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第19話 予想外に役に立つやつら

 仮眠から覚めると、檻に入れたジリス二匹の為にテントを出て餌を探す。基本草食だが昆虫も菓子パンもドッグフードも食べるそうだ。

 テントから出るとすぐに二匹が悲しそうな?声で鳴き始める。家の中で放し飼いにしてたら、飼い主が戻ると迎えに出てくる忠犬パターンの生き物じゃないだろうな?


 後ろ髪を引かれる想いで草原に出ると、餌にしていたと思われる背の高い雑草をナイフで刈り取る。草の名前なんて知らないけど、スゲとかカヤとかススキってやつかな?

 適当に束を作って……たくさん刈っても持ち帰る方法が無いか。こう言う茎の丈夫な草は編み物になるんだよね? 確か時代劇の虚無……僧が被る笠みたいなヤツ。あれって藁で作るのかな?

 藁もイネ科だから似たような物か。時間はあるからそう言う感じで遊んでみるか。


 ワォォーーー


 狼の声か? うーん、動物の映像はあまり見なかったから声じゃ判断が出来ないや。実物を見ても狼と大型犬を間違える自信があるけどさ。


 で、まさかと思うけど、夜行性の肉食動物が群れで近くに来てるってオチは無いよね?

 本当にそうだと、言ったらなんだけど俺の話しはここで終わるよ。


 俺の武装はナイフが2本のみ、それを使って戦った経験どころか訓練さえしてないし。襲われたらどうしよう。何か魔胞子使って上手く身を守れないかな?

 襲われそうになる今のうちに試しておこう。大前提として接近戦は不可!

 狼に近寄られるだけで怖いから、噛まれる噛まれない以前の問題だ。可能性に賭けるなら……魔胞子での遠距離……攻撃……を考えよう。


 エノキバレットっ! 不発。

 シメジバズーカっ! 同じく不発。

 エリンギミサイルっ! 以下同文。


 立てた薬指に胞子が集まる感覚はあるから、多分キノコの問題だと思う。名前と形だけ知ってて、実際に食べて体が覚えていないキノコはどうやら弾にはならないらしい。

 菌肉マンになってから食べたキノコで強そうなヤツを思い出せ!


 キャンキャン! キャンキャン!


 どうやら悪い想像が当たると言うのは本当らしい。

 暗い草原に、星明かりに映した金色の目の色が光っている。その数は1……2……くそっ、5対もかよ。どうやら俺が美味しい獲物に見えたらしい。確かにジリスより俺の方が食いでがありそうだけど、菌肉マンって食えるのかね?


 ――違う。

 今、そんな馬鹿なことを考えてる場合じゃないだろ!

 こいつらは話を聞かない、交渉も成立しない。

 俺が大声を出して威嚇しても、きっと負け犬の遠吠え程度にしか受け取らない。ポタリと垂らした涎は、既に俺を『動くご馳走』と見ている証拠だ。

 

 近付かれた時点で終わりだ。

 考えろ。じゃない。

『今すぐやれ』だ。


 そう覚悟を決めた時、俺の中で思考の順番が強制的に書き換えられた。

 速度に劣る俺じゃ逃げる選択肢は成立しない。

 ジリスの檻のように守りを固めるか、敵を動けなくするか。選択肢はそれしかない。


 風はほぼ無し。アレを使うには、グッドコンディションだ。


 その5頭が足並みを揃えて俺を包囲してくる。かなり集団戦に慣れた奴らだな。

 でもそれだと俺が動かなければほぼ同時に俺に到達するわけだし、逆に俺が有利になるんじゃないかな。


 風はほぼ無し。閃いたアレを使うにはグッドコンディションだ。


 身を屈めてシロソウメンタケで自分を檻に閉じ込める。くそっ、急いで硬くなれ、なんて条件を付けたせいか疲労が押し寄せる。

 それでも我慢し、切り札を手に出してタイミングを計る。

 ジリジリと距離を詰め、俺が怯えて逃げられないと確信したのか一斉に飛びかかる。俺の視界に捉えられたのは3匹だけだが、後ろの2匹も飛んだ筈。

 白い檻にはジリスがガジガジやっても壊れないぐらいの強度を持たせた筈だが、狼が全力でぶつかってきた場合に耐えられるか正直やってみないと分からない。でも今は信じて任せるしかない。


 ガシャーンと大きな音を響く。

 5匹が檻にぶつかりキャインと悲鳴をあげたところに特大サイズのホコリタケをギュッと押し潰す。俺の魔胞子、全部持ってけっ!


 起点となった俺はもちろん、瞬時に当たり前一面が薄い茶褐色の胞子に包まれ息が苦しくなる。

 この距離で使うのは本当に悪手だと理解しているが、今は他に選択肢が無かった。

 ただの胞子だけでは嫌がらせに過ぎないので、ホコリタケの胞子にシビレタケの成分をミックス。


 ゲホッ!


 さすがに俺も大量の胞子を吸い込んでむせたが、襲ってきた獣達もキャンキャンと悲鳴をあげながらのたうち回る。

 胞子の霧が晴れた頃には、変形した檻の周りに5匹の狼ぽい動物系魔物が痺れて動けなくなっていた。

 痺れて動けない今なら殺してしまうのは簡単だが、生態系の維持にコイツら肉食動物もひと役買ってる筈、どうしたものか。

 この魔物を肉じゃなくてキノコを食べて生きていけるように肉体改造が出来れば最高なのだが、キノコ魔法で出した物を食べさせてもそこまでの魔改造は無理だろうな。


 ミートさんのメモに何か書いてないか見てみよう。

 テントに戻り、中に入ろうと入り口をペロッと捲るとまたビックリ。いつの間にか20匹近いジリスにテントを占拠されていたのだ。これは一体どう言うことだ?


 檻に入っている2匹を見ると、檻の隙間から手を出して親指を立てる。つまりお前らが呼んだってこと?

 呼ぶにしても家族だけにしてくれよ……まさかジリスって複数の家族が集まって暮らしてるのか?

 しかもまたヒマワリの種とか諸々を食い散らかしてるし。食べ物はそれしか残って無かったんだぞ……俺の食料も含めてな。しかし困った、俺が寝る場所がない。ジリスを掻き分け、メモを探して外で読む。キノコアイの暗視能力のお陰で星明かりだけでも読める。


 何々、

『ジリスが多く住んでいる地域には、確率でコヨーテの群れが夜間襲撃に出て来るのでテントから出ないこと』

 ……だって。

 こんな大事なことを一番最後に書かないでよ。魔胞子の練習を優先して、途中までしか読まなかった俺が悪いんだけど。

 俺が狼だと思い込んでいたのはコヨーテ系の魔物だったのね。そんなの素人に見分けが付くわけないでしょ。


『コヨーテは駆除してもすぐに増えるので、見つけたら死ぬか駆除するかの二択です。

 集団で襲ってくるので初心者は逃げて下さい、少しだけ生きる時間が延びます』


 そうだけど、書くことはそうじゃないだろ?

 生き残る方法を書いてくれよ。


『慣れてきたら、オー、ヨシヨシヨシと言いながら大袈裟にスキンシップを取ってください。

 コヨーテとの関係がスッキリして、相手も喜びます。

 ただし、甘咬みでも歯形クッキリになります(ハッキリ言って上級者向け)』 


 ……気のせいか、途中段階がかなり割愛されてない? 余計な情報いらないし。

 便利屋のメンバーが減った理由って、他のギルドのせいじゃなくて、トミーさんにあるような気がしてきたわ。でも取り敢えず5匹は駆除対象だな。


『駆除した場合は首を切って持ち帰ると1頭につき大銀貨3枚が国から貰えます。

 以前は尻尾でしたが、殺さず尻尾だけ持ち帰る詐欺が横行したので、とても面倒ですがお願いします』


 5匹倒せば15枚の稼ぎか。これはデカいな。もっとも、毎回こんな状況になる訳がないのは分かっている。今回はたまたま運が良かったにすぎないだろう。

 じゃあ、サクッと首を……切り落としますか……グロ耐性って俺にあるのかな?

 まだ動けないコヨーテの頭を巨大オニフスベで覆って見えなくして、乾燥キノコを首に大量に撒く。これで流れ出る血を吸わそうって話ね。さて、問題はナイフで首を落とせるか、なんだけど。 


「キュッ!」


 はい? 何故かジリス達が列を作って並んでる。倒れているコヨーテに用があるのか? コイツらにとって天敵だし、見たら逃げる筈だけど。


「まさかコヨーテの首を落としに来た、なんて言わないよな?」

「キュキュッ!?」

「そのまさか……?」


 でした? ……可愛いジリス達がコヨーテの首にかぶり付き……暫く電波? に流せない絵面が続く。結果、俺が手を汚さなくても5匹の頭をゲット出来たのだ。

 この世界の動物、と言うか魔物について、俺の常識の方を修正しないといけないらしい。

 雑食動物なら肉も食える……そう思っておこう。


 草の茎で歯を掃除するオヤジ臭さを披露するジリス達だが、茶色の頭周りが血で赤く染まってるぞ。さすがに不衛生だから洗ってやるか。


「お前ら、並べ~。シャワーで洗ってやるから」


 左手の薬指から即席シャワーのように水を出してジリス達を1匹ずつ洗ってやる。これだけで1時間は過ぎた気がするが、楽しかったからまぁ良いか。

 しかし眠いな。普通の人間ならまだ寝ている時間なのだろう。テントの中はジリスに占拠されたので、仕方なく外で寝ることにした。元キノコだからか、地面にごろ寝してもすぐに眠れる安心設計……


 陽射しを感じて目を覚ますと、お日様が完全に山の向こうに姿を現していた。ジリス達が散らばって餌を探しているのが見える。野生のジリスは穴を掘って虫を食べるのか。

 そう言えばジリスに似たプレーリードッグってのが居たけど、コイツらどっちなんだろ? ジリスにも幾つか種類があるから纏めてジリスと呼べば済むのかも。


 あ、俺の朝飯……仕方ない、昨夜と同じキノコを探して食べるか。

 それにしても、これだけジリスが集まったけど檻には大人だと2匹ずつで計6匹しか入らない。子供を親から引き離すのは忍びないから、大人サイズを持ち帰るか。


「なぁ、お前ら。人間に飼われても良い奴は居るか?」


 さすがにここまでの言葉できないか。

 ツガイを3組、俺に選べるかな? サイズで大人と明らかな子供は判別出来るが……だが、その心配は簡単に解消された。

 テントの中でいちゃつくカップル達が現れたからね。

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