圧勝
「両者構えて…始め!!」
「くたばれ平民、〈風の刃〉」
フォルテ先生の合図とほぼ同時にノアが魔法を放つ。だけどその魔法は俺に届く前に霧散する。緩やかな暖かい風が俺の肌を撫でる。
自分の放った魔法が消えてノアが困惑している。
周りで見ている一部生徒も驚いていた。
「バカな、私の魔法が消えただと!」
「まるでそよ風に頬を撫でられたような感覚だな、え、魔法を使っていた?冗談だろ?」
「き、キサマァ、絶対許さぬぞ」
分かりやすい煽りでノアの精神に揺さぶりをかける。驚くぐらいその煽りが効いたらしく、顔を赤くしながら、無意味に魔法を何度も放ってきた。
俺がやった事はとても簡単な事だ。ノアが放つ魔法に対して、同じ威力の魔法をぶつけて相殺してるだけ。
母さんは、魔法を使う者として相殺ぐらい常識。と言っていたからノアが何に困惑したのか、俺には分からなかった。
「ハァハァ、何故だ、何故私の魔法が消える!」
一発ずつの魔力消費量は多くないはずだけど、何度も使えばかなり消費する。
結果、ノアの表情はだんだん苦しそうに変化していった。
そろそろ潮時かと思い、俺から近づこうとした時、ノアは顔を上げ、不敵な笑みで俺を見る。
「ここまでは小手調べだ、私の魔法が効かない事はわかった。なら秘術を使う。大怪我する前に負けを認めるんだな!」
自分の手の内をバラシ、こちらに棄権する事を進めるノア。秘術という単語に周囲がざわつき始め、先生達が張る結界の強度は上がった。
秘術を放たれる前に決着をつける事はおそらくできるけど、秘術がどれほどのものか見てみたくなり、俺はあえて待つことを選んだ。
「秘術だと!?」
「怖いだろう平民、詠唱が完了して魔法が発動すれば貴様はただではすまないからな、それでも負けを認めないなら、せいぜい防御魔法でも展開しておくのだな!」
俺に一言吐き捨てたノアは、それ以降俺の方を見向きもせず、おそらく秘術を発動するのに必要な、長ったらしい詠唱を始めた。
俺も当たりに結界を張ろうか悩んだけど、シャロが張った事を感じ俺は前に集中した。
ノアのこの手は俺からすればあまりにもひどい愚策だと思った。秘術を使う判断が悪い訳でじゃない。けど一対一の戦いで、無防備に詠唱を続けている。俺が待っているからいいけど、普通の戦いなら、この隙を逃すはずもない。
流石秘術と言うだけあって、さっきまでとは比べ物にならない魔力がノアの元に集まっているけど、何というか残念な奴だと思うしかなかった。
元日本人で一時期、厨二病を拗らせていた俺は、こっちの世界に来た頃、詠唱で魔力を高められる事を知り長い詠唱を何度か試した事はある。実際に詠唱の有無で威力は数段変わるけど、効率が悪いし何より、恥ずかしすぎたのでやめた。それを目の前でやられると嫌な記憶を思い出して悶えそうになる。何処かから「ウゥ」と悶えた声が聞こえたからそちらを確認すれば、一人の生徒が、周りの生徒に心配されている。蒼井将太だ。
彼は転移者でその手の知識があるのだろう。だからこそノアの詠唱を見ていて恥ずかしくて悶えてるのだと思う。もしかしたらいい友達になれるかもしれない。
詠唱を待っている時間、俺が知っている秘術についての事を思い出す。
秘術とは、一定の位以上の貴族達が保有する独立魔法もどきの事。何故もどきなのか、それは大体の魔法が上級、超級魔法を少し変えただけの魔法だから。
それでも秘術と言われてるのは、全く同じ魔法は使えないからなのだ。
長ったらしい詠唱、魔力制御、魔法を発動する承認。この三つの条件がそろわないと放つ事はできないらしい。最初の二つは一定以上の魔法使いなら何とかなっても、三つ目はその独立魔法を使う貴族の家系でないと承認がもらえないとか、ちなみに承認をするのはその家の主らしい。
見よう見まねで使用すれば、魔力操作に歪みが生じて事故につながるらしい。
それにしても長い、まだ詠唱が終らない。思い出したり、周囲を見たり、時間を潰してもまだ完了してない。秘術を受けた後どうするか考え始めた時に、万が一を考えてとある魔法を発動した。
『聞こえるか、シャロ』
『え、兄さんの声が頭に響く?どういうこと~??』
俺がシャロの脳内に直接話しかけると、シャロが驚いたように俺の事を見つめている。
『今〈テレパシー〉って魔法で直接脳内に喋りかけてる』
『そうなんだ~それでどうしたの~?』
『ノアが魔法を放ち終わったらすぐ、最大威力で防御魔法をノアと見ている生徒の回りに展開して欲しい』
『兄さんが何をするのかわからないけど、りょうかい~。でも兄さんが本気で魔法使ったら、私の防御魔法じゃどうしようもできないよ~?』
『まぁ、威力の調整はするよ。ただ目に見えて強大な魔力の方が精神的に揺さぶりになると思うし』
シャロにお願いし終わる頃にやっと詠唱も終わった。
俺が脳内会話をしているなんて露知らずに、俺を見てノアは笑った。
「これで貴様も終わりだ、長い詠唱を律儀に待ってたところだけは褒めてやる。ではさらばだ、偽りの一位〈帝王の炎〉!!」
見た目は〈火球〉のような、球状の魔力の塊りだけど、大きさと威力が全く違う。普通ならこの魔法に当たった瞬間灰になるだろう。
迫りくる秘術を前に、俺は持っていた剣を正面構える。拳一個分近づいたその秘術を、雑に上から斬り下ろし、秘術は真っ二つになる、行き場を失った秘術は、展開してある結界に当たり激しい爆発音と共に消えた
渾身の一撃だったのか、勝ちを確信して放った魔法が俺に斬られた瞬間ノアは「はぇ」と間抜けな声をだしていた。
「秘術がその程度か、待つだけ無駄だったな。今から格の違いを見せてやるよ」
言葉を放った次の瞬間、俺は周囲に、とてつもない量の魔力を集まる。異常な魔力量に先生たちが動こうとしたが、その行動は予想済みで、俺が〈行動制限〉を使い阻止する。
そしてシャロが魔法を展開した事を確認する。
「死んで後悔しな〈光の審判〉」
左手を上げ、ノアに向けて振り下ろす。俺の手につられて上を見た人達は茫然としてた。空から巨大隕石のようなものが降ってくる。それは一秒も待たず地面に落ち、激しい光と衝撃音が周りを襲う。
ノアは口をあけて、ただ上を見上げている、もはや防御魔法すら使う気がないようだ。
少しすると光も消え、目の前には立ったまま気絶しているノアがいる。
一切傷ついてないノアの姿を見て固まる生徒や先生達、そんな状態のみんなを無視して、俺はノアの目の前まで歩いていく。
立っているノアの顔におもいっきり平手打ち、パァンと良い音の後に「グベェ」とか奇妙な声を上げるノア、まだ自分の状況を認識してないみたいで周りを見始める、そして俺と目が合った。
「お目覚めか貴族様、今回の勝負は俺の勝ちだ。さてお前にはしてもらう事があるよな、まさか覚えてないなんていわないよなぁ?」
少し圧をかけ、なるべく脅すように言う。すると突然ノアは立ち上がり俺に向かって走ってくる。
いきなりの事に剣を構えたが俺の場所に来る前にジャンプする。そして...
「本当にすいませんでしたぁ!!」
叫びながら物凄くきれいなジャンピング土下座をかましてくる。
それは、もう完璧な土下座、もしこの土下座に点数をつけるなら、問答無用で満点が出るぐらい、綺麗な土下座だった。
「あ、えっと、俺はいいから、とりあえずルリたちに土下座してこいよ」
そういうと、すぐ立ち上がりルリたちのほうに走って向かい、土下座をする。
やはりその土下座はとても美しかった。
ルリ「あれはやりすぎ」
キャロ「私知らないわ」
シャロ「見た目だけなんだけど、あれはひどいね~」
ハクヤ「いや、普通の〈光の審判〉なら、あんな隕石は落ちてこないぞ!威力を落として見せかけだけにしたんだよ」




