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才能トレーダー

作者: クリオネ


俺には才能がない。


今までたくさんの夢を見てきた。たくさんの目標を掲げてきた。



サッカーの才能がないことは、中学生になってすぐにわかった。


暗記の才能がないことは、高校受験で痛感した。


理系の才能がないことは、高校2年生の時に思い知った。


リーダーシップの才能がないことは、修学旅行で実感した。


英語の才能がないことは、大学受験の2浪目で悟った。


物書きの才能がないことは、教授に添削されたレポートで骨身に染みた。


研究の才能がないことは、大学4年生の時に直感した。



たくさんのことに挑戦した。やりたいと思ったことは何でもやった。だが、上手くいったことはなかった。



そして現在。就職氷河期でもないのに、大企業ばかり志望していたわけでもないのに、俺は就職が決まらず実家に戻ってきていた。何もしないのはさすがにヤバいと思い、コンビニでバイトをしている。いわゆる就職浪人だが、それらしいことは何もやっていない。せめて何か有用な資格でも取ろうかと本屋に足を運んでみるが、コレといったものは見つからない。


風の噂で、同級生が起業しただの医者になっただのという話を聞くたびに思う。どうして俺には何もないのだろう。空っぽだ。本当に世の中は不公平だ。いくつも才能を持っている人もいれば、俺みたいな人間もいる。複数なんて贅沢は言わない。何か一つ、俺にも……



「才能があったらなーですか?」



突然耳元で声がした。人間驚き過ぎると声が出ないというのは本当らしい。


「あれ、驚きすぎて声も出ませんか。怪しいものではありませんよ。私は皆さん言うところの、神です」


一番怪しいよ。でも部屋の扉も窓もカギは閉めていた。小さな体に中性的な顔。緑色の髪に、吸い込まれそうなほど大きな瞳。スーツにカバンという出で立ちは気になるが、どこかこの世のものではない雰囲気を醸し出していた。


「私が何者かなんてどうでもいいんです。あなたの話をしましょう。才能が、欲しいんですよね?」


心の中を見透かすような目で見つめられる。何なんだこいつは。いったい何を言っているんだ。


「……だったら、何だってんだよ。お前がくれんのかよ」


「そうして差し上げたいのは山々ですが、さすがにただというわけにはいきません。あなたが欲しい才能を一つ与える代わりに、あなたが今持っている才能を一つ、いただきます。こういうわけです」


「俺が欲しい才能? 何でもいいのか?」

「はい。何でも大丈夫です。この部屋から察するに、サッカーがお好きなんですよね。もちろん、サッカーの才能もお渡しできますよ」

「な……!」


才能を、与える……? 貰えるのか、本当に? サッカーの才能を? 夢を見ているのか? でももし、本当なら……!


「ほ、ほしい。サッカーの才能だ! 俺は小さいころサッカー選手になるのが夢だったんだ! 本当にくれるんだろうな!?」

「もちろんですとも。繰り返しになりますが、サッカーの才能と引き換えに、今あなたが持っている才能を一ついただきます。よろしいですね?」

「……俺に、才能なんてないぞ?」

「いえいえ。才能が一つもない人間なんていませんよ。多くの人が自分の才能に気が付いていないだけです。あなたもその一人のようですが……どうしますか?」


「いや、問題ない。自分でも気が付かない才能なんて無意味だ。やってくれ」

「では、目を閉じてください。すぐに終わりますよ」



ぱちん、と扇子を勢いよく閉じたような音が部屋に響いた。



「はい、終わりですよ。サッカーの才能は、確かに渡しました。あとはあなたの努力次第です。新しく手に入れたその才能、たくさん磨いてくださいね! それでは」


自称“神”はそう言い残し、次の瞬間には消えていた。

特に変わったところはないように思える。夢……だったのか? 


(あとはあなたの努力次第です)


部屋の隅に転がっているサッカーボール。バイトの時間までどうせ暇だし、久しぶりに蹴ってみるか。





数年後。

俺は“彗星のごとく現れた、遅咲きの超新星”として、サッカー業界をにぎわせていた。サッカーはもちろん、テレビに取材に大忙し。最高に充実した日々を送っていた。

本当だったんだ。あれは本物の神様だったんだ! どん底からの大逆転。才能を手に入れた俺の人生は180°変わった。楽しい。なんて楽しい毎日なんだ。


何をやっても上手くいかなかった。思えば、あの日がすべての始まりだった。才能がすべてを変えた。俺の求めていたものはこれだったんだ。


きっと神様も、どこかで俺の活躍を見てくれているに違いない。もしまた会えたら、心の底から感謝を伝えよう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「そういえば、ちょっと前に話題になってた“遅咲きの超新星”って最近見ないよね」

「ああ、あの選手か。結構前に引退したよ。足の怪我で」

「えっ! 全然知らなかった。今何してるんだろう」

「それがさ、週刊誌の情報だからどこまでホントかわからないけど、あの選手、怪我したあたりから廃人みたいになってるらしいよ。引退って言ってるけど、実際はチームから見捨てられたようなものだって話もあるし」

「言われてみれば、怪我してからまったく公の場に出なくなったよね」

「惜しいよね。あれだけの才能があるなら、コーチとか解説とかもできるはずなのに。挑戦する気も起きないくらい、ヘコんじゃってるんだろうなぁ」


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