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第12話 お漏らしする癖は治しましょう

 最初は怖いと思っていた門番さんに感謝しつつ、忘れていた便利屋の場所を教えてもらって城門を通過した。

 大きな通りを歩きながら自分の名前を色々考えてみるが、なかなか良いのが思い付かない。さっきみたいにまた名前を弄られるのもイヤだし、あの門番さんの子供と被ったら最悪だ。

 それに、国によって言葉の意味が違っている可能性もある。自国では良い意味でも、別の国では真逆になる、なんて話も聞いたことがある。


 だから名前のサンプルは多い方が良いんだけど――。

 そこでズルをして、聞こえてくる人名らしき音を拾いながら歩いてみた。

 ……が、外国人……でいいのか? 聞こえてくる名前が良いのか悪いのか、まったく判断がつかない。


 ただ、文字が読めることが分かったのは素直にありがたい。

 転生させた神様が実在しているとしたら、ここだけは感謝してもいい。

 ヒアリングは問題なくても、文字が読めないパターンも珍しくない……?

 いや、今そんな豆知識、思い出さなくていいだろ。


 キノコ縛りで考えると、マッシュルームかファンガスぐらいしか浮かばず、即却下。

 通行人や店先から聞こえてきたのは、英雄エール、剣豪モルト、賢者ラム、聖女ビアー、大盗賊ミード……。

 きっと酒好きでメンバーを揃えたんだろう。

 そういうの、俺にも仲間が出来た時の遊び要素になりそうだ。

 このまま一人……いや、大丈夫。きっと明るい未来が待ってる。


 少し現状に不安を感じつつ考え続けるが、やっぱり良い名前は出てこない。

 世の中のパパやママが名前を考えるのって、こんなに大変なんだな。

 だから似たような名前が増えて、自然に人が読めない名前が量産されるのかもしれない。

 名前を考えているだけで疲れてきて、なんだかもう面倒になってきた。


 今の俺にはパパになる資格も薄いし、相手が出来るかも怪しい。

 門番さんが言っていた。魔力が漏れているらしいから――『リーク』でいいや。

 キノコ由来の文字なんて欠片も無いけど、カッコ良さそうな横文字で表せるキノコなんて知らないし、無駄な努力はやめる。


 俺が言った『男爵芋』が勝手に『芋好き男爵』に変換されたみたいに、俺の意思とこっちの意味はズレる。

 正解なんて、どうせ見つからないんだ。


 ――で、便利屋はどこだ?


 おっと、あっちの店先にキノコが売られてる……が、それを買うには持ち金に余裕がなかった。

 それに、山の中でキノコを見た時みたいな空腹感も起きない。

 野生のキノコより鮮度が落ちているからかもしれない。

 大通りから二つずれた通りの突き当たり。


 ……あ、これか。


 周囲の建物に埋もれていて、特別目立つわけでもない。

 控えめな看板には『便利屋 助け隊』と書かれている。

 自分で言うのも何だけど、悲しいほどのネーミングセンスだ。


 ん?


 ……ああ、そうか。助ける、だから『レスキュー隊』を変換してこう読んだのか。

 どうやらおかしいのは、自分の翻訳センスの方らしい。


 気を取り直して、助け隊のドアを開ける。

 てっきりホールみたいな広いロビーがあって、受付嬢が何人か座っている――そんな光景を想像していたが、そんなものは無い。

 それどころか、思った以上に狭い。


 どれぐらい狭いかと言うと、町でよく見る、朝出して夕方に受け取りに行く洗濯屋……クリーニング屋と同じぐらいだ。

 誰もいないカウンターには『ご用の方はベルを鳴らして下さい』と書き置きがあり、矢印の先には、ペットがおやつを催促する時に使うようなベルが置かれていた。


 とりあえず「押す」と書かれた部分を押して、チーンと鳴らす。

 数秒遅れて「ハーイ」と返事があり、奥のドアから若い女性が出てきた。

 なかなかの美少女だ。

 ……ただし、胸に関しては、男性と見間違えるかもしれない。


 その女性が少しだけ困ったような表情を見せたが、それもすぐ消える。門番さんに言われた魔力の漏れが気になったんだろう。


「どんなお困りごとでしょうか?

 こちらで出来ることなら、非合法な内容でない限りやらせて頂きますよ。蟻の散歩にお爺ちゃんの散歩にドラゴンの散歩まで」

「蟻に散歩、いらないよね?」

「物の例えですって。ホントにアリの散歩させたことなんて過去に3回しかないですよ」


 あるんかーいっ! と激しく突っ込みたくなったけど我慢する。もしこの女性がそんなノリが嫌いな人だったら、馬鹿かと思われ敬遠される可能性もあるからね。


「それ、頼んだ人に会ってみたいよ。その人、頭は大丈夫?」

「勿論普通にボケてましたね。普通の人が頼んでたらお断りですよ。家族の方も諦めて好きなようにさせてましたね。

 でもね、蟻も種類によって凄く大きくなるんですよ。『ジャイ』なんて名前が付けられていたせいでしょうか、仔犬ぐらいの大きさがありましたよ」

「デカっ! キモッ!」


 仔犬っ言っても手のひらサイズになるよね? 普通の蟻って1センチもないし。それ、ホントに蟻なの?


「サイズ以外は冗談ですよ。それでどんな困り事ですか?」

「冗談かいっ! 話が上手いね……えっ? サイズはホント?」

「今度その依頼があったら行ってみます?」

「見たいような見たくないような」


 この人、真面目な顔で冗談言うんだから、どこが嘘でどこか本当か分かりゃしない。まさか詐欺師的な商売やってないよね?


「アリンコジョークは置いといて、どんな御用で?

 支払いはマナチャージ払いも可能です。チャージは一度に遣り過ぎると危険ですから、マナローンにも対応しますから」

「あの、俺は客じゃなくてお金に困っているので、このお店で働きたいと思って来たんです」


 マナチャージ払いって何か気になるけど、お金がなくても仕事を頼めるのは太っ腹だね。

 

「おぉ、それは嬉しいわっ!

 でも大手さんじゃなくて、こんな潰れかけの便利屋で良いの?」

「他にも便利屋さんがあるの?」

「うーんとね、他の店は『何とかギルド』って名前でブイブイ言わせてるかしら。

 ここに来るまでにも怖そうな人達が武器を持って歩いてなかった?

 ぁ、まだ朝早いから居なかったかな?」


 そう言や、今から仕事に行くようなことを言ってた冒険者風の人が何人か歩いてた。てっきりここに所属してる先輩だと思ってたのに。


「門番のおじさんが紹介してくれたのが、ここなんだけど。身分証を持ってないからメンバーカードを作りたいんだ。

 門番さんがここに来たら事情を察するだろうって。

 この水晶のカードを渡すんだよね?」

「うちを気に掛けてくれてる門番さんね、ラド君かな? 他の人はいい加減だからギルドを紹介するだろうし。カードを預かるわ」


 門番さんに連れられて入った尋問室みたいな部屋にあったのと同じ、水晶板をお姉さんが取り出してカウンターに置くと、渡したカードをその上に置いた。


『氏名   不明

 身元   不明

 性格   慎重、軽薄

 戦闘経験 無し

 魔力量  膨大

 希望業務 非戦闘職

 秘密主義な面あり。便利屋での登録を要望

 発行者  ラド・アン・ギラス』


 カードサイズの水晶にこんな情報が入力されていたのか。ファンタジックな癖して中身はハイテク過ぎるぜ。

 

「成る程、分かった。

 君が遠慮もなく撒き散らしてるその魔力をチャージに回せば稼げるかもね」


 ラドさんで正解だったみたい。でも、ラド……『君』付け?

 この人の方が若そうだけど、仲良いのかな? まさか男女の関係……?

 うん、他人のプライバシーに口を挟むと、不協和音の元になるからここでストップ。


「ラドさんにも言われたけど、そんなに撒き散らしてる?」

「本気で気付いてないの?

 普通の人なら昏倒するレベルで漏れてると思うわよ。無自覚でそれって凄いね」


 確かに無自覚だけど、普通の人の基準が分からない。

 まさかゲームにありそうな魔力アップ効果のある『フエルタケ』みたいな感じのキノコを知らない間に大量に食べてたのかも。


「実は、てっきりカチコミに来たのかと焦ったのよ。味方側で良かったわ。

 それだけ魔力が溢れてるなら……そうね、アレやってみるか」


 お姉さんが水晶板を元の位置に戻すと、今度は壁の棚から木箱を取り出してきてカポっと蓋を開けて中を見せる。


「この箱に空の(ジェム)が100個あるから魔力を流してチャージしてみて。

 ただし、流しすぎると石が壊れるから、その分は賃金から引かせてもらうわね。

 満タンかどうかと魔力の通り具合を見極めるのが魔力チャージのコツよ」

「そんなの初めてだし、分かるわけないよ」

「ごめんね、こればっかりは人が教えられるものじゃないから仕方ないのよ。カラーチャートがあるからそれを参考にね」


 俺の方にズズッと木箱を押し付けると、

「ああ、そうそう。君、ウチじゃなくて冒険者ギルドに行ってたら絶体苛められてたわよ。

 最近は非戦闘職希望の無職の子なんてそんな扱いだから、ラド君に感謝しておきなさい。

 それで、その石全部に魔力をチャージして真っ黒にするか、壊せたら正式に雇ってあげるわ」

と言って、カードサイズの水晶を持って置くに戻って行った。


 と言うことは、この空の石に魔力をチャージしないと身分証が貰えないってことだ。それなら気合いを入れてチャージしよう。


 台の上に置かれた石は、少しくすんだ透明で、どれも同じ四角にカットされている加工品。1つの箱に行儀よく10個が隙間なく並んでいる。

 洞穴で使った、加熱や水を出す石は天然石のように見えたから明らかに別物だ。

 同じ魔力絡みの石なのに、用途によって扱いがまるで違うのが対照的だ。


 カラーチャートは薄い灰色から真っ黒までの8段階。今の色はチャートにないからランク外か。魔力を貯めて黒くなるのはちょっと違うと思うけど、これが採用試験兼初仕事だと思って慎重に取り掛かろう。


 自分の体から魔力が漏れてるってのが今一つ感覚として理解出来ていないけど、気とかオーラとか言われる神秘の力に目覚めたんだと思えばムフフのフだね。

舞茸は英語で maitake mushroom。

リークが舞茸の横文字をグリフォラと言ってるのは名前ではなく分類の中の属のことです。Wiki 参照。

weblio英和辞典で舞茸 Grifola frondosa と出てくるが、マイタケって英語圏にあるのかな?

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