第21話 白鷲と海蛇の4人と自己紹介
ブランフラジールが遠隔操作に成功したので、バッカニアの二人による理不尽なカツアゲは試験材料の入手イベントだと割り切るなら、そう悪いものではない。
でも、正直言うと遠隔操作は精神を集中していないと無理だし、かなり疲れるからやりたくない。
今回は敵が俺を甘く見ていたのと、飛び道具を使わなかったので偶々上手く嵌まっただけだ。初見殺しには使えても、バレたら一切通じないのが悩みだよ。
昨夜作ったジリスの檻に使ったブラールは、起きた時もまだ姿は残っていたけど、ジリスが噛んだらあっさりと砕けるぐらい脆くなっていた。
時間の制約があるなら、どれぐらい持つのか確認をしないと、いつか痛い目を見そう。他にもあるけど、今は戦闘回避して早くジリス達を連れて帰りたい。
近寄って来ている先客の1人にブラールが効くか試してみたが発動せず。俺から離れすぎた位置には使えないみたい。
『有効射程は見える範囲』みたいなチート能力ではないようなので、有効射程も追々確かめないと。今の俺には魔力残量の問題もある。
フガフガ言ってる2人はコヨーテ戦で使ったホコリタケコンボで痺れて貰おうかな。盛大にむせて苦しみもがくたびに、白い拘束具による追加ダメージが入るなら効率が良さそうだ、と思っていたのに発動しない。
俺の中で何かが邪魔してる? それともブラールが敵に触れていると他のキノコ由来の能力が出せない仕様?
キノコの力を使うのに条件があったとしても、それが何かよく分からない。でも、こればっかりは人には聞けない。困ったもんだ。
その困った状況で、次は背中に大剣を差してるオッサンと腰に普通サイズの剣を差している2人組が相手になる。弓持ちが居なくて良かった。
コヨーテの時に使ったホコリタケの麻痺胞子が使えない今、剣士を相手にして生き残る難易度は爆上がり。
本当は走って逃げだしたい。でも、向こうから俺に近寄って来ているので、逃げても無意味そうだ。
それに残りのもう1組も俺との距離を急速に縮め始めた。
ここからは短期決戦? ……それ無理っ!
剣士を無力化をするには接近され過ぎてはマズイ。でも既に距離はおよそ30メートルを切るところまで来ているので、ここで先に仕掛ける。
やるのは勿論、先制口撃。
「止まれ。お前らはバッカニアの者か?」
と、出来るだけ平静を装い、良い声で。
キノコ魔法を使うにしても、魔力がまだ全然足りない気がする。今の疲労具合だと、硬いブラールを出したら俺は多分倒れる。
果たして彼らの反応は――
「違う違う、俺達は『白鷲の舞』の者だ。
俺はケーン・コースギーだ。驚かせてすまん」
良かった! 話が通じるって素敵! 大剣差してるおじさん、怖そうな武器を持ってるけど良い人じゃん。
「鷲でケーンでコスギって、何か混ざりすぎてる気がする……」
「そうか? まぁ、確かに俺はハーフだからな」
そうじゃなくて、何とかニンジャ隊って活劇とアクション俳優のことなんだけど、そんなどうでも良い情報を思い出す必要は無いってのっ!
「で、俺は白鷲のジョージ・オルサノだ」
と、自己紹介したもう一人の顔は何と言うか、お猿っぽい。
大剣の方がケーンさん、もう一人がお猿の……じゃなくてジョージさんね。
「俺の顔が珍しいか? 俺は猿と人間のハーフのエイプマンだからな」
どうやらジョージさんの顔を不躾にもジロジロ見ていたらしい。
「初めて聞いたよ。俺の居たところは純人間種だけだったから。肌の色は色々だったけど」
「今でもそう言う所は残っているのか。エイプマンやドッグマンは、ずっと昔は迫害されてたからな」
迫害とかじゃなくて、そもそも種族が存在していないんだけど、それは言わない方が良さそうだ。
「じゃあ今は普通の人と同じなんだね。ちなみにドッグマンって犬耳でモフモフしてて尻尾があるの?」
「モフモフ? あぁ、小説のキャラみたいなやつか。
人によって程度は違うが、あれと違って少し毛深い程度だな。俺も顔以外は人間種とあまり変わらん」
ケモ耳は居ないのか。折角異世界に来たのに楽しみが一つ無くなった。神様、もっとエンタメ精神持って世界設計しないと流行りませんよ!
それはともかく、
「じゃあ、あっちの2人は?」
と50メートル程先の2人組を指差すと、
「アイツらは……あぁ、『海蛇の渦』の2人だな」
とケーンさんが答える。
てっきり同じギルドの人達が来ていると思い込んでいたけど、それならわざわざテントを分ける必要がなかったな。
「ちなみに白鷲とバッカニアとの関係は?」
「バッカニアは胡散臭い連中の集まりで俺達とは敵対関係、海蛇はただの同業他社だな」
それが本当なら敵の敵は味方認定?
「バッカニアと海蛇の関係は?」
「バッカニアが海蛇を勝手に手下扱いしている感じだ。
海蛇側はあまり良く思っていないらしいが、海蛇も先代のマスターが海賊上がりだったから力関係があったんじゃないかな」
多分だけど海賊の頃からバッカニアの傘下扱いされてた感じなんだね。
「それなら海蛇の2人も、戦って倒す必要はないんだね。
あー、良かった、おそわれたらどうしようかって、さっきからずっとドキドキしてたんだ」
「それは本当にすまん。
見たことの無い顔の者が1人で居たから、誰かに何か騙されて来たんじゃないかと心配で」
善意で近寄って来てても、それを伝える方法が無かった訳だ。でも知らない人が武器を持って近寄れば、誰だって警戒するよ。
「俺、さっきバッカニアの2人にカリッとカツアゲされたんだ。だから仕返しに拘束して地面に転がしてるんだけど」
「……転がして?」
「まさか、転がし放置は宗教的にダメとか?」
「……それは一体どこの宗教だ?
教祖の頭がおかしい……いや、そうじゃなくて、簡単に捕まる2人じゃないと思うが」
そうなのか? 運良くブラールに気が付かなかったから簡単に捕まったよ。殴り合いにならなくてマジ助かった。
「俺からすれば、あんなのただのチンピラゴボウですよ」
内心では遠隔だとブラールが発動しない可能性があったし、強度と生成時間も分からないから冷や汗かいてたけど、敢えて初対面の人達に事実を教える必要は無い。
何分にも彼らのことを全く何も知らないのだから、ここでの最適解が分からない。ただ、冒険者には戦えない奴だと思われると下に見られそうだから強がってみた。
「そりゃ、なんとも食えないゴボウだな」
「食ったら腹下すわ。いやいや、見た目によらず大したもんだ」
そんな感じで少し白鷲の2人と話しているうちに海蛇の2人が近寄ってきた。
「白鷲さんか、おはようございます」
と頭にバンダナを巻いたシーフか海賊みたいな男性が軽く挨拶。もう1人は頭ではなくスカーフみたいに首に巻いている。その布切れが組織のトレードマークなのだろう。
それにしても海蛇って怖そうな名前の割に腰が低いな。名前から違う印象を持ってたけど、そう悪い感じはしない。
「ねぇ君、さっきバッカニアの2人に何かしたのか?」
とスカーフ男に聞かれたので、
「まぁね」
とだけ答えた後に質問をする。
「そちらの所属と名前は?」
「海蛇のジン・ペイン」
「同じくクリュー・ミズミだ」
そう名前を告げるとバンダナとスカーフの刺繍を見せる。その布切れ、名札の代わりになるんだね。
「最後に俺は昨日から便利屋助け隊のお世話になることになった、エース候補のリークです」
「あぁ、それでトミーさんとこの服を着てるのか」
「エースって言うよりジョーカーだな」
ケーンさんとジンさんがそんな反応を見せる。
俺は筆頭マイスターで助け隊の切り札だし、バッカニアの2人からしたらババ抜きで最後にジョーカー引いた感じなんだろうね。




