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真実

「あのさ、君の中には、いろんな情報が入ってるんだよね?」

『うん、そうだよ。どうしたの?』

「じゃあさ、この世界のいろんな景色を見たりすることは、やっぱり興味、無いよね」

『そんなことないよ。私にはね、確かにたくさんの情報が入ってるよ。でもね、今見えているこの小さな世界のことしか私にとってのリアルは無くて。だからね、世界中の情報よりも、近くに咲く花の方がちゃんとリアルで尊くて、私は好きだよ』

「うん、わかった。……それじゃあさ、今度出かけようよ。良い場所があるんだ」


 彼女の声が止まるのがわかった。


「やっぱり、この時間以外は、難しい?」


 しばらく、彼女の声は止まっていた。


「わかった。い……」

『いいよ、大丈夫。行こっ!』

 被せるように、そして力強く彼女は答えてくれた。

 これまで頑なに守っていた時間の制約。そして今も、確かに躊躇(とまど)っていた。

 でもそれ以上、あえて聞かないことにした。



『綺麗だね。本当に綺麗だね』

「いいでしょ。ここが他と違うところは、複数の種類の桜の木があることなんだ。同じ色だけでも十分綺麗なんだけど、敷き詰められた桜にグラデーションがあることで、さらに綺麗に見えるんだ」

『ありがとう。私が作る夢とは大違いだね。花びらの一つ一つのリアルが、すごく素敵。本当に、来てよかった』


 まるで、泣いているかのような口ぶりだ。いつになく情緒的な彼女に、少し含みがあるように思えて心配になったが、すぐに彼女の口からその理由が吐露された。


『これまでね、私、こっちの世界だと毎日一時間しか出てこなかったでしょ』

「……うん」

『あれはね、研究所が監視している脳波計からかいくぐるためだったの』

「かいくぐる?」

『そう。前に偶然聞いたことがあるの。深夜の零時からの一時間は、メンテナンスが入るって。もし私がこんなふうに人間みたく話していたら、きっと見つかっちゃう。そうなると、きっとこのプロジェクトも終了するし、私のデータソースがまた次のプロジェクトに利用されて、もしかしたら、私が私で無くなっちゃうかもしれない』

「え? ちょ、なんでそんな大事なこと。それって……」

『うん。そろそろお別れになるなって』

「ふざけ……」


 僕の声を遮って、強く、彼女は答えた。


『これでいいの!どうせ、このプロジェクトももう終わるから』

「だからって……」

『あなたに言ったところで、変わらないよ! 元々私達に……私に与えられた時間は決まっていたんだから』


 僕だって、プロジェクトが終わりに近づくことにただ黙って時間を過ごしていたわけじゃない。でも、「私に」と言い換えた彼女の言葉に、何も言い返せなかった。


 綺麗な桜が風に舞い、ひらりと地面に落ちていく姿を、ただただずっと見ていた。

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