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第28話 納品完了(+タイガーマン?)

後半に他者視点あり。

 怖いダンディ門番がジリスの依頼主だったとは。


「怖い顔して小動物好きなギャップ狙いで若い女の子をナンパしてない?」


 ――言った瞬間、しまった、と思った。

 だがもう出した言葉はクチの中には戻せない。覆水ボンボンにドボンって言うし。


「……」


 ダンディ門番はすぐには否定しなかった。

 俺に向けている顔から怒気も殺気も感じ取れない。ただ、俺が感じる空気だけが少し重い。


「そんなことはせんわ」


 短く、それだけ。


 ――あぁ、良かった、本気で否定する時の言い方じゃない。

 この人、今の言葉そのものより、俺が次にどう出るかを見ている。

 ……怖い人だと思ったけど、頑固じゃないし、冗談かどうかも分かってて俺を試している反応だ。


「じゃあ、そのまま納品します。その方が手間も省けるし」


 少しだけ肩の力を抜いてそう返すと、ダンディ門番は俺から視線を外す。そしてフッと鼻で笑うが馬鹿にした様子ではない。


「思った程……察しの悪い子ではない、か」


 言葉は俺に向けられているのに、視線だけはジリスの方へ流れる。


「ジリスを孫にどうしても、とせがまれてな」


 孫馬鹿か……いや、油断は禁物だ。孫に甘いのと、俺に優しいかは別問題だからな。

 でも、確かトミーさんは依頼は無いけど捕まえに行かせる感じで言ってたっけ。


「頼んで翌日とは運が良い」

「昨日頼んだの? そう言うことね、欲しがる物を予測して先回りしてたんだ」


 ただの女装モデルのエルフじゃなかったってことだね。


「じゃあ、俺がトミーさんに報せに行ってやるからリークはゴーショー将軍の家に行ってこい。

 おーい、誰か暫く門番頼むわ」

「えっ! このダンディさん、将軍なのっ?」

「元、将軍じゃ。今は引退してただのジイジをやっとるだけじゃ」


 2人の若い門番がドアから出てきてから、ラドさんが町の方に走って行く。それなりの立場だと思うけど、フットワーク軽い人だな。あっ、ラドさん、きっとトミーさんに会いたいだけかも。


 ゴーショー元将軍も俺を連れて町の中へ。すぐ裏に停めてあった箱馬車に、トミーさんの大きなリュックごと乗せられる。この人、めっちゃ怪力なんだけど強化系能力を使ってる?

 御者は居なくて元将軍自らが馬車を操る。控え目だけど、豪華な客室に俺1人、前に大きな荷物、対面のシートにはジリスが6匹。一体何なんだろう、この展開。


………………

…………

……


 暫くのんびりと走った馬車が停車する。外の景色が窓から見えていたので少し前から気が付いてたけど、家デカっ! ノックスの町って空き地だらけか? まさか耕作放棄地が至る所に広がってるんじゃ?


「到着したぞ」


 降ろされた場所には隣に他の馬車が数台停めてある。多分だけど、本来のお客様を降ろす場所じゃなくて、裏方の人しか来ない場所だろう。

 この近くがジリスを飼うためのエリアなのかも。

 元将軍がキョロキョロしていると、ビシッとした身なりの執事さんと小さな女の子がやって来る。手にはブロッコリーみたいな野菜を持っている。


「お帰りなさいませ、旦那様。予定より少々お早いようですが。

 そちらのお客様は……もう捕えてきたのですか」


 俺が何も言わなくても、ジリス達は女の子を飼い主と認識したのか、女の子にスリスリしている。

 この子に媚びておけば食いっぱぐれがない、そう野生の勘が働いたのか。野生の勘の使い所が少々独特だな。

 それともブロッコリーがそんなに好きなの?


「……これで納品完了です?」


 女の子の手から千切ったブロッコリーの房を両手で受け取り、夢中で食べるジリス達を指で示す。


「小屋とか脱走防止用の柵とか無いんですか?

 それと馬が歩く場所に穴を掘ったらいけないので、飼育エリアを決めておかないと」


 人の足はともかく、馬が穴を踏み抜いたら怪我をする。だから害獣指定されていると、トミーさんのメモに書いてあった。


「ええ、その辺りのことはトミー殿から伺っております。厩舎から離れた場所に不錆鋼(ステンレス)製の柵と強化磁器製で囲ったエリアを設けてあります。ご覧になられますか?」

と、執事が答える。


 不錆鋼があるとは、思ったより冶金分野は進んでいるんだな。錬金術があるのかも。


「はい、お願いします、おーい、お前らも着いてこい」


 俺に呼ばれた6匹がブロッコリーを咥えたまま、短い前肢で了解の意思を示すと、俺の後ろに一列で並ぶ。

 昨日一日でこれだけ言うことを聞いてくれるようになったから、納品せずに連れて帰りたいよ。


「お兄ちゃん、凄い!」

と飼い主となる女の子から尊敬の眼差しを受ける。美幼女って本当に存在するのか……貴族の血って怖い。


「彼はアントウォーカーの弟子らしいからな。これぐらいは出来てもおかしくない」

「トミーさんのせいで俺への期待値が上がり過ぎてません?」


 ゴーショー元将軍、本人からゴーショーと呼ぶように言われたからゴーショーさんと呼ぶことにしてある。


「1日2日でジリスをこれだけ手懐けておいて、トミー側じゃないとは言わせぬよ」 

「トミーさんの所を紹介したのは門番のラドさんですよ、俺の意思とか関係無しで」

「トミー殿も見所がなければ相手にせん。あぁ見えて人を見る目を持っておる」


 トミーさんへの信頼が厚いのは良いとして、それが俺に跳ね返るのはどうにかならない? 今の流れじゃ何を言っても無駄っぽいけど。


 それからジリスの飼育エリアに6匹を移し、新しい家に全匹満足したようなので俺の役目はこれで終了。

 さぁ、特急で帰ろうか。


 ガシッ!


「それとこれとは話が別だ。

 何があったか聞かせて貰おう。話によっては五体満足でこの屋敷から出られると思わぬことだね」


 ボキボキと拳を鳴らしながら言われると、股間がヒュンッて縮むから!


「お兄ちゃん、後で遊んでね!」

「このお爺さんに悪いことされなかったらね」

「ジイジ、お兄ちゃん苛めたらメッなの!」


 両手を腰にあてて頬を膨らませる美幼女……尊い姿を両目に収めるのはこれが最後かも……ロリコンじゃないからなっ!



「お帰りなさいませ、マダム」

「あら、貴方新人かしら?」

「あっ、はい失礼いたしました!

 初めまして、奥様。よくぞお帰りくださいました。

 そちらのお嬢様、初めまして。私は昨日から当店で勤めることとなりましたドーモーと申します」

「ドーモーさんね。私はパメラと申しますが、ここのオーナーと3時から会う約束をしておりますの」

「パメラ様でございますね。かしこまりました。主をお呼びしますので、こちらの席で少々お待ちくださいませ」


 まだ幼さの残る青年が2人を個室に案内した。


 ここは某所にひっそりと店を構える『執事喫茶』。

 封建制度に酷似したこの国の中で、執事喫茶が表だって営業出来る筈もなく。

 それでも一定の需要が見込めるとあって、リスクを冒してでも一部の会員にこのようなサービスを提供する店もある。

 歓楽街に場所を移せば、男娼に執事の衣装を着せてこのようなサービスを行わさせる風俗店もある。

 もっとも、発言力を持つ貴族の後ろ楯があり、実地研修の一環であると言い張るのなら割りと営業を認められるものである。


「パメラ、本当にこの店は大丈夫なの?」

「はい、このお店は第三王子が市井の(ことわり)を学ぶ場として、ぶっちゃけ王族の仕事はしたくなくて商売したいと我が儘を言って作らせたお店です」

「それで……貴方がマダム?」

「はい、たまにはそう言うお遊びも宜しくて、と思いませんか?」

「貴女の趣味は聞かない方が、私の精神安定のために良さそうね」


 雑談をしているとドアがノックされ、落ち着いた佇まいの中年男性が顔を出す。


「パメラ様、ようこそお越し下さいました」

「このお店の粒々入りの紅茶を飲むためなら、例え火の中、残業の中」

「残業はしっかりなさって下さいませ」

「パーメーラー!」

「お嬢様! 脳ミソ出ますっ! 痛いです!」

「そちらのお嬢様が、あの?」

「痛い痛い! えぇ、紹介致します、痛い! こちらが私の主の暴力大好き主人の――」


 そんな自己紹介のあった後で、

「今回もタイガーマンは役目を果たせなかったようです。どうもトール領が一番の危険地域ですね」

と、オーナーが2人にメモを見せる。


「分かったわ。

 次は尻尾を捕まえられるように細工を施すから、ゼバールさんは使える護衛を見付けて頂戴。

 もうこれ以上は邪魔をされてたまるもんですか!」

「さすがお嬢様! やり方えげつないで……痛い痛い!」

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