。
服のタグは見なかったけど、盗ませる目的で商隊を餌にしたって話ね。
「トミーさんがゴーショーさん側だと分かって安心してますから。
元々、安全な人とダメな人の見分けが出来たら、山賊のことを教えるつもりでしたし」
「私もリー君の見極め対象だったってことね。それならお相子様ね」
そう言うことだね。俺だって初対面のトミーさんがどんな人か判断付かなかったから言わなかったんだよ。
特にこの人の場合、何が嘘で何が本来のことか分からない話し方をするから尚更心配だったし。
「トミーさん、一つだけ良いですか?」
「何かな?」
「リー君じゃなくてリークですっ!
リーだと忍術の使えない忍者みたいですから」
「ニンジャ? ナンジャそれ?」
この世界に忍者は居ないことが分かったよ、ナンジャと聞きたいのは俺も同じだけど。
「あ、それとゴーショー君が呼んでる。白い棒の話を聞かせろって」
ブランフラジール、略してブラールのことね。
あの4人が話したのか。コヨーテの頭を持ち帰ったから、どうやって運んだのか門番に聞かれたのかも。




