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異世界恋愛・短編

せっかく助け出した初恋の人に、新婚初夜に「お前を愛してないし、これからも愛することはない!」って真顔で言うとか、魔王様はアホっすか!?・短編

作者: まほりろ

とある小さな王国に、カトリーナ・シーゲルという金色の髪にサファイアブルーの瞳の可愛らしい女の子がいました。


カトリーナの父親は仕事と称して浮気相手の家に行き、滅多に帰ってきませんでした。


カトリーナの母親は娘をとても愛していて、彼女に優しく接してくれました。


カトリーナが八歳の時、黒い毛の子犬がシーゲル公爵家の庭に迷い混んできました。


カトリーナは子犬をレオと名付けとても可愛がりました。


カトリーナと子犬が庭で戯れ母親がその様子を見守る……そんな穏やかな日々がしばらく続きました。


しかし幸せな日常は、カトリーナの母親の死とともに崩れ去るのでした。


カトリーナ母親の死からひと月後、カトリーナの父親は浮気相手と再婚しました。 


継母はとても意地悪でカトリーナを目の敵にしました。


継母には、ベティというカトリーナの一つ年下の娘がいました。ベティはカトリーナの腹違いの妹。


カトリーナの父親は、正妻が生きている時から愛人に子を産ませていたのです。


継母と異母妹はとても意地悪な性格で、カトリーナを邪険に扱いました。


カトリーナがとても可愛がっていた子犬のレオは、継母によって森に捨てられてしまいました。


カトリーナの母親を慕っていた使用人は、継母に全てクビにされてしまいました。


父親は継母とカトリーナの異母妹の言う事しか聞きません。


公爵家にはカトリーナの味方は誰もいなくなり、彼女にとって辛い日々が始まりました。


カトリーナは公爵家の長女でありながら、継母に使用人のように扱われていました。


そうしてカトリーナが十八歳になったとき、それは起こりました。


ベティが、カトリーナの婚約者である王太子のマテルと浮気したのです。


ベティは桃色の髪に珊瑚色の瞳の美少女に成長。マテルはベティの美しさにメロメロ。


継母に虐待されていたカトリーナは、お風呂に入ることを禁じられ金色の髪の毛はボサボサ、ご飯をろくに食べさせてもらっていないので頬はやつれ肌はかさかさ、メイドも着ないようなボロボロの服を着せられていました。


なので王太子にはカトリーナが酷く醜く見えたのです。


本当のカトリーナはとても美しい少女なのに……王太子には彼女の良さが分からなかったのです。


「あたし……初めて会った日からお義姉様にいじめられていたんです。

 お義姉様に睨まれ、蔑まれ、悪口を言われ、物を盗まれ、突き飛ばされとても辛かったわ!」


ベティは王太子に、カトリーナの悪口を吹き込みました。


王太子はベティの言葉を調べもせずに鵜呑みにしました。


実際にはベティがカトリーナをいじめていたんですけどね。


ベティはカトリーナの髪を切ったり、頬を殴ったり、悪口を言ったり、物を盗んだり、池に突き飛ばしたり……それはそれは陰湿ないじめを繰り返していました。


王太子はカトリーナとの婚約を破棄し、そのすぐ後ベティとの婚約を発表しました。


カトリーナは異母妹をいじめていた罪に問われ、身分を剥奪され国外追放を命じられました。


貴族の令嬢として育った娘に国外追放処分を命じる……それは「死ね」と言ってるのも同然でした。








カトリーナが絶体絶命のピンチに陥ったその時――!


強風が吹き荒れ雷鳴と共に黒衣を纏った黒髪の美青年が現れ、彼女を救ったのでした。


稲妻と共に現れた青年は、

「我が名はレオナード!

 魔界の王だ!

 王太子マテルよ、そなたがカトリーナをいらないというのなら私が彼女を貰い受ける!

 異議がある者は剣をぬけ! 

 我が魔剣の錆にしてくれる!」


人間たちは恐怖におののき、剣を抜くどころか声を上げることもできませんでした。


魔王様の背後に無数のモンスターが飛び、咆哮を上げています。


国王は玉座でおもらし、王太子とベティはその場でおもらしした上に尻もちをつき、鼻水を垂らしながら泣きべそをかいています。


「異論がないなら俺がカトリーナを貰っていく!

 返してほしければ魔界相手に戦争を仕掛けることだな!

 最もその場合、この国は焦土と化し誰一人生き残ることは不可能だがな!!」


魔王はそう言い残すとカトリーナをさらい、漆黒のドラゴンに跨りその場を後にしたのでした。


魔王レオナードこそカトリーナが幼い頃かわいがっていた子犬のレオだったのです。


魔王がまだ魔界の王子だった幼い日、彼は先代の魔王と大喧嘩しました。


先代の魔王の逆鱗に触れた彼は子犬の姿に変えられ、人間界に追放されたのです。


レオナードは温室育ちだったので、力を封印され子犬の姿にされとても困りました。


食べ物にも寝るところにもことかき、野生動物にいじめられボロボロ。


そんなある日、野良犬に追われたレオナードは、公爵家の庭に迷い込みました。


傷つき衰弱したレオナード様を救ってくれたのが、まだあどけなさを残すカトリーナだったのです。


カトリーナはレオナードの傷の手当をし、ご飯を食べさせ、温かい部屋にふわふわのベッドを用意しました。


レオナードはカトリーナに恋をし、いつか彼女に恩を返すことを心に誓いました。


ずっとこんな幸せな日々が続けばいいと思っていました。


しかしカトリーナの母親が亡くなり、レオナードは公爵家にやってきた公爵の後妻に森に捨てられてしまいました。


そんなとき先代魔王が急死。


先代魔王の死によりレオナードにかけられた魔法が解けました。


レオナードはすぐにカトリーナの元に行きたかったのですが、彼は先代魔王のたった一人の跡継ぎ。


先代魔王の配下に魔界に連れ戻されてしまったのです。


魔王の職を引き継ぎカトリーナを迎えに行こうとしたレオナード。


しかし、カトリーナには王太子という婚約者がいました。


婚約者がいる人間を魔界に連れ帰ることは禁じられていました。


レオナードはカトリーナが辛い日々を送っているのを知りながら、遠くから見守ることしかできなかったのです。


王太子がベティの策略にハマり、カトリーナの悪評を信じ彼女の身分を剥奪し、国外追放を命じたのはレオナードにとっては予期せぬ幸運でした。


婚約破棄や国外追放を幸運などと言っては失礼ですが、王太子と結婚してもカトリーナが幸せになれるようには思えなかったのです。


アホ王太子がカトリーナ婚約を手放してくれたおかげで、レオナードはようやく彼女を迎えに行く事ができました。


初恋の人と再会し、彼女のピンチを救ったレオナード。


二人は結婚し幸せに暮らしました。めでたしめでたし。


本来ならそうなるお話だったのですが……。


魔王レオナードはヘタレだったのです。


レオナードは人間の世界の風習をよく理解していなかったため、人間界で発行された小説の文言をそのままカトリーナ様に言ってしまったのです。


「カトリーナ!

 俺はお前を愛してないし、これからも愛することはない!

 俺に愛されたいなど思うな!!」


この言葉は初夜に寝室で新妻に向かって絶対に言ってはいけない言葉です。良い子のみんなは覚えておきましょう。


人間界からさらってきて、魔王城に着くなりメイドにカトリーナをお風呂に入れるように命じ、

お風呂から上がったカトリーナにマッサージを施し、

着替えはウェディングドレスのみ。


困惑するカトリーナを教会に引っ張っていき、彼女に結婚の誓いをさせたのです。

(結婚の誓いは「この結婚に異議があるならここで申せ、沈黙は同意ととる」というタイプの誓いです)


かわいそうに、カトリーナは魔王にさらわれた恐怖で声も出せなかったのでしょう。


魔王が何も説明していないので当然、カトリーナは「魔王=子供の頃に飼っていた子犬」……ということもわかりません。


虐待する継母、意地悪な妹、無関心な父親、モラハラな元婚約者、それらのものからやっと開放されたカトリーナ。


しかし待っていたのは、魔王からの暴言。


心優しきカトリーナの運命やいかに……!?






☆☆☆☆☆☆





「ラードそのくらいにしておきなさい?

 魔王様のHPはゼロですよ?」


これまでのあらすじを声に出して読み上げていたオレを諌めたのは、内政を担当しているリッキーさん。


粗筋なんで敬称は省略してある。


ふと部屋の隅に目をむけると、背中を丸め小さくなっている魔王様が視界に入った。


魔王様の背中が小刻みに震えているので、泣いているのかもしれない。


リッキーさんは銀色の髪に青い瞳の美青年で、魔王軍一の切れ者だ。


ちなみにオレの名前はラード。魔王様の側近で魔界一の情報屋を自負している。


だから魔王様とカトリーナ様の出会いから新婚初夜についても詳しく知っている。


リッキー様ほどではないが、赤い髪にルビー色の瞳の美男子だ。


「だってリッキーさん、カトリーナ様は魔王様の恩人っすよ?!

 いくらカトリーナ様が魔王様の初恋の人でも、

 己の正体も明かさずにさらってきて、

 魔界に連れてきた当日に理由も言わず花嫁衣装を着せて、

 強制的に結婚式を挙げるとか正気の沙汰じゃないっす!

 いくら好きでも物事には順序があるっす!

 それなのに初夜に『俺はお前を愛してないし、これからも愛することはない! 俺に愛されたいなど思うな!!」って言うとか最低っすよ!」


「それはほら、魔王様にも何か深いお考えがあるのだろう。

 そうですよね、魔王様?」


リッキー様が魔王様に尋ねた。


「にっ……いて、あった」


王様が消え入りそうなほど小さな声で囁いた。


「はっ? 何ですか聞こえませんよ魔王様?」


言いたいことがあるならはっきり言って欲しい。


「小説に、書いてあったのだ……。

 婚約破棄の後、颯爽と現れた王や王子にヒロインは惚れると……」


魔王様がぼそぼそと呟いた。


魔王様がカトリーナ様を迎えに人間界に行ったとき、魔王様の背後には空を埋め尽くすほどの魔王の軍隊がいた。


なのでそのときカトリーナ様が「素敵な王子様が颯爽と現れて私を助けてくれたわ。うっとり(ハートマーク)」と思ってくれたのかは微妙なところっす。


むしろあの光景は人間にとっては地獄絵図だったのでは?


国王は玉座でおもらし、王太子とベティは涙と鼻水をべしゃべしゃと垂らしながらその場に尻もちをついて失禁してたっす。


できるならカトリーナ様をいじめていたカス共の頭を、ドラゴンにパックンとさせたかった。


ドラゴンはグルメだからゴミは食べないか。奴らを食べさせるならオークの方が適任だったかもしれないっすね。


「小説にはこうも書いてあった……。

 新婚初夜には、

『お前を愛してないし、これからも愛することはない! 俺に愛されたいなど思うな!!』

 と言えって……。

 そう言葉にして相手に伝えることで、相手の記憶に夫の印象が強く残る。

 その後なんやかんやあって妻が夫の魅力に気づいて、なんやかんやあって最終的にうまくいくと……」


どこでそんな偏った知識仕入れたんですかね? うちの魔王様は。


その「なんやかんや」の部分が一番大事なのに、具体的にどうするか全然わかってないし。


「魔王様知ってますか? 

 初夜に『お前を愛してないし、これからも愛することはない! 俺に愛されたいなど思うな!!』と言った旦那が、

 新妻に愛想をつかされて、賢い奥さんはその日から離婚に向けて行動を始める小説の方が圧倒的に多いです」


「へっ……??」


魔王様がひどく間抜けな声を上げた。


「旦那が奥さんの魅力に気づいてた時には時既に遅く、奥さんに不貞の証拠と離婚届を突きつけられて、白い結婚が成立するっす。

 そういう小説も星の数ほどあるんすよ。

 むしろ最近はこっちの話の方が主流っす」


魔王様はオレの説明を聞いて呆然としていた。


「し……白い結婚とはなんなのだ?」


「一年間夫婦の契りを交わさなかった夫婦は無条件で離婚できるんすよ。

 白い結婚の場合は結婚自体が無かったことになるんす」


オレの言葉を聞いた魔王様は顔面蒼白だった


魔界一の情報屋を名乗ってますからね。人間界で流行ってる小説も読んでるっす。


というか魔王様は白い結婚について今知ったんすか?


魔王様は漆黒の瞳をうるうるさせ、泣きそうな顔をしている。


こんな魔王様めったに見れないっす。


「魔王様知ってますか?

 人間界で発行された結婚情報誌によると、初夜に言われたくない言葉ワースト1は、

『お前を愛してないし、これからも愛することはない! 俺に愛されたいなど思うな!!』

 だそうです」


魔王様は真っ青な顔でだらだらと額から汗を流してる。


「ちなみにこれから読み上げるのは新婚初夜に旦那に、

『お前を愛してないし、これからも愛することはない! 俺に愛されたいなど思うな!!』って言われた奥さん達の反応っす。

・政略結婚はお互い様だっつの!

・悲劇のヒロインぶっててうぜぇ!

・お前みたいなしょぼい男、こっちから願い下げだ!

・夫にそう言われた瞬間、百年の恋が覚めました。白い結婚を成立させ、一年後に家を出ていくことを硬く誓いました。

・離婚して不利益を被るのはそちらです。一年後に己の無能さに気づいて復縁を望んでも遅いですよ。

 などなど……みんな辛辣っすね」


魔王様は全身からダラダラと汗を流していた。


魔王様の座っている場所には魔王様の流した汗により、水たまりができている。


「ラード、あまり魔王様をいじめるな。

 魔王様にも何かお考えがあってしたことなのだろう。

 そうですよね魔王様?」


リッキーさんは穏やかな口調でそう言っているが、彼の目は笑っていなかった。


「ない……何もない。

 あの言葉を言っちゃいけないなんて知らなかったのだ……」


まじか。


どこのどいつだ魔王様に人間界の小説なんて読ませたアホは?


拷問処分ものだな。


「まあまあ、魔王様そんなに落ち込まないでくださいよ。

 俺に良い考えがあるっす。

 間違えたときは素直に謝って仲直りすればいいっす!」


「そ、そうなのか?」


魔王様が瞳をキラキラさせながら見上げてきた。単純すね、うちの魔王様は。


「しかし、どうやって謝罪しよう?

 彼女と顔を合わせると緊張して、また変な事を言ってしまいそうで……不安だ」


「オレにいい考えがあるっす。

 仲直りするために手紙を書くっす。

 手紙と一緒に彼女の好きな花なんかも添えるのもグッドっす!」


「手紙に花だな……!」


魔王様はポケットから紙とペンを取り出してメモしている。


「しかし女性に手紙など書いたことがない。

 何を書いたら良いのか……」


魔王様がまたいじけはじめたっす。


めんどくさいっすね、うちの魔王様は。


「安心するっすよ魔王様。

 こんなこともあろうかと、カトリーナ様が好きな便箋の柄を調べておいたっす。

 ついでに彼女が好きな花もリサーチ済みっす!」


「本当か!

 さすが風のラード!

 魔王軍一の情報通だな!」


そんな、魔王様褒めすぎっすよ。でももっと褒めてもいいんすよ!


「カトリーナ様が好きなのは白地に桃色の小花柄の便箋っす!」


「なるほど、白地に桃色の小花柄……だな!」


「カトリーナの好きな花は白の薔薇っす!」


「なるほど、白薔薇……!」


魔王様がまたメモしてるっす。


「よし、白地に桃色の小花柄の便箋と薔薇を買いに行くぞ!

 しかし、どこに行けば手に入るのか皆目検討がつかない……!

 どうすれば……!?」


魔王様には女性向けの小物や人間界の花屋の場所を知らない。


ここはチョロい魔王様を利用してお小遣い稼ぎ……もとい、世間知らずの魔王様を手助けして株を上げるチャンス!


「お困りのようですね魔王様!

 実はオレ、ちょうど白地に桃色の小花柄の便箋と白の薔薇を持ってるっす」


「本当かラード!?」


魔王様がキラキラした目で見てくるっす。


鴨がネギを背負って……いや、魔王様がゆるい紐の財布を持ってやってきたっす!


「白地に桃色の小花柄の便箋1枚1億ギル、10枚一束で100億ギル。

 薔薇の花1本10億ギル、21本一束2100億ギルでどうすっか?

 ちなみに薔薇の花束21本の花言葉は『あなただけに尽くします』っす!」


「買った!!!!」


魔王様が即答した。


やはり魔王様はネギを背負った鴨!


「魔王様混乱してく単純な計算もできなくなっているんですか?

 便箋1枚1億ギルだったら10枚で10億ギル。

 薔薇の花1本10億ギルなら21本で210億ギルです。

 ちなみに便箋の相場は1枚50ギル、薔薇の花の相場は1本300〜700ギルです」


リッキーさんがオレがぼったくりしたことを魔王様にバラした。


さすが魔界一の切れ者と歌われるリッキー様。この人の目は欺けないっす!


「それは本当かリッキー?

 ラード、貴様俺を騙したのか……?」


魔王様が眉間にしわを寄せオレを睨む。


さすがヘタレでも金銭感覚がおかしくても現役の魔王!


眼光の鋭さが半端ないっす!


やばい! 魔王様の怒りがオレに向いてる! なんとかしないと!


「魔王様、オレの便箋と花束が相場が高いのはオプションがついてるからっす!」


「オプションだと?」


「そうっす!

 便箋と花束をオレの言い値で買ってくれるなら、魔王様の書いた手紙をオレが推敲してあげるっす!」


「推敲だと……?」


魔王様の黒曜石の瞳を細めオレを睨みつけた。


「ヒィィィごめんなさい!

 つまらないオプションですみません!」


「そんな……カトリーナへの手紙を、第三者に読まれるなんて、恥ずかしい……」


魔王様が頬を赤く染め三角座りして床に渦巻きを書き始めた。


乙女か!


「魔王様、人間界のことに疎いでしょう?

 先日もカトリーナ様に『お前を愛してないし、これからも愛することはない! 俺に愛されたいなど思うな!!』って言って、彼女を傷つけたばかりっす」


「うっ、それは……!」


魔王様の顔が赤から青に変わる。


「だから、また変なこと書いてカトリーナ様のご機嫌を損ねないように、オレが魔王様の書いた手紙を推敲してあげるっす!」


「分かった。ラードの言うことにも一理ある。

 ラードに手紙の推敲を頼むことにする!」


魔王様、チョロ過ぎっす。 


「手紙の推敲込みで、白地に桃色の小花柄の便箋10枚一束で400億ギル。

 薔薇の花21本一束8,200億ギルっす!」


「よし! 買った!」


さり気なく値上げしたことに魔王様は気が付かなかった。やっぱりこの人チョロい。


「魔王様、ラードの奴さり気なく値上げしてますよ」


と、思ったけどリッキーさんにバレて元の値段に戻されたっす。





☆☆☆☆☆





リッキー様の妨害があったが、オレは魔王様に高額で便箋と花束を売りつけることに成功した。


魔王様が書いた手紙を推敲して、カトリーナ様に届けることになったっす。


魔王様はカトリーナ様に手紙を渡しに行く直前になって熱を出して倒れたので、オレが代わりに手紙を渡しに行くことになったっす。


手紙の配達料はきちんと請求しておいたっす。


魔王様は太っ腹だから気前よく支払ってくれたので、オレの懐は今とても暖かい。

 

魔王様の書いた手紙は100枚以上あった。


魔王様が書き直しも含めて便箋を大量に使ってくれたので、ボロ儲けできたっす。


その変わり推敲するのに時間がかかって、カトリーナ様に手紙を届けるのが遅くなってしまったっす。


「失礼します、カトリーナ様」


カトリーナ様の部屋の扉をノックし中に入る。


初夜に魔王様から暴言を吐かれたカトリーナ様が精神的なショックを受け、祖国を恋しがって部屋の隅で泣いてたらどうしよう……と心配していたのだが。


カトリーナ様はオレの予想に反して、揺り椅子に座りながら優雅に編み物をしてくつろいでたっす。


「魔王様の配下のラードと申します。

 以後お見知りおきください。

 今日は魔王様から謝罪の手紙と花束を預かって来たっす」


カトリーナ様に魔王様からの手紙と花束を渡す。


花束を受け取ったカトリーナ様は、花の匂いかいで「良い香り」と言ってほほ笑んだ。


とりあえず薔薇の花束は好感触っす!


薔薇を花瓶に生けたカトリーナ様は、揺り椅子に腰掛けると手紙の封を開けすごい速さで手紙を読み始めた。


便箋の束が高速でめくられていく。


速読ができるなんて、カトリーナ様は優秀なんですね。


カトリーナ様は人間界にいたとき、継母に虐待されてお風呂に入らせて貰えず髪はボサボサ、栄養失調で青白い顔をして肌はカサカサだった。


今のカトリーナ様は髪はサラサラ、頬は桃色、お肌はつやつや、どこから見ても健康的で知的な美女っす。


魔界特性シャンプーとトリートメントと化粧水と美味しい物のおかげっすね。


水色のドレスもよく似合ってるっす。


手紙を読む所作も優雅っす。


これがカトリーナ様の本来の美しさなんすね。


カトリーナ様がこんな美人だと知ったら、彼女の元婚約者は地団駄踏んで悔しがるだろうな。


王家も公爵家も見る目がないっす。こんなに美しくて優秀な人の価値に気づかずに国外追放を命じるなんて。


手紙を読み終えたカトリーナ様は、便箋をテーブルに置くとふうと息を吐いた。


オレは魔王様の手紙を推敲したので、手紙に書かれていることを知っている。


魔王様の手紙には、子供の頃に子犬の姿に変えられ人間界に追放されたこと。

そのときカトリーナ様に救われたこと。

それからの数年間公爵家で過ごしたこと。

優しかったカトリーナ様の母親が亡くなり、そのあとやってきた継母に森に捨てられたこと。

そのあと先代の魔王様が亡くなり魔法が解け、魔界に帰り魔王になったこと。

魔王になったあともカトリーナ様のことを見守っていたことの説明。


すぐにでも助けたかったけどカトリーナ様に婚約者がいたので手を出せなかったこと。

カトリーナ様が王太子に婚約破棄された日、カトリーナ様の同意なく魔界に連れさったこと。

カトリーナ様を魔界に連れて来てからのあれこれについての謝罪が記されていた。


「カトリーナ様、魔王様は初夜にカトリーナ様に言ってしまった暴言をかなり反省してます。

 魔王様は人間黒界の常識に疎かっただけでして……。

 だから婚初夜にカトリーナ様に『お前を愛してないし、これからも愛することはない! 俺に愛されたいなど思うな!!』って言ったのは何と言うか……言葉のあやって言いますか」


「…………」


カトリーナ様の表情は読めない。


やはり謝るなら、人間界から同意なく連れ去ったところから詫びるべきだろうか?


「ふふふ」


カトリーナ様は口元を手で隠しくすりと笑った。


この状況でこの笑みは何を意味するのか?


「ラード様とおっしゃいましたね?

 私は初めから怒っていませんよ」


「えっ?」


「私、あの方と再会したときすぐに気づきました。

 あの黒曜石のようにきらめく汚れなき瞳は、子供の頃に飼っていた犬のレオと同じだって」


「ええっ……!?」


ひと目見ただけで、「魔王様=子供の頃に飼っていた子犬」だって気づいてたんですか?


この人の洞察力と観察力はハンパねえ!


「レオとは数年間共に過ごしましたが、あの子はずっと子犬のままでした。

 初めは小型犬なのかと思いましたが、その割にはレオの足は大型犬の子供のように太かったので、なぜ成長しないのか不思議に思ってました。

 だからレオが普通の犬ではないことには、当時から気づいていました」


ずっと成長しない子犬……それは不気味だよな。


気づいていて、そんな得体の知れない犬を何年も飼ってくれたのか?


前公爵夫人もカトリーナ様も、女神のように優しい心の持ち主なんだな。


魔王様がメロメロになるわけだ。


「魔王様の瞳はあの頃と変わらず汚れなく、表情は人なつっこくて愛くるしく、とても美しいです」


カトリーナ様はほんのり頬を赤く染めた。


その様子はまるで恋する乙女のようだった。


「えっと、魔王様との結婚は……カトリーナ様にとって望まないものだったのでは??」


人間界から連れ去られ、状況を飲み込めないままウェディングドレスを着せられ、魔王様の圧力に負けて結婚の誓いをしたのかと思っていた。


「そんなことありません」


カトリーナ様が首を横に振る。


「貴族だったときは家の為に政略的な結婚も仕方ないと思ってました。

 ですが私は身分を剥奪され国外追放された身。

 貴族というしがらみから開放され自由の身になれたのです。

 望まない相手にどんなに脅されても結婚したりしませんわ」


「えっと、ということは……?」


「レオとは望んで結婚したんです」


「へっ……?」


「それから、レオは新婚初夜に私に言ったことを随分と悔やんでいるようですが、どうか気にしないように伝えてください。

 レオが人間界の風習を誤解したのは、子供の頃に私が彼に読み聞かせた小説のせいですから」


「小説の読み聞かせですか?」


「はい。

 子供の頃の私は政略結婚したヒロインが初夜に、

『お前を愛してないし、これからも愛することはない! 俺に愛されたいなど思うな!!』

 と言われ、最後になんやかんやあって夫と愛し合うお話が大好きだったんです。

 レオには途中のなんやかんやの部分をすっ飛ばして、冒頭部分とエンディングで二人が結ばれるところしか読み聞かせていなかったので、レオの知識が偏ってしまったんですね」


魔王様が人間界の結婚について、フワフワした知識しかない理由がよく分かったっす。


「だから気にしていないでと、レオに伝えてください。

 私はレオと結婚できてとても幸せですから」


カトリーナ様はそう言ってふわりとほほ笑んだ。


魔王様の初恋物語はハッピーエンドになりそうだ。


さて、カトリーナ様のお言葉を一文字いくらで魔王様に伝えようかな?


花瓶に生けた薔薇を愛でるカトリーナ様を眺めながら、オレはそんなことを考えていた。





――終わり――








読んで下さりありがとうございます。

少しでも面白いと思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。執筆の励みになります。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


【完結】「約束を覚えていたのは私だけでした〜婚約者に蔑ろにされた枯葉姫は隣国の皇太子に溺愛される」

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地味だけど健気な令嬢が主人公のお話です。

こちらもよろしくお願いします!


【完結】「不治の病にかかった婚約者の為に危険を犯して不死鳥の葉を取ってきた辺境伯令嬢、枕元で王太子の手を握っていただけの公爵令嬢に負け婚約破棄される。王太子の病が再発したそうですが知りません」 https://ncode.syosetu.com/n5420ic/ #narou #narouN5420IC

婚約破棄&ざまぁものです!

よろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[良い点] ラード、いい性格してる。 好きだわ。 リッキーさんとの掛け合いも好きです。 [一言] 婚約破棄ものかと思ったらヘタレ魔王様のぼったくられ話とは! 途中からすごく笑ってしまいました。 楽しく…
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