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 あれ以来、彼女とのやり取りが途切れてしまった。会話だけでなく、深夜零時からの一時間、彼女の行動もすっかり見なくなった。


 彼女の様子が見られなくなったことで少し後悔したが、同時に、根拠のない確信を得ることができた。


 彼女は、意志を持っている……。


『ねぇ。見て、あの景色。きれい……』


 彼女は、僕を通して見えている景色に、すっかり魅了されているみたいだった。見渡す限り一面、紅葉が咲き乱れている。少し肌寒く、地面の所々に、葉も落ち始めていた。


『ねぇ、早く行こうよ。入場券よろしくね』


 彼女に言われるがままに、紅葉が咲き乱れる大通りを抜けた先にある植物園に僕たちは来ていた。園内を回っていると、知らない花や植物でいっぱいだった


『ほら! あれ見て、あれ!』


 こんなにはしゃぐ彼女を、これまで感じたことがなかった。横にいて直接その顔を見ることができたなら、きっと実感も湧いたかもしれないが、それでも十分に彼女の笑顔を感じることができた。


『私、植物にも詳しいの。ほら、これ。知ってる?』

「んー。……普通の草木にしか見えないんだけど……」


『興味のないことは全くって感じだね。これはね、「ドラセナ・コンシンネ」って言うの。同じドラセナ属の樹があってね、その樹脂が赤色をしていることから、竜血樹って名前がついているの。竜、つまりドラセナはドラゴンのこと。「真実」って花言葉もあるんだよ』

「へぇー。そんなすごいやつには見えないけどなぁ」

『はぁ、興味ないって感じだね。ちょっとくらい愛嬌ってもんがないの?』


 ぶっきらぼうな返しで悪いと思いつつも、興味のないことにはうまく振る舞えないことは自分が一番わかっている。


「顔なんて見えないくせに」

『あ、今笑ったな? 見えるんだからね、私には』

「はいはい」

 

 一人なのに二人でデートしているかのようで、そんなやり取りが妙に新鮮で、でもとても心地良かった。

 園内も回り切り、気づけばすっかり夕方になっていた。


「腹減ったよ。何か食べていい?」

『私もお腹減った。お腹いっぱい、ハンバーグ食べたい!』

「え?お腹なんて減るの!?」

『もちろん、私だって生きてるんだからね!』

「あははは。はいはい、わかりました」

『なっ、なんで笑うのよー!』


 彼女の人間的で真っ直ぐなその様子が妙に楽しく、でも同時に、『生きてる』という表現に、違和感を感じないではいられなかった。

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