第13話 訓練だったのか……間違いは良くあることです
魔力が抜けたせいで色の無い100個の魔石達の上に手をかざして、軽く息を整える。さて、ここからが本番だ。お金を稼ぐ為にも、今日はちゃんと働かないといけない。
取り敢えず、体から漏れている魔力を掌に集めようとする――が、魔力が見えないせいかピンと来ない。
言葉にすれば簡単なのに、ただ時間だけが静かに、そして確実に過ぎていく。
魔石が隙間なく並べられている小箱から、無言の圧を感じ始めた。これはマズい。
肩をぐるっと回してから腕を上げ、ついでに大きく背伸びする。ほんの短い休憩だ。
このまま悩んでいても、宿代は湧いて出てこない。
こういう時は発想を変えて、干し椎茸でダシ理論?
問題は、体から漏れているのが液体じゃなくて、気体かエネルギーか曖昧な何かってこと。
そこで魔力を湯気と同じと仮定する。
体の表面にまとわりついた湯気を、手のひらに寄せるイメージ。
目を閉じて、呼吸に意識を向ける。すると、肌の上を何かが優しく撫でる……たぶん、これが魔力なんだろう。
次は、それを手のひらに集める。
集まった方が密度が上がりそう、という完全に感覚頼りの判断だ。
体中に散っている煙が、じわっと手に集まるイメージ。
それでも弱い気がして、ダメ元で「吸い寄せる」感じを足すと――
手のひらを通り越して、なぜか薬指に集まり、そこを起点にキラキラした何かが滲み出てきた。
……あ、これ。
洞穴でガスバーナー代わりに使ったやつだ。
その時は勢い余って指先を軽く火傷した記憶もある。
ただ、ここで少し混乱する。
今集めていたのは魔力のつもりだったのに、出てきたのはキラキラ光る胞子力。
俺の中では、魔力は見えないもの、胞子力はキラキラするもの、そんな雑な区分をしていた。
でも、ラドさんもここのお姉さんも水晶板も、全部まとめて『魔力』って言っている。
じゃあ、胞子力って何なんだろう。
試しに、ほぼ無色の魔石に胞子力を触れさせてみる。すると、魔石がゆっくり灰色に染まっていった。
「まあ、チャージは出来てるっぽいな……たぶん」
俺の魔力が入ったから色付いたのか、魔石は魔力以外のものが入っても色が付くのか知らないし。
そんなことを考えてる間にも時間は過ぎていくから、今は検証より数をこなすのが優先だ。
そこで、薬指から出るキラキラを、煙を吐くみたいに少し離した位置から箱の中へ落とす。
見えるってだけで、作業の難易度が一気に下がる。魔石は触れただけで一段階目まで変化した。この辺りは、たぶんサービスみたいなものだろう。
そこから先は、息を止めたり、匂いを嗅いだり、今思えば意味があったのか怪しいことをしながら、段階を一つずつ進めていく。
「満タン手前までは、この方法で良さそうだけど……止め時が分からないのは怖いな」
流しっぱなしにしたら、全部割れる可能性があるらしい。
それは洒落にならない。
カラーチャートは後半に突入。ここからは量を抑える練習だ。
洞穴でやったガスバーナー方式を思い出して、指先の出力を絞る。
密度が上がったのか、進行はむしろ早くなった。
いつの間にか、体の表面にまとわりついていた感覚は消えていた。
意図的に魔力を外に出そうとすると、じわっと染み出す感じがある。
「……うん、たぶん制御出来てる」
後は、色の薄い石を中心に、満遍なく落としていくだけだ。
気付けばチャートは7段階目。
石はほぼ黒。
ここからは無心。
余計なことを考えず、ただ落とす。
そして――
100個の魔石、全てが8段階目の黒に到達した。
「……終わった、よな?」
念の為もう一度見直してから、奥のドアに向かって声を出す。
「おーい、お姉さん、終わったよー」
数秒遅れて、慌てた足音。
「あっ、ごめん!」
走ってきたお姉さん――いや。
「私、男だから」
「はぁっ!?」
このタイミングでそれ言う!?
どうやら今日一番の集中力は、今ので全部持って行かれたらしい。
美少女かと思ったらまさかのお姉さんは玉突き事故だった……見た目に誤魔化されるなって、いい見本だね。
「で、お姉さん改めお兄さんって今何歳?」
「こう見えて19歳か20歳相当かな? 訳あって正確な年齢は分からないのよ。それに年齢なんて無闇に聞いたらダメよ」
それは本物の女性に限らない? 最近は多様性もあってそうとは限らないのか、判断難しいな。
「子供の頃から家族には女の子扱いされてて、人にも女の子と間違われるのは慣れてるから良いんだけど」
多分、この界隈じゃ良くある話なんだろう。でも、服も女性用を着る必要があるのかな?
「……あっ、忘れてたわ、君が来る前に仕事でモデルやってて、その服着たままだったわ、ゴメンゴメン。
それより石を見せてよ」
そうだった。これが出来ていないとお金が手に入らない。つまり宿にも泊まることが出来ないわけだ。
「あら、ホントに真っ黒ね。たった3時間でこれ全部……ハハ……分かってたけど、これは参ったわね」
「3時間? あ、ホントだ、もうそんなに経ってたんだ。全然気が付かなかったよ。
で、魔力漏れは合格で良いんだよね?」
「うん、今は全然漏れてないから合格ね。
ついでにうちの筆頭便利マイスター認定を出してあげるわ。
メンバーは私を除くと君だけなんだから当然なんだけど」
メンバーが俺1人ってことは、ここは冒険者ギルドと違って個人経営のお店だったんだ。薄々そうじゃないかと思ってたけど。メンバーが居ないから、実はラドさんが気を遣って俺をここに紹介したってことはないのかな?
「昔はもっとたくさんのメンバーが居たんだけどね。
時代の流れなのね、ならず者を纏めた『バッカニアギルド』とか他にもギルドが出来てから、悉くそっちにお仕事を取られちゃったのよ」
「バッカニアって、意味は一応冒険家だね。でもその言葉には良いイメージが無くて荒くれ者って感じだね。
エクスプローラー、アドベンチャー、チャレンジャーとか他の単語もあるのにね」
「元々が海賊だった人達が立ち上げた団体だからね」
海賊って犯罪者ですよね?
それとも国家のお墨付きで他国の船しか襲わない私掠船ってやつか?
それで海で稼いで今度は安全な陸で稼ぐつもりかよ。ビジネスとしては間違っちゃいないかも知れないけどさ。
「バッカニアって合法組織なの?」
「そこよねぇ……真っ黒寄りの濃いグレー。問題を起こせば戦力と資金力で黙らせているって噂だよ」
「そんな人達が居たら、この店なんてすぐペチャンコになっちゃうんじゃ?」
「それでウチはお客様が1人しか入れない、こんな作りになってるのよ。開店してるのか潰れてるのか分からないでしょ。
でも、新進気鋭の筆頭マイスターが今日から来てくれるから、これから盛り返せるかもね」
戦力皆無の俺に何を期待してるんだろ?
それにここに回ってくるとしたら、バッカニアのやりたがらないお仕事だけじゃない?
それとも独自ルートで仕事を確保してるのかな? まぁいずれ分かるだろうから、あまり気にしないでおこう。




