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終章 「再ビ、帝都」


 広くは無い敷地だが、内には山があり林がある。そして立石(たていし)が配され池も拡がる。帝都の郊外のそのまた外れに構えられているにしては、見事な庭園であった。


 陸軍大佐 関原 信雄が報告を続ける間、着流しの後姿はただ悠然として足許に集う鯉に給餌を続けていた。風に揺られる柳すら想起させるその様が、報告を続ける壮年の軍人には、捉え処の無さを抱かせつつも却って迂闊にその間合いに踏み入り難い、厳粛とした佇まいにも見えている。それ故に報告の声も時折震えた……であるにしても、剛腹を以て成る関原 信雄が、此処まで恐縮して対面する相手は、この神和……否、世界中を廻ったとて片手の指に足りるか否かとも囁かれている程であろう。


「――以上、報告とさせて頂きます……御前には爾麒回収の際の御尽力、この場を借り御礼申し上げる次第で御座います」

「いけませんな……折角の雲雀(ひばり)が台無しや」

「……?」


 驚くより先、ビクリとして関原は低頭した顔を上げかけた。報告の終わった間隙を占める様な小鳥の囀り、日陰を作る松の木に停まる雲雀の囀りが、朝方の晴天に心地よい奏でを加える。

 恐らくは関原が報告を続ける途上、或いは前から、それは始まっていたのであろう。無粋な真似に恐縮しつつ顔を上げた関原の上目に、日光を背にした老人の陰が顧みて報告の主を見下ろしていた。枯木の様に細く、皺が走る手が、餌袋を与える様に関原の鼻先に突き出している。

 半分以上が空になった袋を彼が恭しく受けるのと、痩せた老人の顔が、嫌みの無い微笑に満ちるのと同時であった。それでも、衛治維新以前より千年以上遡る堂上公家の系譜に連なる「老公」。首相経験三度をはじめ、その同格たる国務大臣の遍歴だけでも軽く両手の指を出る帝国の元勲。帝国中枢、その舞台裏に君臨する長老、公爵 閑清院 允望の微笑が心からのそれであるのか、常人ならば慎重に量る必要があった。



「顔を上げなはれ信雄くん。蕃神はちと計算違いでしたが、朝霧さんに爾麒を葬られなかっただけ最悪よりまだましや」

「はっ……」

 老人が歩き出し、関原は遅れて公爵 閑清院(かんせいいん) 允望(まさもち)の後を追った。小路を歩く途上、ちら見しただけで庭園の景色が変わるのが判る。それ程歩いたわけではないのに、こうも景色が千変するのは、地割の妙というべきか……が、次に老公が語った言葉は、関原を内心で少なからず驚愕させた。


昨夜(きのう)、舜亮くんが此処に来られましてな」

朝霧 舜亮(内務卿)が……?」

 爾麒のことか?――関原は早合点したが、違った。それを見透かしたように老公はまた微笑ってみせた。

「爾麒のことやない。その中身のことや」

「……!?」

「圭乃さんと、あの日本人(・・・)の子やそうですな」

「……はい」


 夏秋 樹の顔を脳裏に浮かべつつ、関原は再び低頭した。何度か軽く頷き、老公は続けた。

「うちの允且(まさかつ)が銀天でその少年()と出くわして、お痛を食わされたそうや」

「申し訳ございません……!」


 すでに伝わっていたか!――遥を代理するかのように、関原は低頭した。「ええのや」再び恐縮し掛ける関原を(たしな)める様に、老公の言葉は続いた。

「殉國党やら何やら知らんが、近頃の允且(あのこ)の振る舞いは目に余る……ええ薬と言うべきや」

「……」

圭乃(おかあ)さんに似て、中々腕白なところがある少年(むすこさん)の様ですな。だからこそ爾麒も惚れ込んだのやろ」

「はぁ……」

 そういうわけでもないと思うが……思いつつ、関原は同意した。

「僥倖と言うべきや。允且の件で朝霧さんも厳しくは出ないでしょう。だから爾麒の件、あとは信雄くんが話を付ければええやろ」

「……と、言いますと?」

「少し話した限りでは、朝霧さんも、少年(あのこ)朝霧家(うち)人間(もん)と思うとるようですよ?」

「成程……」

 

 今更ながらに脂汗が浮かんでいるのを自覚する。であれば話を付けるべき相手は自ずと定まって来る。


 ふと、何処かの高みから、雲雀の鳴く声がした。




 帝都郊外 陵府飛行場


 何時に無く格納庫に集い、その周囲を行き交う人影が多い日であった。帝国軍駐屯地に付きものの「軍旗祭」の類では無い。裏邑地方の海岸より回収され、のち夜を徹し起重機付飛行船により運び込まれた「荷物」。その処遇を決めるために集められた人員により、広範な機導神用飛行場は平日には似つかわしくない喧騒が生じていた。

 整備員とその指揮官、さらには営外から招き入れられた民間の技術者がそこに加わる。彼らが織りなす喧騒の中心は、作業台に寝かされた機導神の残骸であった。残骸……そう表現したくなるほどの損壊の烈しさだ。人間で言えば再起不能と片付けても過言ではあるまい。


 残骸が搬入されてこの方、格納庫では既に悪臭が充満している。その源を探れば、残骸を寝かせた作業台の下では漏れた滑油と燃料が、コンクリートの床に血の様に黒い池を作っていた。気化した劇物を吸う恐れからか、防毒面を被っている者もいる。ここまでくれば、生粋の技術者たる要員ですら現状で可能な対処は、損傷の程度の把握と、補修に必要な部品と機材の手配でしかない様に思われた。


 その横――膝を折った格納状態で佇む黒い機体こそが、現在となっては神和で最も有名な機導神であろう。神和號という、この国名そのものを冠せられた特注の機体こそが、先夜「原因不明の復活」を遂げた爾麒の「暴走」を鎮撫し、神和の守護神としての名を再度高らしめる結果をもたらした。しかし現状、神和號ほか基地配備の機導神の保守点検に必要な要員のみを残し、ほぼ全ての地上勤務者が瀕死の爾麒に傾注されている。非番の者すら駆り出されるという徹底ぶりであった。


 解放されたままの格納庫から臨む飛行場に、三機編隊の機導神が舞い降りる。脚を地面に接する寸前で導翅の出力を増し浮力を維持する。低空を低速で滑走しつつ、三機は直列に並んで誘導路に入り、駐機場へと向かっていく。彼らと入れ替わる様に滑走路に入った三機が、低空飛行から急上昇して雲間に消えた――蕃神に対する警戒態勢は、未だ解かれていなかった。その様な中で、オープントップの軍用自動車が格納庫前まで走ったところで停まるのに気付いた者は少ない。


 病人の様に横たわる爾麒、半ば潰れたその頭部に取り付いて懐中電灯を翳していた作業服の女性が、軍用車を一瞥して視線を曇らせた。

 丸眼鏡越し、それでも高みから軍用車から降りる軍服を睨む彼女の態度に、軍服に対する友好的な素振りは見えなかった。括れた腰と胴、そして胸の輪郭に張り付いた朝霧 朱乃の軍服姿。精悍以外の表現が似合わない(なり)の朱乃が白皙の顔を上げ、かつて爾麒であった骸を凝視する。



「呪物め……!」

 朱乃は吐き捨てた。作業服の女が手馴れた風に爾麒の頭から降りる。歩み寄ってきた彼女が声を掛けるより早く、朱乃が言った。

「小夜子か? 大学はいいのか?」

「爾麒が生きるか死ぬかの瀬戸際なれば、大学の研究なぞ細事に過ぎません」

 爾麒を顧み、小夜子と呼ばれた女は言った。「やってくれたわね……貴方も、爾麒の乗り手も」

「でもおかしい……見たところこの爾麒、殆ど未調整じゃない……操縦者はこんな暴れ馬で蕃神を薙ぎ払って、その上神和號(あなた)とも戦ったの?」

「そんなこと、小夜子が知らぬでもよい」

「誰が操縦()ったんですか?」玉川 小夜子は、怯まない。「いまの朝霧家(あなたたち)に、操縦()れる人間はいないはず……」

「もう誰も操縦()せる積りは無い。だからおまえに知らせるまでもない」

「でも、復活させる積りなんでしょう? 圭姉(よしねえ)はもう戻らないけど……」曇る表情が、消える虚勢を見せつける。

「……それは、関原次第であるな」

「誰なんですか?」虚勢の代わりに、好奇心が先に出る。

「聞きたいか?」小夜子は黙って頷いた。


「かつて圭乃は、神和(ここ)に戻るに当たり、樹ともうひとりを日本(むこう)に置いて来た。そこまで言えば小夜子には十分であろう」

 と言う朱乃の口調が、淋しげに小夜子には聞こえた。普段の、怜悧さを崩さない彼女らしくないとも思えた。疲れている?……とも――


「樹さん?……むこう?……もうひとり……?」

 しかし困惑が呆然になり、やがて驚愕に転じる。丸眼鏡の裏側に涙を溢れさせ、全てを察した小夜子は泣いた。それは朱乃の眼前で花が咲く様な歓喜へと変わる。憮然として、朱乃はそれを見た。


「これ! 絶っっっ対に修理(なお)しますから!」

 叫ぶように言い捨て、小夜子は駆けた。猿の様に爾麒に駆け昇り、配下の工員にテキパキと指示を飛ばす。若さに似合わぬその風格は、実家の玉川電機工業の工場にて、社員の先頭に立つ彼女の父八郎兵衛や兄たちのそれと変わらなかった。


「これも宿命だというのか……圭乃」

 爾麒に再び目を怒らせ、朱乃は呟いた。その呟きは動き出した修理機器の唸りに掻き消され、誰の耳にも届かなかった。







「関原 信雄、入ります!」

「入れ」とドアを挟んだ声が聞こえたときには、関原 信雄は機導神軍総監 朝霧 朱乃の執務室にブーツの先を踏み入れていた。有り得べからざる不作法に気付き、黒檀の執務机から顔を上げた朝霧 朱乃の憮然と、入室した関原の覚悟が眼光の交差となってぶつかる。脱帽して最敬礼し、呼び掛けられるのも待たずに関原は机の前まで歩を進めた。これも、明らかに不作法であった。傍らの従兵が異変を察し、関原の前に立ちはだかろうと構える――


四宮(しのみや)生徒、よい」

 声は小さかったが、朱乃の言葉は明瞭であった。意を汲んだ従兵が退がる。関原は無言で腰の軍刀を外し、朱乃の前にどっかと座った。と同時に、床に叩きつけるように置かれた短刀が一振――元々険しい朱乃の眼差しが、更に険しさを増す。唇を噛み、関原は眼光を受け止める。


「総監閣下にたってのお願いがあり、身命を賭して参上いたしました」

「腹なら廊下で切れ。部屋が汚れるであろうが」

「お聞き届け頂けないのであれば、即座に此処で切ります!」

「言ってみろ。下郎」


「……?」

 座り込んだところで、関原は部屋に存在する違和感に気付く。総監室に従兵がいる? それも少女であった。一瞥を向けた先で、少女が内心を身構えさせるのを見る。夏秋 遥と同年代、美しい少女であった。単なる従兵かと思ったがそうではないことにも気付く。制服が総軍幼年学校のものであることを関原は察した。制服に掛けられた赤白の襷章が部隊研修中であることを示すのは、幼年学校の生徒には滅多に与えられない特典だ。おそらく成績、品行共に優秀な生徒なのだろう。だが胸の徽章は――


 ――機導神科か、しかし何故此処に……拭えぬ違和感を無表情で隠し、関原は書類を置いて()た低頭した。

「爾麒の修理及び再調整に必要な資材及び工数の見積もりであります。以上の手配を総監閣下の裁可を以てお聞き届けいただきたくあります」

「玉川工業からか?」

「はい」関原は頷いた。思わず、背筋が延びる。

「預かる」

「……?」

「預かるだけだ。この件、私を以てしても今直ぐ是とは言えぬ」

 

 通った? すんなりと?――拍子抜けし掛けた関原に、朱乃は目線で立つよう促した。

「要求のものは揃える様にするが、ただし条件がある」

「……」

 困惑ではなく、関原は内心で身構えた。これまでの朝霧 朱乃を思えば、予想され得る反応であった。だがその次に朱乃の口から告げられた「条件」を聞くうち、関原から顔色が消えていく。


「……本気で言っておられるのですか? ことが潰えた今、遥君は日本(むこう)に還さねばなりません。何故なら遥君は平民であり、貴方が愛した夏秋 樹の息子でもあるからです」

「貴方が愛した」を強調し、関原は抗弁した。

「還す当てもない癖に抜け抜けと言う」

 椅子に背を預け、朱乃は言った。「信雄、私はあの少年()が大嫌いだ」

「そしてわが家も華族、爵位こそ違えあの老人によい様にされっ放しで終わるわけにはいかんのだ。特に兄上などは――」

「むぅ……」

 関原は苦々しく口を結んだ。あの老公は遥を指して「朝霧家の人間」とも言った。上流たちが夏秋 遥の運命を弄ぶ「伏線」は、関原が閑清院邸を訪ねる前から張られていたのだ。旧士族ながら、貧農同然の家に育った関原としては、「より上の世間」に関し、未だ無理解であった自身の迂闊さを呪うしかない。


「……ご再考を願います。これでは自分の、遥君に対する面目が立たない」

「そんなこと、貴公で何とかしろ」


 突き離され、半ば呆然とする関原を他所に、とっくに封を開けた見積を眺めつつ、朱乃は独白する様に言う。


「……それで、夏秋 遥は今何処にいるのだ?」

「彼は死にました。そういうことにしておいて下さい」

「一度死んだ者を二度も殺すつもりはない。だがそれも、貴公の心掛け次第だ」

「あの夜、遥君も殺すつもりだったのか?……16年前、彼の母親を(あや)めた様に」

「私は圭乃を殺していない」


 顔を上げ、朱乃はきっぱりと言った。話は終わった。手を上げて関原に去るよう命じる。不承々々、それに従い辞去し掛けた関原の背後を、再度朱乃の言葉が襲った。

「しかし……口程にも無かったな。あの少年()は」

「……」関原は振り返った。

「貴公、あのような少年に爾麒を預けるのか? あの子供に己が人生を賭けるのか? いま少し再考したらどうか?」


 話す朱乃の声が、嘲弄(わら)っていた。だがそれが、虚勢ではないかと関原は訝った。普段の朱乃(かのじょ)がすることではない。朱乃は確かに先夜の爾麒……否、夏秋 遥との決闘(たたかい)に勝った。だが不本意に塗れた今の状況はどうだ……それを思い、込み上げて来る憐憫を関原は無表情で抑えた。


「爾麒程ではないが、優秀な操縦者向けに特注機を少数造り、特務部隊を編成する計画がある。あの少年を切って、それに噛んでみてはどうだ?」

「……」

「噛むというのであれば、貴公を計画の長に据えるのも吝かではないが……先の無い老人と子供に縋って危ない橋を渡るより、将来の栄達も叶い易くもなろうに」


「馬鹿にするな!!」

 心が動く朱乃ではない。だが彼女は表情を消して怒鳴った関原を凝視する。直後の静寂――それこそが関原をして、溜めていた感情を吐露させた。

「作戦の失敗は、僕の立てた計画が稚拙だったが故だ! 遥君が貴方より弱かったからではない。勘違いをしないで頂きたい!」

「……」

「失礼します!」

 今度は敬礼し、関原は足早に部屋を去る。軍帽を目深に被り直すのも忘れなかった。


「やはり殺すべきであったか……」

「……?」

 呟きの不穏なるがゆえに、従兵たる少女は朱乃を顧みざるを得ない。少女の主はただ無表情に、来訪者の消えた自室を睨み続けていた。






 ベースとなった業務用自転車のペダルを三回転も漕げば、フレームに取り付けられた単気筒エンジンはバタバタと音を立てて動き出した。その後の走りは軽快、の一言に尽きた。

 下り坂の助けも借りて、発動機付き自転車は閑静な住宅街を駆け抜ける。商店の立ち並ぶ大通りに出るのは早かった。

 休日、人込みに賑わう歩道と大小の車が行き交う車道、そこに入ったところで、ハンドルに付けたチョークレバーを心持ち開く。自転車と三輪トラック、そして車の間を縫って平坦な道をひた走り、ひとたび落ちた速度を、ゆっくりと取り戻す様に勤める。サスペンションの無い、タイヤの細い自転車に舗装の無い道路、それ故に加速は慎重に行う必要がある。日本のスクーターの様なわけにはいかない。


 歩道を歩く女学生の一団が、走る遥を見出して軽く嬌声を上げた。世界こそ違え少女の気を惹くシャツとジーンズに、修繕の痕が初々しいジャケットを羽織っているのは、エンジンの調整も兼ねて近場を何度か乗り回している内に定着した、遠乗り時の装備の様なものであった。後にそこにゴーグルも加わった。車道の土埃と排気ガスをもろに浴びては、顔も汚れるし目に障ることに気付いたのだ。

 車の排気と工業の排煙を無害化する技術――あるいは意識――に未だ乏しいのだろう。東京と比べて帝都(ここ)の空気は良くない。しかし現実の日本の歴史と比べれば、それも一過性のものであると遥は信じている。言い換えれば未だ進歩の余地が残っているのだ。


「これはね、わが社の民生品でも特に売れ筋なのです」と、玉川社長はこの乗り物について遥に教えてくれた。

「玉川式バタバタ」こと、自転車をいわば「バイク化」するキットは、父樹が神和で玉川社長の世話になっていた頃、機導神開発の傍らで考案し試作したものが始まりであったという。当時玉川電機工業は軍より標的機用の小型発動機の発注を大量に受けたが、唐突なキャンセルにより大量の在庫が発生した。その際の赤字を解消する手段として樹が、「まるで日曜大工でもするように」考案し、試作したのだという。

 それが、世に出るや爆発的に売れた。あまりの売れ行きに発動機が滞留在庫分だけでは足りず、新規に発動機を作らねばならぬほど売れたのだという。


「――これは、御父上が乗っていたものです。遥君にお返しします」

 あの戦闘から週が変わり、唐突に軍から解放され、玉川家に預けられた遥は、その翌日に玉川社長から一台を譲られた。普通の一台ではない。ハンドル高を下げ、遥はおろか社長でも詳細がわからない程にチューニングが施された一台。それよりも本来自転車の荷台が在った箇所に、革張りのシートが収まっているのが遥の目を惹き、遥は父の真意を即座に理解した――言い換えれば、若き日の父が、後席に誰を乗せてこれを走らせていたか、息子は即座に悟った。


 線路沿いに出て暫く走れば、自転車は簡単に帝都の喧騒の中に入ることができる。それが発動機付きならば尚更で、つまりはそれだけ今居る玉川家の立地がいいのだった……


 そう、夏秋 遥はいま、玉川 八郎兵衛の邸に居候する身となっている。

 遥からすれば日本へ還るまで、短い間の居候である積りが、八郎兵衛社長にとって、「恩人の息子」遥は家族も同然、という積りであるらしい。今こうして別れが近付いた最近は、顔を合わせる度にこの世界に残る気はないかと聞くのだ。


「――支援はする。遥君には、この神和で機導神の勉強をした方がいい」

 ゆくゆくは玉川電機工業に加わり、機導神の開発者となってこの世界で生きていくのはどうかと、社長は言った。その際、社長が読むよう勧めてくれた機導神に関する本は、神和で言う中高生向けの図解の様なものだったが、それでも機導神という「兵器」が、多少の魔導学染みた要素も含みながら、その大半が工学的な知識と技術の集大成であることを遥にも理解させた。そして機導神には尚、材料工学や機械工学の発達に伴い高性能化する余地があることも……それらは魅力的な申し出だと遥にも思えた。だが日本には父がいる。向こうで父が生きていれば、支えが要るのは自明の理だ。



 関原 信雄とは、不時着後に収容された裏邑地方の陸軍連隊で再会した。時間にして三日後のことだ。


「大佐……ごめん」

 命令違反を悄然と謝るや、意志の強い半白眼がそれを睨む。

「謝るな。皆が悪いのだ。運も悪かった」

 そして続けた。「君の言った通りだった。賭けに負ける番だったな」

 大人の苦笑を、少年は唖然で応じる。

「日本に戻る魔法陣を展開するのに最適な場所を、いま黒蘭たちに探させている。朝霧閣下及び政府の人間とも話はもう付けた。近い内に君を此処から出し、玉川社長のところに預ける。今はゆっくり休んで、帝都で再度の連絡を待て」

「それって……おれに帰れってこと? あと母さん……いや爾麒はどうなるの?」

「爾麒は必ず再生させる……!」遥の軽い狼狽を、やはり断固とした意志が窘める。

「……!」

「実のところ、僕も何とも言えんのだ……事が潰えたいまになっても、君に神和に残れと言うべきか、日本に帰れと言うべきか……今更ながら迷っている」

「……おれも、今はどうすべきなのか判らない。何も決断できなくなってしまったね。あんたも……おれも」


 関原は苦笑した。「でも僕は、君は必ず正しい決断をすると信じている」

「正しい……決断?」

「勘違いするなよ。僕にとって都合のいい決断では無い。君にとって最善の決断ってことだ。いいな、日本か爾麒か……決断の材料がすべて出揃ったらどちらを択ぶか即決できるように備えておけ。僕は……」

「……?」

「……夏秋 遥、君の決断を尊重する」



 遣り取りこそはまともに見えても、自分が決断を投げられたことはよくわかる。


 低層の建物群をぶち抜く様に遠くに見える灰色の巨大な鳥居は、所謂「殉國社」の象徴的なランドマークだ。殉國社の敷地を成す広範に繁る(もり)、その周囲に広がる門前市を横目に「バタバタ」は疾駆(はし)る。参拝用の装飾品や供物、参拝者を相手にした土産物を売る店、飲食店の居並ぶ通りだった。


 喉の渇きを覚え、正門の前、ラムネとアイスキャンデーを売る露店の前で遥はバタバタを停めた。賑わいの中の静寂――停車を待ち構えていた様に、何処か遠くからお囃子の音色、流しっ放しのラジオと思しき歌謡曲のメロディーが遥の耳に入って来る。瓶入りの冷たいラムネを飲みつつ視線を流した正門鳥居に、俄かに正装した人々が集まり出す。


 紋付袴に軍服の混じった列、職員と思しき礼服姿に引率され、整然と殉國社に入る人々の掲げた団体旗は、彼らが何処かの地方の軍人遺族の団体であることを遥にも匂わせた。普通の(やしろ)とは違う、戦死者を祀る場所特有の参拝の光景だ。列の中には、息子と思しき軍服姿の遺影を抱えた老女、乳呑児を抱えた女性の喪服姿も見えた。


 一月(ひとつき)もこの国にいれば察知(わか)る――自分が知らないだけで、神和は常に何処かで戦争を続けている。


「……」

 込み上げて来る居辛さに耐えられず、遥は再びバタバタを走らせた――





 政治によって創られた荘厳さから離れた先、銀天特有の繁華街の明るさが、通りの両脇に広がって遥を迎える。着飾った老若男女の醸す活気がまた、先刻の殉國社のある国とは思えないほどの違和感を少年に付き付ける。それを振り払おうとして、遥はチョークレバーを押し開く。それだけでボアアップしたエンジンは、車の流れをリードする程の加速を叩き出す。ハンドルが前傾姿勢なのは、その加速に耐えるための、父の「工夫」であった。遥は運転に馴れ始めている。通りを行き交う人々の中には、それを指差して声を上げる人もいる。


 交差点の中心、信号機が赤に灯り「停止」を命じた。車の列が停まり、遥もまた従う。沿道から不意に声を掛けられ、遥は顔を上げた。かつて銀天でパフェをご馳走した少女がふたり。遥がそうと気付くのに時間が掛かる程、あの日と装いは変わっている。


「すごい!……それ、買ったの?」

「親類から譲ってもらった。いま馴らしてるとこ」

「また一緒にお茶に行こ!」と、ひとりが遥の腕を掴む。以前に会った時に、遥が歳下と知っているから、大胆に出ているのだ。

「コーヒー奢るから!」もうひとりが言い、遠くを指差した。喫茶店のある方向だと察した。たしか、赤煉瓦造りの喫茶店があったっけ……神社に歩く途上で通った記憶が思い出された。衛治年間創業であること、文筆家や芸術家など、多くの有名人が通っていることを嬉しげに話していたのも思い出された。


 苦笑――バタバタを止め、そして遥は自転車を押して少女ふたりと連れ立って歩く。

「……今、ほんとにおカネ無いからね」




 遅い起床であった。だが華族の家であればそれはごく自然な日常だ。序列と声望、ひいては富貴と利権――華族という神和社会に於いて最も閉鎖的で、特殊な階層の人々にとって、夜に全ての帰趨は決まる。そこに兄と妹ふたりが帝国の顕職にある朝霧本家の場合、平時の職務もまた加わる。そこに加えての「社交」をもこなすのだから、驚嘆すべき精力というべきであった。


 その前日もまた、朝霧侯爵家現当主 朝霧 舜亮は内務副大臣としての公務を経て、さらに夜遅くまでずれ込んだ閣議の後、とある伯爵家令嬢の誕生パーティーに出席し、帝都郊外にある本邸への帰途に付いた時には既に日は替っていた。昼近くに起き出した彼がガウン姿で食堂に入ったとき、先に起きていた彼の妹 朝霧 朱乃は既に軽い朝食を終え、食後のコーヒーに口を付けていた。彼女もまた先夜、軍務を経て某国大使館主催の夜会に出席したくちである。


「朱乃ちゃん、今日もお仕事かい?」

 と舜亮が言ったのは、コーヒーを啜る朱乃が、折り目正しく軍服を着込んでいるからでもある。

「これから直ぐに陵府に戻りますので」

 朱乃は頭を振った。自分の妹が別居であったことに、兄は今更のように気付いた風に見えた。

「つまらないなあ……もう一日泊っていけばいいのに」

ご趣味(・・・)の方、邪魔をすることになるのではと……」

「ああー……」

 舜亮は笑った。どちらかと言えば苦笑であった。明るい食堂で兄妹の間に冷たい風が吹く。その間にも兄の側では給仕が始まっていた。メイドに混じり、舜亮のカップに紅茶を注ぐ薄い寝間着の女性を、朱乃は目を細めて凝視する――美しくも寂しげな横顔が、朱乃の脳裏で従兵の少女のそれと重なる。整えた形跡こそあるものの、乱れを隠せていない女の黒髪が、昨夜を通して兄と彼女との間で起こったことを無言の内に語り掛けていた。


「……それでさ朱乃ちゃん、昨夜の話、本当にあれでいいの?」

 笑いながら聞かれ、テーブルの対面、意識を兄に戻す。

「あれでいい……とは?」

「圭乃ちゃんの子供のこと」

 嘆息し、朱乃は応じる。

兄様(にいさま)、私は当然のことをしたまでです。帝国を守るに足る資質を有する者が、帝国のためにその資質を磨くのは当然のことではありませんか」

「その(はるか)という少年にも、朝霧の血が流れているのだろう? あれでも一応は僕の甥だよ? 不憫だなあ」

「手加減をせよと? あの子のお陰で兄様は老公に頭を下げることになったのですよ? 朝霧家は恥をかかされたのです」


 舜亮は笑い、頭を振った。

「正直僕は、銀天での彼の話を聞いたとき、男子として血が騒いだけどね」

「……?」

「彼の写真を見たときも思ったんだが、なんていうのかな……庇護欲を掻き立てられたんだ。言い換えれば、僕に兄として庇ってやらねばならない弟が出来た……というか」


「寒気がするもの言いかな兄様。妾腹の妹の子ですよ?」朱乃の眼が、もはや笑っていない。だがそれで心が揺らぐ兄ではないことを、妹は知っていた。超然とした兄の、観察する様な眼差しが、妹の怒気を軽やかに受け流す。


「妾腹である上に、神和の人間ですらないじゃないか? それはどうするんだ? このまま放っておいても彼は酷く苦労する。何もあんな学校(ところ)に入れなくても……」

「あの子が爾麒に受け容れられなかった場合、そういう選択肢もありました……ですがそうはならなかったので、私は機導神軍総監として職権を行使しなければなりません」

「やれやれ……朱乃ちゃんに嫌われたら、処置なしだね」


 呆れつつ、さり気無く延びた手が寝間着の女の臀部(でんぶ)を撫で、そして(まさぐ)る。アーチ窓から射し込む光に、薄い寝間着が透かされる。結果として一糸纏わぬ流麗な女体が、輪郭となって対面の朱乃にはよく見えた。女はと言えば、他人の目と主人の悪戯からは超然として、無表情に給仕を続けている……


 コーヒーを半分残し、朱乃は席を立った。兄に一礼し、部屋を出ようとした妹に舜亮は言った。離れていてもそうと聞こえる程に、兄の吐息が荒い。


「軍神圭乃ちゃんとあの夏秋 樹の愛の結晶かあ……一度会ってみたいな」

「ですから兄様、お戯れは(ねや)の内だけにしておいてくださいませ」呆れを通り越し、無感情が語尾に籠る。

「ではそうするよ……」

 腰を撫でる手が、そのまま女を抱き寄せる。不意を突かれた女の唇を、こじ開ける様な兄の接吻がねぶった……「趣味」の時間が始まる。女の首に嵌められた首輪――妹は逸らすように目を(つむ)り、そして足早に食堂を去っていく。




 連れていかれた喫茶店が洋菓子売場も併設していたのは、僥倖と言うべきであった。

 少女ふたりと別れ、遥はバタバタを浅月町に向かわせた。土産を買った以上、運転は慎重にこなす必要があった。次に会う人物には、「土産」を持っていく必要があると感じたからだ。女の子と美味いコーヒーを飲め、土産を手に入れた以外に、喫茶店では遥にはちょっとした収穫があった。先夜の爾麒の戦いが、新聞記事に載っていたのである。軍が敷いた緘口令では爾麒が救った飛行船の乗客の興奮を抑えきれず、あの夜から時間を置き、風聞となって市井に広まった結果であった。


「爾麒復活! 生きていた朝霧軍神」

「爾麒の雄姿ふたたび 蕃神群を薙ぐ」

「爾麒は何処に? 朝霧総監 沈黙を貫く」


 店内に置かれた新聞では、勇ましい記事が例外なく一面に踊っている。当事者としては面歯がゆくも、その結果として大破させた爾麒の未来も不透明とあっては、驚きのあとに不安が頭を擡げて来たものだ。爾麒の先行きを見届けないまま、自分は日本に帰ることになるのかもしれない……そのようなことを、遥は考えた。


「――圭乃様は、貴方をお守りになったのでございます。圭乃様は爾麒の中に生きておいでです」

 軍から解放された遥を自邸に受け入れた夜、玉川 八郎兵衛社長は諭す様に言った。あの夜、遥が経験したことを全て見透かしたような言葉が、別離の記憶を喚起する。

「――だから、爾麒は必ず修復せねばなりません」

「――修復(なお)りますか?」

「――必ず直します」


 そう言った瞬間、社長が眦を決したのを遥は見た。

「――修復成った爾麒の使い途は、関原大佐が考えて下さる筈です。機導神軍の横槍もありましょうが、大佐なら最善の答えを見つけ出してくれるでしょう。ですから遥殿も……」

「――……?」

 そこから玉川社長は遥が神和で生きる途を説き、遥は困惑を覚えた次第というわけなのだが……



 回想――その結果としてフラッシュバックの様に込み上げて来た困惑をそのままに、遥は浅月町の路地にバタバタを滑り込ませた。浅月に蝟集(いしゅう)する大小の劇場や芝居小屋、その数と看板の派手さに驚くとともに、

 役者や劇団、演目の名を書いた幟旗が、それこそ戦国時代の合戦場の様に立ち昇っているのにも圧倒される。決して広いとは言えない大路は、芝居や映画を目当てに集まってきた人々で込み合い、それは遥に東京は新宿の歌舞伎町一番街や大久保通りの賑わいを連想させた……自然、遥は自転車を降り、押して裏通りを目指すのだった。

 

 社長が電報を打ってくれたから問題はないはずだが――町中で最も大きな劇場の裏手に差し掛かったところで、遥は足を止めた。「座長」古星デンカが、二人組の男に絡まれているのが見えた。中折れ帽に着流しの中年男と、その舎弟らしい、より若い半纏を羽織った男、ふたりをどう見ても堅気には見えなかった。黒雷会ではないかと、遥は一瞬内心で身構える。


「座長さんよォ、賭場の負け分何時になったら払うのよ? ワシらも遊びでシノギやっとるわけじゃないもんで……」

「だからあ……この興業が終わってカネ入ったら払うって」

「じゃあ利息分払ったら今日は引き上げたらァ」

「ええっ! 利息付くの!?」

「オイ座長、お前親分の心証悪いぞ。食い意地ばかり張ってカネにだらしが無いってなあ」


「ちょっとぉ、早く終わらせてくれませんか?」

「……!?」

 

 あえてゴミを見る様な眼をして、遥は男達に呼び掛けた。この手(・・・)の人間は堅気には絶対手を出さない……はず――という不安を伴った確信は報われた。半纏の男が目を剥いて遥に進み出ようとするのを、着流しの男が袖を掴んで止めた。黒眼鏡が一瞬ギラリと光る。遥は少し後悔する。デンカの太鼓腹を軽くごつき、着流しの男が言った。

「利息分、夜までに用意しとけ。また来るでな」


(ボウ)は度胸あるのう。顔覚えとくわ」

 遥とすれ違い様、着流しの中年男が低い声で言った。黒眼鏡に隠れていたらしく、こめかみに切傷の痕が見えた。彼に続き様、手下がガンを飛ばし舌打ちする。再び向き直った前方、デンカが身体を震わせて遥を見ている。

「あーーっ!!」

「やあ……」力なく、土産の袋を上げて挨拶する。

「『ノルド』のシュークリームじゃないか!」

 感心するのそこなのか……相変わらずだなと、遥は呆れた。



 出前が岡持を楽屋まで運んできた。注文のカレーとカツレツを並べられたはしから頬張り始める。その間にも土産のシュークリームに手を付けるあたり、古星デンカという人の、日頃の悪食振りが遥には容易に想像できた。と同時に遥は訝る……神和にカツカレーってないのかな? と。


 早食いで滲む汗をタオルで拭い、デンカは言った。「しかし驚いたなあ……君が関原大佐だけじゃなくてあの玉川社長とも知り合いだったとは……」

 電報をデンカは遥に見せた。全て片仮名で読み辛い文面に、「玉川社長の親類」たる遥が楽屋に来ること。無下に扱わずきちんと応接することが、古林 二三(こばやし にぞう)という人物の名で記されているのが読めた。電報を初めて見た遥には、「古林 二三」という名が奇矯に見え、思わず目を丸くする。


「ボクも捨てたもんじゃないだろう? 商工大臣直々のご下命で、ボクは君を応接しているってわけさ」

「大臣!?」

 デンカよりも、玉川社長がこういう人物と通じていることに、遥は驚愕した。「それで座長は、この大臣とはどういうお付き合いで?」

「古林さんは我々からすれば大臣というよりも東衛グループの会長だからね。ボクにとっては親分みたいなもんだ」

「……?」


 少し困惑し、そして遥は把握した。玉川社長は先ずこの古林大臣に話を通し、その古林大臣がグループ会長の立場で部下同然のデンカに電報を送ったことになる。つまり玉川社長は公人としての筋を通したのだろう。


「ホテルから帰ったあと、警察やら探偵やらわけわからん連中がぞろぞろ来てさ、散々君のこと聞かれたよ。勿論あの夜のことは言ってないよ? そんなことより……君、これで警察に目を付けられたんだろ?」

 古い新聞記事をデンカは取り出して見せた。銀天での殉國党との大立ち回りが、それも大袈裟な脚色付きでデカデカと書かれていた。「殉國党のリーダーたる、なにか偉い人の息子がボールをぶつけられて鼻を折られ、ぶつけた「少年」が補導された」――その名こそ伏せられてはいても、「少年」が自分のことであるのは、斜め読みでも遥にはすぐにわかる。


「あ……」

「図星だな。まあボクも殉國党の連中には含む処があったから、この記事を読んだら溜飲が下がったよ。それにしても元老の御子息の鼻っ柱を折るなんて、怖いもの知らずだね」

「閑清院なんとかって、そんなえらい人なの?」

「君ほんと何も知らないんだなあ……閑清院公は国政の大長老だよ? 皇主様にも直に会って上奏できる位のお方なんだから」


「あちゃー……」苦笑しつつも、日本に逃げ……いや帰った方がいいなと遥は本気で思い始める。おれは、この国にはやっぱり合わない。


「それでさ……君、これからどうするの?」

「今は……玉川社長の家に居候してます。用事が済めば父のいる外国に戻ります」

「外国に戻る……か。一生に一度は言ってみたいもんだね。ああそうだ……」

「……?」

「時間があるんならレビュウ見ていけよ。無料(タダ)にしとく。外国(あっち)で土産話にでもしてくれれば助かる」

「そうします。そういう約束だったし……」


 出前がまた来た。並べられたホットケーキを目前にデンカの喉が鳴るのが聞こえ、笑いつつも内心でどん引きする遥であった。


 古星デンカが言う「レビュウ」というのが、遥の知る軽歌劇(オペレッタ)に近いのに気付くのに、午後の部が開演してから暫くの時間が必要であった。

 休日であるのも手伝ってか、劇場は立錐の余地なく観客で埋まっている。テーマは神和で言う時代劇であるのだろう。戦国時代らしい装束をした役者が歌い、そして軽妙な遣り取りをする内に物語は進んでいく。敵対する隣国同士の若君と姫の悲恋が、周りの援けを得て成就していく話だ。デンカが喜劇役者であることも手伝ってか、劇は終始軽妙で、そしてあらすじも判り易い。つまりは大人から老人、子供まで楽しめる。


「――――!!」

 万雷の拍手と歓声が上がったのは、当のデンカ扮する殿様が巨体を揺らして舞台に出た瞬間であった。間の抜けた化粧に装束が、遥ですら噴出す程に滑稽で、呆けた芝居もまた皆の爆笑を誘う。彼の市井の人気の高さを、異邦人の遥もまた理解したものだ。この体験だけでも日本の父に伝える価値はあると思えた。悩みも苦しみも笑いの懐に呑み込まれ、溶ける様に消えていく。


 ただ笑っていられるだけの時間――その中で、神和でやり残したことに対する意識もまた芽生えていく。


 大団円――そして終幕の混雑を避ける様に遥はそっと劇場を出、浅月の街をあとにする。





 遠くから近付いて来るエンジン音が聞こえたとき、雅樂守 薫子は聖堂の庭で洗濯ものを取り込んでいた手を止め、聖堂の正門まで駆け出した。門番の弥梧郎老人に至っては、控所から出て迫って来る気配の主を見守っている様に見える。


 遥はと言えば忘ノ塚の私娼窟を抜け、その先の聖堂の正門に老人の姿が見えたときからロッドブレーキのレバーを握っていた。ブレーキを使って徐々に減速し、チョークレバーを絞ってエンジンを切る――門前に進み出た薫子と、門前まで惰性で進む自転車を止めた遥の目が合った瞬間、薫子は目に涙を溜めて嗚咽を抑えるのだった。


「帰って来たんですね……よかった……!」

「大袈裟だなあ……この通りですよ」遥は大袈裟に手を拡げて見せた。

「近いうち、神和(ここ)を離れるので挨拶に来ました」遥が言うが早いが、薫子は聖堂に入るよう言った。「お茶にしようと思っていたの。来なさい」

 



 隣室では子供たちが騒ぐ声が聞こえる。その理由は眼前に出されたサツマイモ入りの蒸しパンからすぐにわかった。香ばしいパンの匂いと小窓越しに見える隣室、配られるおやつを前にはしゃぐ信徒と子供たちの笑顔……思わず表情を綻ばせた遥のカップに紅茶を注ぎつつ、薫子は聞いた。

「爾麒を操縦(あやつ)ったのは、貴方なの?」

「……」

 うしろめたそうに、遥は頷いた。彼女もまた、新聞を読んでいたのだろう。

「ただ、爾麒にはおれはもう搭乗()れない」

「どうして?」

「蕃神はまた来るかもしれないけど……今のおれには何が出来るのかもう判らない。それにこの国には爾麒より強い機導神がいるようだし……だから、おれの存在が神和の迷惑になる前に日本に帰ります」

朱乃(いもうと)さんのことね」

「知ってるんですか?」


 思わず、薫子を見返す。薫子は微笑と共に頷いた。

「神和號……たしかそういう名前だったわね。朱乃さんは新しい時代に相応しい、朝霧家の護り神だと言っていたけど、あれは爾麒とはだいぶ違うの。外見を爾麒に似せただけ、ただ高性能なだけの機導神。朱乃さん……あの人は、自分が爾麒に択ばれなかったことを子供だったわたしでも理解(わか)る位に悔しがっていた。おそらくは現在(いま)でも……」


「それでも爾麒では勝てなかった……」

「……?」独白にも似た遥の言葉を理解しかね、薫子は首を傾げた。

「いや……一緒に飛んだ限りでは、動きが爾麒よりずっといい様に見えたから」

「馴れていなかったのですね。爾麒に」

「え……?」

「圭乃姉様も、爾麒には馴れるまで苦労したみたいだから……」

「そうですか……」


 正直、朱乃に敗北()けるまで、爾麒には馴れていた積りだった。それが「積り」でしかなかったことを、遥は今になって思い知らされている。より具体的に言えば朱乃の操る神和號の俊敏さと技の多彩さ、そして朱乃自身の気迫は、AIをどう調整したところで対応できるものではなかった。

 全てを理解(わか)った積りで、何も理解(わか)らないまま自分は敗北()けた。PC上で起こることが全てではない、ということだ。特に不時着前に起こった「奇跡」などはそうではないか……そして、自分に再び爾麒と関わる資格があるとは、今の遥には思えなかった。母の面影など追うべくもない……母も、それは望んでいない。


「……」

「遥さん?」沈思し掛けた遥の意識を、薫子の声が引き戻す。

「薫子……さん?」

「爾麒には、もう搭乗()らないのよね?」

「は、はい……」

「それがいい。今後の貴方の人生のためにも、それがいいわ」


 紅茶を飲むよう薫子は勧めた。それまで手つかず、湯気の退いた紅茶のカップが鼻に近付く。花と思しき芳香が遥の鼻腔を擽った。ハーブティーだと思った。



 お茶の時間が終わり、聖堂にもまた日常が戻る。

 帰り。薫子は門まで遥を送ってくれた。自転車を押して門を過ぎる間際、誰かの投げる視線に気付き、遥は控所を見返した。門番の弥梧郎老人が庭石に腰かけ、煙管(キセル)を燻らせつつ辞去する遥を凝視し続けている――目が合うや、老人は言った。


「やっとわかった。あんた……圭乃さんにそっくりじゃの」

「……」


 遥は黙って老人に向き直った。この老人と対峙する限り、言葉は要らない様に思えた。対峙が暫く続いたかと思われたとき、弥梧郎という名の老人は不意にニコリと微笑った。


「そうか……あの朝霧軍神も、人並みに幸せになれたということか」

「……」遥は頭を下げた。彼に対するに、言葉は寧ろ余計であるように思われた。

「また来なさい」


 老人の声を背中で受け止め、遥はまた通りへと進み出る。私娼窟の只中で顧みる。ふたりは未だ、門前に在って少年の行く末を見守っていた。




 途切れの無い繁華街を走り抜けた先、これまで通ったよりも一際広く長い道で、遥はスロットルレバーを押し開く。

 自転車とは思えぬ加速で、バタバタは行き交う車列をリードした。速度計は無いが、体感では50km/時、或いはそれ以上出ているだろうか。それでも加速で悠々と車を追い抜けるのだから、神和の自動車は日本のそれよりも性能面でだいぶたち遅れている……否、神和のみならずこの世界の自動車が総じてそう(・・)なのだ。


 土埃と濃い排気ガスの充満は相変わらず。お決まりの地上から手と尻にまで伝わる振動は皆無ではないが、不快ではなかった。つまりはこの道は、帝都のどの車道よりも舗装と手入れが行き届いている。日本で言う皇居のすぐ傍?……霞が関みたいだなどと遥は考えた。


 直感は正しかった。帝冠様式の建物が居並ぶ、華やかさと厳かさの調和する世界を横目に、遥はバタバタを走らせる。何時しか周囲を走っている車も、黒を基調とした公用車風の(なり)が目立ち始めている。それらを追い抜き、擦り抜けて遥は疾走る。あのおっさん――関原が続報を持って来るまで、これからどうしようか? そこに、玉川社長の言葉を思い出す。


「――遥殿、気晴らしと言ってはなんですが、母上の故郷に参ってみてはどうですか? 秋頃だから、神和を廻るには好い時節の筈です」

「――そういえば、母さんの親類っているんですか?」

「――圭乃様のお祖母様が健在であると聞いております」

「――……」言うまでもないが、遥にとっては曽祖母である。


 確か陸嶺(りくれい)と言ったっけ――神和本土の地図を、遥は脳裏に思い浮かべた。日本列島を東西に、歪に膨らませた観のある神和本土。その中でも位置的にも北寧のすぐ下。当然帝都からはだいぶ遠い。帝都への下り列車の車窓から見た限りでは、峻厳な岩山の連なる、あの世を思わせる世界……というのが遥の陸嶺地方の印象であった。


 バタバタは官庁街を抜け、あとは緑と商店の平屋が連なる道に入る。舗装の悪さが振動に変わり、直ぐにハンドルに伝わってきた。遠くに軍振会館が見える。遥からすれば、今となっては母圭乃の墓所も同じ場所であった。気が付けば、太陽が西に傾き始めている。それ故に正面玄関の人影も(まば)らだ。閉所時間が迫っているのだ。


「……」

 足早に玄関を潜り、ホールの中心に佇む圭乃の立像を見出したとき、遥は思わず足を止めた。

 まさかと思ったが、見覚えのある軍服姿がやはり、初めて遭ったときの様に立像の前に立っている。相手の気を惹かぬ様にそうっと進み出、遥は彼女の隣に進み出た。偶然の為せる業か、初めてこの玄関を潜って母と会った日にも、彼女はいた。横顔の美しい、それでいて内面に芯の強さを秘めた少女がひとり――


 たしか、機導神学校とか言っていたっけ――目を瞑り、遥は合掌する。その胸の中で、遥は母圭乃に「さようなら」と呼び掛ける。隣からも背を糺し敬礼する気配がした。彼女の気を惹かぬよう遥は合掌を続け、やがて隣の気配が先に遠ざかる……



「大変! もうこんな時間なの!?」

「……?」

 大きな声では無かったが、それは悲鳴に似ていた。反射的に顧みた遥の眼前、軍服の少女が狼狽しているのが判る。腕時計とロビーの柱時計を交互に見比べつつも、振りかかった災難を前に少女は何ら為す術を持っていないかに見えた。腕時計が壊れていて、しかもそれに気付いていなかったのかと邪推する。でも――


 慌てる顔、すごく可愛いかったな――眼福にも似た感情を抱きつつ、遥は玄関を潜った。自転車置き場に停めたバタバタを引き出して車道に出ようとしたとき、勢いよく玄関ドアが開く。

 背後から投げ掛けられる視線に気付き、遥は階段を顧みた――駆け足で玄関から出た少女が、肩を弾ませて此方を見下ろしている。


「あ、あの……!」

「……?」

「お、お時間ありますか?」

「何処まで行く?」眦を険しくして、遥は言った。切羽詰まった顔の女の子は、放ってはおけない。

「幼年学校まで!」

何時(いつ)まで行けばいい?」






 急激なフルスロットルに堪えられず、フレームが軋む。それでもバタバタは、軽快な爆音を撒き散らして車道を走り抜けた。少女を後席にしがみ付かせて、少年は元来た道をひた走る。

 太陽が朱に染まり始めていた。門限に遅れるのだと遥は察し、それは当たっていた。門限……千葉の祖父が防府の航空学生だった頃、休日、門限ギリギリまで外で遊んでは教官に怒られたって話をよくしていたっけ。門限を破ったら、確かまる一月は外出禁止とも祖父は言っていた。相手は軍学校、生徒でも軍人扱いなのは、日本も神和も変わらない。


「あっち!」

 少女が行くべき道を指示す。それに従って遥は道をひた走る。ジャケットを着ていても、遥の背中には背後からの胸の膨らみが感じられた。減速と停止の度にそれが判る。外目は軍人だが、自分が今載せているのが女だという事実を背中の感触が突き付ける。

 外では帰宅のラッシュが始まっていた。郊外と繁華街に流れる交通量が目に見えて増えている。往来を行き交う人の川、路面電車の他に、バスにも溢れる人また人。それらを掻い潜る様に遥は疾駆る。自転車の車体ではタイヤが細くてグリップが足りない。それ故にすり抜けの度にドリフトし冷や汗が滲む。頻繁に足を地に突き出して旋回を援けつつ、二輪車がオフロード仕様ではないのを、遥は今更のように思い知らされる。



「……?」

 暫く疾走(はし)り、(あか)みがかった黄昏が広がる中で、街並みが消えたと思った。

 何時しか両脇の街は田園に代わり、そこから不意に、往来から車と人間の影が消えた。

 道の舗装は繁華街のそれと比べてずっと良い感触がした。単なる静寂とは異なる厳粛さの正体が、田園を抜けた先、道の片側に広がる壁に囲われた広大な空間であることに気付いた時、遥はそれが軍事施設であることを察した。事実、行き合う車、追い抜く車にかつて寧北で見た軍用車が増えている。

 長城の様な壁が終わり、次には鉄条網に隔てられた広範な空間――そこから見える滑走路と格納庫、遠方に佇むオレンジの巨人の列、その正体を一瞥で察して遥は息を飲んだ。


「機導神だ……!」

 思わず、感嘆の声を漏らした。背後から遥の腰を抱く手に、じんわりと力が籠るのを感じる。生徒の彼女もまた自分と同じ方向を見ているのだと思う。飛行場に隣接する新たに壁で囲われた一角、その更に先に、正門らしき場所が見えて来る。遮るものの無い広大な空間、心地よい風が唸って車体とジャケットを過ぎ、高揚感が少年に加速を促した。昔の戦闘機の映画を思い出す――トム-クルーズになった様な気分がする。


「止めて!」

 と叫ばれたのは、その正門の前であった。衛兵に守られた正門越しに、校舎と思しき三階建ての建物が見える。校舎上の時計台が、あと五分で五時三十分を指し示そうとしているのが見えた。正門横、巨大な表札に思わず目が向く――「関央総軍幼年学校」 何時の間にか降りていた少女が正門に駆け出し、衛兵に帰着を申告している。間に合ったことに安堵し、遥が走り出そうとしたそのとき――



「ねえ君!」

「……!?」

 呼び掛けられ、正門を顧みる。彼女の真白い制服と端正な貌が土埃と排煙に汚れているのに、遥は今更ながら気付き言葉を失った。汚れた顔をそのままに、少女は白い歯を見せて笑った。

「わたしは簗吹 騎亜(やなぶき のあ)、助けてくれてありがとう!」

「夏秋 遥」名前を告げ、続ける。「持ち合せが無いんだ。クリーニング代は、明日持ってくればいい?」


 少女は噴出す様に笑った。その笑顔が遥には可愛らしく、軍服とのギャップが愛らしさをさらに増幅させてしまう。だが恋愛感情までには繋がらない。日本だと男よりもむしろ女の子にもてる(・・・)タイプかもしれない、などと遥は思う。


 少女が言った。

「そんなに操縦巧いのなら、機導神に搭乗()ればいいのに。君なら向いてるよ」

「搭乗ったけど……向いてなかったんだ」

「……?」

 虚を突かれた様に、少女から表情が消えた。時計台の針が三十分に重なる。高らかに門限を告げる喇叭(ラッパ)が鳴り、衛兵の手で機械の様に門扉が閉められる。

 門扉越し、尚も立ち尽くす少女におどけて敬礼し、遥はバタバタを走らせた。自分の顔もまた、彼女と同じく酷く煤に汚れているのだろう……そこでひとつ思い付く。そうだ、バタバタにキャンプ道具一切を載せて陸嶺までツーリングに行こう。ならば話は早い。明日は書店で地図帳を買って、それから野宿の道具を探しにまた街へ――


 軍振会館を出たときと比べてずっと青黒さを増した空、地平線に没し掛けた夕日が赤い。眩しい程に赤い。その光が行く先の視界を遮っている。走り辛くて、遥は思わず空を見上げた。そこに生欠伸が漏れた。疲れのせいだと思った……今日は少し、走り過ぎたかな。今はただ、関原のおっさんが良い報せを持って来るまで神和を楽しみながらに待とう。日本の父にする土産話は、多ければ多いほど良い筈であった。

















 日も既に落ちた時分となっている。


 玉川電機工業 社長 玉川 八郎兵衛が私邸に帰宅したとき、彼の妻 玉川 加南子は表情を消して彼女の夫を出迎えた。妻の表情に只ならぬものを夫が覚えたのは、妻に書類鞄を渡す段になったときのことだ。「何かあったか?」と聞くや、妻は震える手で八郎兵衛宛ての封筒を渡す。夫に声を掛けられるのを、妻は待っていた。


 差出人の箇所に「国軍省」の名を見出した瞬間、八郎兵衛の表情に険しさが加わった。()く様に封を破り、手紙を開いた八郎兵衛の顔色が、一読の後忽ち土色に染まる。


「あなた……?」

「加南子、遥君は?」

「未だ街から帰っていないようですけど」

「……」


 再び、手紙の文面に向き直る。手紙の中身が間違いではないか? 読むことにより手紙の間違いが証明できるのではないかという希望を以て、夫は手紙に見入っているのではないかとさえ、妻には思われた。それでもやがては手紙を放り出し、八郎兵衛は沈痛な表情もそのままに客間のソファーに凭れかかる。テーブルに放り出された手紙の中身――


「――夏秋 遥  右ノ者 関央総軍幼年学校 機導神科ニ編入学ヲ命ズ。〇月〇日 午前10:00分迄ニ着校スベシ 帝國機導神軍団総監 機導神軍中将 朝霧 朱乃」


 期日は、翌週――妻には、そう読めた。政治や軍事に関わりの無い女性でも、一読でその意味は判る。


「召集令状ですか?……これ」

「……本当は違うが、令状も同然だな」

 八郎兵衛は頭を抱え込んだ。これは早く関原大佐に質す必要がある。夏秋 遥に対しては言うに及ばずだ。しかし彼は……遥君はこの手紙を目にしたときどう反応するだろう? それだけが今の玉川 八郎兵衛には気がかりであった。


「……大変なことになりましたぞ。遥殿」




「發導編」 終

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[一言] 第一章完結、お疲れさまです。 發導編、文字通りエンジンが掛かりだした序盤です。 第一期としては、世界観の把握に注力した形となりますかね?今回も神和と言う国が日本を東西に広げたような国と言う…
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