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第11話 町に入る前のチェックを受けることになった

 ノックスの町の城門が視界に入ってから暫く歩き、やっと前に到着した。

 門の開く時間が決まっているのか、少し前までは開門待ちの列が出来ていた。恐らく昨日のうちに町に入れずに外で一夜を開かした人も居るのだろう。

 俺が門に到着した時には先客がほぼ受付を終らせて姿を消していた。門の前には槍を持った怖そうなおじさん(20代中頃か)と、歳は同じぐらいだけど少し頼り無さそうなお兄さんの2人が立っている。お兄さんの方は欠伸が出ている、しっかり仕事しろ。


「見ない顔だな」

と、おじさんの方が声を掛けてきた。俺を見た時に瞬間的に攻撃される! っと思ったぐらい怖い顔だったけど、それはほんの一瞬だった。俺の顔に何か付いていたのかな?


「はい、初めてこちらに出てきた者です。ノックスで働く為に何とかこうして身支度だけは整えたけど、荷物はありません。

 身分証は持ってないけど、通行料だけは持ってます」


 お頭に身分証のことを聞いているので、聞かれる前に言っておく。


「では、中で簡単な検査をさせてもらおう」

「検査?」


 お頭から聞いた話にそんなのは無かった。何年も町に入っていないそうなので、その間に検査が行われるようになったのかな?

 石造りの簡素な部屋に入ると、ボロいテーブルの上に水晶と思われるノートぐらいの……A4って言うサイズ……の板が置いてある。


「その水晶の板に手を乗せたまえ」

「ハイ」


 門番の声は冷たいのだが、今はそれよりは目の前の板に心がときめいている。

 このただの板に見える水晶が、その人の情報を読み取る凄い魔法の器具なのだ。何処まで自分のことが暴かれるのか、恐れは当然ある。だけど、こんな優れた道具を俺は空想の中でしか見たことがない。

 水晶なので手を置いてもひんやりとはしないし、ビリビリと電気が走ることもない。


「名前は?」

「ありません。両親は不明、一人で彷徨ってたのを助けてくれた人にはいつも『お前』と呼ばれていました。助けたと言うより、本当は奴隷として売るつもりだったんでしょうね」

「なるほど、その者から見れば良い商材と判断したのか」


 お頭達も俺なら良い値段で売れそうだと言っていたので、俺はこの世界基準のイケメンなのだろう。

 キノコから人になる前に、そう考えたのが良かったのかな? それなら頭の方も天才になるように考えれば良かったと少し後悔。


「……何か考え事か?」


 不意に掛けられた声に、肩がビクッと跳ね上がった。

 反応の無かった俺に門番の視線が鋭く刺さる。俺の無言の時間が彼をイラつかせたようだ。今は思い出に浸るより取り調べに集中しなきゃ。


「あっ、ごめんなさい、別の道があったのかなって……売られる前に喧嘩して、それから和解して出てきましたけどね」


 あれを喧嘩したと言うのはどうかしら? まぁ少しは争ったから喧嘩と言っても良いだろう。


「その者の出身は?」

「イートラン村って言ってました。魔物に襲われて滅んだ村らしいです」


 一瞬、門番の眉がよる。


「……ふむ……俺がこの仕事を始める前の話か……そう言う村は少なくないからな。その者の名前は?」

「名前は聞いてません。お頭と呼んでましたので」

「仕事は?」

「山に入って木を伐ったり猟をしたり色々と採取しているそうです」


 略奪を採取と言って良いかは疑問だが、広義に於いて採取でも構わんだろ。


「おいおい、その話がおかしいとは思わなかったのかい?

 普通なら不信に思うだろう」


 不審とも呆れとも取れる難しい表情を門番が見せる。多分、立場が逆なら俺だってそうなるかも。

 だが彼はそれ以上は何も言わず、水晶の板の変化だけを注視していた。


「ええ、少々訳有りだと感じましたね。でも、それはお互い様なので。

 何より自分の身の安全が一番なので。俺に武力があれば違ったかも知れませんけど、剣は握ったことがないんで」

とマメの無い手のひらを見せる。


 水晶板は時折薄い緑色になったり水色になったり。気持ちの変化を読み取って色に表しているのかな?

 訳有りだ、ってところで青が今までで一番濃くなった。この時、俺は正直に言うと『あっ、これはやばいかも』と焦ったのだ。手に汗が滲む。どこかで対応を間違えたか? 緊張で初めて喉が渇いた。


 確かにその時の門番の表情が『意外だ』とでも言っているように見えた。だけど、その後は取り繕うように無表情になる。俺と視線が合うと、誤魔化すような咳払いだ。


 山賊が居ることをこの門番に言っても、まともな上役に繋がれるかどうかは不明なので、お頭が山賊だってことはまだ敢えて隠しておくことにした。

 良い貴族と悪い貴族が居て、この門番が悪い貴族の手下だったら俺は何とかホイホイに自分から入ったGと同じ運命になる恐れがある。だからここは慎重に動いたつもりだ。


 お頭達のことを話す相手はまともな人だと確実に分かった相手が良い。パンスト男爵とこの門番が実はツーツーの仲だったら俺がピンチになるだけだ。

 それにあの3人はとっくに他の場所に移動しているだろうから、山狩りしたとしても無駄足だろうな。


 門番は水晶板ではなく、俺の顔を見てから質問を続けた。


「では、君はここ10年間に大きな罪を犯したことはあるかね?」

「記憶にある中では無いですね」


 色は緑色。きっと緑色、水色、青の順番に表示されるのだろう。チラリと門番を見ると視線を逸らされた。


「町に入ってどんな仕事をするつもりだね?」

「町には『便利屋』があると聞きました。

 取り敢えずそこで働いて、お金が貯まったら次の町に行こうかなって感じです」

「それなら賞金稼ぎが一番だが」

「人を相手に戦う覚悟が無いんです」

「君の歳なら今から訓練を頑張れば良いと思う。護身のための技術を身に付けることは悪くないからね。

 人ではなく、魔物を倒す仕事はどうだい?」

「安全に稼げるのなら、ですね。訓練の結果次第で」


 ここで門番が腕を組んだ。そしてほんの少し考えた後、

「成る程ね。

 それじゃあ、次に私が指で上、下、右、左のどこかを数回示すので、そちらを向いてくれ」

と人差し指を立てて見せた。俺は素直に従うことにする。


「はい」


 指を追うように下、左、右、上の順に頭を動かす。何かこう言う撮影方法が無かったかな?


「協力に感謝する。手をのけてくれ」


 言われるままに手をのける。ビリッともしないし、今一つアクティビティ感が無くて残念。 


「名前が無くても今までは問題は無かったかも知れないが、町で暮らすなら名前が必要だ。今からでも考えておきたまえ。何なら私が名付け親になっても構わんが」


 それは恐らく俺に突けさせろってアピールですよね?

 そうは問屋が卸さないって話だね。


「それならグリフォラにします」

と言った途端、舌打ちが聞こえた気がする。舞茸が確かこんなカッコいい分類上の名前だったと思う。


「仮の通行証を発行するので、便利屋に行ってメンバーカードを作ってきたまえ」

「開き直りが早いっすね」


 ゴツッ! 軽く頭を小突かれた。多分軽くのつもりだよね?

 それからおじさんが水晶板をずらすとカードサイズの水晶板が姿を現した。親子みたいな関係なのかな。


 尋問された部屋を出ると、

「間違って討伐されんようにな、グリちゃん。

 本当ならここで大銀貨1枚を徴収するのだが、袋も何も持っていない奴からは取れんからな。

 早く便利屋で稼いでくれたまえ。向こうで事情を察するだろうから、迷惑を掛けんようにな」

「俺みたいに真面目な人間に何言ってんです」

「後ろぐらいことを隠す人間は大体そう言うよ」


 やはり、俺に隠し事があるのはバレてたのか。じゃあ、何か隠し事はあるけど大した問題はないと色で判断してたのかな?

 ファンタジック嘘発見器、侮りがたし。


「それとグリちゃん……あー、なんて言やいいんだ、お前、魔力を駄々漏れにしてるのは、魔力総量の底上げ訓練中か?

 検問を通る時は普通なら抑えるもんだ」


「えっ……ぁ、そうだったかも。ごめんなさい。まだ慣れていなくて……つい」


 そんな話は山賊達からは聞いてないし。魔力を増やすのは使い切って倒れるのが普通だと思っていた。それに駄々漏れしてるのも気が付いてなかったし。


「魔法使いを目指す少年達には良くあることらしいが、それでもグリちゃんから漏れてる量は桁違いに感じる者が多いだろうな。

 俺以外が当番だったら、攻撃姿勢と見なして逮捕されてたかも知れんぞ。感謝しろょ、グリちゃん」


 彼は俺の名前を道具にすることでヤバさを誤魔化そうとしているのだと思うけど、俺が魔力についてまだ知らないせいで、今のままだと不意に誰かに攻撃されるかも知れない、そんな事実が突き付けられた気がする。


「グリちゃんなんて呼ぶなよ」


 少しだけ頬を膨らませて抗議すると、やっと門番が笑みを浮かべる。


「グリフォンみたいな名前、弄らんでどうする?

 何ならクリスタルのクリち――」


 慌てて手を振り、それ以上は言わせない。


「グリフォラ、やめる。キノ、ノコ、レピオタ……」

「アースとかライトとかどうだ?」

「悪くないんだけど……あの、門番って暇なの?」

「馬鹿やろっ、暇じゃないぞ! 今だって仕事をしてるだろっ! お前みたいなきけ……ゴホン、意味不明なヤツの相手してんだから」


 え? 俺を弄って遊んでるだけにしか思えないよ。


「実は今度生まれてくる子供の名前を考えてるとこなんだよ」

「ただの惚気かよ」


話に付き合って損したっ!


「ったく……お前なぁ、言っておくがもっと気を付けろよ、別の当番なら刺されてたかもよ」


 その言葉に背筋に寒気が走る。


「ほんとに? あ、ありがとうございました」


 一瞬、言葉に詰まりながら礼を述べる。

 名前は後で真面目に考えることにして、町に入れと指で示した彼に感謝の気持ちで頭を下げてから町へと向かう。


 先程の門番が門の前に人が居ないことを確かめると、少しずつ離れていく不思議な青年の後ろ姿を見送りながら小さく呟いた。


「――まあ、板のお陰でかなりラクになったんだが、万能じゃないからな……ホントに俺に感謝しとけよ」



「まだ見付からんのか?」

「はい、情報も少なく捜索範囲もかなりの広範囲に渡るので、大規模な捜索隊を出したいところなのですが。

 物がものなだけにあまり大袈裟にするわけにも行かず、各ギルド2名までに制限しておりますゆえ」

「それなら……仕方ないのは分かるが、急がせろよ。それとおかしな連中には感付かれないように――」

「それが……実はどこから嗅ぎ付けたのか……やつらも動いたようで」


 金属製のマグカップがグシャリと握り潰され、中の液体が床を汚す。


「誰かが漏らしのか。すぐに獅子身中の虫を燻り出せ!」


 怒号が部屋に響き、命令を受けた人物は短く承知の意を見せ足早に退出する。


「また奴らが動き出したのかもな。海で暴れるだけなら目を瞑ってやれたものを……忌々しい」


 そう吐き捨てると、ひしゃげたマグカップを床に叩きつけ、そのあまりの音量に顔をしかめたのだった。

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