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「よ~りと。」
「うわぁ!?」
突然後ろから肩に寄り掛かかり声をかけられて驚いた。
「何だ蓮か。驚かすなよ。」
強張った身体から安心して力が抜ける。
思わず着いたため息を見られて蓮が顔をしかめた。
「何だ何だ。この鬼島 蓮様に向かってそのため息と態度は。」
蓮は大げさに言ったかと思えば更に体重を掛けて来た。重くて思わず顔を顰めると俺の様子に気づかないのか、そのまま手元をのぞき込んで来た。
「何これ。筆記課題?この時期に?」
無遠慮に人の課題を読み進めていく蓮の横暴に機嫌が急降下していく。これはいくら親友でも怒っていいのではないだろうか。
そんな不穏な空気を察したのかこころなしか常より素早く蓮がどいた。
珍しい。俺に怒られるか要に言われないと素直にどかない俺様が気配だけで離れるとは。
「蓮。調子悪い?何かあった?また春香さんに怒られた?」
「何か物凄い勘違いと冤罪の気配を感じたけど全然違うからな!? ただ、珍しいと思ってさ。」
何だ違うのか残念。と思ったのが顔にでていたのか半目で睨まれた。
「依斗。お前が普段俺をどういう目で見てるか垣間見えた。じゃなくて、これ。」
そう言いながら作成途中の筆記課題を素早く持上げ見せてくる。
何かおかしな点でも有っただろうか。やる気が出なくていまいちな出来になりそうな筆記課題を見る。というか、返して欲しい。
「これ2週間前にやった課題だろ?お前、旧世界についてとか、神王についてとか、神話系強いじゃん。何時もこの手の筆記課題成績上位だし。何で再提出?しかも、やる気無いのか適当に書いてあるし。」
おおよそ言われるだろうと想定していた事を訊かれた。此処に居たのが要でも同じ事を訊かれていただろう。鬼族の性分なのか義理堅く親友思いな蓮の顔には思い切り「心配してます」と書いてある。
資料集めを手伝って貰った手前気まずい。
微妙な空気が流れる中、観念した様に少し落ち込みながら答える。
「課題の題目には沿ってたけど、内容が空論と憶測過ぎて駄目だって突っ返された。参考文献からも飛躍し過ぎて参考になってないから認められないって。」
2週間前に提出した課題には自信が有ったのだが、さすがに神王大戦の初期の話を考察したのは駄目だったようだ。
再提出を言われた時に事を思い出してしまい更に落ち込み遂には机に身体が沈んだ。
「へぇ。何時もこの手の題目ギリギリを攻めてた依斗が遂に失敗したか。珍しい。何書いたんだよ。旧世界についてなんて神王の発言記録と遺跡調査の文献漁れば比較的簡単に纏まるだろ?何か駄目だしされる要素無くないか?依斗の事だから参考文献選びに失敗したとか無いだろうし。」
全身で落ち込んでますと体現した俺に気遣っているのか。純粋に疑問なのか蓮が質問してきた為正直に答える。
「旧世界の終わりと神王大戦の初期の話しと神妃について考察した。多分、神王大戦の初期の話しとして神王と神妃の出会った時期とか考察したのが駄目だったと思う。」
今思い出しても腹立つ。「空想の物語としてなら面白かった」と苦笑いして突っ返してきたのだ。
真面目に考察した論文を妄想扱いしてきた事は絶対に忘れない。と怒りを記憶に焼き付けていると横からため息が落とされた。
「依斗、お前なぁ。佐方先生がそんな理由で突っ返す訳無いだろ。あの人、お前の筆記課題楽しんで読んでる節が有るんだぞ。」
佐方先生じゃなきゃ、もっと再提出くらってた位だ。「分かってないなぁ」と言うかの様に言われる。心外だ。佐方先生に気に入られている事位気付いている。そうでもなければ、あんな文量を只の筆記課題で書き上げたりしない。真面目に読んで評価してくれるからこそ、此方も本気で書き上げたのだ。
だからこそ、悔しいのだ。評価するしないではなく評価出来ないと言われた事が。
巻上 依斗
主人公
筆記課題を突っ返され落ち込みながら半ば自棄くそ気味に作成中
鬼島 蓮
依斗の親友
俺様を自称出来る
恋人の要と彼女の保護者達に頭が上がらない
木葉 要
蓮の彼女
義母と数多に存在する義兄姉達と義理の親戚達から溺愛されている
木葉 春香
木葉家の長子
要の義兄
義妹の恋人に厳しい
シスコンという訳ではない
佐方先生
古代史を担当している
神王大戦等、主に神話系の研究を主にしている
愉快な性格で生徒からの受けも良い
何時も面白い考察をする依斗がお気に入り
今回の筆記課題も楽しみにしていたが、流石に看過出来なかったらしい
お上に知られたら大変な為、依斗を思って突っ返した
この人でなければ再提出判定が激増し、今回の課題はもっと大事になっていた為依斗は感謝した方が良い