第14話 初仕事を貰いました
黒く染まった魔石を棚にしまったトミーさんが、水晶のカードをポケットから取り出す。
「あっ、身分証を作るから君の名前を教えて。
私はトミー・アン・ドーマツね」
姓があってミドルネームにアンが入るの、この辺りでは普通なのかな?
「俺はリークで」
「オレワ・リークデ君だね。良い名――」
その名前が良いって、俺の選択は失敗? それともこの人の好みかな?
「……リーク」
「そう……地味な名前にしたのね。グリちゃんで良かったのに」
俺が魔石を黒くしている間にあの門番さんと話をしてたんだね。あの人、相当グリちゃん推しなんだな。
「それでお仕事の話だけど。
魔力を引っ込める制御が出来るようになったから、今度は魔力に敏感な獲物を狙いに行って貰えるかな?」
ん? 頑張って魔石を黒くしたのにスルーってどう言うこと?
「待ってよ。その前に魔石にチャージした分の仕事の対価は?」
「フフ、アレは魔力の操作練習用に用意した空の魔石だよ。あれを売ってる訳じゃないから。
君みたいに魔力駄々漏れさせてる人がうろついてたら絶体トラブるから、こうやって訓練する時に使うのよ」
「だって魔力を流しすぎたら魔石が壊れるから、その分は賃金から引くって話だったよね?」
「私はこれが仕事の依頼だとは一言も言っていないわ。
もし聞かれたら、今後君が稼いだ賃金から引く予定だと答えたわよ」
「汚ねぇよ」
トミーさんが澄ました顔で人差し指を左右に振って軽く笑うと、
「えぇ、そうだと思う。でもね、アナタがもし他の所に行ってたら、こんな感じでずっと搾取され続けたかも知れないわよ。
それだけ思い込みで行動したらイケナイって分かったね?」
と言って俺にデコピン一発。
「ゥッワ!」
と悲鳴をあげた。メチャクチャ痛い。この人、凄いデコピン慣れしてるの?
それはともかく、確かに理屈は通ってる。さっきのは、俺の迂闊さを教える為の芝居……だったんだろう。
「気分的には騙されてショックだけど分かった」
「ありがとうね。
ちゃんと働いてくれるなら、この家に住まわせてあげるから宿代は節約出来るわよ。ハウスキーパーとしての技術を教え込むって思惑もあるから」
なるほど。宿代が不要になるだけでも、かなりの節約だ。
住み込みで働けるなら悪い対応じゃない。魔石の魔力チャージが仕事だったとしても、それが家賃代わりと思えば……あっ、『支払いはマナチャージ払いも可能』って言ってたか。
「それと、君にはまだ早いんだけど、この魔石で稼ぐつもりなら良いことを教えてあげるね。
実はこの黒い魔石、もっと魔力を込めると別の色になるから壊れなかったんだ」
……この人……いや、これも教育の一環か。
黒で止められる程度の魔力制御が出来るようになったから、その先にある、少し厄介な仕事を想定してるんだろう。
――暴走魔道具を止める役とか。
一瞬だけ、命懸けでそれを抑え込むシーンが頭をよぎったけど、いや、さすがに考えすぎだ。
目立つのは御免だし、それはキノコ生まれの俺じゃない、この世界の誰かがやることだろう。
俺は、その人に感謝を伝えるだけの役でいい。
キノコみたいに、平穏で安定した暮らしが出来ればそれで良い。
「――あの、君が今何をニヤニヤしながら想像してたのか知らないけど。
もし最後までチャージ出来たら大金が手に入るから、金策が必要ならやってみて。
でも難易度が跳ね上がって最後にパリンって……これは賭けよ」
なるほど、今の俺には壊せないって話だったんだ。
騙したように見えて、こっちのことを考えてくれてたと受け取ろう。
大金は……家を買うと決めてからでも遅くないでしょ。
「じゃあ、リー君のメンバーカードを作るから、これでも読みながら待ってて。文字は読める?」
「大丈夫と思う」
ここに来るまでに見た文字は読めたから、冊子も大丈夫だろう。
「あ、名前はリーじゃなくてリークだよ」
「うん……分かってるよ」
少し心配になってきたけど、間違えてたら直してもらおう。刻印じゃないから、データ修正で済むんだろうし。
トミーさんを見送り冊子のページをパラパラと捲ってみると、良くある新人冒険者用の説明資料のようだが、市街図、周辺地図、魔物と植物の分布なども含まれているので、今後の役に立ちそうだ。
便利屋で食っていくなら色々覚えなきゃならないけど、俺には知識が無いから雑用程度の仕事しか出来ないだろう。
さっきトミーさんが魔力に敏感な獲物を狙いに行ってと言ったのは、冊子に載ってる臆病な兎の魔物のことかな。これなら初心者向けって感じだし。
他には地面を穴ポコだらけにするので害獣扱いの、ジリス系魔物も候補になりそう。でも、出現地域が町から半日程離れた場所らしいから違うだろう。
もうお昼は過ぎてるし、近場で出来る依頼なのは間違いない。
「冊子は読んだかな?」
と言って機嫌良さそうにトミーさんが奥から出てきた。背中には大きな荷物を抱えている。
「兎狩りですね?
今から日帰りで出来るの、それぐらいだし」
とは言ったものの、動物って簡単に狩ること出来るの? 冷静になって考えてみたら、その訓練が先じゃない?
「ノンノン。この便利屋はそんな誰かの邪魔するような仕事はしないよ。
狙うのは尻尾の先が白いオジロジリス。実は他の領での話だけど、お金持ちの間でペットにするのが流行ってるから、なるべくたくさん捕まえて来て欲しいの。
テントとか食料とか必要になりそうな物はこのバックパックに入ってるから。必要そうな石も幾つか入れてるからね」
トミーさんって見た目によらずとてもパワフルなんだね。
「それと、君のメンバーカード。
今は駆け出しのグレーカードだけど、依頼をこなしていくと色が変わって行くから楽しみにしてるね」
首から下げるカードケースに入った薄いグレーの水晶板を渡される。
「そのカードに触れて魔力を流せば、名前と所属が表側に表示されるからね」
「やってみる」
革のストラップを首に掛け、カードを摘まんで薬指を意識すると、カード表面に『リーク』『便利屋 助け隊』と表示された。
こんな水晶のカードが体内に流れる魔力を感知するって、とんでもなく凄い技術だと思う。魔力や魔法があるからこそ可能なシステムなんだろうね。
「カードは問題無いみたいね。
じゃあ、この荷物を持ってってね。リー君は魔力を持て余してるみたいだから心配してないけど、2泊出来るように準備しておいたから頑張ってね」
「えっ? もうこれから行くの?」
「うん、時は金なり、お釣り無しって言うでしょ。君はもうこの便利屋の一員だからね。仕事を任せて当然でしょ?」
てっきり部屋に案内されて、何やかんやあって明日から働くと思ってたんだけど。
あっ……そうか、俺が居ない間に部屋を用意しなきゃならないから、その時間稼ぎなのかも。
それなら今日、明日は俺が居ない方が、トミーさんの都合が良いんだから仕方ない。そう前向きに考えよう。
それに体も疲れていないし、今から動いても問題は無いね。
「ジリスは何匹ぐらい?」
「出来るだけたくさん。折り畳み式の籠1つに大人なら2匹は入るけど、成獣の雄同士を入れると喧嘩するから雄同士は別の檻に入れてね。籠は3つ入れてるから。
出来れば赤ん坊か子供、もしくはペアが良いわ」
「餌は何を?」
「魔物だから何だって食べる。噂じゃ好物は甘い物、パン、ヒマワリの種。種はたくさん入れておいたから。
夕方と早朝に活発に巣穴から外に出るって話だよ。良く目撃され出てるポイントは地図に印を付けてるから」
トミーさんが凄く期待されてる目で俺を見る。
よし、俺も男だ、これだけ用意されてて成果無しでは帰れない。頑張って行きますか。
「あ、それとユニフォームを用意してあるから着替えて。
君が着てる服、実は結構良いヤツなんでしょ。傷物にするのは勿体無いよ。中に入って」
それはありがたい。山賊から分けて貰った服だけど、高級品ぽくて少し落ち着かなかったんだよ。町の中を歩いてる時にも浮いてる感じがしてたしね。
トミーさんに案内されて店の奥に入ると棚が並んでて荷物がぎっしり。仕事に使う道具が保管されているのかな?
「はい、これ着てね」
とトミーさんが手で示したのはキャンバス生地ぽい布で出来た上下一体の作業服、所謂ツナギである。
色は土色と言うか、軍服にありそうな落ち着いた色だ。作業場に合わせたチョイスなのかも。保護色になってそうだね。
それと上下のインナー、ショートブーツと革手袋。
「これ1着だけで金貨1枚越えてるからね。着潰すのは構わないけど、成果を期待してるから」
金貨1枚って、作業服一式で半月分の給料が飛ぶってことだょ、めっちゃ高級品ですよね? ブランド品かな?
「通気性の良くて丈夫な生地は作るのが難しいからね。そうだ、次の仕事はこの生地の材料を取りに行ってもらおうかな」
「便利屋って、依頼が来てから対応するんじゃ?」
「依頼? そんなの待ってても来ないから、他の人が狙わない仕事をやるんだよ。競合しない限りどこもウチに手は出してこないから」
分かってたけど、やっぱり思ってた便利屋と全然違うよね。
トミー&マツ?




