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第一章 「撃神」


 満月と満天の星々に照らし出された雲海の上を、機影は()べる様に過って上昇する。


 機体の心臓、1200馬力液冷発動機の醸す爆音と排炎が、夜空の静寂と冷気を騒がしく、そして熱くかき乱す。機体背部から腰部にかけて繋がった導翅(どうし)――二対の翅――の生みだす推進力と上昇力は、ただ「破格」の一言に尽きた。その破格を維持したまま上昇したところで、爾麒(ミツルギ)は雲海の(はざま)越しに、海原と海に面する大地の一角を睥睨する態勢となった。海面にまで金色の光を伸ばす満月を背景に、機影が白銀に勇ましく煌めいて映えた。


 上昇の頂点、昆虫のそれを思わせる幅の広い導翅が拡がる。二つ目を怒らせた、銀色とも見紛う純白。龍の顔を思わせる頭部の造形は胴体に対し歪なまでに大きい。古代王朝の剣士、その甲冑姿を(かたど)ったという胴体と引き締まった腕脚は、総じて歪さを感じさせないほど流麗に見える――爾麒という名を冠する、人形戦術構造体たる機導神を一見で説明するのに、これら以上に的確な表現は見つからない……否、それ以外には「美しい」――実のところ爾麒は、それ以上の言葉はいらぬ造形の持主であった。


 頭部操縦席、諸元表に従うならば、そろそろ二段過給機のうち一段目への切り替え操作が必要な頃合いであった。そこまでの高度に達するのに、爾麒は離陸から三分も要していない。工場生産の量産型機導神の出し得ない、破格の上昇力だ。それでも空気の薄れゆく一方の高空において、過給機を稼働させて発動機の燃焼に必要な空気流入を増やさない限り、爾麒の飛翔力は低空よりも格段に落ちる。その先に飛翔の破断たる失速が訪れる。


 それでも徐々に、だが山道を一歩々々踏みしめて上る登山者の様に確実な足取りを、爾麒はその翼で刻んでいた。過給機を稼働させて加速を復活させるには、未だ時間的な余裕があった。過給機を動かせばそれだけ燃料消費が増える。稼働時間もまた削られる。


 機上――操縦席に張られたスクリーンは容積にして内壁の上半分全てを占める。それらは見下ろす限りの雲々が流れる様と、雲海の隙間、宝石箱の様に瞬く地上を遠くに映し出した。それは最新技術の粋を尽くしたジェット戦闘機の操縦席を、爾麒の乗り手に思わせた。

 爾麒に限らず、機導神固有の視覚は一本の枠も継目もない半球状の視界を機内に在る操縦者に与える。機導神は夜目が効く。肉眼では一切の視界が塞がれる夜空に在っても、機導神の「眼」は暗中の僅かな光を増幅し、飛行に支障の無い程度に操縦者に夜の世界を見せてくれる。その効果としての眼下の市街地、それも大神和帝国 関央地方のほぼ半分に匹敵する広範な地上を占める夜の大都会に、操縦桿を握る夏秋 遥(かしゅう はるか)は思わず息を呑んだ。光の連なりと奔流はすなわち街の灯、あるいはそこで生を営む数多の民草がいる証――遥と爾麒の属する世界でその巨大な街は、この世界ではただ一言「帝都」と呼ばれる。「衛治維新」爾来百年 「神和(かむやまと)」という古称から大神和帝国と改称したこの(しま)の首都だ。



『――関央方面軍防空司令部より在空の機導神各機へ、不明飛行体群 沙雅島(さがしま)西方50公浬(マイル)に探知』

「――――っ!」

 雑音混じりの入電がイヤホンを叩く。警策(きょうさく)で首筋を叩かれた様に、遥はビクリと背を糺した。不意の通信に驚いたこともあるが、帝都の属する関央地方に隣接――それも裏側に所在――する裏邑(りゆう)地方の北部海上を進む「不明飛行体」の正体と造形を想像した以上、齢16歳になるかならぬかの少年に、震えは避けられない反応であった。これまで幾度も「戦闘経験」を重ねても、あの巨大な肉食昆虫を思わせる異形は見慣れない。目の当たりにする者に、恐怖と敵意を無条件で喚起する、それは最悪の異形だった。そして――遥自身の「戦闘経験」を勘案すれば異形の群は、裏邑地方に配置された電波警戒機の探知から大抵一時間以内で帝都北部にまで到達する!


『――爾麒……爾麒、応答せよ。現位置報せ』

「こっこちら爾麒 われ大南洋上空 帝都中央港より30公浬海上 高度5000(ハシゴ5)で左旋回中!」

『――気負うな! 気楽にいけ! 貴様が搭乗()っているのは何だ?』

「爾麒です!」

『――そうだ! 貴様が搭乗っているのは神和で最強の機導神だ! 神和の希望の光だ! 堂々としていろ! 今夜(きょう)も頼むぞ!』

「爾麒了解!」


 防空司令部の硬質な指令とは違う、若く熱い声に向かい、遥は思わず気合いを籠めて応じた。遥と同じく在空して共に敵編隊の迎撃に当る指揮官の声であった。つまりは彼もまた機導神の乗り手である。これまでに幾度か共に迎撃任務に従事した感触では、彼の指揮、そして個人的な戦技のいずれも申し分ないと遥には思えていた。遥が敵を「撃神」――斃した――した際には褒めてさえくれる。その逆、不甲斐ない行動を執った際には叱責が飛ぶ。軍隊における上官というより、部活動における先輩という印象が似合う指揮官だ。頼もしい、とさえ思える。


「……?」

 旋回を続ける爾麒が一度揺れ、次にそれは止まることの無い動揺となって操縦席を苛んだ。理由は判っていた。雲海の上層を流れる気流の為せる業。上昇気流から西東に流れる速い風の奔流だ。更に高度を上げれば、その勢いは巨大な飛行船ですら西進に難儀する――逆に言えば、東から来る敵はこの風に乗って破格の速さで帝都に迫る。


『――われ哨戒艇207号、能都(のと)北方に蕃神群を視認! 不明機は蕃神(アカ)なり! 繰り返す、不明機は蕃神(アカ)!』

『――207、蕃神(アカ)の数、高度報せ』

『――敵機数20から30。高度4000……われ後方より追尾中……三機離脱!……此方に向かって来る! 翅鬼だ!』

『――207対空戦闘!』


 防空識別符牒「アカ」――「蕃神(ばんしん)」と、神和国の政府と軍は侵入者を呼称し、翅鬼は蕃神の数多い分類のひとつである。鍵爪の付いた手足に強靭な顎、鋳鉄の様に分厚く粗い肌を有する蝗の異形、家一軒に匹敵する巨体のそれが群を為して飛び、神和の地に迫るとき、その先には凄惨なる破壊が生まれる。


 これら蕃神に対するに、翅を持った人型故に破格の機動力と汎用性を有する機導神を以て滅殺の切札とするのは、戦術的に当然の対応であった。むしろ神和において機導神は、数百年の長きに亘る人と蕃神との抗争の過程で生み出され、熟成されていった魔導工学の結晶とも言える。


『――われ207号、交戦中!……機関部大破! 浮力を維持できない!……われこれより自爆す!……皇主陛下万歳!』

『――207離脱しろ! 早まるな!』

『――…………!――』

 

 騒がしい空電音が、最後の返事であった。空を飛ぶとは言え、海を行く漁船程度の大きさ、かつ鈍足軽武装の哨戒艇では結果は見えていた。警戒監視を主任務として裏邑方面に数多く配置されている哨戒艇は積極的な交戦を想定していない。電波警戒機の性能では捉えきれない蕃神群の高度と飛行方向を目視で探知追跡し、動静を報告し続けることに彼らの存在意義はある……それを思えば哨戒艇乗員は、機導神乗りより肝の据わった連中だ。


 頃合いだと、遥は思った。過給機の操作レバーを「二段」の位置まで押し上げる。数秒の間を置き、ガキン!……と歯車(カム)が噛み合う振動を背後に聞く。直後、眼前に配された回転計の数値が、羽根が弾けた様に跳ね上がった。


「爾麒、前進します!」

 遥は声を上げ、両手の操縦桿を押し開いた。左右同時に出力した導翅が瞬間的に生んだ加速に、華奢な少年の躯が歯を食い縛って耐える。自然に高度も上がり始める。爾麒背部のロケット式集合排気管から噴き出す青白い排気炎が、蒼い火の粉を星空に散らし、やがて爾麒は蒼い流星となって雲海を斬る様に駆ける。加速の上に全速もまた異次元の領域に、爾麒は乗った。海岸線を越え、山と川、村と町を交互に越える。


「爾麒、帝都上空」

 眼下に広がる大都市の繁栄。「華の帝都(みやこ)」とも形容される電気とガス灯、帝冠様式ビルディングの大伽藍(だいがらん)、大神和帝国の繁栄を一身に集めたかのような世界が夜の大地に浮かぶ。東京都の空撮夜景とは淡さの異なる光に包まれた世界に、遥は暫し目を奪われた。目を奪われる内に都の辺縁から光が連鎖する様に落ちて闇に還っていく。オセロの白が黒に裏返る様な勢いで消える光、蕃神の浸透に備えた灯火管制だ。と同時に、都の各所から天に延びる光の柱。それらは槍衾の様に星空を照らし、撫でる様に蠢く。


「探照灯か……」

 機上で呟き、遥は爾麒の針路をやや曲げた。あれに照らされては機導神の眼が潰れる!……と同時に無線通信機の受信装置に延びた手が、周波数調整ダイヤルを回した。酷い雑音――それでも地上の帝国国営ラジオ放送の甲高い声が、防空情報を伝え始めているのが判る程度には聞こえた。


『――空襲警報発令、空襲警報発令……蕃神群神和海上を南下中。数およそ50から100……先頭集団は裏邑北部海岸線に到達……散開の兆候あり……警報発令……関央北部周辺の各市……避難命令が発令されました。速やかに避難してください』

「……」

 日本のラジオやネットニュースとはまったく異なる、まるで共産圏のプロパガンダ放送の様な機械的なアナウンスが、爾麒が属する神和帝国が、決して遥の住む日本の様に国民に全てが啓かれた国ではないことを遥の様な少年にも関知させる。


 その象徴とでも言うべき一角が操縦席の視界の片隅、帝都の地平線にほど近い方向に遥には見渡せた……空襲警報下にあっても電灯の光がしぶとく並ぶ官庁街のすぐ傍、不気味なほど黒く切り取られた矩形の空間が広範に見える――神和帝国の真の中枢にして、「至尊ニシテ冒スベカラザル君」たる皇主が鎮座する「宮城」だ。飛行船に機導神……それ以外の空を飛ぶ何者も、理由の如何を問わず宮城の直上を通過することは許されていない。ユートピアとディストピア何れか? と問われれば、遥はこう答えたことだろう。


「ディストピアだな……まるで」

 呟き、遥は前方に向き直った。方位は北。スロットルは絞り気味に、巡航速度を維持しつつ高度を上げつつ進めば、何れは優位な高度から蕃神を迎え撃てる。


 閉ざされた世界で、爾麒(おれ)蕃神(かみ)と戦う。



 怒涛の如くに地上から光が消える。闇は、帝都のより深きにまで達した。

 探照灯の光の蠢く雲海の彼方、更に北に飛ぶうちに新たな光が雲海の縁に生まれる。花火?――それも四方八方に弾けない只の火球の様に瞬く花火の連なり――それらが関央北縁にまで達した蕃神群を迎撃する高射砲であることは、遥はすぐに気付いた。少数精鋭の機導神部隊の負担を軽減する方法として、高射砲が迎撃を受け持つ高度と区域を設ける。あるいは対空火砲を充実させた飛行砲艦が機動的に展開して防空の間隙を埋める等、神和帝国の軍も防空にはあらゆる手を尽くしている。結果として生まれた空の鉄壁。その中でも飛行戦艦に優る機動力と打撃力、戦艦や高射砲に無い接近戦能力を有する機導神の役割は重大であった。


 操縦桿上の選択ボタンを押し、遥は半球スクリーン上に兵装管理画面を呼び出した。携帯電話のアプリ選択画面を思わせる絵だ。「ホ-11改」と名付けられた欄を遥は選択した。爾麒の脚部に繋がれた長銃身の機関砲、それを固定していたアタッチメントが動き、爾麒は銃把を握る。ホ-11改 九七式機導機関砲乙型 蕃神の翅鬼ならば、撤甲弾一発で容易にその甲殻に穴を開ける程の威力がある。機銃本体に内蔵された電動モーターが稼働し、60発入りドラム型弾倉から初弾を薬室に装填した。機導神は人型故に多様な兵装を扱える。機関砲に無反動砲、そして刀剣――機械仕掛けの神に、帝国は空の護りとその未来を託した。


『――疾風(はやて)! 埼陽南上空 ただいまより第一撃!』

 女性――否、少女の声がイヤホンを打った。「疾風」は機導神の符牒であった。帝国軍の量産型機導神が蕃神に攻撃を掛ける。機関砲の一斉射撃で群の数を減らし、次に白刃を揮い突撃する。それが機導神の典型的な戦術であった。機導神乗りに性別階級の差別は無く、そして何よりも実力が重視される。そして爾麒は、機導神乗りにとって最高峰の存在だ。憧れであり目標――


『――吹雪(ふぶき)! 越央上空 第一撃!』

 別の女性の声が聞こえた。「疾風」に「吹雪」、いずれも機導神操縦者に割当てられた符牒(コードネーム)の様なもので、交信時に多用される。遥の知る限り、関央防空に各拠点から発進する機導神は平均20から30機、最大で50機に及ぶこともある。戦闘の度に共通回線には符牒を呼ぶ声が交差し、あるいは回線網がパンクすることもある。まさにかき入れ時の飲食店を思わせる程に騒がしく、目まぐるしい。だがこの空で行われているのは料理や金銭のやり取りではなく、文字通り生命のやり取りだ。


『――疾風 抜刀 これより撃神!』

『――蕃神20鬼、上衡(こうじょう)平野に到達! 対空網を擦り抜けた! まずい! 帝都に回られるぞ!』

「――っ!」

 間央に隣接する地方で、しかも数少ない防空上の空白地。前回の邀撃戦闘では、そこに張っていた防空砲艦が集中攻撃の末に墜とされたことを遥は知っている。決心は容易かった。左右の操縦桿を傾け、横転の姿勢から降下に転じる。針路変換はその間に為した。その蕃神とは爾麒の位置が最も近い。


 降下加速で速度を稼ぎ、爾麒は下層雲まで降りた。都市部はとっくに超えていた。疎らな雲の連なりに、低い山々の連なりが重なる様に広がっている。姿勢を水平に戻した爾麒は、再び空を疾走(はし)る。全速を維持して十数分を飛ぶ。月光に照らし出されたその下で、爾麒の前方を過る様に空に瞬く何かが複数――反射的に遥は、爾麒に機関砲を構えさせた。「おれが目指すものだ」という直感は、すぐに的中(あた)った。蕃神の群……禍々しい翅鬼の群――直感は、即座に敵意へと替わる。


「爾麒 上衡北上空 これより第一撃!」

 ドンドンドンドンドンッ!――連射間隔は早くない。それでも確実に撃発した銃口から白煙を曳き曳光弾が群に延びる。側面から追い縋りながらの、それも有効射程を僅かに越えた遠距離の射撃であった。

 左から右に流れる弾幕が、群の中心に達したところで炸裂する。機関砲弾内蔵の時限信管の効果だ。炸裂に巻き込まれた翅鬼2鬼の脚が千切れ、胴から破片が散った。飛翔を維持できずに墜ちる2鬼――スクリーンに表示された照準環は、望遠機能を以て先頭の翅鬼を捉えていた。操縦桿の引鉄を一瞬押しては離し群全体に弾幕を送り込む。押しっ放しでは僅か十秒程度で全弾を打ち尽くす。節用の必要があった。


 射撃で4鬼を葬ったところで、爾麒は優速を以て群と交差した。急旋回と同時に再び構えて撃つ。急加速に反応し膨張した「フ―2」――機導神用 抗加速度機密服――が遥の全身を締め上げた。更に3鬼が弾幕に貫かれて散る。群は散り、一斉に散開して爾麒に向かった。それらを睨み、遥は(まなじり)を決した。


「爾麒 抜刀! これより撃神!」

 肩から引き抜かれた長大な機導神刀、そこに操縦士の卓越した技量が加わればその威力は凄まじい。高度の優位から加速を付け、爾麒は瞬時に二鬼を斬った。月光を吸いこんで光る秋水が、体液と脂を弾きつつ鬼の胴を薙ぐ。鍵爪を突き立てるより先、長刀の利点を生かした突きと斬りで、忽ち10鬼あまりが消えた。背後を取る暇も、上下より組み付く隙すらも爾麒は与えなかった。鬼が、流れる様に斬られていく。群が消失()えかかる。


 一鬼が乱戦を離れ、満月を背景に手足を開く。黄色く光っていた眼に緋が生まれ、そのまま光を緋に変えた。腕脚が膨らむように延び、翅もまた増えて延びる。裂けた口が咆哮し、遥が気付いた時にそれは新たな異形と化していた。滅多にないことだが、翅鬼は時折「変異」する。当然機導神にとって最悪のかたちで、である。飛蝗(バッタ)が仮面ライダーに変わる位の変貌ぶりだ。両腕の先、刀程に延びた鍵爪を振り上げ、そいつは翅を震わせた。高度の優位はとっくに取られている。


「出たな仮面ライダー!」

 龍蝗――それが神和帝国におけるその敵の名であり、文字通り龍の如き強さを誇ると言ってもいい。一般の機導神部隊では「龍蝗と単機で交戦するな」という訓令が出回る位に、である。何より龍蝗一体は速度、パワー、打撃力の何れに於いても機導神一機に優る。では爾麒は?――すべてに於いて龍蝗(こいつ)には勝る!


「……!?」

 来る!――龍蝗の背後から無数の触手が伸び、それは鞭の様な加速で爾麒に向かった。先端の硬質化した触手。銃を撃てない替わりに、龍蝗はこのような遠距離攻撃の手段を得た。刺さろうと延び、絡め取ろうと延びる触手を、距離を詰めながら回避(かわ)す。


「――っ!」

 接触――否、衝突――の間際、中段の姿勢で構えていた長刀を翻した。刺突――刃の先端が胸甲を破り、背中まで貫く。脚を掛けて引き抜いた刀の弾みを使い上段――落雷のごとく振り下ろされた秋水が、頭頂から龍蝗を両断した。


 浮力を喪い、二つの塊が墜ちる。墜落の過程で砂糖菓子の様に崩れ、塵へと変わる蕃神。塵は気流に巻き上げられ、そして夜空の闇に溶け込むように散った


「撃神、完遂!」


 気が付けば戦空(そら)にまた、静寂が戻った。


「はぁー……」

 遥が脱力し、シートに背を預けるのと同時に、スクリーンの前方に文字が浮かぶ。


「MISSION COMPLETED」


「あ……」

 文字を読む。絶句と同時に外の世界が塵の様に崩れ、そして消し飛んでいく。崩壊(リセット)の過程で爾麒も少年の意識もまた、天に吸い上げられるように消失していった――




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