魔模擬戦、その決着
「アイラさん、今からは俺も全力で行きます」
俺は〈身体強化〉と〈未来予知〉を使って自分自身を強化する。そんな俺を見てアイラさんはまだ、余裕の表情は崩さない。
〈未来予知〉この魔法は、数秒先の未来が視える。つまり俺の攻撃に、アイラさんがどう反応するのかが分かる。純粋な打ち合いなら、不利かもしれないが、相手の先の行動が分かるなら、そこを狙って攻撃できる。普通なら不意打ちに近い攻撃に対応ができはずもなく、俺の勝利が決まる。
普通なら...完全に不意を突いた俺の攻撃を、アイラさんは不思議そうにしながら受け流したり、躱している。
どれだけ攻め込んでも、俺の剣がアイラさんの体を捉える事はなかった。
そして何度か打ち合いをした後、一旦距離を取り俺はアイラさんに質問した。
「アイラさん、なんで俺の行動に対応できてるんですか?!」
「うーん、なんでと言われても...単純に反応しているだけなんだけど」
困った顔で俺の質問に答えてくれるアイラさん、そこでようやく俺は気がついた。圧倒的に経験が違う。どんなに不意をついても、どれだけ相手の行動が分かっていても俺の攻撃が当たる事はない、アイラさんは素の状態で俺が見ている先より、もっと先を見て備えている。
流石に圧倒的な差を感じざる負えなかった。こうなると俺に勝ち目はほとんどない、構えながら何とか攻撃を当てる方法を考える。互いに見合う状態が続く、だけど俺はタイミングを完全に失っていた。隙がなさ過ぎる、反応されることが分かった以上、下手な攻撃はカウンターに繋がってしまう。俺は〈未来予知〉をやめ〈身体強化〉にさらに魔力を使う。
互いに見合う状態の中先に動いたのはアイラさんだった。その体がブレ、一瞬で距離をつめられ懐に入られる、アイラさんが振るった剣をぎりぎりでかわし、距離をとる。カウンターを偉う余裕がない。
俺が距離を取っても体勢を立て直す前に詰めてくるアイラさん、もはや防戦一方だった。
そんなハクヤとアイラの摸擬戦を庭の隅でルリ、フィン、ミリアが見守っていた。
あまりに早い攻防にルリは呆けて、ミリアとフィンは息子の実力に「すご」と声を出してしまうぐらい驚いていた。
「フィンさん、2人の戦いどうなると思いますか」
「そうだね、いっけん互角のように見えるけど...このまま行けばアイラの勝ちだね」
「やっぱりそうですか、お母さんなんか凄く余裕そうなのに対して、ハクヤ君には明らかに余裕がない、やっぱりお母さんは凄く強いんですね」
「そりゃそうだよ、なんたって、君のお母さんは歴代最強の魔王って呼ばれてるぐらいだし、それにいくらハクヤと言っても、アイラを相手にするには経験が足りなすぎる」
「そうね確かにアイラは強いわ、でもねルリさん、ハクヤも相当凄いのよ。普通の冒険者とかなら、あっという間に終っちゃうぐらいには」
「そうだよね、いくらアイラが手を抜いていても、ハクヤがあそこまでやれるのは凄いことだよ」
3人が話している間もハクヤはアイラの攻撃を躱しては距離をとり、それをアイラが詰める。そんな攻防を繰り返していた。だが次第にアイラがの速度は上がり、遂にハクヤは躱しきれずに、剣が頬を掠った。
「あら、やっと当たったわね、ハクヤ君楽しかったわ、まさかここまで避けられるなんて」
「ハァハァ、まだ掠っただけですよ、これからです」
「いいや、次の攻撃で最後よ、次の攻撃で私が勝つわ」
一呼吸置いたアイラさんは今までより一段階早く動く、このままでは勝ち目はない、だけど引き分け持ち込める策を思いつき、一か八か賭けに出る事にした。
アイラさんの攻撃をよく見て、そこにタイミングを合わせる。狙うのはアイラさん...ではなく、その持つ剣に向かって
全力を叩き込んだ。
俺は避けてる最中に勝てないことを悟った、それこそ神から貰った能力の一つ〈魔法創作〉で作った奥義に近い魔法を使わないと勝てないと悟った、だけどその魔法を発動する事はできなかった。それはこれが摸擬戦だから、命を懸けた戦いではないから。俺の心が魔法を使う事にブレーキをかけていた。
だけど負けたくはない、ここまで圧倒的な状況でも負けたくはなかった。だから俺は、自分の剣もアイラさんの剣も破壊し、引き分けに持ち込もうとした。だからタイミングを見計らいアイラさんが全力で打ち込んでくるのを待った。そう試合を終らせるべく振るう最後の一撃を俺は待っていたのだ。
だが現実とは非常で、
魔王とはやはり理不尽な存在であった。
俺の打ち込んだ剣は確かにアイラさんの剣に触れた、だけど一瞬にしてアイラさんは、俺のの意図に木気が付き剣を受け流し、体勢が完全に崩れた俺の首筋にその剣を当てた。
「勝負ありだね」
「参りました」
「いやぁ、最後はさすがに焦ったわ。まさか剣の破壊を狙ってくるなんて、あと少し対応が遅れていたら2人の剣が壊れてお終いになる所だったよ」
笑いながらアイラさんは剣を引く、目の前の魔王に完敗した。
そんな俺の様子を見て父さん達が俺に近づいてきた。
「父さん、負けたよ最後まで何も通じなかった」
「お疲れ様、落ち込む事なんてないぞ。むしろ魔王相手によくやった、僕は誇らしいよ」
「父さん...ありがとう」
「大丈夫ハクヤはまだ強くなるよ。よし部屋に戻るよ、新しく人が住むんだし掃除もしないと」
「あ、あの!」
みんなで部屋に帰ろうとした時ルリが俺達を呼んだ。
「あの...もしお邪魔なら別にいいんですよ、お母さんがいきなり言い出したことですし...」
少し俯き申し訳なさそうなルリを見て、俺はその言葉をすぐに否定した。
「ルリの事、誰も邪魔なんて思わないよ」
「ハクヤ君、でも...」
「ルリさん、いいこと教えてあげる、もしハクヤが勝てても、私とフィンはあなたを家に住ませる気だったのよ、だから安心なさい、そして改めてよろしくね」
「ミリアさん...」
またルリが涙目になった。
「まぁ、そういうことだから、ルリさん改めてよろしく、それにそろそろ家に帰っていろいろ準備とかしないと日が暮れちゃうから、それにどうせアイラも今日は泊まる気だろ?」
「フィンさんありがとうございます、そしてよろしくお願いします」
ルリが涙をこらえながら俺たちにお辞儀した、俺達は顔を見合わせ微笑み、そしてルリに改めて「よろしく」と伝え、家に入ろうとした。
だけど父さんの言葉に返事もせずアイラさんは、庭をキョロキョロ見渡していた。
「あの、アイラさんどうしたんですか?」
「途中からキャロちゃんとシャロちゃんの姿が見えないな、と思っていたんだけど、やっぱり庭には、いないわね」
しばらくの沈黙俺も父さんも母さんもそしてルリも周りを見渡す。
「「「「え」」」」
庭にいない妹たちを探しに急いで家の中に戻った俺達だった。
ハクヤ「完敗...か」




