第20話 行きはヨイヨイ、帰りは ホワイ?
一晩で6匹のジリスをゲットし、更に5匹のコヨーテを撃退するオマケ付きで目標達成となったので、テントを畳んで町に戻る準備を始める。
コヨーテの頭を運ぶ為に、丈夫な雑草の茎で籠を編むのがここに来てから一番苦労したかも。
白くて大きな卵みたいなオニフスベを出して、その中にコヨーテの頭を収納する。これなら遺体の一部を見なくて良い。勝手に命名したが、キノコ魔法が使えて本当に良かった。
ただ、トミーさんが持たせてくれたリュックが結構大きいせいで、そこに籠を背負うことが出来ない。
もし草の籠をズルズルと引きずって歩くと、すぐに壊れてしまいそうなのでどうしたものか。笠のあるキノコで車輪を作ってみるかな。それともナメタケみたいにヌルヌルしたキノコを下に敷くか。
あっ、籠を作るのに草じゃなくてシロソウメンタケで作れば良かったじゃないか。でも白い材料なんてこの辺りには無いから目立つかな。
それを言っちゃうと、オニフスベも車輪代わりに使おうとしたキノコもこの草原には生えていない。よし、諦めて白い籠? と言うかソリを作ってしまおう。
出来たソリにコヨーテの頭入りオニフスベを五つ乗せ、それから大きなリュックを背負う。連れて帰るジリス達はとても賢くて、檻に入れなくても付いて来てくれるみたい。と思ってたら、すぐにリュックの上に移動したよ。
現地に残るジリス達が後ろ足で立って前足を振って見送ってくれる。とても感動的なお別れのシーンだね?
しかしジリス達が俺に懐く理由が分からない。俺がコヨーテから彼らを守りに来たとでも思っているのか。
それに俺の言うことも何となく理解してそうだし、異世界の動物は一味違うのだと納得しておこう。
だって、いちいちこんなことで深く理由を考えていては、ここでは上手く生きていけない気がするからね。
ジリス目当ての冒険者は来ていないと思うけど、先客の2組と後から来た1組が俺以外にここに居る。
彼らの目的は分からないが、俺に関係があると決め付ける判断材料は無い。
先客は進行方向の反対だから無視するとして、後から来た人達は俺の居る場所から1キロぐらいの場所に居る。町へ戻る方向がそちらだけど、なるべく近寄らないよう距離をおいて進もうか。
バッカニアギルドか別のギルドか知らないけど、藪をつついて何か出すことになるのもイヤだし。相手からの接触が無い限りはスルーだよ。
そう思いつつも、どんな人なのかやっぱり気になる。
右手で丸を作って目に当て左目を閉じれば、気分だけキノコアイ望遠モード。単に視点を遠くにするだけなのに大袈裟な。
で、それでテントの方を見てみると、怖そうなおじさんが望遠鏡で俺の方を見ていた。
気のせいじゃないよね、と思い少し迂回方向へと足を早めてみるが、望遠鏡は俺の方に向けられたままだ。
レンズ越しに目が合ったのかな?
それなら他のテントはどうかと思って見てみると、残り2つもやってることはそう変わらない。皆が俺のイケメンぶりに見惚れてる?
どちらのテントも居るのはオッサンだけだから、それは無いだろ。
となると、俺がたった一泊で戻ろうとしているので興味を持ったのかも。
望遠鏡があることを知らなかったけど、海賊上がりのバッカニアなんて組織があるのだから単眼鏡があってもおかしくなさそう。海賊ってそう言うの持ってるイメージだし。テレス……スコップとか言うヤツ。
問題は後から来た人達が俺に敵対するか、しないかだ。コヨーテと戦った時に、敵意を持つ相手を目の前にする恐ろしさを理解したばかりだ。
会話が通じる相手と通じない相手では、対応する時に考え方そのものを切り替えないといけない。
コヨーテは俺を見たら襲ってきた。そこには理性も 感情もない。あったのは本能のみ。だから俺はそれに対する残酷な結果をもたらす為に即応した。
でも、こいつらは人間だ。それなら――まずは行うのは会話だ。
それでも武器を持って近寄ってくるなら敵。そうでなければ、まだ選ぶ余地がある。
彼らに会話が通じなかった時は、コヨーテと同じ扱いにする。
もう、その切り替えは済んでいる。
……あっ、ホコリタケで自爆攻撃をやると、お供の6匹が巻き添えを食うからダメか。
時間差はあるものの、どうやら3組とも俺の方に近付き始めたようだ。うん、これはもう敵意ありと見なして行動しても間違いないかな?
顔だけで判断すると、俺より後から来た2人組が先客の2組に比べて、いかにも悪そうな顔してる。
で、次の問題は山賊の親方を殺せなかった俺が冒険者達と戦闘になった時だ。
真っ直ぐ突っ込んで来るしか脳がなかったコヨーテはホウシタケで返り討ちに出来たけど、今度は恐らくコヨーテより知恵のある? 人間が相手だ。
トミーさんの商売をこうやって妨害してきた、ってことも充分考えられる。でも先にこちらから手を出すのはマズイんだろうな。
俺は町の新参者で初対面の人達ばかりだから、会話、交渉が成り立つかも分からない。出切れば会話で済めば一番良いけど、そうならなかった時にはどうしよう。
更に少し歩く速度を上げてみる。すると三組のうち一番遠くの人達が走って追い掛けてくる。俺の落し物を届けてくれるのなら、おーい、とか何か俺を呼び止めようと声を掛けてくる筈だけど、それをしないのは俺の追っかけだから……リアル追っかけは、ちょっとどころじゃないぐらい恐怖を感じる。
仮に悪意を持っていなくても、無言で近寄られるだけでドキドキものだ、まさかこれが吊り橋効果による初恋なのか?
イヤイヤ、脳科学的に吊り橋効果はイケメンに限るって立証されてるから……それにオッサン相手にときめく訳が無いだろ、乙女目線前提の話が既におかしい。
実際にはオーイなんて叫んでも聞こえる距離ではないのだけどね。
3組の冒険者はおよそ1時、4時、7時の方向から俺を包囲するように近付いてくる。あっ、何もコヨーテの時みたいに待ち伏せする必要は無くて、何処か1組を先に潰せば後が楽になるじゃん。俺って天才っ! いや、もっと早く気付けよなって? でも、怖いし。
おかしい……かなりテンパってるのに、恐ろしさが一周したのか、逆に頭が冴えてきた気がする。
これがホントの吊り橋バンジー効果かも。
そうと決まれば1時の方向の悪人面の2人に接近していく。
1人はハゲマッチョで上半身裸の上に肩の辺りから斜めに革のベルトを掛けている。バーバリアンスタイルだな。もう1人は小柄で狐目のいやらしそうな感じの男。きっと後ろからチクチクタックんとナイフを投げるスタイルだろう。
投擲を警戒しつつ距離を詰めながら、右手にはいつでも使えるようにホコリタケを用意しておこう。
距離30メートルぐらい辺りまで近付いた辺りで、
「よぉ、兄弟。朝から良い天気だな。なにか用かな?」
と声を掛けてみる。ちなみに今は生憎の曇り空だが細かいことは気にするな。
「今は曇ってるだろが! どこに目を付けてやがるっ」
あれ? 見た目はバーバリアンのオッサンに気にされてしまった。随分気が効くハゲ頭だな。いや、ハゲじゃなくて短いトサカみたいな感じのモヒカンに仕上げてるのか。意外とオシャレさん。
「何か用かじゃねえだろ、ここら一帯はバッカニアファミリーのシマだぞ」
と小さい方。
確かトミーさんのメモにはそんなことは書いてない。空き地は領主のものらしいよ。
「それは初耳だな。それならお前らのシマだと分かるように、ロープを張るなり、柵を作って囲むなりしておいてくれ。そうでないと分からないだろ」
「広すぎて出来ないんだよ!」
「ほぉ、なら帰って土地の権利を書いた物を見せてもらうぜ。地権者だって証明して貰わなきゃ何も出せない」
この世界にそんな物はあるのかな? 無いと行政的にも困る筈だから、それらしき物はあると思う。
「いちいち煩いことを言うガキだな。俺が馬鹿だと馬鹿にしてんのかっ!」
バーバリアンさん、その言い方からして馬鹿丸出しで御座いますのよ、早いとこ気付いてね。
「本当なら無断立ち入りした罰金を貰うところだが、お前の持ち物だけで勘弁してやろう」
「なるほと、オジサン達は俺をカラッとカラ揚げにしようとしてるんだ。俺の荷物は預かり物だから譲る訳にはいかないんだよ」
トミーさんのリュック、バックパックは旅行者用の物より少し大きい。Lでサイズ言うなら100Lぐらいはあると思う。荷物の中ではテントが一番嵩張ってるかな。
「それを言うなら刈り上げだろうが!」
と狐目が怒鳴る。
「そうとも言う……ん? で、カツアゲは犯罪だからやめときな。何の用?」
「荷物置いてけって言っただろう」
「バッカニアってカツアゲ専門店じゃなくて追い剥ぎか強盗なんだね。
それなら殺しても構わないか」
「すかしたこと言ってんじゃねえ!」
「狐には厚揚げ……じゃなくて油アゲか」
確信した……今は考えない。考えたら、また止まる。
まだ、今ならきっと間に合う。
先にバーバリアン風の男が動き出そうとしたが、脚を取られて勢い良くその場で転んだ。遠隔操作がうまく行ったな。
「なんだ、コレは?」
と体を起こしながら驚くバーバリ。
どうやらシロソウメンタケで作った足枷は、バーバリアンの脚力より強いらしい。良い実験が出来てラッキーだ。足元には草がたくさん生えているから、こう言うトラップを仕掛けるにはちょうど良かった。
「シロソウメンタケで作った足枷だよ、名前はホワイト……えーと」
「考えてないんか!」
と狐目が突っ込む。別にボケたつもりはない。
「さっき即興で考えた技だから。なら、ブランフラジールで」
「この固さで割れ物はないだろ」
オシャレに白い壊れ物って言ってみたのさ。何語かとか文法とかは知らん、ネーミングなんてノリで良いでしょ。キノコ人間になったせいでかなり記憶が飛んでるからね。でも意味が通じて良かったよ。
「あー、それね、時間と共に少しずつ輪が小さくなっていって、足がボキッていくから気を付けてね、って警告の意味も込めてるんだよ、骨が割れないようにね」
勿論嘘です、足の甲の所に地面からUの字型に生やしただけですよ。コヨーテの体当たりで完全には壊れなかった実績があるからね。
転んだバーバリアンの腕と胴体にもブランフラジール……長いからブラジール……はやめて、何でもいいからブラールって呼ぶか……で拘束する。急いで何本も遠隔で出すと疲労感がヤバい。
次に、まだ転んでいなかった狐目が足の拘束を壊そうとしている間に、後ろから首を絞めるように1本伸ばす。大きな隙が出来たところに胴体を縛って地面に固定した。
中々使えるシロソウメンタケの能力だけど、これだけやると体内の魔力が尽きかける。消耗しすぎる貧血で倒れる寸前みたいになるのは既に体験済み。休めばじわじわと回復するけど。
ちなみに1本の太い棒に見えるが、複数のシロソウメンを捻ってロープみたいに伸ばしているから、ただのシロソウメンタケより強力なんだよ。
突如倒れたバーバリアンを目撃してか、後から接触予定の2組4人が驚きの声を上げた。
俺が直接手を動かしていないにも関わらず、大男を倒したのだから驚くのは当然だろう。
おっと、ついでにクチにも追加でクルリンポ! フガフガとうるさいけど、罵られるよりマシだろう。
さてと、次は残り4人の中でも強そうな人から相手にしますかね。出来れば逃げたい、と言うか戦闘になったら俺が死ぬ。




