第27話 怖い門番
草原を出発してから数時間、町の門が見えたことで無事に戻ってこれたんだと息を吸い直せた。
白鷲、海蛇の4人と別れてから、あの草原でまるまる1日を過ごした。
その間、魔法の訓練やジリス達との交遊で暇を持て余すことは無かったのだが、空にも油断が出来ないことが分かったので常に緊張していて疲れた……気がする。
「ラドさん、こんにちわ」
今日の門番はラドさんと、もう1人。50歳ぐらいの門番ってどうなのか?
高齢過ぎるとは思わないが、迫力のある見た目からして現場に出るより冒険者ギルドのギルドマスターとか、もっと相応しい職場がありそうだ。
でも、隣のラドさんと比べたら筋肉量が5割増しかと思えるぐらい鍛えている。強そうなのにダンディな男性だ。
年齢を理由に門番に相応しくない、そう判断するのは失礼だろう。でもその門番からの視線の圧が、初めて会った時のラドさんをものを超えていそう。
「おう、リーク、ちゃんと生きて帰って来たな」
と、軽くラドさんが声を掛けてくれる。
そうそう、俺はこう言う気さくな会話のシーンがやりたかったんだよ。
「うん、俺、サバイバル生活は得意みたいなんで」
「……」
無言で立つダンディ門番からは、変わらず突き刺さるような強さの視線を感じる。
そうか、この人はきっとマルボーみたいな荒事を専門とする職務に長いこと就いていて、配置転換でここに来たんだろう。で、マルボーってなんだ? カクボーとかありそう。
「そうなのか、見掛けによらん……こともないな。
お前、手ぶらで町まで来たしな」
ラドさんと初めて会った時は、俺の魔力漏れって明確な理由があったけど、この門番は……無理して穏やかそうな表情を作りながら、実は俺を見極めようとしている……とか?
「成果は……バッチリみたいだな。
なんで野生の魔物がリュックの上に並んで座ってるのか、少々問い詰めたくなるが」
2人の視線がジリス達に注がれている。俺も逆の立場なら、間違いなく聞いたに違いない。
「この子達を苛めないでよね、誠心誠意で話せば分かる連中ですから」
「そうか……嬢ちゃんの弟子だしな……それぐらい出来ても不思議じゃない……か」
「そこ、無理に納得しないでよ。その優しさが逆に刃物だから」
おかしい。誰も笑わない。でも、ダンディ門番からの圧力が減ったかも。
トミーさんがエルフだから、普通の人には出来ないことが出来て驚かない……と言うのが、この町の住民の共通認識なの?
それなら俺の魔胞子、キノコ魔法もそう言うカテゴリーに入れてもらえるとありがたい。
「冗談ですよ。草原からの帰りの道中、どうしてこんな行動を取るのか不思議に思って考えてました」
「ほぉ、聞かせろ」
「儂も、それを聞きたいのぉ」
ラドさんだけじゃなく、ダンディ門番も興味があるようだ。ここは心証を良くしておこう。
「これね、本来の野生動物の性質と魔物の逞しさや図太さの混ざった結果、だと思うよ。
詳しくはトミーさんに確認して欲しいけど、この手の小動物は社会性が高くて、見張りを立てるくらい賢いの。遠くまで見るには高い場所に上るのが当然だし」
これは事実。ジリス塚の横に見張りが立ってたから。でも俺が居る時に見張りしてた子が居眠りしてたの知ってる。
「ヒマワリの種を与えて餌付けしてるし、水も飲ませたし」
「悪い、初めてお前のこと利口だと思ったぞ」
「なるほどの、そう理詰めに言われると不思議なことではないと納得出来るわい」
ラドさんの対応は想定内、だけどダンディ門番が素直に納得してくれたのは嬉しいな。まだ怖いけど。
「ところで君」
「ぁっ、はい?」
名前が分からないけど、聞くのも怖い。声のトーンがさっきと違う。
「なんでしょうか?」
「誰かに襲われたりしなかったか?」
「あ、はい、なるべく人の居ない方を選んで動いたので、このジリス達以外には会ってません」
ここは皆との打ち合わせ通りにちゃんと惚けなきゃね。俺は草原では誰にも会ってない!
ビビってるけど、俺もやれば出来る子!
「えーと、何か町で事件があったんです?」
「君が町に到着した時に着ていた服について、少々話を聞きたいのだが」
「えっ? 服のこと? それならこの町に来る前に人から貰ったんで」
なんだ、草原のことじゃないのか。
怖かったし、用心して損したじゃないか。
「まだ、販売されていないはずの服を着た者が目撃されたと情報があってな」
「はぁ……えっ? あれってそうだったの?」
てっきり普通に流通してる服だと思ってチョイスしたのに、そうじゃなかったんだ。
……最近流行ってるブランドの商隊って、お頭が言ってたか。ブラを知らなかったのは山暮らしが長かったせいじゃなくて、最新のファッションだったせい?
これ、対応を間違えたらマックスヤバいやつ?
なのに判断材料が足りなさすぎて、どう答えるのがベストか分からない。こう言う時は……ええぃ、ままよ!
「ラドさん、マジで助けて。
この人、悪い貴族側? 良い貴族側?
……ぅぅ」
悪い貴族側の人に山賊の話が聞かれたら後でヤバくなりそうだから、確認は大事!
なんだけど……でもこれ……アウトか?
「あのなぁ、本人を前にして、そう言うこと聞けるか?」
そうだけど、じゃあどうしろと?
こっちは疲れてるんだし、仕方ないだろ。
「お前、意外と馬鹿だろ、いや、意外とじゃねえか。
心配しろ、このお方は正義の味方側だ」
門番は何とかフェイスの達人なのか、顔の筋肉が固まってるか、表情を全く変えない。でも視線の尖り具合はかなり減ったかも。
ラドさんを完全に信用しきるのはまだ早いかも知れないけど、これだけ自信を持って答えてるなら話しても大丈夫かな?
もし悪い側だったら、罰としてトミーさんが男ってことバラすからな。
ん? 心配しろ? 俺ってラドさんから見て悪役設定?
確かに不審なところは認めるし……いや、山賊のことを黙ってたとバレたら、もう不信感しか存在しない……か。
「ふふん、儂の前でよくそんな余裕が見せられる。
余程肝が座っとるのか、余程の馬鹿かじゃ。
こちらには一つ、お前の正体に心当たりがある。
なんなら、城で茶でも飲みながら話をしようかの」
「城? 俺、マナーとか喋り方とか知らないよ!
ベルを押したらメイドさんがすぐ飛んでくるのとか、そう言うのは見てみたいけど」
城、その言葉に反射的に言葉が出たのはテンプレ期待したからか?
まさか、なにかと因縁付けて罪人に落とすつもりじゃないよね?
そうなったらトミーさんに助けて……貰えるか?
「あっ! 俺のことより先にトミーさんにこの子達を見せないと」
「キュー?」
俺がリュックの上に指を向けたので一匹が反応したみたい。
『納品の仕事があるから渡しに行きます、じゃあ、これでっ!』って誤魔化し、行けるよね?
「ほぉ、やはり納品用のジリスであったか。
それなら依頼主は儂じゃ。城はやめて我が家で話す」
なんと言う偶然! 人はそれをご都合主義と呼ぶ……のか? 呼ぶに違いない!
でも今回は呼んで欲しくないかも。




